真・女神転生3 Beginning King of the chaos (休載中) 作:ブラック・レイン
アマラ深界を抜け、オレはとある情報を聞いた。
シジマの主力悪魔達をユウラクチョウ付近で見かけた、と。
「嗅ぎ付けたか……」
だがそれからまだ時間は経っていない。その上、ユウラクチョウにシジマがいたということはマガツヒがあるトウキョウ議事堂に繋がっていることは確定しているというわけだ。
首魁である氷川は大胆ではあるが愚かではない。二つの勢力が守護を降ろした今、シジマは戦力に不安が残るはずだ。特にヨスガの総攻撃にあったものならたまったもんじゃない。
その中で動くということはそこにシジマが得になるマガツヒの宝庫、つまりトウキョウ議事堂はあると決定付けられるというわけだ。
のんびりとはしていられない。さっさとユウラクチョウに行くとしよう。
ユウラクチョウ坑道は困ったことにあちこちに落とし穴だの急勾配だのがあって何度も落ちる羽目にはめになった。おかげさまで何度も悪魔を踏み潰してしまった。
暗いため、穴に落ちる前に穴を見つけることができないのだ。
この暗さには持ち前の勘の良さと、敵を即座に感知できる【心眼】が役に立つ。
もちろん敵に見つからないというのも立派な手段だ。【エストマ】という魔法を使い、気配を消して動き、戦闘そのものを避けてしまうのも戦略になる。もちろんそこから不意打ちというのもアリになる。
敵も同じことは使えるが……オレには殺気が分かる。不意打ち狙いで近づいた奴を逆に……というパターンはよくある。
仲魔達はそれでよく首をかしげる。いやいや、あれは分かるだろう。やられる時に背筋が不快なチクチクした感じに襲われるのだから。
オレは不甲斐ない仲魔達にため息を吐きながらその不意打ち野郎の頭を踏み潰した。
状況は最悪だった。氷川率いるニヒロ機構本隊はすでにトウキョウ議事堂のあるナガタチョウに到着したらしい。
その上、何かに取り憑かれたような人間の女を見かけたという話を思念体から聞いたのだ。
そんな人間、該当するのは一人だけだった。
「祐子先生……」
オレはその名前を呟き、歯を食い縛った。
「なんでどいつもこいつもオレを頼ってくれないんだよ……!」
思えば一人にしてしまったからこそ、勇を筆頭に全員壊れていったのだ。なんでオレは勇や千晶に着いていってやらなかったのか?
それ以前になんで勇も千晶も…今で言えば先生もオレを頼らない?オレはまともでいることは承知しているはずだ。
まさかこれも運命だというのか?大いなる意志が施した、オレ達人間への縛りか?
「えぇい!忌々しいんだよ、神めぇ‼」
「フゲッ⁉」
オレは近くにいた悪魔を踏み潰しながら叫んだ。
どいつもこいつも守護という神を追って……。それすらも大いなる意志という強き神が作ったシナリオだと聞いて……
そんな操られた生き方で良いのかよ…!人は善くも悪くも自由を追い求めるものじゃないのかよ!
オレは神に縋り、神を降ろした……あるいは降ろそうとしている人間達の顔を脳裏に浮かべながら歯を食い縛った。
口に鉄の味が広がる。だが、それがどうした?
オレにとっては、この身をかきむしりたいほど黒く、蛇のようにのたうつ憎しみのほうがよっぽど大きい!
「殺してやるぞ……!氷川!」
この災厄を世界に顕現させた男に、オレは叫んだ。
ユウラクチョウ坑道を抜け、ナガタチョウに着くとオレはトウキョウ議事堂に駆け込んだ。
トウキョウ議事堂……日本の政治の中心となっていた偉大なるこの建造物は今もなお、その威を放っていた。
だがその威の中に、異物の気配。
オレはエントランスホールの周りを見渡した。
周囲にいる悪魔はすでにナガタチョウを占拠している形で布陣していた。ニヒロ機構の悪魔は夜魔・堕天使などのボルテクス界で俗に言われるDARKと呼ばれる悪魔がちらほらいたからだ。
だがトウキョウ議事堂内部に入ってすぐに侵入者排除には来なかった。オレもシジマに属していると思われているのだろうか?
だが、外に戦力の大部分を残しているのはどういうことだ?そしてそれが守備として動かない訳とは……
オレは疑問を浮かべては消しを繰り返しながら、西議院に向かおうとした。
だが、そこで邪魔が入った。
「むぅん‼」
「おっと……!」
どこから現れたのか、赤茶色の肌をした巨人が手に待つ炎を纏った剣で斬りかかってきたのだ。
オレはその攻撃をかわし、マガタマを【ゲヘナ】に変えて炎に耐性をつけた。
「やっぱり何かしらいるか……っていうか自分達の仲魔だって判断もしないのかよ」
「これより先に進むは総司令の信頼を得た悪魔のみ!それ以外はたとえ我らの同胞であっても斬れとの命令が降されているのだ!」
「あぁ、そうかい……」
そこで外にいる悪魔がうろうろしているだけなのか分かった。
ここにいる悪魔はニヒロ機構最大戦力の悪魔。それに絶対の信頼をもっているのだろう。
だが、この程度で最大戦力ならニヒロも脆いものだ。これでは上位魔人にも及ばない。魔人ではないがベルゼブブと比べたら霞んでしまう。
オレはフンと鼻を鳴らし、仲魔を呼んだ。
まずティターニアが相手の戦力を下げる魔法を唱える。
クイーンメイブがオレ達の戦力を上げる魔法を唱える。
そこで巨人…魔王 スルトが動いた。
【デクンダ】
短くその魔法を唱え、自身にかかった弱体化魔法を解除するとスルトは剣を振り上げ、叫んだ。
「【ラグナロク】!」
瞬間、クイーンメイブに超高温の火炎弾が飛んだ。
「甘いわねぇ!」
しかし歴戦なのはクイーンメイブも同じこと、ケガをしないギリギリを見切り、かわす。
「ぬっ!やりおるわ!ならこれなら……」
スルトは剣を再び振り上げ、魔法を唱えようとして……目をガクンと体勢を崩した。
オレがスルトの後頭部を指で貫いたからだ。
どうも『物理に強い』ようだがパワーを一点に溜めれば貫くことぐらいなら出来る。
だが、まがりなりにも魔王を名乗る悪魔はそれで死なない。すぐに体勢を立て直し、振り向き様にオレを斬ろうとする、が。
「遅ぇ」
オレはスルトに埋め込まれた指先から氷結魔法を放った。
【絶対零度】
その魔法を唱えた瞬間、スルトの頭部は一瞬で凍りついた。
そして内部から凍ったスルトの頭を殴り、砕くとオレは軽々しく着地した。
頭を失ったスルトはグラリと体を傾かせ、地面に着く前にその体をマガツヒにして爆散させた。
「相変わらずエグい戦いかたするわねぇ…」
クイーンメイブが声を震わせていった。
「これぐらいやらなきゃやってられねぇよ、元人間にとっては」
これは真理だと思う。圧倒的パワーを手にしたとはいえ体躯は小さく、強力な爪も牙も持たないオレは正面戦闘で殴り合い、斬り合いなんて向かない。
小さいこと。それを活かし、懐に飛び込むなり背後に回るなどして急所をついてさっさと終わらせる。それで良いだろう。
オレはスルトのマガツヒを仲魔と分け合い、食い尽くすと先へ進んだ。
トウキョウ議事堂はニヒロ機構の手で迷宮と化していた。
だまし絵。ワープトラップ。それを最大限に利用した伏兵の設置。時間稼ぎなのはバカでも理解できる。
だからこそ、憎たらしい。だからこそ……
「忌々しい!忌々しいんだよ!テメェらは何から何まで‼」
「グオッ⁉」
オレは棺桶に入った悪魔、魔王 モトを電撃魔法で砕きながら叫んだ。
このモトは迷宮に加えてさらに道を閉ざすというイラつく小細工まで施したばかりか、自分を倒さなければ進めないという小細工まで張っていたのだ。
また、このモト自体、電撃魔法と万能魔法以外まともに通用しないという厄介な体勢を持っていたのだ。
このままでは守護を降ろされてしまう。急がなければいけないのに……!
「退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ね退け死ねよおおおおォォォ‼‼」
「グワァアアアアアア⁉」
オレは本会議場に現れた魔人 ミトラを呪詛とともにバラした。
どいつもこいつも弱いくせに邪魔をする。ヨスガの気持ちも分かる気がする。
だがそれも今となっては憎たらしい。いずれあのバアル・アバターとやらも殴り飛ばしてやる。
だが今は氷川だ。
オレは本会議場を抜け、その先にあったエレベーターに乗り込み、先に進んだ。
トウキョウ議事堂6階。その最奥に氷川はいた。
そこにはもう一人、居てはならない人間もいた。
「祐子先生……」
先生は、まるで自らの夢が断たれたような絶望した顔をしていた。対する氷川は、先生に向けて嘲笑うように顔をあげていた。
「……あなたは、まだ分かっていないのか?自由とは名ばかりの欲望こそが世界を堕落させたのだ。自由? 可能性?本気で信じているなら、なぜ創世など望む?かつての世界にうんざりするほどあったはずだ。なぜ元の世界で成し得なかったのかね?」
「…それは……」
反論しようにも、出来ないのだろう。その言葉は確かに事実。それを祐子先生は知っている。
その様子に氷川は嘲りと呆れを混ぜた言葉を祐子先生に投げ掛けた。
「生徒を送り込んだのもそうだ。何を期待していたのかね?自分がやらないことを彼らがやってくれるとでも?
それとも、同じ挫折を味あわせてみたかったか?」
そんな言葉を言われても、祐子先生は反論のはの字もしなかった。
「……なぜ、あなたがコトワリを啓けないかわかるかね?あなたは、ただ逃げ出したかったのだ。あなたは本当は自由なんか信じていないんじゃないかね?」
「ッ!」
「………」
先生はその言葉に崩れ落ちた。
それが答えなのだろう。自由を望んで自由を殺した理由はそれが最も正しく感じた。認めたくないが。それが本心なのは反論の余地もなかった。
その時、崩れ落ちた祐子先生の体から何かが立ち上るように現れた。
祐子先生と同じ姿をし、だが顔がシミのようなものによって塗りつぶされた異界の神……アラディアだ。
アラディアは目の無い顔を氷川に向け、言葉を投げ掛けた。
「人の子よ…そなたがシジマを望むのもまた自由なのだ…」
氷川はアラディアの姿を見て、忌々しそうに顔を歪めた。
「その姿……異神アラディアか。おまえが祐子についた神だったとはな。だが、この結界の中では何も出来まい。おとなしく我が守護の降臨を見ているんだな」
アラディアはその言葉に絶望するわけでもなく、ただ淡々と言葉を紡いだ。
「…もはや、この地は消滅するのみ。女よ、新たなる地へ、共に赴かん」
アラディアの言葉にしかし祐子先生は否定した。
「私は…行かない……行かないわ。氷川を止めないと……元の世界も…新たな世界も死んでしまう」
祐子先生の否定の言葉。アラディアは淡々と祐子先生に告げた。
「女よ、かの地にて待たんや。希望こそかの地への道なり」
その言葉を最後に、アラディアの姿は失せた。
希望が……失せた。
氷川はそれを見てフンと鼻を鳴らした。
「憐れな人だ。ニセ神にだまされ、最後には捨てられたか。間もなくこの空間は虚無に飲まれる。せめて神への生けにえとなり己が役目を果たすがいい……
「させるかよ‼」
オレは氷川の言葉についにキレた。火炎魔法を唱え、氷川に飛ばす。
だが、それは赤い蛇のような悪魔に止められてしまった。
氷川は驚愕した。ここまでこられた存在に、予想もしていなかったのだろう。
「誰だ!!…ほう、人修羅が我が結界に入っていたか……何を思ってここまで来たのか知らんが……私は、君と争おうとは思わん。おとなしく、そこで見ていたまえ……」
「そうはいくかよ……!」
オレは氷川の言葉を一蹴し、力を解放した。
氷川はオレの敵意を受けても、一切の怯えを見せなかった。
「君には失望したよ。女の誘惑に落ちるとはな…今まで泳がしていたが、消えてもらったほうが良さそうだ。我が忠実なる下僕、サマエルが君を始末してくれるよ」
氷川がそう言い、パチンと指を鳴らすと赤い蛇の悪魔……邪神 サマエルが襲いかかってきた。