オーバーロード ~たっち・みーさんがインしたようです~   作:龍龍龍

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死の宝珠

 霊廟の地下に用意されたその場所で、死の宝珠はアンデッドが次から次へと倒されていることを感知していた。

「……冒険者が来たようだ。下位アンデッドが次々打ち払われている」

 操り人形と化しているンフィーレアの口を用いて、死の宝珠はそう呟く。それはその場にいるもう一人に聞かせるためだ。

 それを聞いたクレマンティーヌは、その口角を大きく持ち上げる。

「やっときたんだぁ。待ちくたびれちゃったよ」

「まったく……アンデッドの大軍に呑まれて大人しく死んでいればいいものを。儂が与える死に人間如きが抗おうなど、片腹痛いわ」

 死の宝珠はそう嗤ったが、クレマンティーヌは首を傾げた。

「きみ、宝珠でお腹なんてないじゃん?」

 クレマンティーヌの素朴なツッコミに、死の宝珠が声を荒げる。

「比喩だ戯け!」

「じょーだんだってば。そんなに怒っちゃいーやーだーよー?」

 ケラケラと笑うクレマンティーヌに、死の宝珠は不満げにしながらも話を切り替える。

「とにかく……もうまもなくその下らぬ輩がここにたどり着く。魔方陣を壊されるのも具合が悪い。霊廟の前で迎え撃つぞ」

「魔法を発動させてるきみがここから動いちゃって大丈夫なの? というかきみも行く必要あるの? 私に任せてくれれば、適当に処理しとくよ?」

「ふん。ここから動いたところで、アンデッドの支配が多少緩む程度だ。すでに十分街に近づいたし、あとは放っておいても勝手に街に向かうだろうさ」

 それに、と死の宝珠は漆黒のマントをはためかせながら告げる。

「儂の与える死に抗う愚か者どもの顔を拝んでやりたいしな」

 

 

 

 

 また一体、アンデッドを斬り裂く。

 たっち・みーはひとまず周囲のアンデッドを一掃できたことを知り、一息ついた。

「……勝手に集まって来るからやりやすかったな」

 アンデッドがどうやっても街の人間を襲うように命令されていた場合は対応を変えなければならないところだったが、幸いアンデッドどもは生命を感知してたっち・みーに寄ってきていた。それを片端から斬り伏せながらたっち・みーはここまで進んできた。

(アンデッドの性質に引っ張られているところを見ると、完全に支配下においているというわけでもないのかもな。中途半端な死者の軍団といったところか)

 アンデッドの数は大きく減じており、いまだ油断ならない状況ながらも、その脅威は十分衛兵や冒険者で対応できるであろうものになっている。

 相手の本拠地と思われる霊廟に向かうたっち・みーの元に、空からモモンガとハムスケが追いついてきた。〈飛行〉の魔法を使っていると思われるモモンガは、マントをふわりと広げながら地面に降り立つ。

「たっちさん。お待たせしました」

「殿! それがしも馳せ参じましたぞ!」

 ふふん、と言わんばかりの得意げな顔をするハムスケ。たっち・みーは少しだけ微笑んだ。

「モモさん。すみません。先んじてしまって。ハムスケが飛んでいるのは魔法ですか?」

「〈飛行〉が使えるようになるマジックアイテムを貸し与えているんですよ」

 そういうモモンガに合わせるように、ハムスケは頬袋から小さな翼を模したネックレスのようなものを取り出した。

「姫から賜ったアイテムでござるよ! 大事にするでござる!」

「……おい、姫と呼ぶなと言っただろ?」

 モモンガの体から黒いオーラがにじみ出る。ハムスケの全身の毛が逆立った。

「す、すまぬでござるよ! モモ殿!」

 一人と一匹のコントのようなやり取りに、たっち・みーの纏う雰囲気が若干柔らかくなる。

 剣を改めて握りながら、たっち・みーは霊廟の方向に向かって歩き始めた。

「さて、いきましょうかモモさん。近くにアンデッドは?」

「私の特殊技術に引っかかる反応はありません。ほとんど掃討されているようですね」

「……もしかして、この地面に散らばっている死体やら骨やら、すべて殿が倒したアンデッドなのでござるか!?」

 ハムスケが驚愕して叫ぶ。たっち・みーはその反応に対し、かすかに首を傾げる。

「そうだが……?」

「なんと! これほどの数のアンデッドを……! しかも傷一つ負っておらぬとは……! 殿はどれほどの強さを持っているのでござるか……?」

 ビクビクという言葉が相応しいほどにハムスケは恐る恐る聞く。それに対し、なぜか得意気になったのはモモンガだ。

「こんな程度のアンデッドが万……いや、億襲い掛かってきたところで、たっちさんがかすり傷ひとつ負うわけないでしょう、ハムスケ」

「……いや、さすがに億は盛りすぎですよ。確かに傷は負わないかもしれませんが……面倒なのでやりたくはないですね」

 あくまで傷など負わないことが前提の二人のやりとりに、ハムスケはますます驚愕する。

「さすがは殿でござる! このハムスケ、さらなる忠義を尽くすでござるよ!」

「ああ、ありがとう」

 たっち・みーは霊廟が見えてくると、いったん足を止めた。

「ハムスケ。お前は別行動だ。これから私とモモンガさんは霊廟に向かう。お前は周辺の打ち漏らしたアンデッドを駆逐しろ。それから、もし冒険者が霊廟に近づこうとしたら、危険だからそれ以上先に進まないように警告するんだ。無視するようなら、多少強引にでも足止めしろ。それでもだめなら……モモンガさん」

 モモンガの方をたっち・みーが見ると、モモンガはすでに動いていた。

「中位アンデッド作成・切り裂きジャック、中位アンデッド作成・屍収集家」

 二体の中位アンデッドを作成する。

「こいつらをハムスケの警戒網より内側に置きます」

 何も言わなくても自身の考えを理解してくれたモモンガに、たっち・みーは微笑む。

「ありがとうございます。……その冒険者はこいつらが相手をする。これが何体もいるからお前は私たちに言われて、他の冒険者に警告を与えるために残っていた体だ。わかったな?」

「承知したでござるよ!」

「モモンガさん、アンデッドたちには……」

「大丈夫です。仮に冒険者と戦闘になっても、殺さない程度に抑えるように指示を出してます」

 一を聞いて十を知るという言葉があるが、この場においてモモンガの対応はたっち・みーにとってそういうものだった。

「……ならば、後顧の憂いなしですね」

「行きますか?」

「ええ、行きましょうモモンガさん」

 ハムスケと別れ、モモンガとたっち・みーはさらに先へと進む。

 

 

 そこには、霊廟があった。

 エ・ランテルの墓地は戦地に近い分、巨大なものであるが、霊廟もまた大きく立派なものが拵えられていた。

 その霊廟の入り口に、二人の人間が立っている。

 片方はンフィーレア・バレアレ。しかしその顔に表情はなく、精神支配を受けているのが明白な様子だった。その身に漆黒のマントを纏い、額には宝石で彩られたマジックアイテムらしきものが光っている。その手には不気味な光を放つ不恰好な珠が握られていた。

 もう片方は邪悪な笑みを浮かべた女。マントに大部分が隠されているが、妙に艶めかしく露出度の高い鎧に身を包んでいる。

 たっち・みーとモモンガは並んでその二人の前に立った。

「あれれー? 二人だけ? もっとたくさんいるはずとか言ってなかった?」

 女が不思議そうに、煽るように隣に立つンフィーレアに向かって言う。

「……あれだけのアンデッドがあの速度で減らされていたのだ。冒険者の集団が来ると思うのが自然だろう」

 女の言葉に対し、ンフィーレアの声で、何者かが応える。たっち・みーとモモンガは視線を交わした。

『あの様子……やはり精神支配を受けているのは間違いないようですね。モモンガさん』

『ええ。とすると……彼を操っているカジッチャンは霊廟の中でしょうか?』

『だと思います。向こうは私たちを二人と思っているようですし……とりあえず、決めた通りに相手をしましょう』

『了解です』

 モモンガの了解を得て、たっち・みーが前に進み出る。

「良い夜だな。無粋な儀式をするのは勿体ないと思わないのか?」

「ふん。良い夜だからこそ、死を導く儀式をするのにふさわしいのだろうが。死の感傷も理解できぬ愚か者が」

 ンフィーレアがそう返してくる。たっち・みーは肩をすくめた。その「やれやれ」という態度に、若干の不快感を覚えたのか、少しだけ声のトーンを下げながらンフィーレアが尋ねる。

「おぬしたちは一体何者だ? 儂が生み出したアンデッドの軍勢をどうやって突破した?」

「私たちは冒険者だ。その少年の護衛任務を受けていた。あの程度の軍勢、私達だけで突破するのはたやすい」

「偽りだな。おぬしたちだけではあのアンデッドの集団は突破できまい。他の冒険者はどこにいる?」

「……なあ、仮にそうだったとしても、伏せさせている者の居場所を素直にいうわけないだろ?」

 聞いてどうする、という気持ちを言外に込めていうと、ンフィーレアを操っている者は言葉に詰まったようだった。その隣に立っている女が手で口を押えてくすくすと笑う。

「わ、笑うなクレマンティーヌ! ええい。それで煙に巻いたつもりか冒険者風情が!」

「ただの事実なんだが……まあいい。信じる信じないは好きにしろ。いずれにせよ、お前たちの相手をするのは私たちだけで十分だということだ」

 不遜とも取れるたっち・みーの言葉に、笑っていた女――クレマンティーヌの表情が不快そうに歪められる。それをンフィーレアが手を挙げて抑えた。

「まあ待て。おぬしたちの名を聞いておいてやろう」

「聞いても仕方ないと思うぞ。タツとモモだ」

「……儂は聞いたことがないな。クレマンティーヌ?」

「私もしんなーい。一応情報取集はしたけど、相手になりそうな中にモモとタツって名前はなかったよ? それより、どうしてこんなに早くここがわかっちゃったの? 地下水道ってメッセージを残してあげたのにー。仲間が最後の力を振り絞って残したメッセージだと思わなかったのー?」

 たっち・みーは少しだけ沈黙した。

 そして、口を開く。

「そうだな。あいつらが……お前の居場所を教えてくれたんだ」

「……?」

 何を言っているのかわからない、という顔をするクレマンティーヌ。

 たっち・みーはそれ以上説明しなかった。

「モモさん。それではそちらは任せます」

「ええ。タツさん。任せてください」

 二人はそういうと、左右に分かれて歩き始める。

「クレマンティーヌ。一対一で勝負をしよう。こちらに来い。モモさんの魔法に巻き込まれてお前が死んではいけないからな」

「……あ”あ?」

 クレマンティーヌが顔を顰めたが、大人しくその後ろをついていく。

 モモンガはンフィーレアを呼んだ。

「ンフィーレア。いや、それを操っている者。あなたの相手は私がしてあげます」

「馬鹿め。儂がおぬしに付き合う理由がどこにある」

「霊廟から離れられない事情でも? ならば仕方ありませんね。自分の縄張りから出ることも出来ない臆病者ということですから」

「……挑発のつもりか! 面白い、死を与えるために生み出された儂が、おぬしら程度を恐れることなどありえないということをその身に刻み込んでくれるわ!」

 ンフィーレアの体はそういうとモモンガのあとをついてきた。そのあまりに容易く挑発に乗る相手に、モモンガは呆れていた。

「……簡単に挑発に乗りすぎでしょう。まあ、都合はいいですが」

 モモンガの目は、霊廟の中に滑り込むエイトエッジアサシンの姿を捉えていた。たっち・みーとモモンガが敵を引きつけている間に、中にいるンフィーレアを操っている者を始末する算段だった。ンフィーレアは助け出さなければならないのだから、当然の方策だ。

 しかし、あっさりと霊廟を離れたことにモモンガは若干の違和感を覚える。

(エイトエッジアサシンのことを知覚できていないとしても……少々無防備すぎじゃないか? そういえば、死を与えるために生み出された……とか言ってたな)

 ある程度霊廟から離れたところで、モモンガは立ち止まる。

「さて……この辺でいいでしょう。ところで聞きたいことがあるのですが」

「なんだ塵芥が。命乞いならもはや聞かんぞ」

「あなたの名前は? ンフィーレアを操っているあなたの名前です」

 その問いに対し、ンフィーレアの体を使っているそれは笑った。

「ふん。まあ、これから死を与えられる相手のことも知らぬまま死ぬというのも哀れなことだ。よかろう。特別に教えてやる。儂の名は死の宝珠という」

 自らを誇るように、ンフィーレアの体は手に握ったものを掲げる。

「この世のすべてのものに死を与えるために儂は生み出された。ゆえに、おぬしの死も絶対だ! 見よ! 我が至高の力を!」

 死の宝珠が輝きを増す。それに呼応するように、地の底から骸骨で組みあがったドラゴンが出現する。

 特殊技術で存在を知っていたモモンガは特に驚かなかった。

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)か」

「魔法に対する絶対耐性を持つこやつだけでも、魔法詠唱者であるおぬしには絶望だろうが儂の真の力はこの程度ではない!」

 天高く自身を掲げさせ、ンフィーレアの口を使って高々と声をあげる。

「――中位アンデッド作成・死の騎士(デス・ナイト)!」

 その言葉と共に、ンフィーレアの隣に広がる暗闇が、形を成していく。

 現れたのは、巨大な剣士だった。鎧と剣、盾を持ち、ボロボロのマントをはためかせる。濃密な死を臭いを漂わせたそれは、この世界でいう英雄級の相手と互角に戦える性能を持つ化け物だ。

「これの召喚には時間制限があるが……貴様が絶望するには十分な時間だろう! さあ、死にひれ伏せ! これが儂の、死を与える絶対的な力だ!」

 骨の竜と死の騎士が咆哮をあげる。それは生きとし生けるものすべてを震え上がらせる咆哮だった。

 それに対し、モモンガはただ静かに応じる。

「絶対的な力、死を与える力……か。それで漆黒の剣も殺したのか?」

「ん……? 何の話だ? ……ああ、クレマンティーヌとカジットがこれを手に入れるついでに殺したあの冒険者どものことか。あれも不幸なことよな。儂に死を与えられる前に死んでしまったのだから。もう少し生き残っておれば、儂直々に殺してやったものを。……ああ、そういえば生き残りがひとりいたか。そやつは幸福だな。味方を見捨てて逃げたおかげで、儂の与える至高の死を享受できるのだから」

 悦に浸っている様子の死の宝珠の言葉に、モモンガはかすかに俯く。

 さぞかし怒りに震えているのだろう、と死の宝珠が思ってモモンガの様子を観察していると。

 モモンガの喉から、奇妙な笑い声が漏れた。

「ふ、ふふふ……これは、傑作だ。ああ、本当に傑作だな」

「……? 何を言っておるのだ?」

 急に笑い出したモモンガの意図が理解できず、死の宝珠は戸惑う。

 じわり、とモモンガの纏う空気に変化が生じた。

「絶対的な力? 死の宝珠? 至高の死?」

 ぎろり、とモモンガの目が死の宝珠を睨む。死の宝珠はなぜかその目の光が落ちくぼんだ骸骨の眼窩から発されているように知覚した。気圧されて、数歩後退する。

「なん……だ……いまのは? おぬし、いったい……」

「光栄に思うがいい。死の宝珠よ。貴様のやっていることは、ただの下らぬ児戯にすぎないと知れ」

 がらりと雰囲気を変え、モモンガが宣告する。

 

「貴様に、本当の死というものがどういうものか――教えてやる」

 

 

 

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