真・女神転生3 Beginning King of the chaos (休載中) 作:ブラック・レイン
すみません、上記の理由で投稿が遅れました。
お待ちしてくれた方、感謝です。
万能属性、という属性がある。
この属性は他の属性とは決定的に異なる部分がある。
万能の名前の通り、どんな状況であってもどんな奴にも通用し、ダメージを与えてくる属性だ。
無論そんな属性を使いこなす悪魔の数は少ない。オレは様々な悪魔合体を行ってきたが、万能属性と思われる技を修得する悪魔は邪神といった上位悪魔のみだった。
で、なぜその話を今してるのかというと……
「「「「「メキドオォォォォォォォ‼」」」」」
スペクターがその属性を使ってくるからです。
「グアッ⁉」
事前に“マカラカーン”で魔法反射シールドを張っているはずだが、万能属性は厄介なことにそれすら貫通する。
その上“メキド”は元々の威力が高い。“ラクカジャ”という頑丈性を高める魔法でのダメージ軽減は望めるが、それが理由で実質プラスマイナスゼロの状態だ。
もちろんただ防ぐことだけが攻撃への対策じゃない。ンダ系の魔法で命中率なり攻撃力そのものを削れば良い。
だがスペクターはこれすらも乗り越えてみせた。
「アアァァァァ!」
オレはスペクターに向けて叫んだ。もちろんただの叫び声ではなく、魔力を乗せた咆哮を。
“雄叫び”
身の毛がよだつような、という表現しかできない声がオレの口から放たれ、スペクターの耳(耳らしきところは無いが)を打つ。
「グヌゥ……!」
瞬間スペクターの動きが気だるげになる。
ンダ系の技、“雄叫び”は敵の攻撃力および魔法攻撃力を大幅に下げる効力を持つ。恐らく奴は全力の4分の3しか出せまい。
だがスペクターの一体がその魔法を使用することによってそれを打ち消した。
「オォオオン!」
“デクンダ”
その瞬間、スペクター全員がオレンジ色の光の膜に包まれ、それがパン!と膨らませたガム風船が弾けるような音とともに割れると“雄叫び”の呪縛があっという間に解かれてしまった。
“デクンダ”。ンダ系魔法を全てかき消す魔法である。これによってスペクターは失った攻撃力を元に戻してしまうのだ。
これでは“雄叫び”の魔力を無駄にしてしまうだけである。だからといって不用意に近づけば“メキド”……万能魔法の良い的になる。
ならばこちらも魔法を使えば、と思ったがスペクターの耐性がチートであることを忘れていた。
【魔法全般無効】
文字のとおり攻撃魔法全般はスペクターには通用しない。ンダ系魔法は効くがダメージを与える魔法は全く通用しないのだ。
かと言って近づけばさっきも言った通り、“メキド”の良い的。つまりスペクターに決定的なダメージを与えられるのは物理属性で、なおかつ遠距離攻撃であるということになる。
オレの持つ技の中で、該当する技はいくつか存在するがオレの頭にはもうひとつの条件があった。
その技一発でスペクターの群れを倒すこと。
なぜなら全体攻撃でなおかつ遠距離攻撃の物理攻撃となれば相当な量の生命力を消費する。もし討ち漏らしでもしたら弱ったところを狙い撃たれ、ジ・エンドだ。
そうなると、使うべき技は一つということになる。
「メイブ。防御頼む」
「分かったわ」
相棒、クイーンメイブはオレの前に立ち、オレへの攻撃を全てかばう姿勢になった。
申し訳ない気持ちでいっぱいになるがうかうかしていられない。自分がやれるブーストをかける。
「“気合い”!」
オレの叫び声とともにオレは力を貯めた。これにより一回だけだがオレの攻撃力は倍になる。
スペクターはオレがなにかしようと察したのかオレに向けて攻撃を放つ。しかしクイーンメイブを筆頭とした仲魔達がボロボロになりながらもそれを防ぐ。
時間はない。オレはそのままとある技の溜めに入った。
この技は大技。とてもノーチャージで撃てるものじゃない。
身を屈め、腕を自分の中になにかを取り込むように折り畳む。
オレの体が光輝き、生命力が活性化してティロロロという音を響かせる。
ついに仲魔達が果て、マガツヒに消えるとスペクターはニヤリと嗤い、“メキド”の集中砲火を浴びせようとしたが……
「遅い」
オレはそう呟くとバッと両腕を広げ、その技を叫んだ。
「“ゼロス・ビート”!」
次の瞬間。
オレの生命力が幾つもの光線となって放たれた。
光線は縦横無尽に駆けると次々とスペクターを穿ってゆく。
「ギャアア⁉」
スペクター達は阿鼻叫喚の様子であちこちと飛び回るが如何せん数が多すぎた。動けば動くほど穴だらけにされる。
そして最後のスペクターが何十もの光線に貫かれ、消えた。
オレはそれを見届けるとバタリと倒れこんだ。
この技は今のオレの生命力の3分の1を食い尽くす。おまけにもともと“メキド”によっていくらかダメージを受けてたのだ。倒れたくもなる。
オレはしばらく倒れていると物置空間からとあるものを3つ取り出した。
【道反玉】。悪魔を蘇生させるアイテムをかざし、握り潰すとスペクターの攻撃によって倒れた仲魔が再び形を取り戻した。
クイーンメイブは自分が生き返ったことに気づくと手をグーパーグーパーし、腰に手を当ててオレに鋭い声を向けた。
「また無茶したわねこのバカ」
「お互い様だろう、それは」
オレはむっと返した。
そもそも誰が死ぬまで防御頼むと言ったのか。
クイーンメイブはため息をひとつすると、回復魔法でオレたちを治療し始めた。
あっという間に傷が塞がるのを確認するとオレは重い腰を上げた。回復魔法は疲労までは癒してくれない。
「とんだ邪魔が入ったもんだ。そんじゃまぁ。進みますか…」
おう、えぇ、グルルという返事を聞きながらオレは通路を歩いていった。
途中、謎の男の声がオレにいくつか質問をし、消えたこと以外はなにひとつ異常はなかった。
しかしその男の声は勇は近くにいると言った。
オレはその場所まで駆けていった。
とある希薄空間。そこには上半身裸になった勇がいた。
顔はうつむいていて見えなかったが確かにあれは勇だ。
オレは勇に声をかけようとして…やめた。
勇の取り巻く雰囲気がおかしい。しかもその周囲には、いくつもの魔力の塊が浮遊しているのだ。
なにかをしようとしている。オレは警戒心を露にしながら勇に近づいた。
すると、ソレは起こった。
魔力の塊の一つがが、勢いよく勇に取り込まれていったのだ。
「ッ⁉」
オレは驚いた。そんなものを人間が取り込んでしまったらどうなるかは分からないが良いことが起こるはずがない。
最初の塊が合図になったかのように魔力の塊が一斉に勇に取り込まれていく。膨大な魔力の量に激痛が走るのか、勇が無音の叫び声を上げた。
そして全ての魔力を取り込むと、勇はスタッと立ち上がった。
「よぉ、久しぶりだな。零時」
その声は、歓迎すべき親友の声。だがオレはその声が冷たく、気持ち悪くてならなかった。
「オレを助けに来たのか?それとも捕まえに来たのか?どちらにしろもう必要ないよ。この世界を、宛もなくさまようだけの勇は死んだ。
今ここにいるのは、アマラの力を手にした偉大なる勇様だ」
勇はそういうと一歩、オレの前に進んだ。
「ッ⁉」
オレは勇の全身を見て驚いた。
勇の上半身にびっしりと、人間の顔がいくつも引っ付いていたのだ。
その瞬間、オレは悟った。
勇は、人間を捨ててしまった。
驚愕し、フリーズしたオレに勇の虚ろな声が響く。
「今の俺には他人なんてもう興味もなくてね。オレには世界の本当の姿が分かったんだ。唯一至上の自分とただその横を通りすぎるどうでもいい他人達……」
勇は語り始めた。その様は、シジマのコトワリを語った氷川の如く。
「みんな俺のことなんてどうでもいいと思っている。そして俺もみんなのことを……でもそれは悪いことでも、悲しいことでもない。自分の世界の真ん中にいられるのは結局自分一人……そうだろ?
誰もが、一つずつ自分だけの世界を創っていけばいい。それが俺が見つけたコトワリ。ムスビのコトワリさ。
お前もそう思うだろ?自分だけの世界が創れればいいって」
オレに問う声。それはあまりにも、あんまりにも
ただ悲しかった。
勇は、この地獄でたった一人生きてきた。オレのように仲魔もおらず、力も持たぬまま。
救いの手を欲しても。救われはしなかった。その地獄の中で、孤独の中で、ついに勇は壊れた。
オレも、自分のことだけを中心にし、勇を救えなかった。
親友というのなら、せめて勇の言葉に賛同すべきなのかもしれない。それこそが、救えなかったオレへの贖罪なのかもしれない。
だが、何度も他人に救われてきたオレはそれに賛同できなかった。
「勇。お前は昔、荒れてたオレを救ってくれたじゃないか。当時、他人だったオレを。それなのにお前は人との関係をそこまで排するのかよ?」
オレは勇の目を見据えながら、言葉を投げ掛けた。
「オレは認めない。他者との関係が、価値のない事だなんてあり得ない。そんな世界は創らせないぞ、勇」
運命に翻弄され、平穏に生きたいという願いすら運命に否定された哀れな男の考えた世界と正しさをオレは否定した。ハッキリと。
勇はさして気を悪くしたわけでもなく。息を吐いた。
「そうかい。まぁ、悪魔になってしまったお前にはどうでもいいことなのかもしれないな……まぁ、オレはムスビの世界を創って自分の正しさを証明するさ。
……零時。お前も、一人になるんだな」
そう言って勇は音もなく、ただ消えた。
去り際に勇が残した言葉は、オレの胸に深く突き刺さった。