真・女神転生3 Beginning King of the chaos (休載中) 作:ブラック・レイン
今回、半分以上オリジナルになります。
オレが今いる場所はアサクサターミナル。もはや見るものもいなくなったアサクサの街は野良悪魔の巣穴となっていた。
現在、創世の覇権を争っている三つの勢力はボルテクス界をうろうろしているか、傘下に入っている悪魔が小競り合いをしている状態にある。混沌に沈んだこの世界は、戦乱にまみれた。
そんな中で、シジマもヨスガもムスビももはや意味をなさない街なんざ見向きもしないだろう。安全はほぼ確保されているというわけだ。
「…………」
オレはターミナルをいじり、ボルテクス界を、あるいはアマラ経絡を覗いた。
先生が死に、あれから何日たったのだろう?少なくともカグツチが数十回は煌天と静天を繰り返したろう。
その間、オレはただターミナルを使い、こうやってただぼんやりと世界を見ていた。
使い方は使っているうちに分かってくる。使い方を一通りマスターすれば、ターミナルは転送装置のほかに知識の宝庫となった。
例えば、創世のルール。
滅びを迎えた世界は混沌に沈み、悪魔が跋扈するようになった。
生き残った人間はその地獄の中で『自分なりの』真理を見つけ、その思想をコトワリとして成し、その思想を現実の物としてくれる守護という悪魔を降ろす。
しかし創世はこれでおしまいではない。最終決戦があることが分かった。
守護を降ろしたコトワリをカグツチに適用させるための試煉。それを超え、カグツチに謁見出来た者が創世できるのだ。
そのための道を拓くのがヤヒロノヒモロギ。
これをアマラ神殿の中枢に置くことで、カグツチが自らに謁見せんとする者のための道を作り出してくれるという話だ。
奇しくもオレは、創世の最終決戦のスタートを告げる役目を担っていたということだ。
だがそれが何になる?
創世の最終決戦を初めて、神が望んだ秩序ある世界を創れと?元の世界とはかけ離れた人間像が当たり前となった世界を諦観と失望の中生きろと?
ヨスガのように、弱きを敵としろと?
ムスビのように、孤独を幸としろと?
シジマのように、沈黙を是としろと?
アマラに散りばめられた宇宙の中で、何度も行われた破壊と再生の連鎖を受け入れろと?
受け入れられるわけがないだろう!
「アアアアアアアアアアッ!」
オレは嘆き叫び、自らの脇腹を穿った。
鮮血が飛び、どす黒い液体が床や壁を濡らす。
二度、三度。オレは自らの体を傷つけ、どうしようもない憎悪を晴らそうとした。
だが所詮それは一過性。しかも憎悪が収まったところで胸を裂くような虚しさがオレを襲う。
「ううぅ………!」
痛い。痛すぎる。
傷が?否。心が、だ。
この凄まじいまでの憎しみを向ける先はある。大いなる意思。この創世のルールを作り出した傲慢者。
そのための道はすでに用意されている。今すぐアマラ深界に行き、神との戦争を始めれば良い。
だが………勝てるわけがない。
オレを勝負でなんとしても勝ちたいと思える原動は敗北への恐怖。裏を返せば、勝てない戦いは避ける。
憎しみに走り、その果てに負けるなんて……無様で滑稽ではないか。
敵はあの大いなる意思。万物を掌で踊らせる最強にして至高の存在。
アマラ深界の悪魔は、オレを認めればオレの号令一つで立ち上がると約束しているも同然。だが、それで勝てるか?
頭で判断はできない。オレは大いなる意志を見たことも、感じたこともないのだから敵を判断することはできない。
が、オレの勘は負けると判断する。
死に近い存在、魔人故に神に勝てるのだろう。だからこそ、オレは未来に存在する死を感じ取れる。戦いの時、オレの感じる感覚の正体はこれだ。
敵の未来。そこに存在する死をオレは薄々感じていたのだ。
だからこそ、恐れない。心の隅でその死を理解していたからこそ。心のどこかでオレはその死を敵にくれてやる執念に絶対の自信を得ていたのだ。
だが、その自信もない。
………力だ。
すべてを、踏み潰し、殺しきる絶対の力が欲しい!
もはや失う物もない。命を差し出せというのなら喜んで差し出そう。
それで、神を殺せるのなら……!
それでこの憎しみ晴れるのなら……‼
ヴォン……
「ッ!」
オレの耳に、確かにそんな音が聞こえた。
ハッと顔をあげると、ターミナルが触れてもいないのに回転していた。
黒く光る円柱状のオブジェは静かにクルクルと回り、黒い光を点滅させていた。
……呼んでいる。何故かそう感じ、オレは血に濡れた手でトンと手を置いた。
すると場所も指定していないというのに、オレの体は引っ張られていった。
いつの間にか、オレは砂漠に立っていた。
ボルテクス界のどこかか?と思ったが違う。空に、反対側に存在する大地が見えない。
ただ、黒のインクを塗り潰したような闇が、オレの頭上に広がっていた。
「………………」
オレは気配を探って、察した。
この世界には、何もない。
人間はおろか、悪魔の姿もない。
雰囲気としては、魔人の空間と言ったほうが良いか。だが、この世界の雰囲気には魔人特有の死の冷たさもない。
本当に何もないのだ。空っぽの世界が現実にあるとするなら、こんな感じだろう。
ここにあるのは砂漠と、あちこちに刺さった石。
これは………墓場?
『神に反逆した君の先輩の墓場だよ』
「…………へぇ」
不意に聞こえたゾクリとするほど冷たい声。感じる濃密な死の気配。
この感じは、アマラ経絡に落ちた時に会ったあの黒い影の存在。
しかしもはやオレの心には恐怖する余力もない。オレはただ相槌を打って振り返った。
そこにいたのは、長い髪を揺らし、冷たい目をした少女だった。
不思議なことに髪の色が白から黒、黒から白とひっきりなしに変化し、瞳の色も黒、金、赤とコロコロ変わっていた。
その少女はオレから一番近い墓場に近づき、そっと触れながらオレに言った。
『人修羅はキミだけじゃない。東京受胎で全てを失い、堕ちた天使に悪魔の力を授けられてボルテクス界を生き、世界を創り、または破壊する。その物語は、様々な道が存在し、たどり着くエピローグもまた違う。キミはその物語の主人公の一人』
「………平行世界の話か」
ともすれば、オレの立場を演じる名も知らぬ人修羅が今も地獄を生き、また別の人修羅は答えを出し、創世を成したか、あるいは世界を壊したか。
またはすべての答えを知り、オレと同じように神に反逆したか。
…………【先輩達の墓場】か。
「この墓場はどこかの平行世界で………神に反逆して討ち死にした人修羅の墓ってことか?」
『察しが良くて助かるよ。まぁ、骨が埋まっている墓場なんてどれ一つとしてないけどね』
少女はクスクスと笑った。暖かく感じるはずの優しいその笑みは、とても冷たく思えて仕方がなかった。
『大いなる意志に逆らった存在は永遠に呪われる。その生を永遠とする呪いだよ。そして永き永き戦いの道を歩ませ、償いを永遠に行わせる。死という漠たる安息はそこにはない…………例え、混沌王として死んでもね」
オレはその言い回しに引っ掛かりを覚えた。そいつが死んでも、惨めな生を再び与えられ、また苦しめる。そんな話を聞いたことがある。
それは………それは………
「ヒジリ?」
かの男はかつて生きていたときに犯した罪により。死んでも記憶を無くされ、また生かされる。そんな永遠とも言える罰を受けている。
そしてそのような罰を受ける程の罪。オレは1つしか思い浮かばない。
大いなる意志への、反逆。
あれは敗北し、無力になった人修羅の……混沌王の成れの果て?
その答えが正解だったのか、少女は笑った。
オレは胸中に走る黒い憎悪をゴウッと燃やした。煉獄の炎となるその想いは、決して晴れることなどないというのに。
それを理解し、虚しさに襲われつつもオレはただ少女に問うことしか出来なかった。
「なら、お前は何者だ。なぜ全てを見たような言葉を吐く」
『フフッ。何者か、か………それを問われる日が来るとは思わなかったよ』
少女はオレに向き合った。その顔は、いつの間にか髑髏になっていた。
「…………魔人か?」
そういうと少女の顔がもとに戻った。なぜかブスッとした表情で。
『あんな、たかが死の一面か二面しか存在に織り込めなかった出来なかった低俗な奴等と一緒にしないで」
「それをたかがと言うか……」
マタドールやだいそうじょう。ヘルズエンジェルはともかく黙示録の四騎士、マザー・ハーロット。そしてトランペッター。
どれも人間を世界レベルで滅ぼすような力を持つ。化け物中の化け物。
それをたかがと言い、そして死の一面、二面しか持っていないというのなら。目の前の存在の答えは………
「死、そのもの?」
オレの出した答えに、少女は意地の悪いの笑みを浮かべた。
『当たり……と言いたいけどそれじゃ三十点かな……』
少女はクルリと回りながら説明した。
『私はここにいる人修羅達を魔人たらしめていた滅びの概念そのもの。永きに渡り、あらゆるモノを壊し、殺し、終わらせた混沌王達の力そのもの。たしかに死そのものだけどその一部にまで昇華した存在、としかまだ言えない存在』
「ふぅん……」
少女の説明にオレは気の無い返事を返した。
『ふぅんって随分と反応の薄い返事だね。私、このままキミを殺すことも容易って分かってる?』
「好きにしな。それでもいいやと思えることがあったのなんて知ってるだろう?ありとあらゆる人修羅を見てきたのなら」
『まぁ、そうだけど……』
ポリポリと頬を掻くその姿は人間の女そのもの。だがこの存在が一部とはいえ滅びそのものなのは魔人であるオレには分かる。
だがオレはそんな奴と話をする気でここに来たわけじゃない。オレはイライラとかかとを鳴らした。
「で、オレをここに呼んだのはなんのためだ?まさか偉大なる【滅び】様がオレと世間話って訳じゃねぇだろう?」
『当然。キミに頼みたいことがあるんだよ。愛するキミだけに、頼めること』
滅びの少女は艶かしく目を細め、そういうとオレの耳元で囁いた。
『私になって………大いなる意志を殺して欲しいの』
「………ッ!」
オレは目を見開いた。
『大いなる意志は死に背いた。どんなものでも終わりは来るというのに……それが存在する全てのモノ達の義務であり、制約であるのに……』
続く言葉はゾッとするほど冷たかった。
『大いなる意志。この存在は死に、滅びに、終わりに逆らった。然るべき報いを受けさせなければいけない』
「………なるほど」
たしかに死そのものからしたら永遠と生き、世界を牛耳る大いなる意志は目の敵にするか。たとえ混沌王達の力から生まれた死でも。死であるが故に大いなる意志を憎む。
オレはそれを理解し、少女を絞め殺す勢いで抱いた。
「なら、ならオレに力をよこせよ。オレが求める。全てを殺しきれる力を!」
オレの口から漏れ出る怨嗟の声。少女はそれを、まるで美しい音楽を聴いたときのように身を震わせた。
『あぁ!それでこそキミだよ‼どんなものでも憎み、どんな手を使ってでも敵を踏み潰してきたキミに私は惚れたんだよ‼』
恍惚、狂喜。そうとしか取れない声をあげて少女はオレを抱き返した。
『そんなキミが縛られない存在である人修羅になれて本当に良かった………キミならなれる。大いなる意志すら殺せる死神に……!』
少女はそういうとオレから手を離した。オレもつられるように離した。
『今からキミと同化する。零時、私を食べて。それがキミという存在を滅びそのものに昇華できる、手っ取り早い方法だから』
「……大丈夫なのか?それ」
一部とはいえ滅びそのもの。そんなものと融合するなんて、生物たるオレに出来るとは思えない。
少女はそんな心配をするオレに凄絶に微笑んだ。
『失うことなんて……もう無いんでしょ?』
「……そうだったな」
オレはフッと笑うとトンと少女の肩に手を置いた。
「……覚悟はいいか?」
『キミこそ。あ、そうだ』
少女はそういうとオレの手に自らの手を置いた。
冷たいその手を見ながら、オレは少女の言葉を待った。
『私を食べると滅びがキミを蝕むだけじゃない。混沌王として戦った人修羅達の全ての心を体験することになる。私は混沌王の全てを引き継ぎ続けた存在でもあるからね。心を強くもたないと壊れちゃうから気をつけて』
「……はいよ」
散っていった混沌王達の心。どれだけ苛烈か。
それは、喰えば分かるか。
オレはそう心で呟くと。
少女の喉を一切の容赦なく食いちぎった。
噴き出す血は黒い。否、これは血ではなく死の概念そのものか。脳裏でそう思いながらオレは少女を喰らい続けた。
その半ばでオレの体が悲鳴をあげた。
死だ。死の苦しみが具現化してオレの身を苛んでいるのだ。
だがそれに構わずオレは少女を、滅びを喰らう。その度にオレの体が痛み、傷つく。
オレは涙した。痛みに?否。
頭に流れる、混沌王の負の感情にだ。
どの混沌王も、全てを失い、友が狂い、希望を否定された。そして大いなる意志を憎んだ。
これほどの悲劇あり得るや?全てを失い、全てを壊し、戦いを積み重ね、犠牲を積み上げても大いなる意志に及ばなかった無念と憎悪、そして悲哀の数々。
あぁ痛い。胸が、オレのものでない憎しみに、怒りに、そして悲しみに張り裂けそうになる。涙が溢れて止まらなくなる。
オレは一心不乱に少女を喰った。食う度に流れる感情と痛みの数々に無音の叫び声をあげながら。
少女は終止無言だった。ただ微笑んでオレを見ていた。
オレはそれに反応せず、ただ少女の身を喰らい尽くした。
そして最後の一片を喰った時に、もはやいないはずの少女の言葉が響いた。
『おめでとう。キミは混沌王を越える存在になった』
『私の、僕たちの憎しみを背負ってキミは戦って』
少女の言葉が、だんだん女らしさを失う。だが男になりきったわけでもない。
これは、死んだ混沌王達の声か?
それはもはやいないはずの存在。だが、オレにはハッキリと聞こえた。
『僕たちの力を、想いを背負って………大いなる意志を……殺して……』
『おねがい………!』
『頼む……………!』
「………………………」
オレは痛む体を全く気にせず無言で立ち上がった。
オレは無音で泣いていた。混沌王達の悲劇に、心が血を噴く。
痛い。痛いぞ大いなる意志。
お前はその傲慢ゆえにこれほどの憎しみを、悲しみを生み出した存在だ。
そんな存在、お前は……お前だけは………‼たとえすべてに変えてでも。
「殺すッ!殺してやるぞおォォォォォォォォッ‼‼」
闇しか広がっていない空に、オレは叫んだ。
えぇ、一応あの少女についての補完になります。喪服の女の言葉を聞くように聞いてください。
少女は平行世界、大いなる意志に挑んだ混沌王達の思念と混沌王達を魔人たらしめていた死と滅びの概念から生まれました。
零時君を愛した理由は自らの意志を継げる存在であったため。
零時君は生まれつき何かを模倣する能力に長けており、それは零時君が何かに染まることにかけて天才であったからこそだったのです。
そして零時君の敵に対する憎悪。
だからこそ死そのものにまで昇華した少女は零時君に自らを喰わせても死なない存在の零時君に心から感動し、またその心の在り方を愛したのです。
本文で説明しきれない文才のなさをお許しください。
次回から零時君が最強になります。お楽しみに!
では、また次回に会いましょう……