真・女神転生3 Beginning King of the chaos (休載中) 作:ブラック・レイン
久々の魔人の登場になります。
主人公の心情にも注目注目!
サカハギを倒したあと、妖精達は正気に戻り、各々の行動をするようになった。
クイーンメイブが久しぶりに故郷の妖精達と雑談しているなか、オレはヤヒロノヒモロギを祐子先生に渡しに行った。
祐子先生はヨヨギ公園東側にある物置にいた。外からのカグツチの光に照らされたその顔は、恐ろしく綺麗だった。
「やっぱり戻ってきたわね。信じていて良かった」
「生徒の言うことくらい信じてくださいよ……」
「あら、生徒は教員をよく欺こうとしているものよ?」
「オレはそんな後ろめたいことはしていませんってば」
互いに軽口を一通り言い合うと、先生は笑みを引っ込めた。
「邪悪な気配が消えていくのを感じたわ。……ヤヒロノヒモロギ、手にいれたのね」
「えぇ。ほら、これですね」
オレは物置空間からヤヒロノヒモロギを取りだし、先生に渡した。
先生はそれを受け取ると、愛おしいようにそれを持ち、オレに背を向けた。
「これで私の世界に近づける。……私の神が、コトワリを……」
そう先生が呟いた瞬間。
「ッ!」
先生の雰囲気が変わり、窓から注ぐカグツチの光が失われた。
この雰囲気は感じたことがある。
オベリスクの最上階で、先生の体に憑依した、神の気配。
「アラディア……」
オレがそう呟くと先生の声を借りたアラディアが声をあげた。
「自由とは奈落を見る崖なり、死のかげの谷なり。行く先には墓の勝利が待ち受ける。……男よ、我は汝の心を見る………」
アラディアはそう言うとこちらを向いた。
その顔には、やはりあるべき目や鼻といったパーツがなく、代わりに青いシミのような物がへばりついていた。
それを確認するとアラディアの問いかけが始まった。
「自由という名の愚か者よ!おまえはその名の為に病を担ぎ、痛みを負い、果てぬあざけりを受ける。怖れるか、患いを? 怖れるか、辱めを?」
オレはその質問を嘲笑った。
「怖れない。今更そんなことを恐れる弱さはねぇ」
オレがそう言うとアラディアは質問を重ねた。
「自由という名の愚か者よ!おまえはその名の為、友の背きに打たれ、幾度も否まれ、暗い敗北に包まれるであろう。怖れるか、欺きを? 怖れるか、災いを?」
「怖れない。オレを欺く奴は倒すまで。敗北があるのなら、報復するのみ、だ」
オレのその答えにアラディアが如何なる感想を持ったのかは表情がないため分からない。
アラディアはオレに高らかとこう言った。
「男よ! 世界を巡り見よ!数多の力が、己が世界を創らんとしておる。それを知らずして、汝の世界は在らず。競い、また共にし、汝の世界は生まれてこよう。
かかる時も……おお!イケブクロに力が現れんとしておる!」
「なに……?」
オレはアラディアのその言葉に眉を寄せた。今やあそこにはマガツヒはない。ニヒロがナイトメア・システムでマガツヒを根こそぎ奪い取ったはずだ。
だが何かが引っ掛かる。何かがあったような……
「我もまた、創り主たる力にならん。女と共に。自らを由とせよ。これ、我の真なり」
アラディアはそう言うと頭をカタカタと揺らし、気配を無くした。
そして顔が元に戻り、祐子先生は憂鬱な声をあげた。
「……アラディアの神………まだ……コトワリを授けてはくれないのね……何かが……私には足りないのか…」
先生はそう言うと毅然と前を向いた。
「…私、行くわね。ここにいても、世界は創れないし。
どんな世界が創られようとしてるのか、誰が創ろうとしているのか、私もしっかり見ないと……ありがとうね、零時君。また会いましょう」
「………………」
オレは無言で頷いた。
本当なら、先生を追いかけるべきなのだろう。しかし、オレには先生を追いかけるよりも大切な物があると思えてならなかった。
こういった感じは重要だ。こういった直感というべき物がオレの命を救ったのだって一度や二度ではない。
オレは先生が去るのを見かけると、先生が腰掛けていた椅子に座った。
あまりにも疲れた。思えば、ターミナルの固い床以外でゆっくり出来ていない。こんな柔らかい椅子に座ったのだって、久しぶりだ。
受胎が起き、友人達は苦痛の中、創世の道を進もうと決意した。
勇と千晶は、一体どんな想いでこのボルテクス界を歩いたのだろうか。力のなかった、千晶に至っては未だに力が無い状態でこの地獄を歩く。
オレ以上に辛かったろう。
その中で、創世を決意した二人の心の強さに称賛すべきか。
あるいは人の有り様を変えようとしている二人を軽蔑すべきか。
オレは………何をどうしたら良いのだろう?
二人は苦しみながらも、自分の道を見つけた。
オレは、情報に振り回されながらただボルテクス界を彷徨うだけ。
この違いはなんだろうか?
少し考え、あぁと声を漏らした。
オレはただ、真実を知りたい。ただそれだけで動いている。
そのために、アマラ深界を奥へ奥へと進んで、あの喪服の淑女の言葉を求めているのだ。
あぁ願わくば、真実を全て知ったその先に、希望があってほしいものだ。
堕ちた天使とやらが、オレに何をさせたいのかは、なんとなく理解できたが、それに乗るにはまだ早い。
オレは………
思い詰めていたその時。
「………ッ!」
ヨヨギ公園に死の気配が漂いはじめた。
この気配は、間違いない。魔人の気配だ。
オレはダッと物置を飛び出し、その気配のする場所まで駆けていった。
クイーンメイブと合流し、ヨヨギ公園の西側の一角でオレは魔人の空間に捕らわれた。
見慣れた荒野、血の色の空。
そしてこの世界の中心にいたのは、赤いベールをかぶった女性の後ろ姿だった。
オレは少し驚いた。魔人は全て男の感じがするものばかりだった。
闘牛士、大僧正、走り屋と続いた魔人はついに神話レベルになっている。
黙示録の四騎士。その上に存在する魔人なら当然神話レベル。
死や滅びを象徴する女の化け物。何者だろうか?
「ホッホッホッ……ヤヒロノヒモロギを手にしながら他人に渡してしまうものかえ?創世を止め、混沌の道を進む覚悟があるのならそれも無理からぬこと…なれど、それならば汝には越えねばならぬことが」
女の魔人は金色の杯を高く掲げた。すると巨大な赤い獣の悪魔が召喚された。
「終末の日、最強の獣を従えて現るマザーハーロットを相手に……」
終末の日?最強の獣?マザーハーロット……
オレは目の前に現れた獣の姿を見て、一つの仮説を立てられた。
「大淫婦バビロン……」
地上の忌まわしい者達の母とも呼ばれる存在であり、キリスト教徒の大敵であるその存在がここにいる。
暴君を象っていると言われている7つ首の獣が耳障りな声で問う。
「汝、人ノ身ヲ捨テ悪魔ノ衣ヲ纏イシ者ヨ。絶エザル闇ニ繋ガル、悪魔ノ心ヲ欲スルカ?」
オレはその問いに瞑目した。
悪魔の心。それもまた、良いかもしれない。
悪魔。それはそれは自由な存在だろう。
少なくとも、友人のこととか考えなくても良い。
「それも……良いな」
ボソッとそう言うと女の魔人。マザーハーロットは嘲笑った。
「『それも良い』、か。未だ闇には染まりきっていないと見える。しかし、ふむ……」
マザーハーロットは考えるように頭を傾けると杯の中身を一口飲み、こう言った。
「妾は汝の闇を知らねばならぬ。あのお方が予想以上と評した者の闇。さぞやおぞましき物であろう?」
「さぁ、うんと可愛がろうぞ」
マザーハーロットは残虐さを隠そうともせずに凛とそう言うと顔をこちらに向けた。
さぞ絶世の美しさを誇っていると思われた顔は、魔人の例に漏れず髑髏だった。
「死という名の……最高の快楽で…」
カタカタと顎の骨を震わせて笑うとマザーハーロットは獣に飛び乗り、高らかと言った。
「あいやっ。死の宴を楽しもうぞえ……!」
「なら死ね。オレはオレに向けられた殺意を許さない」
自分でも殺意に穢れていると思えるほど冷たい声が自分の喉から飛び出る。
それほどまでに、今のオレは機嫌が悪かった。
オレは仲魔を召喚すると拳を構え、マザーハーロットへと駆けていった。
マザーハーロットは、瞳のない眼窩でオレを見据えるとまた杯から一口、飲んだ。
そして、衝突。