真・女神転生3 Beginning King of the chaos (休載中)   作:ブラック・レイン

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社会人デビューにつき、小説がなかなか書けずにすみませんでした。やっと時間を見つけたので投稿します。




復讐の道

 

悪魔よりも堕ちた存在であり、悪魔よりもおぞましいとカグツチは俺を評した。

 

おぞましい。魔人達にも言われ続けてきたその言葉を、俺はなんとなく理解できつつある。

 

人間は知恵のある生き物だ。その上で、俺は憎悪のまま敵意を振り撒き、悪魔を、そして人間を殺した。殺して殺して殺して殺して殺しまくった。

 

思えば俺は、このポルテクス界で善悪という概念を無意識に、そしてすぐに捨てていた。悪魔を素手で殴り殺し、また踏み潰していた。

 

通常の人間なら殺しに躊躇いが発生するところを、俺は人の心を持ちつつもその心で殺意を燃やし、殺すことを考えた。

 

まさしく、俺は悪魔よりも悪魔らしい悪魔。人の心を持ったまま、悪魔を心理的に圧倒できる圧倒的な闇を内包した化け物。

 

だからこそ、見込まれた。悪魔の王に。

 

だからこそ、見込まれた。混沌王達の思念に。

 

だがそのことに後悔する必要などない。この憎悪晴らすためなら、なんだってしてやる。どんな存在にも染まってやる。

 

だから……だから……ッ!

 

「死ねッ‼」

 

「むううんッ‼」

 

俺の絶叫とカグツチの唸り声が交差し、同時に双方の力が迸った。

 

戦況はこちらが優勢。俺の死の力は確実にカグツチを蝕んでいる。

 

だがいつひっくり返してきてもおかしくない。カグツチは先程から自らの光の満ち欠けの周期を強制的に動かしているのだ。

 

【天の鼓動】

 

ドクン……ドクン…ドクン……!

 

「ちっ……」

 

そしてついに煌天。ボルテクスの悪魔を狂気に満ちさせる光が辺りを包み込む。

 

「オオオオオォォオン‼」

 

カグツチが一際激しい咆哮を挙げ、その体から発する光を一瞬で収縮させた。

 

「ハッ!」

 

大技の予感。それを感じた俺はすぐさま防御魔法を唱えた。

 

【ラクカジャ】

 

その瞬間、濃い紫の光が俺と仲魔達を包み込んだ。

 

そしてそこから1拍遅れてカグツチはその技を放った。

 

「消えよッ‼」

 

【無尽光】

 

ドグオオオン‼

 

カグツチはその身に収めた光を一気に解き放ち、俺達に降らせた。

 

「ガハッ⁉」

 

「うおっ‼」

 

「キャア‼」

 

仲魔達の悲鳴。俺も体から血しぶきをあげる。

 

【無尽光】。どうやら万能属性の技のようだ。でなければ、マサカドゥスのマガタマで守られたこの身に傷などつくはずがない。

 

俺はこれで一歩追い詰められたというわけだが……それはお前の死を近づけさせる結果にもなるわけだ。

 

この痛みは……この憎悪を増幅させる起爆剤になる!

 

「ウオオオオアアアアアアアアアアアアッ‼」

 

獣のような雄たけびを挙げながら、血を空中に巻き上げながら俺は全身の生命力を顔に集める。

 

全身を走る激痛。そして俺の命を消さんとする傷の数々。それらを無視して俺はそれを放った。

 

【至高の魔弾】

 

「ジャアッ‼」

 

目から放たれる、黒と白の光線。それは、カグツチの体を構成するパーツを悉く破壊してゆく。

 

「…………ッ‼」

 

カグツチが大きく震え始めた。まるで、自らの崩壊を耐えているかのように。

 

このまま殺す。もう一度【至高の魔弾】を放とうとした時だった。

 

「カァッ‼」

 

「ギィッ⁉」

 

カグツチは崩壊寸前のパーツの一部から閃光を放ち、俺の肩を穿ってきたのだ。

 

「こ……いつゥ……!」

 

「待って、零時‼」

 

飛び出そうとした俺を制止させたのはピクシーだ。

 

ピクシーは俺の傷を一目見るなり、完全回復魔法の【メディアラハン】を唱え、俺の傷をみるみる塞いでいった。

 

『バカなことを』

 

俺はそのときそう思った。この手の魔法は消費する魔力も多い。魔力回復の手立てはあるとはいえ、それを許す敵ではない。

 

俺の命を救うよりも、自分の命を守るためにその魔力を使えと叫びたかった。だが、ピクシーの目が……正確にはピクシーが目で訴える何かを感じ取って俺は喉まで出た言葉を押し込んだ。

 

ピクシーは、そうまでして俺に生きてほしいのか。

 

彼女をそう駆り立てる感情とは何か。悪魔としての期待か?大いなる意思を討つ、黒い希望を守るためか?それとも妖精お得意の気まぐれか。

 

……どれも違う気がする。その何かを、いつか俺は知ることが出来るだろうか。

 

「オオオオンッ!」

 

大気を震わす呻き声に、思考を中断させると俺はカグツチの方を見た。

 

カグツチはすでに崩壊寸前だった。だが、あれだけ死を浴びせていればすぐに腐り果てていてもおかしくはない神の駒は未だ生にすがりついていた。

 

とどめを刺そうとした、その時だった。

 

ドクン……ドクン……とカグツチが鼓動したのだ。

 

また、【天の鼓動】を使うのか?と思ったが…違う。鼓動の仕方がどこかおかしい。

 

不味い、と思ったときには、遅かった。

 

「オオオオオオオオオオオッ‼‼」

 

「ッ‼」

 

突如、凄まじい力の波動とともにカグツチが炸裂したのだ。

 

ついに死の力に耐えかねて滅びた……わけではない。忌々しい神の力は未だ存在している。いや、それどころかますます増えて……!

 

俺は眼を見開いた。

 

カグツチを構成していた巨大なパーツ。空中に散らばったそれが、まばゆい光を放ちながらガコン!ガコン!と再び集まりだしたのだ。

 

それを止めるために、魔法を飛ばすが数が多すぎる。そしてついにそれは完成してしまった。

 

再び再構成されたカグツチは巨大な球体から、巨大な人の頭部の形になっていた。

 

変わったのは形だけではない。今までの弱っていたカグツチの生命力は戦う前よりも強大になっており、その力の波動は桁違いに上昇している。

 

「第2形態ってわけか……どうする?零時」

 

体のあちこちを焦がしたダンテが問う。さすがのダンテも、無傷とはいかなかったようだ。

 

「……殺す以外の答えが要るか?」

 

ダンテの問いにそう答えるとダンテはそれもそうだと言わんばかりに獰猛に笑い、ダンッと地を蹴った。

 

それを迎撃するかのように変形したカグツチは光を薙ぐ。それをダンテは空中で舞うように体を捻って避ける。

 

そして腰に掛けられたエボニー&アイボリーを引き抜き、カグツチに向けて乱射する。

 

ズダン!ズダン!ズダン!ズダン!ズダン!

 

数々の悪魔を蜂の巣にして、さらにあまりある威力を誇る双銃の嵐をまともに受けたカグツチは微かな反応もせず、ただその機械的な体を光らせた。

 

「我、ただ空なり……」

 

ピクッ、とこめかみが動くのを止められなかった。その言葉を放ったカグツチの様子が変わったのだ。

 

まるで力を溜めるかのように沈黙を貫き始めたのだ。

 

「……大技か」

 

恐らく、全力の攻撃をするために意識を集中させているのだろう。どんどんカグツチの光が増していく。

 

【天の鼓動】で自らの輝きを最大限にしなければならなかったとはいえ、それをしてしまえばノーチャージで放てた先のカグツチの大技、【無尽光】。現在用意しているその技は、それを遥かに超えるのは間違いない。

 

だが、その間動けないというのであれば、好都合。その間好き勝手にやらせてもらおう。

 

俺は仲魔達に、カグツチの方へ集中砲火を浴びせるよう合図し、自らはカグツチがやっているよう大技の準備を行い始めた。

 

「【タルカジャ】」

 

俺は次々と自らに魔法をかけていく。

 

「【タルカジャ】」

 

それを唱える度、赤い光が俺の身を包み込み、力が増幅する。

 

「【タルカジャ】」

 

カジャ系魔法の重ね掛けは4度が限界。その4度で俺の攻撃力は2倍に膨れ上がる。

 

「【タルカジャ】‼」

 

だが、それだけではカグツチを葬るには圧倒的に足りない。俺は魔力をこめて、もう一つの補助魔法を掛けた。

 

【気合い】

 

「フウウウゥゥ……!」

 

一度だけ。一度だけだが攻撃力を2倍に一瞬で大きくする技、【気合い】。【タルカジャ】と合わせることで俺の攻撃力は実質4倍だ。

 

これなら、いけるッ!

 

俺は上半身を反らし、生命力と死の力を限界まで活性化させた。死の力がこの身体を蝕み、激痛が走るが無視する。

 

全身に黒いスパークが走る。自らのパワーで身体がガタガタ揺れるのを必死に押さえ込みながら俺は目で照準を合わせた。狙いはもちろん……カグツチ。

 

その時、カグツチが動き始めた。なんとパーツで構成された顔だけの全身を四分割させたのだ。

 

そしてその中央に存在するは、眩い輝きを放つ光の玉だった。

 

ドクン!と心臓が弾んだ。悪魔としてのこの身が、カグツチの光に興奮したのだ。だが今回はそれがあまりにも大きい。一瞬、心臓がはち切れるかと思ったぐらいだ。

 

原因は分かっている。カグツチは自らの輝きを最大限に高めているのだ。今頃地上の悪魔達は興奮のあまり、苦しんでいるだろう。

 

それほどのエネルギーを放ちながらカグツチが動く。それは奴の大技の完成以外に他ならない。

 

マズイ‼と反射的に思っても力を溜め、硬直している体は動かない。せめて相打ちにしようと技を放とうとしたその時だった。

 

カグツチはその中央に存在する光を炸裂させた。

 

【無尽無辺光】

 

カッ!!

 

凄まじいエネルギーの奔流が放たれ、一瞬で俺を飲み込んだ。

 

俺は為す術もなく光に晒され、暴虐とも言えるその光に全身を焼かれた。

 

「───────ッ‼」

 

全身を踊る狂う炎のように駆け巡る痛み。いや、これはもはや痛みなどと言えるだろうか。この熱は……この責め苦は。

 

これが……神の怒りか。

 

白く、吹き飛びかけた意識の中でぽつりとそう思い浮かんだ。これが、俺の復讐せんとした存在の末端の力。末端でも、マサカドゥスの防御を容易く貫く理不尽とも言えるその力に恐れ、震えた。

 

遠くで誰かが叫んでいる。ピクシーか?あいつも心配性だ。あの技の直撃は当たっていないだろうが、余波ぐらいは受けているだろうに。自分の心配をしろよ。

 

それに、まだ終わってなんかねぇ……!

 

【食いしばり】

 

「グウゥ……!」

 

歯を噛み砕かんばかりに食いしばり、離れかけた魂を、命を強引にこの身に押さえつけた。

 

俺は悪だ。アニメやマンガのように、仲間に助け起こされて復活するなんていうお涙頂戴な展開はいらねぇ。

 

この戦いは、復讐は……本来、俺のみで決着をつけるべきことだ。それを仲魔達は協力してくれている。それだけで満足するべきだ。

 

差し伸べる手は、もう要らない‼

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ!」

 

たとえこの手が引きちぎられようとも……

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ!」

 

たとえこの足がもがれようとも……

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ!」

 

たとえこの目を潰され、耳を潰されようとも!その結果どれだけ無様になろうともッ!

 

たった一人で、この呪われた道を歩み続ける‼それが俺の運命であり、存在理由だ‼‼‼

 

だから……だから……

 

「死ねェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッ‼‼‼‼‼」

 

全身から失せかけた、生命力と死の力を再びかき集め、俺は放った。千晶を殺した【至高の魔弾】。それを死の力によって昇華させた技を放った。

 

「【終焉光】ッ!!!!」

 

俺の目から放たれた絶対的な死をこめたその力。カグツチは防ごうとパーツを集結させるが、無駄だ。

 

神よりも、絶対的存在である死に触れたカグツチはその守りを容易く貫かれ、大穴を穿たれた。

 

カグツチはビクンッとパーツだけの身体を震わせたかと思うと、ついにその体を保持出来なくなったか、崩壊させ始めた。

 

「愚かな……」

 

だが、それでもカグツチは俺へ怨みの言葉を遺すのをやめなかった。聞くものを震えさせる声は、すでにノイズが走ったかのように不完全だが、それでもその声は世界を思うがまま操ってきた神の威を失ってなかった。

 

「闇に染まり、死に染まり、我が力を解放したとて何になろうか………」

 

カグツチが言葉を紡ぐ度、崩壊はどんどんと進んでいく。完全に崩落するまで時間はかかるまい。

 

「……心せよ。復讐の権化よ。我が消えても、お前が安息を迎えることはないのだ……最後の刻は確実に近づいている………全ての闇が裁かれる決戦の刻が……。その時には、お前のその身も、裁きの炎から逃れる術はないであろう……」

 

「恐れおののくがよいッ!お前は永遠に呪われる道を選んだのだッ!」

 

カグツチの最期の絶叫。大気を震わせ、威を含む叫びをあげる神に向けて俺は嗤った。

 

血にまみれ、朱に染まった顔をひん曲げて、音もなく、声もなく。ただただ、嗤った。

 

カグツチの命のない目から憤怒の火が見えた気がするが、現実はそれを行動にすることを許さなかった。死はカグツチの命を止め、崩した。

 

崩壊し、もはや見る影もなくなったカグツチ。世界の中心から次々とその身を崩していく。

 

そして、一際激しく閃光が迸り、カグツチは爆散した。

 

 

 


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