世界が違えば、常識が違うのは当たり前だろう。


===

ポケットモンスターSPECIALのORAS編始動直前に、RS編のBIGコミックが発売された――。

そのとき、ふと考えたのです。
「ポケスペRS編に『ORAS要素とアニメ要素を足して掛けて別作品のノリを加えて化学反応を起こした挙句、爆発させたような世界』から迷い込んだ奴を放り込んだら、一体どんなことになるんだろう」と。

ORAS編が進むたび、頭の片隅に引っかかっていたネタをどうしても形にしたくなりました。
このお話に出演するオリ主およびオリキャラは、作者が別の名前でPixivに投稿している小説に出てくる、同姓同名キャラの並行存在です。

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世界が違えば、常識が違うのは当たり前だろう。


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ポケットモンスターSPECIALのORAS編始動直前に、RS編のBIGコミックが発売された――。

そのとき、ふと考えたのです。
「ポケスペRS編に『ORAS要素とアニメ要素を足して掛けて別作品のノリを加えて化学反応を起こした挙句、爆発させたような世界』から迷い込んだ奴を放り込んだら、一体どんなことになるんだろう」と。

ORAS編が進むたび、頭の片隅に引っかかっていたネタをどうしても形にしたくなりました。
このお話に出演するオリ主およびオリキャラは、作者が別の名前でPixivに投稿している小説に出てくる、同姓同名キャラの並行存在です。


Hello, insane! (...But,Fortunately,They are not aware)

 101番道路を抜けたボク――ルビーは、現在コトキタウンを目指していた。

 

 サファイアと名乗る、なまり全開の野獣少女から「80日間で互いの目標を達成する」という競争を持ちかけられたのは、丁度今から数時間前のことだった。サファイアはバトルに情熱を注ぐタイプであり、コンテストに情熱を燃やすボクとは正反対の人間である。ボクと彼女の主義主張は決定的に相容れない。

 80日間以内にホウエン地方のコンテストを全ランククリアすれば、彼女はボクの主張を認めるという。ボクはその挑戦に乗った。今日から80日後、すべてのコンテストリボンを集めて、101番道路にあるサファイアの秘密基地に戻って来る。今から2カ月と少し――時間はない。少しでも早く、先に進まなければ。

 

 

「っ!?」

 

 

 そんなことを考えていたら、目の前の草むらが消し飛び、そこからグラエナの群れが吹っ飛んできた。

 3匹のグラエナは、派手に地面に叩き付けられる。3匹はよろめきながらも立ち上がり、草むらの向こうにいた“何か”を威嚇する。

 逆光のせいか、グラエナが威嚇する先にいる『何か』の姿がよく見えない。――いや、逆光が原因ではなさそうだ。

 

 ボクがそのことに気づいたのとほぼ同時に、『何か』は凄まじい速さで飛び出す。ばちり、と、雷が爆ぜる音が響いた。

 

 

「――雷輝(ライキ)

 

 

 声がした。よく見れば、“何か”がいた先に人がいる。

 次の瞬間、派手な閃光がグラエナに襲い掛かった。

 

 

「“ボルテッカー”」

 

 

 光――いや、あれは電気だ。高威力を誇る電気を纏った『何か』/弾丸が、大地を抉り飛ばし、グラエナに襲い掛かる。3匹のグラエナは悲鳴を上げる間もなく、まとめてノックアウトされた。黒い煙がぶすぶすと漂う。ボクは思わず、攻撃の主に視線を向けた。

 黄色くて小柄なポケモンが、くるりとバック宙しながら地面に着地する。ボクはそのポケモンに見覚えがあった。国民的なポケモンとして人気者である黄色い電気ネズミ――ピカチュウだ。ボクが昔住んでいた町では、何度かその姿を目にしたことがある。

 雷輝(ライキ)と呼ばれたピカチュウ(しっぽが雷の形をしているため、性別はオスのようだ)は、何の感慨もなさそうに倒れ伏したグラエナを見つめている。いいや、あれは「見つめている」という表現よりも「見下している」という表現の方が似合っていた。

 

 ポケモンはトレーナーの影響を受けるものである、とは、どこかで聞いた言葉だった。ボクは今、その言葉が心理なのだと身をもって感じていた。グラエナを見るトレーナーの眼差しは、紛れもなく雷輝(ライキ)/ピカチュウの眼差しと同じだったからだ。

 

 武人。あるいは歴戦の勇者、もしくは大魔王。

 父さんと互角、いやそれ以上の殺気だ。

 その人物――ボクより年上の青年はグラエナたちを見下す。

 

 白い白衣に大きめの鞄。旅をすると言うより、研究するための用途にウエイトを置いた格好をしている。シャープでスマートな銀縁の眼鏡が、知的な印象を際立たせていた。眼鏡越しからの殺気を思い出し、ボクは思わず息を飲む。

 

 

「野生のグラエナ、か? 確認する前に片付けてしまったから、わからなかった」

 

 

 トレーナーの言葉が、どこかぴりぴりとした空気を纏って紡がれる。

 

 

「グラエナが野生で生息しているのは、カロスの15番道路という話を聞いていたが……分布図に変化が起こっているのか?」

 

 

 彼は考え込むようにして顎に手を当てた。

 どうやら、ボクの存在は眼中にないらしい。

 

 

「『忌々しいエコテロリストどもが起こしたゲンシカイキの一件で、ホウエンの生態系ががらりと変化した』という話は聞いていたが、『101番道路でグラエナが発見された』という話は一度も聞いたことがない。これは再調査の必要性あり、か」

 

 

 彼はそこで言葉を切ったが、思考回路を切り替えただけにすぎなかったようだ。すぐにまた、別なことを呟き始める。

 

 

「まあ、ホウエンもなかなかの魔境だからな。『103番道路に出てきたレベル15のアメタマがドロポンを覚えていた』り、『105番道路に出てきたレベル15のスバメがブレバやゴッドバードで襲い掛かってきた』りする、なかなか怖いトコだ。こういう例もなきしにもあらず、か。まったく、フーパも変な場所に人を落としやがって。よりにもよってホウエンか……」

 

 

 何を言っているのか、ボクにはさっぱり理解できない。どろぽん? ぶれば? 何かの呪文か?

 ……彼は何か、変な神様でも信じているのだろうか。不安になる。

 次の瞬間、彼とボクの目が合った。そこではじめて、彼はボクの存在に気づいたらしい。

 

 大きく目を見開いて、ゆっくりと瞬きを2回。「あ」と、一歩遅れて間抜けな声がした。

 

 

「……少年」

 

 

 関わってはいけない。ボクは咄嗟に逃げようとしたが、彼の声によって捕らわれてしまった。

 相手はボクを取って食う気などないのだろう。しかしながら、ボクの動きを封じるほどの覇気があった。

 

 

「ここは、101番道路の、どのあたりだ?」

 

「――え?」

 

「コトキタウンに行きたいんだ。不慮の事故で、意図せぬ場所に飛ばされてしまってな。そこから誰ともすれ違わなくて」

 

 

 「恥ずかしながら、この年で迷子なんだ」――困ったような顔をしてそう言った青年は、自分の置かれた状況を楽しんでいる節があった。ゆるく弧を描いた口元が、そう告げている。

 ボクは地図を指示した。後もう少し、この道を進めば、コトキタウンに到着する。目的地が一緒だということで、彼は嬉しそうに目を細めた。

 ボクとしても断る理由はないし、何より、先程のバトルの腕を見るに、戦闘関連はこの人に任せておけばいいだろう。ボクはあまり、戦う力を他人の目の前で使いたくはない。

 

 コトキタウンまででも構わないから、戦わなくて済む方がよかった。

 そんな下心を隠すようにして、ボクは笑った。

 

 

「せっかくですし、そこまで案内しますよ」

 

「ありがとう、少年。キミは、俺の命の恩人だ」

 

 

 命の恩人、なんて、大仰な例えをする人だ。ボクは内心ちょっと引きながらも、真摯に感謝の言葉をぶつける年上の男に笑い返した。今日1日だけでも、ボクは相当な善行を積んだように思う。さっきも、サファイアに服を仕立ててあげたためだ。

 

 サファイアはグラエナの群れに襲われたボクを庇って、背中に大けがを負った。その状態でハブネークを戦っていたのだ。恩義を感じるのは当然だし、それを返すのは当たり前だと言える。だからボクは、彼女のけがを治療した。

 数時間前のことを思い出していたとき、この場に沈黙が降りていることに気づいた。よく見れば、彼の視線はボクのポケモンたちに釘付けになっている。先程の発言といい、この人はどうかしてしまったのだろうか。

 

 

「あ、あの……」

 

「かわいい」

 

 

 今、この人は何を言ったのだろう。

 ボクの思考回路が凍り付いた。

 彼はもう一度、「かわいい」と繰り返す。

 

 

「キミのエネコ、かわいいな。かわいいは正義だ、異論は認めない」

 

 

 気のせいでなければ、彼の瞳が一際明るく輝いているように見えた。真夏の深緑を思わせるような生命力にあふれた瞳が、ボクのCOCOをガン見している。ボクが二の句を継ぐ前に、その眼差しがボクに向けられた。

 

 

「しかも、このかわいさは並大抵のポケモンが持ち得るものではない。研ぎ澄まされ、洗練されたものだ」

 

 

 「この子は何か、特別なことをしているのか?」と、彼は何かを確かめるようにボクを見た。ボクは一瞬面食らってしまったけど、彼の問いかけを正しく理解し、頷き返す。そう、ボクのCOCOはかわいさ部門のコンテストを担当しているのだ。

 ジョウト地方で行われたかわいさコンテストの覇者であり、ホウエンのかわいさコンテストを制覇する予定のCOCOに対して「かわいい」という感想は、文字通り最高の褒め言葉だ。父さん以上にバトルジャンキーな人かと思ったが、審美眼も兼ね備えている。

 

 

「COCOは、コンテストのかわいさ部門を担当しているポケモンなんです」

 

「そうか。キミはコーディネーターなのか」

 

「こーでぃねーたー?」

 

「? 知らないのか? ポケモンコンテストやミュージカルに情熱を注ぐトレーナーは総じてそう呼ばれるものだが。特に優れた者はグランドマスターと呼ばれ、すべてのコーディネーターから羨望の眼差しを向けられる」

 

 

 聞きなれぬ単語に首を傾げたボクに対して、彼は目を丸くした。彼の語り口調からして、コーディネーターという単語は一般常識の1つにすぎないらしい。

 ボクはジョウト地方の都会生まれだけど、コンテストに関わるポケモントレーナーのことをコーディネーターとは言わない。むしろ、そんな単語があったこと自体初めて知った。

 「キミはコーディネーターの卵なんだな」と、彼は言った。深緑の瞳がすっと細められる。まるで、何かを値踏みするような目だ。彼は少し驚いたように目を丸くした後、どこかうっとりとしたように表情を緩めた。

 

 例えるならそれは、骨董品店で本物のお宝を見つけたみたいな。磨けば光る原石を見つけたみたいな、そんな眼差し。

 

 

「その眼差し、いいな。見ていてゾクゾクする」

 

「え?」

 

「獣の目だ。華やかな世界で、栄光を狙う美しき獣。ポケモンの魅力を最大限に引き出すことに情熱を注ぐ、コーディネーターの目をしている」

 

 

 形容しがたい空気が漂う。いつの間にか、ボクはそれに飲み込まれていた。

 空気を発している張本人は、水面を思わせるくらい澄み渡った瞳でボクを見る。

 

 

「少年。俺は、それ程までの情熱をコンテストに注ぐキミを尊敬する。ポケモンの魅力を引き出し、バトルとは違う方向からポケモンの持つ躍動感を引き出そうとするキミは、紛れもない挑戦者だ。拙い上に陳腐、且つありきたりで大変申し訳ないのだが、俺はそんなキミを称賛するよ。キミは素晴らしいポケモントレーナー、いいや、コーディネーターだ。誇っていい」

 

 

 彼は立石に水の如く言葉を話す。見た目は完全に真顔/もしくは無表情だが、彼の声と瞳はボクに強く訴えている。色々言っているけど、重要なことはただ1つだ。彼は、ポケモンコンテスト制覇に挑むボクを肯定し、褒めちぎっている。

 意外だ。バトルに特化した人間は、みんなコンテストを馬鹿にする。もしくは認めようとしない。ボクの周りの人間――父さんやサファイア――は、そんな人たちばかりだった。というか、この人ボクより年上じゃないのか。

 年上から称賛の言葉をかけられるというのは嬉しいものだけど、反対の立場に立ったらどうなのだろう。余程のことがない限り、才能ある年下を素直に称賛できるかと問われたら、難しいところだ。ボクはまだ、そんな経験していないけど。

 

 ボクがそんなことを考えたのが癪に障ったのか、彼はむっとしたように眉をひそめた。「職業柄、人と話す機会が多いからな。人を見る目は、それなりに養ってきたつもりだ」――彼はそう言った。彼自身は「それなり」だと言うけれど、あれは完全に謙遜だろう。様子から見るに、彼は己の目に絶対的な自信を持っているらしい。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 称賛されたことに対しての例を口にする。あそこまで褒めちぎられたのは初めてだ。肯定されたのも初めてだ。

 今なら天狗になっても、誰も文句言わないだろう。ちょっとだけ、ボクは生意気にも粋がってみる。

 

 彼はふっと表情を緩め、納得したように顎に手を当てて微笑んだ。

 

 

「ああ、なんて幸運だ。俺の命の恩人が、こんなにも才能あふれたコーディネーターの卵だったとは。命の恩人であるキミに、何か礼をしたいと思っていたんだが……」

 

「いいえ、ボクは大したことしていませんよ」

 

「――決めた。キミのスポンサーになる」

 

 

 Huh(えっ)? What did you say(なんだって)?

 この人、今、なんか凄いこと言わなかったか?

 凍り付くボクの手をつかみ、彼は頷く。

 

 

「キミはこのまま、コンテスト制覇のための旅を続けるのだろう。ならば、俺を同行させてくれないか。というかさせてくれ。俺はキミに恩返しがしたい」

 

「え、えっと」

 

「勿論、ただ同行するだけではないさ。俺はスポンサーだからな。資金面での援助、旅をする際のサポート、ポケモンバトル関連、なんでもこなさせてもらおう。悪い話ではないと思うが」

 

 

 彼はこれでもない程、いい笑顔を浮かべていた。質問の体を取っているが、有無を言わさない感が強い。しかもタチが悪いことに、彼の提示する条件はボクにとって破格のものである。

 ボクが得することはあれど、彼が得することは何もない。明らかにボクだけが優位な条件だ。交渉というものは対等な立場でするのが普通ではないのか。彼はボクの言葉を察したのか、付け加えるようにして言った。

 「自分が『いい』と思ったものには、出資を惜しまないタイプだ」――成程。ボクとボクのポケモンたちは、幸い(?)なことに彼のお眼鏡にかなったということらしい。

 

 それに、先程の戦いで目にした実力を思い返す。3匹のグラエナを相手に、雷輝(ライキ)は圧勝して見せた。

 あれ程までの実力者が同行してくれるというのは、色々な意味で心強い。ボクは頷いた。

 

 

「ところで、貴方の名前は?」

 

「リーフェウス。リーフェウス・ヴァルハラだ。友人たちからはリースと呼ばれている」

 

「リースさん、ですね。ボクはルビーと言います」

 

「ルビー……」

 

 

 彼――リーフェウス/リースさんは、目を丸くした。

 

 

「キミの名前は、宝石から取ったのか」

 

「ええ。ボクの誕生石もルビーなんです」

 

「7月生まれのルビーくん、か……」

 

 

 ボクの名前はそんなに珍しいものだろうか。ボクが目を瞬かせると、リースさんはしどろもどろになりながら「人の名前に宝石の名前が使われているという例は初めてだったから、驚いてしまってな」と取り繕った。ボクからしてみると、リースさんの本名も珍しいと思う。外国――イッシュ地方やカロス地方の人名に近いからだ。

 

 

「リースさんは、外国からホウエン(ここ)に来たんですか?」

 

「いや、出身はカントーのマサラタウンだ。先祖の片方はイッシュの研究関連、もう片方はカロス地方の豪族でな。その系譜を継いだ次男坊が、御家騒動を避けるために財産を持って根を下ろしたのがマサラタウンというわけだ。以後、その子孫がマサラタウンに居ついて、有力な資産家兼研究者家系として発展してきたというわけだな」

 

「す、すごい家系ですね……」

 

「ああ。金なら腐るほどあるぞ。――最も、それは研究資金と後任の育成および人材発掘のための投資として使っているがな。何分、俺が1つ論文を書くと莫大な利益が発生するから、スパイラルフィーバー状態なのだが」

 

 

 父さんの都合でホウエンに引っ越してきたボクなんかでは比べ物にならない家系だ。ついでに、とんでもなくお金持ちらしい。研究者ってそんなに儲かるものなのだろうか。専門外のため、ボクでは一切わからない。

 ああ、お金持ちだから、ちょっとついていけないのだ。ボクはリースさんとは違い、一般家庭の出である。父さんがジムリーダーというだけでボクを特別視する人たちは多いけど、上には上がいるのだなあと感じた。

 世間話をしているうちに、どうやらコトキタウンが見えてきた。急ぎの旅をしている訳だから、少しでも先に進んでおきたい。特に、次の町であるトウカシティには長居したくないのだ。あそこには、父さんがいる。

 

 ボクとリースさんは、町へ向かって進む足を速めた。

 コトキタウンは、もうすぐそこだ。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

「こ、これは……なかなかの問題児だなぁ」

 

 

 ボクは深々とため息をつきながら、水色のポケモン――ミズゴロウと睨めっこした。第一印象としては、「ビジュアルもイマイチ、ぎりぎりたくましさ部門でいけるのではないか」と言ったところだ。本当に微妙なところである。

 先程の歩き(ウォーキング)でも酷い有様だった。かわいくも違う、かっこよくも違う、かしこくも違う。木々の動きを参考にしたら、頭のヒレをゆらゆらさせていた。なんだかもっと酷かった。頭を抱えたくなるレベルだ。

 

 ボクのプロデュースでもこの有様なんて。大抵のポケモンはElegantに変身できると自負していたため、ミズゴロウのような壁とぶち当たったのは初めてなのだ。

 

 

「正直、どの部門でも微妙なんだよなぁ」

 

 

 はあ、とボクはため息をついた。不意に肩を叩かれる。

 振り返れば、もの凄く真面目な顔をしたリースさんがいた。

 

 

「少年。その言葉を俺の後輩に言ったら、真っ先にZAPられるぞ」

 

「ざぷ? 何ですかそれ?」

 

「ああ、すまない。つい身内でしか通じない言葉を使ってしまったな。……まあ、端的に言えば『亡き者にされる』という意味だ」

 

 

 なにそれこわい。

 

 ボクは恐怖で戦いた。ミズゴロウの扱いを悪くしただけで命を失うなんて洒落にならない。

 しかし、リースさんの後輩はそれだけでは終わらなかったようだ。彼は言葉を続ける。

 

 

「その子はミズゴロウが大好きでな。ミズゴロウ好きが高じた挙句、ミズゴロウでコンテスト全部門制覇を成し遂げてしまった程だ」

 

「い、1匹で全部門制覇だって!?」

 

「しかもそれだけじゃ終わらないぞ。リーグでも殿堂入りしたし、バトルに関する各種施設でも勝ち抜きを果たし、その記念のリボンを身につけている。おまけに100万円のリボンを購入して、ミズゴロウにつけてあげた程だ。最後は、ミズゴロウ教の教祖になっていたな」

 

Argh(なんてこった)……!!」

 

 

 リースさんも変な言葉(例.けんまい、トリル、確1、乱1)を使うから、変な神様でも信仰しているんじゃないかと不安だった。でも、リースさんの後輩も相当なものである。ミズゴロウは神様ではないはずだが、どうしてそんな宗教が爆誕してしまったのか。

 ボクは気になって訊ねてみた。「もしも本人が目の前にいたら、ボクはどんなことになっていたのか」と。「一番いい状態でどうなるのか」と。答えは――「洗脳されるだろうな。おめでとう、立派なミズゴロウ信者の誕生だ」――うん、聞きたくなんかなかった。

 他にも、リースさんの知る限りでは沢山の宗教があるそうだ。その狂信者はみんな、ミズゴロウ教教祖と同じことを成し遂げようとするそうだ。流石のボクでも到達できない境地にある。「俺もそこまでば――……いや、突き詰められん」とリースさんは言った。

 

 ばの次に何が出てくるか、ボクには大体予想がついた。ミズゴロウ教の教祖はこの場にいないと理解もしていた。でも、その言葉を口に出すのだけは、どうしても憚られたのだ。

 もしこの場にリースさんの後輩がいたら、ミズゴロウをどのようにプロデュースするのだろう。教祖になっているくらいだから、ビジュアルの不利をひっくりかえすような手腕を見せるはずだ。

 

 ボクも負けてはいられない。ボクはミズゴロウに向き直り、ウォーキング練習を再会しようとした。

 

 

「ほら、この葉っぱの動きを参考にして。葉っぱの……」

 

 

 あれ? 違和感を感じて横を見れば、大きな蛾のようなポケモンが、怒りに満ちた表情で羽をはばたかせていた。

 思わずボクは悲鳴を上げた。蛾のようなポケモンはボクたちを敵とみなしたようで、徒党を組んで襲い掛かってきた!

 

 

「う、うわああ!?」

 

 

 いくらなんでも、6匹同時に相手をするなんて不可能だ。ボクは思わず逃げ出していた。後に続いて、リースさんも続く。リースさんはポケモンをくり出すことをせず、ボクと同じ方向に逃げていた。

 人前では戦いたくない。でも、このまま逃げていては埒が明かない。考えあぐねていたとき、突然リースさんが足を止めた。そうして何かを取り出すと、ボールを構えて駆け抜ける。次の瞬間、6匹中5匹がリースさんの方に群がっていった。

 残りの1匹はボクに狙いを定めていた。おそらく、ボクが羽を掴んでしまった個体だろう。リースさんがいなくなったことで、この場にはボクしかいない。ならば、何の気兼ねなく、安心して戦うことができそうだ。

 

 まずは、あのポケモンの対策を練らなくては。そうこうしている間に、僕のすぐ後ろを走っていたCOCO、NANA、RURUが蛾のようなポケモンがばら撒いた粉を浴びてしまう。ものの数秒で、3匹は地面に倒れた。

 腰に入っていたポケモン図鑑が示したのは、毒蛾ポケモンのドクゲイル。羽からばら撒かれる鱗粉は、プロレスラーが寝込むほどの猛毒を有している。ならば、3匹が倒れるのも当然だ。ボクは慌てて彼女たちをボールに戻し、ミズゴロウを回収する。

 

 素早いドクゲイルの猛攻に晒されたけど、寸でのところで、ミズゴロウがボクの肩へと飛び乗った。躊躇うことなく、彼は“みずでっぽう”を撃ち放つ。真正面から撃ち込まれた一撃に耐え切れなかったようで、ドクゲイルは地面に倒れ伏した。

 

 

「どうやって、あれだけ素早い相手を見つけることができたんだい?」

 

 

 ボクの問いに、ミズゴロウはぱたぱたとヒレを動かした。図鑑を確認する。どうやらミズゴロウのヒレは、ドクゲイルの触覚同様、性能のいいレーダーだったらしい。

 ミズゴロウは誇らしげに微笑んだ。ズズ、と、鼻水を啜る音がする。この子のニックネームはZUZUだ。ボクはZUZUの名前を呼ぶ。のんきなように見えて鋭い一面も持ち合わせるこの子が、ポケモンコンテストを勝ち進む姿を想像してみる。ああ、なんて痛快だろう。

 

 

「今日から一緒に頑張ろう!」

 

 

 ボクの言葉に、ZUZUは嬉しそうに頷いた。

 

 ボクの方を追いかけてきたドクゲイルは倒したけれど、リースさんたちはどうしたんだろう。彼を探そうと周囲を見回して、ボクは一点に釘付けになった。

 グラエナのときは電気が爆ぜていたけれど、今度は辺り一面水浸しだった。甲羅に大砲を背負った亀のようなポケモンが、ドクゲイルの群れを見下している。

 威風堂々たる立ち姿だ。リースさんの隣に佇むその様子に、彼とポケモンの間にある繋がりがどれ程強固であるかが伝わってくる。ボクはごくりと息を飲んだ。

 

 

「“なみのり”確1による同時撃破。別に努力値割り振るわけじゃないし、育成してるわけでもないんだけどな」

 

 

 「あまいミツでも釣れるのは5匹だけか。そこら辺は群れバトルと変わらないな」と、リースさんは納得したように頷いた。彼の手には、何かの瓶が握られている。

 心なしか、どことなく甘い香りが漂っているように思った。あの瓶の中にミツが入っていたのだろうか。それを肯定するように、リースさんは瓶の中身を見せてくれた。

 

 ボクは瓶の中に指を突っ込んでみる。ミツがとろりと糸を引く。舐めれば、とろけるような甘さが広がった。おいしい。ZUZUもぺろぺろとミツを舐めた。ポケモンたちは、このミツを好む傾向があるようだ。

 

 ボクたちがミツに舌鼓を打っている間に、リースさんが薬を使ってCOCOたちを治療してくれたようだ。ドクゲイルの鱗粉でノックアウトされた3匹も、今ではぴんぴんしている。元気になってくれて本当に良かった。

 ドクゲイルを一網打尽にしたポケモンはカメックスというらしい。らしい、というのは、ポケモン図鑑が一切反応しなかったためだ。このポケモン図鑑は、ホウエン地方に生息するポケモンでないと反応しないのだという。

 

 

「俺も、多少ポケモン図鑑(それ)と関わりがある人間でな。おそらくその図鑑は、全国版が搭載されていないんだろう。アップデートに期待だな」

 

「この図鑑、まだまだパワーアップするんだ……」

 

 

 ボクは大きく息を吐きながら、ポケモン図鑑と睨めっこする。ボクの図鑑とリースさんの図鑑は形も機能も全然違っていた。

 いつか、ボクの持つ図鑑が全国版に対応する日が来るのかもしれない。そのときは、Beautifulなポケモンについて調べてみたいものだ。

 

 

静流(シズル)、お疲れさん」

 

 

 リースさんはとても優しい声で、カメックス/静流(シズル)の頭を撫でた。静流(シズル)も嬉しそうに目を細め、リースさんのされるがままになっている。すると、リースさんはどこからともなくお菓子を取り出した。

 ポケモンのコンディションを整えるお菓子――ポロックとは違い、マカロンとよく似た菓子だ。何も乗っていないシンプルなものから、様々な飾りでデコレーションされたものまであった。リースさんはそのお菓子を静流(シズル)に食べさせる。

 「そのお菓子は何ですか?」とボクが訊ねると、彼は目を丸くした。常識知らずを見るような眼差しを向けられたのは心外だったけど、彼はきちんと説明してくれた。このお菓子はポフレといって、カロス地方のミアレシティ発祥のお菓子らしい。

 

 カロス地方のミアレシティといえば、世界の流行の最先端を行く都会だ。ボクが以前住んでいた町や引っ越してきたミシロタウンとは比べ物にならない。

 

 

「洗練された都会のお菓子とくれば、Beautifulなのも頷ける」

 

 

 COCO、NANA、RURU、ZUZUにポフレを食べさせながら、ボクはお菓子をまじまじと眺めていた。カロス地方にはポケモンコンテストはない。でも、服飾系や芸術系の仕事を専門にしている人間が目指す聖地でもある。ボクも、洋裁に携わる人間として、いつかカロス地方/特にミアレシティには足を運びたい。

 

 

 

「俺の弟子もカロスにいるんだ。今じゃあ立派なミアレっ子になってるよ」

 

「リースさん、弟子がいるんですか?」

 

 

 ボクの問いに、リースさんは少し照れた様子で「ああ」と頷く。どうやら本人もまた、自分が弟子を取るような人間になるなんて思っていなかったみたいだ。

 どうやらリースさんにも師匠に当たる人がいたらしい。ただ、そのお師匠さんは、彼の故郷で蠢く悪意によって命を落としたのだという。それ以上の話を聞くのは、ボクにはできなかった。

 話を続けようとしたリースさんの言葉を遮り、ボクは話題を逸らす。ジョウトで行われたポケモンコンテストの話、カタブツな父親との軋轢と愚痴――

 

 

「いいなあ。少年は親子喧嘩し放題なのか」

 

「え?」

 

「俺はもう親子喧嘩できないんだ。父さんも母さんも、もういないから」

 

「っ、すみません! なんか不謹慎なことを……」

 

 

 なんてことだ。彼の周辺には地雷しかないのか。

 ボクは慌てた謝ったけど、リースさんはさほど気にしていないらしい。

 気まずくなるボクを救うかのように、町の看板が見えてくる。

 

 いや、それは救いなんかじゃない。この町に長居するとまずい事態になる。――トウカシティのジムリーダーが、ボクの父親なのだから。

 

 

 

 約束の日まで、残り80日。

 ボクたちの旅は、まだまだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

<><><><>

 

 

 

 

 

 

 

 

「この地方にやって来るのも、久しぶりだな」

 

 

 俺――リーフェウス・ヴァルハラはそう言って、周囲を見渡した。

 

 白衣と眼鏡と大きな鞄――俺が身に纏っている服装は、第3者が見たら十中八九「研究職の人間」だと思うだろう。しかし、研究者というのもまた、俺が持ちうる肩書の1つに過ぎない。

 ポケモン教会の(裏)ボス、カントーおよびジョウリーグの元チャンピオン、影の監査員。すべてを兼任しているため、俺の仕事は極めてハードである。特にポケモン教会は、俺を過労死させる気満々だ。

 あまりにも煩い会長に「あんたが夜な夜な風俗とキャバクラで遊んでることを奥さんにバラすぞ」と頼みながら、嘆願書(しょうこしゃしん)を送りつけたら沈黙してくれた。効果は抜群だ。

 

 故に、ポケモン教会から押し付けられる面倒事からは完全に開放されている。

 今回は、研究関係と私用に時間を分けることができるのだ。

 

 

「まずは、オダマキ博士に挨拶しなくてはいけませんね」

 

 

 金髪の髪を三つ編みに結んだ女性――ヒノン・ヴァルハラは、俺たちの予定を確認する。その横顔は、どこか嬉しそうであった。それもそうだろう。私用というのは、俺と彼女の旅行(やり直し)である。

 以前このホウエンに来たときは、ごたごたに巻き込まれて旅行どころではなかった。1回目はエコテロリスト――マグマ団とアクア団の大暴走によって超古代ポケモンがゲンシカイキして世界滅亡一歩手前だったし、2回目もやっぱり世界滅亡一歩手前だった。

 後者はシシコ座流星群を見ることはできたけど、他には何もできなかったように思う。数日後に、カロス地方の学会を控えていたためだ。恩師の敵を取るための強行軍もアレだったが、ホウエン一周旅行(中断および失敗)の強行軍もなかなか酷かった。

 

 そんなことを考えているうちに、ミシロタウンが近づいてきた。――そのときである。耳をつんざくような大声が響いてきたのは。

 

 

「た、助けてくれぇぇぇぇッ!」

 

「野郎、ぶっ殺してやる!」

 

「! オダマキ博士とセンリさんの声ですね」

 

「センリさんの台詞で、何が起きてるかは大体予想つくけどな」

 

 

 ヒノンも俺も、特に切羽詰ることなく。声が聞こえてきた方向へ視線を向ける。悲鳴に等しい叫び声を耳にしても動じないのは何故か、疑問に思う人間だっているかもしれない。

 声が聞こえた方角へ向かえば、すぐに開けた場所に出た。そこでは、オダマキ博士とセンリさんが追いかけっこをしていた。オダマキ博士は後ろを振り返らないし、センリさんに至っては怒りで我を忘れていて前しか見ていない。

 

 男2人が追いかけっこしている横で、スーツ姿の男――ツワブキ ダイゴが荒い呼吸を繰り返していた。彼は、センリが自分の存在にいつ気づくか心配しつつも体を休めている。俺の予想は的中していたようだ。

 

 

「よう、スティーブン。未だにセンリさんに殺されそうになってるのか?」

 

「その名前で呼ぶな。ちょっと恥ずかしいんだから」

 

 

 ダイゴはぎろりと俺を睨む。息が荒すぎるのも相まって、全然貫禄がない。

 リーグで挑戦者を迎え撃つような風格もなければ、大人としての落ち着きも見当たらなかった。

 

 スティーブンというのは、こいつの2つ名――揺るがぬ鋼のいしをもつ男(スティーブン・ストーン)から取っている。俺の師匠がコイツにつけたものだ。ダイゴ本人はこの2つ名を非常に恥ずかしがっていたのだが、ホウエンリーグを制覇したときに自らそう名乗ったらしい。そのことを指摘したら、ヤツは無言のままそっぽを向いた。

 懐かしい。10代の俺は、家族が亡くなった際に当主を叔父に乗っ取られ追放されたことでスレていた。そんな俺を真人間に戻してくれたのが俺の師匠――ジュドー・フォルトゥナートとその家族、当時イッシュのカノコタウンに立ち寄っていたダイゴとシロナである。この面子とのふれあいがなければ、俺はここにいなかったかもしれない。

 俺とダイゴは同い歳で、シロナは俺たちより1つ年上だった。精神年齢は真逆であったが、互いが互いを振り回して遊ぶような関係性だったと思っている。ダイゴに言わせると「僕は振り回されるためだけに存在するような係だった」らしい。シロナが振り回す専門だというのは同意する。俺もまた、振り回されたクチだからだ。閑話休題。

 

 

「この前も、『毒ポケモンの鱗粉やヘドロが混入した茶を振る舞われて「俺の淹れた茶が飲めないのか」とハラスメントされた』ばかりなのに……」

 

「それもうハラスメントじゃねーよ。確実にお前を殺しにかかってるよ。さっきの宣言通りだよ」

 

「これ、手ェ出したら確実に抹殺されるよね」

 

「物理と社会共々な。でも安心しろ。恋人(ハルカちゃん)の手すら握れないお前がそれを果たすのはきっとウン十年後だ」

 

「黙れ10代結婚」

 

「喚くな24歳ダメオ」

 

 

 顔を合わせるたびにこんな感じである。慣れたものだ。

 

 センリさんはダイゴのことを毛嫌いしていた。理由は簡単、奴がハルカちゃん――俺の後輩であり、センリさんの愛娘である――の恋人だからだ。顔を見ると「反射的にケッキングを繰り出して“ギガインパクト”を指示する」程の憎しみを抱かれているようだ。

 片方は中堅ジムリーダー、片方は(代行とはいえ元)ホウエンチャンプだ。後者に軍配が上がる可能性の方が圧倒的に高い。しかし、父親としての諸々の感情が、センリの強さをダイゴと互角になるまで引き上げるのである。親馬鹿ここに極まれり、と言ったところか。

 

 「石に対して某釣りキチ並みの執着を見せる」ダイゴの彼女が、「奴より9歳年下のミズゴロウ教教祖」だなんて、一体誰が予想できただろう。

 満場一致のロリコンコールが響き渡ったのも「今は昔」になりつつある。因みに、ヤツとハルカちゃんの交際期間は2年目に突入した。

 

 

「ところで、このやり取りはどれくらい続いているんですか?」

 

「そろそろ30分になるね」

 

 

 ヒノンの問いに、ダイゴはあっけらかんとした様子で答えた。

 さして興味なさそうな様子である。専ら、センリがいつ正気に戻るかを気にしているようだった。

 センリが一度ああなってしまえば、あれを止められるのはハルカちゃんくらいのものだ。

 

 下手に第3者が手を出してもいいことはない。ソースは俺自身の実体験である。救世主のハルカちゃんがいつ来るか――答えは、ダイゴが知っているであろう。

 ヤツがこの道路にいるのは、ミシロタウン近辺でハルカちゃんと会う約束していたからに相違ないのだ。ダイゴは俺の意図を察したのだろう。こちらを向くことなく「あと15分くらい」と返した。

 

 

「おーい、そこの人ー! 助けておくれーっ!」

 

「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……!!」

 

 

 相変わらずオダマキ博士はセンリさんのことを凶暴な野生ポケモンだと勘違いしているままだし、センリさんもオダマキ博士のことを憎いダイゴだと信じて疑わない。珍妙な追いかけっこが発生している。

 

 

「……そういや博士、自分の嫁さんも分からなくなってたよな」

 

「ああ、ポケモンと見間違えたって笑ってましたね」

 

「そうなの!? どう考えても笑い事じゃないだろ!!?」

 

 

 オダマキ博士の笑い話を思い出した俺とヒノンに対し、ダイゴは思わず目を剥いてツッコミを入れた。

 しかし残念ながら、そのツッコミを受けるべき相手であるオダマキ博士は、ダイゴのツッコミなど聞こえちゃいない。

 

 

 救世主到着まで、あと15分。

 

 

 

*

 

 

 

 

 さて、俺がホウエン地方にやって来た理由――研究関連の方を説明しよう。ゲンシカイキの一件で生態系が様変わりしてしまったホウエン各地で、ここ最近、不思議な輪っかが出現しているという。

 輪っかは『ここではないどこか』へと繋がっており、「手を突っ込んでみたら、元いた場所とは別の場所に出た」という報告が挙がっている。出口に指定はないようで、予期せぬ場所へ飛ばされてしまうこともあるそうだ。

 例としては「日照りの岩戸の奥地で見かけた輪っかに手を突っ込んだら、ハードマウンテンの奥地に出た」、「シーキンセツの甲板にあった輪っかに手を突っ込んだら、スズの塔最上階に突っ立っていた」等がある。

 

 

『今回の件と、先日シロナ女史が俺に送ってきた神話の資料から、この現象を紐解くヒントを見つけたわけです』

 

 

 俺はそう言いながら、オダマキ博士に資料を指示した。

 

 

『ディアルガ、パルキア、ギラティナが持つ『時空間を自在に操る力』を、1匹でなし得るポケモン。――それが、この現象の正体だと考えられます』

 

『そのポケモンの名前は?』

 

『古代人は、そのポケモンのことを『フーパ』と呼んでいたらしいです』

 

 

 見たことのないポケモン。分かっているのは、その存在と名前だけだ。砂漠で砂金を探す以上に難しい仕事であることは承知している。

 それでも、「オーキド ユキナリの後継者」である俺の研究者魂がうずくのだ。「そのポケモンの姿を是非とも拝んでみたい」と。

 

 

 

 

 俺が本物のフーパと遭遇し、その拍子に奴が展開した輪っかに突き落とされてしまったのは。

 このやり取りをしたわずか十数分後のことになろうとは――このときの俺は、一切予想していなかったのである。




スペRSとオリジナルORASの差異に注目すると、今後の展開の一部が予想つきます。続く予定は未定ですが。
とりあえず、スペセンリとスペダイゴに怪しいフラグ(流れ弾被害)が点灯中。


タイトル日本語訳
『こんにちわ、非常識! (……ですが、幸運なことに、彼らは気づいていません)』

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