デスペラードM ✕ G 終焉へ導く5人の風 作:BroBro
天井に空いた穴から日の光がこぼれている。どうやら朝のようだ。
モンスーンは廃工場の製図室の様な場所で目を覚ました。どうやら簡易的なボロボロの布団で寝ていたようだ。
昨日の記憶が曖昧だ。なにか記憶が蘇った気がするが、その事すらも思い出せない。思い出されるのは昨日、自分が起こした殺戮の光景のみ。
体が誰かに操られた様に自然に動いた。目の前で自然に死んでいく男達。
普通に見たらとてもグロテスクで、精神に異常をきたしてもおかしくは無い。
それなのになにも感じなかった。寧ろ楽しかったほどだ。
完璧に殺戮を楽しんでいた。どうやら私の過去にはそれだけの事をする『何か』があったのだろう。
そんな事をモンスーンが考えている時、無意識に右側を見た。
「すぅ……すぅ……すぅ…」
そこには純白に輝く髪をした少女が寝ていた。
少女は毛布はかけているが布団は敷いておらず、床に直で寝ている。どうやら背中が痛いようで、偶に「うぅん…」と小さい唸り声を上げながら寝返りを繰り返す。
(……誰だ?)
誰か分からない少女が自分の隣にいる。その事実にモンスーンはその場から動けなくなった。
モンスーンは堕天使を殺している時の光景しか覚えていなく、白い髪の少女、白音の事を全くと言っていいほど忘れていた。
「気がついたかにゃ?」
突然モンスーンの背後から声が聞こえた。その声に反応してモンスーンは後ろを振り向く。
「誰だ?」
そこには黒髪の10歳くらいの少女、黒歌がしゃがみ込みモンスーンを見ていた。その姿をモンスーンは見覚えがある気がした。
「そう言えばまだ自己紹介してなかったにゃ。私は黒歌、そして貴方の隣で寝ているが私の妹の白音にゃ」
自分の名前と一緒に白音の名前もモンスーンに告げる。
「私は、何故こんな所にいるのだ?」
「え?貴方昨日の事を覚えて無いの?」
「済まないが、私は昨日の事は少ししか覚えていない。それに加え、私は昨日より前の記憶を全く思い出せないのだ」
「その割には言葉とかは話せるみたいにゃ」
「日常生活に必要な事は体が覚えている」
面倒な事になった、と黒歌は思った。
自分達を助けてくれた人が何故か記憶喪失で、しかも明らかに人間ではなく、悪魔でも堕天使でも無い。
だからって妖怪が出す『妖気』と呼ばれる妖怪特有の気配を出している訳でも無い。
機械的な体でも会話ができている所から、恐らく只の機械では無いのだろう。
ならこの人は何者?何故記憶が無いのに私達を助けてくれたの?何故戦えたの?と、様々な疑問が黒歌の頭の中を飛び交う。
「…少しいいか?」
「…ん?なに?」
モンスーンの問いかけ。
「私がこの状態に至るまでの経歴を説明して欲しい」
「いいけど、私は貴方の事は殆ど知らないにゃ」
「知っている所までで構わない。私がお前達に何をしたか、どう言う状況だったのかだけでいい」
「……分かったにゃ。じゃあまず、私達の事なんだけど………」
それから黒歌は自分達の事と、モンスーンが黒歌に齎した事を説明した。
黒歌たちは猫又と呼ばれる絶滅寸前の妖怪であり、強大な力を持っている。その力を堕天使は狙っていた。
黒歌達の親は堕天使達に抵抗するも、力及ばず殺された。だが、黒歌と白音を逃がす事には成功し、黒歌達は今まで逃亡生活を送っていた。
だが昨日駒王町にたどり着き、この廃工場で一息入れた時、あの堕天使達の強襲にあってしまう。
黒歌は抵抗したが、経験不足でもあり多勢に無勢でもある戦いに完全敗北し、堕天使に連れて行かれそうになった。
そこにモンスーンが現れ、ものの2分で堕天使達を殺した。だが、堕天使達を殺して直ぐにモンスーンが倒れてしまった。
そのため、この場所で療養をしていたのだ。
「……と言う訳にゃ」
「………」
全ての説明を聞き終えたモンスーンは黙り込んだ。堕天使と言う存在等はどうでもいい。問題は何故自分の意思で動いていなかったのに簡単に堕天使を殺せたかだ。
人と言うのは簡単に殺せるものでは無い。必ず最初は精神に歯止めがかかるし、心の何処かに迷いがある。相手が人外だったら尚更だろう。
だが、モンスーンはまるで飯を食すかの様な感覚で堕天使を殺していた。何も感じない、まるで殺す事が当たり前の様な感覚だった。
「……何故私は殺すと言う行為が出来るんだ?」
ボロっと出てくるモンスーンの言葉。その言葉に答える者がいた。
「モンスーンは日常生活の事は出来るのよね?これは私の勝手な考えなんだけど、モンスーンはもしかしたら日常生活の中に殺す事が含まれていたんじゃないのかにゃ?」
「どう言う事だ?」
「日常生活の基本的な事だけ覚えているのなら、勝手に体が動いて殺したと言うのは右足を出したら左足を出すのと同じくらいモンスーンにとって当たり前の事になっているんじゃないかな?って思ったにゃ」
息を吸う、飯を食べる、生きる。こんな当たり前の行動の中に、もしかしたら『人を殺す』と言うものが入っているのではないか、と黒歌は考えたのだ。
恐らくそれで間違いないだろう。現にモンスーンは殺しをする歳に何も感じなかった。
風が吹き、雨が降り、人が死ぬ。モンスーンの心の中には、記憶を失っても尚その理念が根深く残っているのだろう。
「だが、今の私はあの時の感覚を思い出せない。ただ殺しを躊躇わないと言うだけだ。今の私は体を分解したりする事は出来そうにない」
だが、モンスーンは独自に編み出した戦い方を忘れてしまっている。モンスーンは頭脳派なので、全ての動作を体でではなく頭で覚えてしまっていたのだろう。
この戦闘方法が、記憶を思い出す最大の近道になるのではないのかと考えたモンスーンは再び思考を再開する。
「ぅん……」
そんな中、モンスーンの隣で眠っていた白音が背伸びをしながら起きた。そして隣で寝ている筈のモンスーンを見る。
「あ……」
一言、いや一文字の言葉を上げて白音は何故か固まった。その姿を見て、「ん?」と首を捻るモンスーン。
そこに黒歌が朝の挨拶をした。
「おはよう、白音」
「姉さま……」
そしてまたモンスーンを凝視する。恐らくモンスーンの体が物珍しいのだろう。白音はモンスーンの体をトコトコ歩いて見回す。
「…生きてる……」
そして一言呟いた。
「…黒歌、お前はコイツに私の事をなんと言ったんだ?」
「え〜…機械?って聞かれたから『機械だからもしかしたら動かないかもね』って言ったにゃ」
「なるほど、だから今私が動いている事が不思議だと…勝手な考察をしてくれるな」
「だって体温も無いし仙術を使っても起きないし…」
「私の体は恐らく機械だと思うが、だからと言って勝手に殺して貰っては困る」
「わ、悪かったにゃ……」
黒歌と話している最中もずっとモンスーンを見ている白音。何処にそこまで見る所があるのだろうかと不思議になっているモンスーンだが、見所はそこらじゅうにあった。
「そう言えばまだ紹介してなかったにゃ。白音、こちらモンスーン君にゃ」
黒歌が思い出した様に白音にモンスーンを紹介する。その言葉に、モンスーンはバッと黒歌に振り返る。
「君!?何故私に君を付けた!?」
「だって自分の年齢分からないんでしょ?もしかしたらただ背が高いだけの私と同い年の子かも知れないから一応君付けをしたにゃ♪」
「何処からどう見ても私の方が歳上だろう」
「じゃあお兄ちゃん的な立ち位置にゃ?」
「何故そうなる!」
強烈なツッコミが炸裂する。そのツッコミに黒歌はクスクスと笑う。
「…姉さま、楽しそう」
ボソッと呟く様に白音が言葉を出す。その言葉を聞いた黒歌が、悪巧みする子供の様な表情で白音に新たな情報を付け加えた。
「あとね白音、この人が今日から私達のお兄ちゃんだよ♪」
「…え?」
「な!何を勝手な事を…!」
ドンドン勝手に書き加えられていく情報。そんな黒歌にモンスーンが反発しようとする。
だが、「だって…」と言う黒歌の言葉に阻まれた。
「だって、モンスーン君は行く当てもないんでしょ?それに戦いが記憶を呼び覚ます布石になるのなら私達といる方がお得じゃない?」
「お前達がただ私に守って貰いたいだけではないか!」
「そうにゃ。でも私達は貴方に生きていける生活を出来るだけ提供し、そして貴方は私達を守ってくれる。それならどちらにも利益があるんじゃにゃい?」
「…確かに……」
黒歌の言っている事はモンスーンの願っている事を提供してくれると言う事だ。
モンスーンは戦闘をする事で自分の記憶を思い出したい。それと同時に寝泊り出来る環境も必要。
モンスーンは黒歌達の元を離れると、自分で敵を探さなければならなくなるし、寝床を提供してくれる人がいるか分からない。
だが黒歌達と共に行動する場合、それら全ての事が同時に出来てしまう。モンスーンにとってここまで良い物件は無い。
その部分を考えると、捻り出された答えは単純だった。
「……良いだろう、私はお前達の兄として住まわせてもらう事にする」
「フフ、契約成立にゃ!」
意見の一致に互いに握手する。これにより黒歌は飛躍的安全に過ごせる事になった。いつからこんなに交渉上手なのか気になる所だ。
そんな光景を外側から見ていた白音。さっきから話の蚊帳から外れている白音に、モンスーンは改めて自己紹介する。
「いきなりで驚いていると思うが、怨むのなら黒歌を怨んで欲しい。私が今日から君の兄になったモンスーンだ。恐らく君より私には分からない事が多い。もしもの時は君に頼る事になる可能性もある。そこを了承した上で、私を兄と認めて貰いたい」
「挨拶が硬いにゃ……」
軍人っぽい挨拶をしたモンスーンに、黒歌が小声でツッコミを入れる。
そんな挨拶っぽいなにかを聞いた白音は、ポカンと口を開けている。そして、どうすればいいの?と言う視線を黒歌に向けた。
「こんな格好のお兄ちゃんだけど私達を襲わない。だから安心して良いにゃ」
怖がっているのだろう。今まで姉以外誰も助けてくれなかった。だからこそ目の前にいる新しい兄と名乗る人物が信用出来ない。
姉の言葉で少しは不安を和らげたが、それでもまだ信用に足らない。
本当は白音の信用なんてモンスーンはどうでもいいのだが、隣で黒歌が「白音が気分悪いと後々大変だよ?」と言ってくるので、仕方なく白音に信用されようと口を開く。
「私は君達を裏切る事は無い。だから安心しろ」
モンスーンの言葉を黙って俯きながら聞く白音。
そしてゆっくりと顔を上げると、モンスーンの目、つまりバイザーを見上げた。
「……はい」
なんとも簡素な了承だったと言う。
*
「それが食べられるやつにゃ」
「見分けがつかん」
夕刻の廃工場の奥の山。そこで私と黒歌は食べられる野草を探していた。
勿論私が食べるのでは無い。私の食べ物は電気だ。私は良くは分からないが、偶然発電機を触った時に体が軽くなった。
恐らく体が発電機の電力を受け入れたのだろう。それから、私は体が重くなった時は発電機を触る事にしている。
だが私の体に何やら異常がある様で、体が人間の通常体温を超える程に発熱していた。
今の所体を動かす事に支障は来たしていないため、放置状態にある。
「その野草は食べられないにゃん」
「余計に分からん!」
白音と黒歌と知り合ってから既に一週間が経った。白音には未だ受け入れて貰えていなく、あちらから話し掛けてくる事は無い。
これが嫌われていると言うやつだろう。
「でも嫌ってはいないんじゃない?」
どうやら声に出ていた様だ。それとも心を読まれたのか?
「何故そう言いきれる?」
「あの子は本当に嫌いな人には近づかないし、結構恐ろしい事を言う子だからかにゃ」
「私と全く逆じゃないか」
「だから多分好かれているんだよ。気にする必要は無いと思うにゃん♪」
「そうなのか…やはり分からんな」
女心と言うのは難しい様だ。黒歌もそうだが白音の方が難しい。別に仲良くなる必要は無いのだがな。
「さて、こんなものでいいにゃ。帰ろモンスーン君♪」
「その音符は気持ち悪いぞ」
「癖にゃ♪」
「そうか…もう何も言わん」
こうして、私達は白音が火を炊いて待っている廃工場へと戻る。
裏山から廃工場に帰るにはそう時間はかからなかった。
◇
下山開始から約5分で廃工場に着く。
恐らく何かを組み立てていたのであろう巨大な闇の空間の中、中心部に一つだけ火の光がユラユラと人影を作り出していた。
そこでは白音が山で取ってきた牧で火を炊いていた。そこの上には鍋等の物を乗せられる様な工夫がしてあり、そこで何かを焼いたり茹でたりする事が可能になっている。
今回は所々に落ちていた金銭を払って買った物で味噌汁を作る様だ。
私には味覚はあるが満腹感と言う物が無いため、食べても何も起きないのだがな。
「それじゃあ、私達はご飯作ってるからモンスーン君は好きな事やってていいにゃん」
「分かった」
黒歌は私に胃が無いにも関わらず私の分の食事を作ってれる。何故かと聞いた所、「味覚があるなら美味しい物食べなきゃ」と言った。
やはり女心と言うのは私には理解出来ない。
彼女達が食事を作ってる間、私は何時も木の上に上がる。この時間が私にとって1番有意義な時間だ。
「マグネットパワー……!」
私が鉄筋コンクリートに手を翳し、一言呟く。
すると鉄筋コンクリートは宙に浮かび上がり、私の自由自在に動かせる様になる。
更にもう一つ上げる。クルクル回す。
もう一つ上げる。回す。
だが、4つ目がどうしても上がらない。だが昨日のに比べれば2つ増えたから良しとしようか。
次の特訓。体をバラバラに分解する。
右腕は全て分解出来る様にはなったのだが、まだ左腕が分解出来ていない。
「……ふんっ!」
結論から言うと左腕の分解は予想以上に楽だった。これと同時に右腕も分解する。
実は分解はさほど難しく無いが、その後の操作に一苦労する。
1つ1つを別々の方向に動かす事がとても難しい。どうしても繋がってしまうのだ。これではただ腕が伸びただけで分解した意味が無い。
「…私は、弱いのか?」
最近どうしても自暴自棄になってしまう。なんとか心を保たねば直ぐに死ぬ結果になってしまうだろう。それだけは避けなければならない。
木の上で散々悩む。だがどうしても戦いの記憶を思い出せない。なんとかしなければ私は本当に弱くなってしまう。
「モンスーン君!」
突然木の下から黒歌の声が聞こえた。
「どうした?」
「ご飯出来たにゃ」
「…早くないか?」
「もう作り始めてから一時間経ってるにゃん」
「…そうか」
どうやら体感時間は数10分だったのだが、既に一時間が経過したらしい。何かに集中すると何時も時間を忘れてしまう。これだけは早急に治さねばならない。
木から降り、食堂と化している工場内に入る。
とても香ばしい臭いが立ち込め、胃と言う物が存在しない私でも食欲が出てくる。
黒歌達は元からあったそれぞれの椅子に座り、既に食事を初めていた。
私も自分の席につき、味噌汁を啜る。
「美味い……」
味噌の味が良く出ている。にも関わらず他の野菜の味を殺していない。食材の良いところを分かっていないとこんな事は出来ないだろう。
「喜んで貰って良かったにゃ♪」
向こうの椅子に座っている黒歌が何やらうるさい。ほっておくのが1番だろう。
黒歌は放って置くとして、問題は白音だ。
「…………」
さっきから卍りともせずにこちらを見ている。味噌汁が入っていた茶碗は既に空になって居いて、私は暇だからこちらを見ていると推測した。
「………………」
だが、何かを伝えたい様な目をしている。
私が何かを聞かなければいけないのだろうか?だが私がそんな事をする理由がどこにある?それに何かを伝えたいのならばあちらから私に話し掛けてくるはず。だから恐らく私の気のせいだ。
そう自分に思い込み、再び私の味噌汁に集中する。やはり美味い。
だがどうしても気になり、三度白音に視線を戻す。
すると、白音は既に私の前にいた。
「…あの……」
あの?
一言何かを言ったかと思えば、恐らく後ろに隠していたのだろう何かの袋を差し出して来た。
私はその袋を貰う。そして、その中身を確認する。
それは、風邪用の熱防止の薬だった。
「……熱があるって、姉さまが言ってたから……死なないで…」
そうか…この娘は私の体熱を気にしていたのか。私は大丈夫と言ったのだが、それでも心配してくれていたのだろう。
白音は私の前で俯いている。その目は少し涙を貯めている様にも見えた。
何故私にそこまでするのだろうか?
最後の「死なないで」と言う言葉。恐らく寂しいのだろう。私と言う新しい仲間が出来たのに、居なくなってしまうと言う事は、この娘にとっては耐えられないのか。
たった一週間で、ここまで感情移入されるとは思っても見なかった。
何故か、私は自分が悩んでいた事が妙に馬鹿らしくなった。
「私は死なない、だから安心しろ」
私は未だ俯いている白音の頭を優しく撫でた。
気持ちいいのか、白音は目を細る。
「だが、この薬は私に大きな影響を与えるだろう。助かった、ありがとう」
最後に感謝の言葉を伝える。何故かとても言いづらかったが、なんとか言うことが出来た。
「……うん」
私の言葉に満足したのか、小さく笑みを作りまた自分の席に戻って行った。
別の席で黒歌がニコニコしていたが、そんな事は最速どうでも良くなった。
無いはずの私の心に、新しい感情が芽生えた気がした。
Monsoon編は過去にKILLING FIELDで体験した出来事ではなく、モンスーンさんが普通に生活出来ていたらいたらな、と考えた過去編です。
モンスーンにはこんな生活を送って欲しかったけど、そうなるとバラバラサイボーグになる事が出来なくなるから可哀想なんだよね…。