真・女神転生3 Beginning King of the chaos (休載中) 作:ブラック・レイン
氷川。受胎を起こした犯人。
その男はこちらを向かずに静かに呟いた。
「…ここへたどり着く者がいるか。マントラもただ愚直なばかりではないようだな……」
そういうとようやくこちらを振り向く。そして氷川は驚いたように声を漏らした
「ほう……これは驚いた。君はあの時の少年か。……生きていたとはな。
しかもその姿……人ならぬ大きな力を得たとみえる」
オレの全身に走る刺青のような模様を見ながら氷川は呟いた。
「…なぜ、ここを訪れた?……私に会うためかね?」
「それもある。が、それは次いでだ」
吐き捨てるようにそういうと氷川はうなずいた。
「……そうか。まあ、だいたいの想像はつくがね」
氷川はそういうとようやくオレをしっかりと見据えた。
「……よかろう。たった1人でここまでたどり着いた健闘は称える。それほどに求めるなら、君も知るがいい。
……この世界の真実をな」
そういうと氷川は部屋の中央にある装置に近づいた。
「見たまえ……この装置はマガツヒを集めるためのものだ。似たものを上の階でも見ただろう。
君は、マガツヒが何のために存在するか知っているかね?」
唐突な問い。オレは考え、こう答えた。
「悪魔の糧、というだけじゃないのか」
その問い返しに氷川は真剣な眼差しをこちらにむけた。
「当然、それだけではない……覚えておきたまえ。
マガツヒについて知らないという事はこの世界では死んでいるのと同様だ」
そういうと氷川は語り始めた。
「マガツヒ……
それは神への供物。
創世の守護神を招くための力。
この世界の存在目的が果たされるために無くてはならない、カギなのだよ。
この世界では、強い意志を持つ者は全てを塗り替える事ができる。
思想を【コトワリ】として広め、手中にマガツヒが集まった時、
神は立ち現れ、世の成り立ちさえもが書き換わる。
そう……この混沌の世界は「創世」を目的として生み出されたのだ。
……私の手によってな」
「……………」
その言葉はアマラ深界で喪服の女が言っていたことと一致した。【コトワリ】という言葉は知らないが。
氷川は大仰な態度で語り続ける。
「間もなく、我が創世は成される。
時の営みと最も調和した静寂の円環……
「シジマ」の世界が生まれるのだ。
マントラは、この拠点を完全に沈黙させた気らしいが、見ての通り中枢は無傷……
捨て置いても、マガツヒは遠からず満ちるだろう」
だが、と氷川は冷たい声で続けた。
「あの者どもには報いを受けさせねばならない。
我らニヒロに牙をむいた者がどうなるか……
世に知らしめる為にもな。
……いい機会だ。君もその目で見るがいい。
ここに残されたマガツヒを使って、私はこれより【新たな力】を呼び起こす」
氷川はそういうと装置にむけて手をかざし、高らかに叫んだ。
「さぁ、目を醒ませ!【ナイトメア・システム】よ……!」
止める間も、なかった。
何かが放たれ、地響きがした。
それが決して良いことではないと、雰囲気で分かった。
「何をしたッ!」
オレが鋭い声でそういうと氷川は説明した。
「これは世界中のマガツヒの流れを支配し、全てを我が手に集めるシステム……ここの設備など比較にならぬ力だ。
まずはマントラ軍……彼らの本営イケブクロを目標とした。
かの地のマガツヒは消え失せる。マントラはたちまち朽ちゆくだろう」
「なっ⁉」
マガツヒの消滅。それをすれば悪魔はどうなるのかなんて悪魔のことをある程度知っていれば分かる。
即ち死だ。つまり、【ナイトメア・システム】というのは悪魔専門の大量殺戮兵器ということだ。
おぞましい。戦うでもなく、ただ悪魔を殺すそのシステムに戦慄した。
その時、氷川が聞き捨てならないことをいった。
「……そうそう、このシステムは高尾 祐子を媒体として動いている」
「………なんだって?」
とたん自分の声に怒りが満ちたのは自分でも分かった。
「彼女は実に役立っているよ。さすがは創世の巫女……といった所か。
……祐子先生のことが心配かね?」
自分が祐子先生を拉致している癖にオレに問う氷川にオレは殺意を覚えた。
「テメェ!祐子先生をどこへやった!」
怒りに満ちるオレに氷川は淡々と答えた。
「残念ながら、彼女はここには居ない。君と再び会うことは、もう無かろう。
今の彼女は創世を支える巫女……それ以外ではないのだからな」
「きっ………さまァ……!」
怒りで切れ切れになった声で叫ぶとオレは剣を作り、氷川を殺そうとすると
心眼がオレに警鐘をならした。
「ちっ!」
かわすとオレがいた場所に剣が刺さった。
見ると豹が人になったかのような悪魔がいた。氷川が召喚したのか。
氷川は感情を感じさせない声でオレに言った。
「……やはり君は受胎を生き残るべきではなかったようだ。前の世界に未練を残す者など、ここでは不毛に苦しむばかり。
……あの時、彼女の甘さを許すべきではなかった。
……少年。君の苦しみ……私がここで終わらせよう。
どんな幻想を抱いてここへ来たのか知らないが……この世界で君に成しえる事など1つも無い。
さあ、行くがいい。君が失った古き者たちの元へ……」
氷川はそういうと中枢の出口を通り、去っていった。
「待て!」
オレがそれを追おうとするが、豹人間の悪魔に遮られた。
「司令の言葉を聞かなかったか?お前はここで死ぬ」
「ほざけっ‼」
言い放つとオレは豹人間……堕天使 オセという悪魔に飛びかかり、オセは二刀の剣でそれを防いだ。
「ちっ!」
オレは飛び退き、距離を取る。
二刀流。それはヤクシニーから学んでいるが。これは勘だが剣の腕は間違いなくオセのほうが上。二刀流では勝てない。
だが、怖くない。マタドールやダンテ、だいそうじょうの方がまだ脅威を感じる。
オレはそう断じると仲魔達を召喚し、そいつにとびかかった。
勝てはした。しかしかなり手こずった。これでは氷川を追うことはもう出来ないだろう。
こいつは攻撃を反射させる技を使ったり、ンダやカジャを消す魔法を徹底的に使い、防御に撤したのだ。
完全に時間稼ぎだ。やられた。
「……俺が敗れるとはな
だが、お前は司令にも巫女にも二度と会う事はできん。
ナイトメア・システムは発動した。
間もなくここは閉ざされ、巫女へ至る道は完全に絶たれる……
立ち去れ、悪魔よ!世界を創るのは、我らニヒロ機構だ!!」
捨てセリフを吐くとオセはマガツヒとなって消え、マガタマを落とした。
アナテマというそのマガタマを拾うとオレはニヒロ機構を出た。ここが封鎖されたら閉じ込められる。
ギンザからイケブクロに戻ると悪魔達はパニックに陥っていた。
急いで本営に行く。もちろんマントラを案じているわけじゃない。だだ本営には勇がいるのだ。人間とマガツヒの関係は深い。
なぜならマガツヒは人間の感情そのものだからだ。たがらそのマガツヒを抜かれたり、失われたりしたら勇が廃人になってしまうかもしれない。
嫌な想像が消えては浮かぶ、オレは本営に入り込んだ。
そこには見知った顔がいた。勇ではない。
千晶だった。
「……久しぶりね。零時君」
「千晶⁉なんでこんなところに⁉」
オレがびっくり仰天して問うと千晶は答えた
「決闘裁判に勝った者がいるって聞いて、もしかしたらと思ったの大変だったけど……来てみて良かった」
「…………千晶?」
オレは千晶の名を呼んだ。
なぜだ。千晶はなぜこう悟ったというか、吹っ切れたというか、諦めたというような表情をしているんだ?
一体……何が。
オレが問おうとすると千晶が言った。
「ねえ……零時くん。ぜひ、聞いて欲しい事があるんだ。
わたし……この世界の決まりごとに従うことにしたの」
「……………あ?」
千晶は何を言っている。この世界の決まりごとに従う?
それはつまり………
「知ってるよね? 世界が何のために今の姿になったのかってこと。
わたし……【創世】を、やってみようと思うんだ」
「何を……バカなことを…」
それは氷川の真似事をするということ。認められるわけがなかった。
「……おかしな事を言ってるって、零時君は思うかしら。
でもわたし、思い出したの。世界が変わったとき……【声】を聞いたことを。
零時君だって、生き残ってたのなら、聞いたはずだわ」
確かに聞いた。確か内容は、お前は何者かにならねばならぬとかなんとか…
「……わたし、あれから落ち着いて考えてみたの。
『この世界でどうすればいいか』ってことばかりじゃなくって『どうして世界はこんなになったのか』ってこと。
そうしたら、見えてきたこともあるの。
もう前の世界は、不要な存在を許容することが出来なくなってたんだ……って。
たくさんの物があってたくさんの人がいたけど……
もう、創り出すことはなく何も無い時間が流れていくだけだった。
世界が必要としてたものは……あそこには無かったのよ。
……確かに、わたしは全てを失った。それは、悲しい事。
でも、わたし自身は「受胎」を生き残った。
きっと、選ばれたのよ。……そう信じて、目指そうと思うの。
わたしの中にはまだ悲しみが残っている……
でも、それを飲み下しさえすれば、ここでは無限の可能性が手に入るの。
コトワリによって【創世】する力が……
『選択せよ』……声は、わたしにそう教えたわ。
もう世界は、不要な存在を求めてないのよ、きっと。
だから、わたしは創ろうと思うの。
強い者、優秀な者だけによって築かれた楽園を。
……【ヨスガ】の世界をね」
長いその言葉には確固たる意思が込められていた。
しかしその内容はとても認められない。
………否、認めるために存在する正しい正しくないの判断すら、もうこの世界には明確な線がない。
千晶の言葉が正しくないなんて、オレには決められなかった。
「この世界で勝ち残ってきた零時君なら……分かるよね?」
「………決められない。そんなこと。いきなり過ぎる」
オレはそういうしかなかった。
同時にオレは何も考えてなかったことに気づいた。
オレはなぜ受胎が起きたかを物理的にしか問えてなかったのだ。
なぜ、そういう【運命】が訪れたのか。考えたことがなかった。
頭をふるオレに少し残念そうな声を千晶はあげた。
「…………そう。でも、信じてるわ。
零時君なら、いつかきっとわたしの考えを分かってくれるって」
「これからわたし、創世のためのマガツヒを集めようと思うの。
あては、まだ無いけど……
でもヨスガは強者のコトワリ。自分の力でやれる所までやるつもりよ。
……今日は話せて良かった。
また会いましょう、零時君。
生き残った者同士、きっとこの先も道はどこかで重なっているわ……」
千晶はそういうと本営を去った。
その背中を見るとオレはうずくまった。
オレは無性に叫びたかった。
千晶は、ボルテクスという地獄で変わってしまった。もう戻れないところまで。
千晶は強い。生きるだけでなく、翻弄されるだけではなく、自分でなんとかしようとする意気込みが今でも生きている。
ただその想いを向ける方向が間違っている。その原因も、オレは悟った。
彼女は【弱い】ことに絶望したのだ。弱肉強食のこの世界で、弱い者があっという間に死んでいく姿を見て、弱さに絶望したのだろう。
喪服の女が説いたアマラの摂理を思い出す。受胎はなにがどうあれ起こること。
新のための旧の破壊は必ず起こるということを。
なんで日常を捨ててまでその摂理に従わなければいけないんだと叫びたかった。
なぜ新を創るために旧を破壊しなければならないんだと嘆きたかった。
氷川はただその運命を利用しただけだと、今更気づいた。
うずくまるオレの背に誰かが触れた。
背後を振り替えるとハイピクシーがオレの背を撫でていた。
「こんな時、なんて慰めたらいいか分からないから……」
不器用にハイピクシーは笑った。彼女なりの気遣いなのだろう。
オレは力なく笑うとハイピクシーをそっと撫でた。
オレは立ち上がった。
今、泣き叫んだところでなにも変わらない。
歩く。今は動くしかない。何かを変えたいなら、歩け。
自分に言い聞かせるとオレは向かった。
勇の生死が気になる。それを確認しなければ。
きっと人修羅は、この頃から神を憎み始めたと思います。