デスペラードM ✕ G 終焉へ導く5人の風 作:BroBro
途中で『BGM』の単語が出てくると思いますが、そこは書いてあるBGMを流したらより楽しめるかも知れません。
私はモンスーン、ウィンズ・オブ・デストラクションの1人……
さあどうする?ジャック・ザ・リッパー!
土に帰る………時が…来た……
「……ここは……?……」
私の目の前に広がるのは木に囲まれた山の様な場所。
おかしい、私はさっきまで別の所にいたはずだ。確かあの場所は……
「あの場所とは何処だ?……私は一体誰なんだ?」
思い出せない。
自分が元いた場所どころか、私の名前さえも思い出せない。だが、体の動かし方や言葉などの基本的な事は覚えている。
それに加え、どうやら私はただの人間では無いようだ。
体に固定された、と言うより完璧に私の身体として起動している機械的な体。そして、その左肩の部分に彫られている『Desperado』の文字。
これが私の名前か?Desperado…確か無法者と言う意味だったか。私はこんな名前をぶら下げて生きていたのか?
だが、その答えを直ぐに否定する。私が腰に下げているウェストポーチを探ると、ネームタグの様な物が出てきた。
そこには『Monsoon』と書かれてある。Monsoonと言うのは季節風と言う意味だ。
他のウェストポーチのポケットを探しても名前らしき物は出てこないため、恐らくモンスーンと言うのが私の名前だろう。
いや、もし違っても私は今日からモンスーンだ。無法者より季節風の方が確実に良い。
「私の名前は分かった。だが、それ以外の情報が全く思い出せない……」
私の所在、私の経歴、私の身体の詳細、それら全てが今の私からすっぽりと抜けている。
今私に残されているのはこの身体とモンスーンと言う名前だけ。
いくら考えても思い出せない私の詳細に、私は頭が痛くなるのを感じた。
その時だった。
ドシュッッ!
何かが突き刺さる音が聞こえた。
私の体が勝手に動く。私の目の役割をしている部分が機械的な音を上げ、赤外線モードへと切り替わる。
何故こんな事が出来たのかと自分でも不思議だが、そんな事を言っている心の余裕は今の私には存在しない。
殺傷音が出た所を見る。すると山の麓の廃工場の様な場所に7つの生体反応が浮かび上がった。どれも人型だ。
体温が下がり、出血が酷いのか、鼓動が速くなっている生命体が1つ。それに寄り添う様にいるもう1人。そして、それを囲む様に熱を発する槍の様な物を持った5人がいる。
どうやら5人の敵に2人の負傷者が囲まれていると言う構図のようだ。
「…今の私には関係無いな」
今、私は記憶を見つける事が優先事項だ。誰かのいざこざに首を突っ込んでる暇は無い。
だが、ここで思う所もあった。
「……もしそこの奴等がここの情報を持ってるとしたら?それを聞き出したとしたら、私にとっては大きな1歩になるのではないか?」
私にはこの場所の情報さえも分からない。もしそこの2人を助けたとしたら、私に様々な情報を提示してくれるのではないか?
ならば助ける事も必要だろう。
それに……
「……どうも、気に食わんな」
恐らく私は腹が立っているのだろう。私は硬い拳を作っていた。
何が私を腹立たせるのか、それは恐らく私の過去に原因があるのだろう。
この感情が私の記憶探しの糧になればいいのだが、こんな曖昧な事では何もなりそうに無いな。
◇
屋根が所々抜け、鉄骨もボロボロに寂れた町の外れの廃工場。
この廃工場は数年前に見捨てられ、倒壊工事もされていない忘れ去られた工場だった。
その工場に、7人の人ならざる者がいた。
男5人に女2人。女の方は所々に切り傷や刺し傷があり、特に黒髪でロングヘアーで猫の様な耳が生えている少女は損傷が激しく、既に虫の息だ。
その少女に抱きつきながら涙を流す白髪の少女。その少女は黒髪の少女ほど怪我は少ないものの、針山を歩いて来たかの如く様々な箇所に刺し傷があった。
どっちも10歳にも満たない子供だ。
その少女達に、黒い羽根の生えた男達が近づく。
「来るなっ!!」
その行動に対し、黒髪の少女は大声を上げた。そして咳き込む少女。声を上げるだけで精一杯なのだ。
「…私達を…どうする気……?」
それでも一生懸命声を出す。その言葉に黒い男達、堕天使達は呆れながら答えた。
「そんな事俺は知らん。俺達はただ『猫又を捕まえて来い』と上から言われただけだ。俺達はそれに従ってるに過ぎない」
「そんな理由で…!」
「文句があるなら上に言ってくれ。まあ、その時は既に捕まってる時だがな!」
ドゴォッ!と言う大きな音が黒髪の少女の腹から聞こえた。5人の内の1人の堕天使が、黒髪の少女に蹴りを入れたのだ。
「ガハッッ………!!」
飛び出る息と血。その一撃を最後に、少女はぐったりと地に倒れた。
「おい、構わずソイツらを連れていくぞ。俺は速く帰りたいんだ」
「分かってる、俺だって速く帰りたいさ」
「じゃあ、とっとと連れて行くとしますかね」
男達が倒れている少女2人の髪を掴みあげる。黒髪の少女は「うぁっ……」とうめき声を出した。
「し、白音……」
黒髪の少女は白髪の少女の方に手を伸ばす。白髪の少女はどうやら掴まれた痛みで意識が飛んだらしく、耳を掴み上げられた兎の様にぐったりとしていた。
これで長年に続いた堕天使からの逃亡生活も終わり。
自分の親を殺され、妹と一緒にここまで生き延びてきた。
だが、それも今日呆気なく終わる。
悔しい。
苛立ちがつのる。
何もかもを奪った堕天使に。
何よりも、妹1人の守れなかった自分自身に。
悔しさに涙を流す。後悔に心が締め付けられる。
だが、今頃遅い。堕天使は容赦なく自分達を殺す。
自分と妹の未来を守れなかった黒髪の少女、『黒歌』は、希望を失いながら、自分の意識を闇に沈めて行った。
『殺戮のユートピアへようこそ!!』
あの声が聞こえるまでは……
◇
目の前の光景に私は思考が回らなかった。
死にかけの少女。その少女を1人の男が容赦なく蹴りあげる。
ドクンッ…
何処からか鼓動の音が大きく響く。
そうだ、この光景は前もどこかで見た。
目の前で殺されていく私と同じ年齢の子供たち。
ある者は首を切られ、ある者は水に沈められ、ある者は衰弱していく。
ドクンッ……
地獄。強制労働を強いられ、ろくな食べ物も与えられず、私の友人が次々と死んでいく。
ただの肉の塊と化したそれを地に埋める大人達。その口は、何故か笑っていた。
ドクン………
皆死ぬ事が楽に感じていた。
逃げ出す兆しを見せ、わざと殺される者。
働かず、拷問部屋で自ら死を選ぶ者。
その度に仲間が連れていかれる姿を黙って見ている。
ドクンッ…!
今、私の目の前に広がる光景はあの時と同じもの。
掴み上げられ、何処かへ連れて行かれる私の友人。《掴み上げられ、何処かへ連れていかれる少女達》
それをただ見守るしかなかった過去の私。《それを今見守っている現在の私》
運命に抗えなかった弱い私。《運命に抗う力を持つ新しい私》
ドックンッ!
だが、今の私は過去の私とは違う。
私には、独裁者に抗う力がある。強者に勝る技術がある。
私は
もうあんな思いはしない!
ドクン!!
私の視界が闇に染まった。
◇
BGM 『The Stains of Time』
「誰だ!?」
先程聞こえた男の声に、堕天使達は光の槍を構えながら周囲を見渡す。
黒歌と白音と呼ばれた者を掴んでいる男2人を真ん中にし、他の者が守る様な陣形をとっている。
男達は周囲に最大限の気を配らせていた。
「グガァァッ!!……」
だが、1番安全と思われていた男2人が首から鮮血を吹き出しながら倒れる。
「フハハハハハ……」
モンスーンの笑い声が廃工場に響き渡る。夜は堕天使の最高の時間帯であり、闇は堕天使の味方である。
にも関わらず、今はその闇のが恐ろしい。敵を包み隠し、こちらを的確に攻撃してくる闇の存在が。
照らせる物は自分達が持っている光の槍のみ。それを振り回し、周りを照らしだそうとする。
1人の堕天使が黒歌と白音の方を向く。
だが、殺された堕天使が放り出した筈の2人の姿は跡形も無くなっていた。
「おい!ガキ共がいないぞ!」
「なんだと!?あんな深手をおって逃げられるはずが無いだろう!」
混乱する堕天使達。誰1人としてまともな行動が出来ていなかった。
「探し物はこれか?」
不意に堕天使の物では無い声が会話に介入してくる。
それが聞こえた堕天使の内の1人は慌てて声がした方向に体を向けた。
だが、そこには黒歌と白音の姿も敵の姿も無く、あったのは視界いっぱいに迫った鉄柱だけだった。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
1人の堕天使の頭を貫く鉄柱。そして反対側の壁へと吹き飛んで行き、鉄柱と共に壁に突き刺さった。
ボトッと体が地に倒れる。
その体に頭はなかった。
「クッ……どこだ!?どこにいるんだ!?」
見えない恐怖に抗うように叫ぶ堕天使2人。その目は恐怖に震えていた。
「私を呼んだのか?」
その声を聞き、闇から姿を現すモンスーン。
モンスーンは体から紫色のオーラを纏っており、顔は額にあった紅いバイザーを口元まで下ろしており、唯一見えた顔の1部が見えなくなっている。
その姿は、堕天使を余計に恐怖させた変わりに、攻撃すべき対象が目の前に現れた事による安心感を生まれさせた。
「よくも仲間を殺ってくれたな!くたばりやがれ!!」
「死ねっ!クソ野郎!」
堕天使2人が光の槍をモンスーンに向けて投げる。
そのスピードは、常人ではとても目で追えるスピードではなかった。
向きは完璧。頭と胴体に大穴が空く事が簡単に予想できた。
現に、堕天使は勝利の笑みを作っていた。
だが、それが再び絶望へと変わるにはそれ程時間はかからなかった。
「バカなのか?」
光の槍が当たる瞬間、モンスーンの体が3つに分かれた。
それによって対象を見失った光の槍は壁にぶつかり霧散していく。
「な…何だと……」
驚愕に次ぐ言葉が出ない。モンスーンは分かれた体を何事もなかったこのように元の形に戻す。
「クソぉぉぉあぁぁぁ!!」
叫ぶ。そして大量の槍を生み出し、次々とそれをモンスーンに放って行く。
だが、それでもモンスーンには1つも当たらない。全ての攻撃を体を分解する事で躱していく。
その時、光の槍を投げていた者の1人がいきなり姿を消した。
いや、消えたのでは無い。潰れたのだ。
堕天使の1人がいた所には人を1人覆える程の大きな鉄骨があり、その下の隙間からドロドロと赤い液体が出てきていた。
「あ…あぁ、あ………」
恐怖に足の力が抜け、ペタンと尻を地につける。
「ふふふふふふふ…」
ゆらゆら動きながらゆっくりと最後の1人に近づいていくモンスーン。
男は既に戦意を喪失しているのか、動こうとする気配が無い。ただ目や鼻から液体を垂れ流し、必死にモンスーンに助けを乞うている。
「助けて……助けてくれぇ………!」
「……私は、貴様らがやろうとした事を、貴様にやるだけだ」
「何でもする!だから命だけは…!」
「お前はあの少女達が助けを乞うても助ける事はなかった。だから私はお前と同じ事をしてやろう」
「ガキ共の事は謝る!だから…命だけは………!」
ドスッ……
男の胸と頭にモンスーンの釵状の武器、『戦術釵(ディストスピア)』を突き刺す。
「貴様が死ぬのも、全て自然の摂理だ」
2つのディストスピアをそれぞれ別の方向へと力を入れる。男の首がブチブチと音を立てながら胴体から離れていき、首には胴体から抜けてきた背骨がぶら下がる。
その2つの肉の塊を、モンスーンは山の中へと投げ飛ばした。
「一体……何が…?」
その光景を見ていた黒歌は戦慄した。
自分達を襲った堕天使。その力は強大で、とても勝てる相手ではなかった。諦めが悪い黒歌が諦める程に。
だが、それを目の前の者はいとも簡単に殺した。
宙に浮く鉄柱、バラバラに分かれる男の体。様々な現実味の無い光景に、黒歌の頭はオーバーヒート寸前になっていた。
(そんな事を考えてる場合じゃない!速く逃げなきゃ、次は私達が殺される!)
ぶんぶんと頭を振り、白音の手を握る。そして歩きだそうと片足を前に出す。
「あっ……!」
だが、仙術と言う治療で塞がりかけていた足の刺し傷がまた広がり、黒歌は膝を地につけた。
「どうした?」
不意に聞こえてくるさっきの男の声。その声に黒歌は今出し得る最大限の殺意を出しながら振り返る。
「その怪我で歩こうとしているのか?無駄だ。その傷ではまともに歩く事も出来ないだろう」
だが、モンスーンは黒歌が警戒する様な言動はせず、寧ろ黒歌を気遣う様な言葉を出す。
黒歌は恐る恐るモンスーンに1つの問を聞いた。
「…貴方は、誰にゃ?」
モンスーンは、バイザーを上げると笑みを作り、こう言った。
「私か?私はモンスーン。ウィンズ・オブ・デストラクションと呼ばれた1人……」
それを言い残し、モンスーンは疲れ果てた様に前のめりで倒れた。
「え?」
廃工場に、黒歌の声だけが響き渡った。
モンスーンさんの役割はストーリー要素を強くする事です。
これから少しばかりモンスーンの過去編に入ります。ご了承ください、と言ってももう遅いのかな?
あと、視点がグルグル変わってすいません!