モンスターハンター 【紅い双剣】   作:海藤 北

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前回に引き続き短めです。
前回はフルフル戦が来ることを匂わせていましたが、すいません。それは次回になりました。


第十話 私たちの村

「ハンターが二人狩りに行ったまま戻らない?」

 リンに対して酒場のマスターは黙ってうなずく。

「四日ほど前にこの村から出発して行ったのですが、達成報告はおろか、他のギルド支部に行ったという情報も無いというのです」

 カイト達がザンガガ村に来て既に三週間が経ち、そろそろポッケ村に帰ろうかという話が出た矢先のことだった。

「それはちょっと心配だね。ただ単にギルドへ未報告ってことならまだいいんだけど、その人達に何かあったって可能性もないわけではないからね」

 リンが狩りの時にしか見せない真剣な表情になる。

 そしてフローラは別の理由でその顔を険しくさせた。

「……別に、心配する必要なんか無いと思います」

 リンと話す時はいつも笑顔のフローラが、機嫌の悪そうな顔で吐き捨てるように言った。

「フ、フローラ?えっと、どうしたの?」

 様子のおかしいフローラに、リンは動揺する。

(ああ、あの時のことまだ引きずってんのか……。戻って来ない二人のハンターって絶対あいつらのことだしな……)

「あんな人達の事、心配する必要ないです」

 フローラは繰り返すように言った。その顔はますます機嫌が悪そうになったように見える。

「オイオイ、何があったか知らんけど、そういうことは言うもんじゃないぞ」

 横で黙って聞いてたライハルトが口を開く。

「心配する必要なんて無いんです!」

「何があったのかは知らないけどさ、私情を挟んでいられる事態じゃあないんだぞ」

 ラインハルトがたしなめるように言うが、フローラの口は止まらない。

「あの人たちは、あの人たちはこの村のことは馬鹿にしたんですよ!この村のこと何も知らないクセに!もし狩りに出て死んだのなら──当然の報いです!」

「フローラッ!!」

 ラインハルトが今まで見たことも無い怒りの表情で怒鳴った。初めて向けられる怒りの表情と怒声に、フローラは肩をビクリと震わせる。

「……俺たちの村のこと馬鹿にされたことに腹を立てるのはわかる。……だがな、死んで当然の報いだと?ふざけるな!人の命をそういう風にしか考えることが出来ないのなら、お前にハンターをやる資格は無い!」

 いままでラインハルトに怒鳴られたことなど無いフローラは、目を見開いて体を強張らせる。

「……だって、私……悔しかった……から……」

 フローラは瞳に涙を浮かべながらそう言い、ラインハルト達に背を向けて酒場から走って出て行った。

 酒場が一瞬にして静まり返る。そのまましばらく誰も言葉を発することなく時が刻まれた。

 その沈黙に耐えかねえたリンが口を開く。

「……えっと、さすがに言い過ぎたんじゃないのかな~、とか」

 直接ラインハルトに言う勇気が出ないのか、カイトの方を見ながら問いかけるようにいった。

(俺に振るなよ、あいつに直接言えって)

(だ、だって怖いんだもん。さっきから一言も発しないし全く動かないよ……!カイトが何か言ってよ!)

(だから、何で俺が……)

「その、何だ、まあ言ってる事は間違ってはいないが、あそこまで言う必要は無かったんじゃないか?」

 カイトが恐る恐る声を掛けるが、ラインハルトの反応は無い。

「え~っと……」

「──った……」

「ん?」

「せて……った……」

 ラインハルトが“オーマイガー”のポーズで叫ぶ。

「な、泣かせてしまったあああああああああああっ!!」

「わあっ!?」

「おおう!?」

 突然の怒号に二人は驚いて尻餅をつく。

「やってしまったあああっ!えっ、ちょっ、どうすればいいんだああああああ!!ただでさえ嫌われてるのに!!」

(自覚はあったのか!)

「もう駄目だああああああああああああああっ!!」

 ラインハルトはオーマイガーポーズのまま酒場の中をローリングし始める。机椅子を薙ぎ倒してもなお、彼は止まることを知らない。

「まずい!このままじゃ店が壊れる!」

「な、何とかして止めないと!」

 リンとカイトが店が壊れる前に止めねばと、ラインハルトに飛び掛ろうとしたその瞬間──

「とりあえず、これでも飲んで落ち着きなされ」

 落ち着いたデザインのベストを身に着けた白髪の老人が、暴れまわるラインハルトを片手で止めていた。もう片方の手には紅茶が握られている。

「マ、マスター!?」

 細身の老人であるマスターが、ガタイのいい男を片腕で止めている光景は、なかなか奇妙である。

「恋は駆け引き、焦ってはいけませんぞ。お茶で一息ついたら、仲直りのアプローチを焦らずゆっくりとかけてみなさい」

 マスターの言葉にラインハルトの肩が震える。

「……マ、マスタあああああああぁぁぁぁぁ!」

 そのままラインハルトは泣き崩れた。

「か、かっくい~!」

「いや待て、あの爺さん何者だよ!」

 感動の涙を流したままラインハルトはドアを突き破って走っていってしまった。

「結局店壊れたし!」

 

 ツッコミ役不足のために、その役目に落ち着きつつあるカイトだった。

 

 

──村外れの丘にて──

 

 

「ラインの馬鹿……」

 膝を抱えて座っているフローラは、草をむしっては捨て、むしっては捨てている。

「あれは、ちょっと機嫌が悪かったから口が滑っただけなのに……」

 

『人の命をそういう風にしか考えることが出来ないのなら、お前にハンターをやる資格は無い!』

 

 さきほどのラインハルトの言葉が胸に残っている。

(資格が無い、か……)

 草をむしる手が止まる。

(……そもそも私がハンターになった理由は、ラインと離れたくなかったから。ラインが狩りに行っている少しの間でも離れるのが嫌で、一緒について行こうって思って……。でも、ラインはそうしてる間にもどんどんハンターとして成長しちゃって。ドンドルマに遠征するようになって……。自分もドンドルマに行ける位強くなってやろうって思ったけど、一人じゃどうにもならなくて……)

「せっかく帰ってきたのに……、私の馬鹿……」

 フローラはそのまま草むらの上に寝転がった。怒ったり泣いたりで疲れたのか、急に眠気がこみ上げてきて、フローラはそのまま深い眠りについた。

 

 

 

「……おいフローラ、起きろって」

 身体をゆすぶられたフローラが目を覚ますと、横にはラインハルトがしゃがんでいた。

「……あ、私寝てた……?」

「ったく、こんな所にいたのかよ。散々探したぞ」

 ラインハルトは笑っているが、フローラは先ほどの事を思い出して急に気まずくなる。

「あ、あのさっきは──」

「さっきは悪かったな」

「ごめんなさ──って、え?」

「さっきは悪かった。許してくれ」

 ラインハルトは深く頭を下げて謝る。  

「ちょ、ちょっと頭なんて下げないでよ!それにさっきは私が悪かったんだし……」

 そう、『死んでも当然の報い』という言葉は不適切すぎた。相手が本当の悪人ならまだしも、“ただの嫌なヤツら”だったのだ。行方不明とわかったならば、心配しないにしても取るべき態度は他にあったはずなのだ。

「俺たちの村のことを大事に思ってのことだったんだろ?それを、俺も感情的になっちまって思わずキツイ口調で……。お前、昔から本当にこの村のことが好きだもんな。俺がいない間は、ずっと一人で村のこと守ってくれてたんだもんな。……本当に、ありがとうな」

 突然に礼を言われてしまったフローラは気恥ずかしくなってしまう。

「や、そ、そんな、当然のことしてきただけだからっ」

 

「……好きだ」

 

「……へ?」

 突然ラインハルトの口から漏れた言葉にフローラは耳を疑う。

「なっ、ななっ!?」

 今、なんと言ったのだろうか?「好きだ」と言ったのだろうか?好き、とはあの好きでいいのだろうか?それ以外なにがあるというのだ。誰が?ここにいるのは、自分とラインの二人だけ。他には誰もいない。……つまり──

「あの、えっと……」

「好きなんだ。──俺もこの村のことが好きなんだ」

「……はい?」

「俺もな、この村のことが大好きだからな、ハンターとしてもっと成長したらこの村に留ま──ってどうした?」

 ラインハルトの発言にフローラはワナワナと肩を震わせる。

「き、期待させて……この馬鹿ぁっ!」

「──ごっ…ぽぅぉおお!?」

 相変わらずの精度で的確に鳩尾(みぞおち)に拳をヒットさせるとフローラはそのままその場を走り去っていった。

「……な、なんだってんだ、よ……」

 

 一時間後、ラインハルトは近くを通りがかった村人に発見され、無事村に搬送された。

 

◇ ◇ ◇

 

「それでは、これからブリーフィングを始めます」

 酒場に戻ってきたフローラはクエストの契約書類を机に広げる。

「……あいつはいいのか?」

 カイトはチラッと横目で、ベンチに寝かされたまま反応のないラインハルトを見た。

「問題ありません」

「あ、そうですか」

 フローラがあまりにきっぱりと言うので、カイトはそれ以上何も聞くことができなかった。

「契約書によると、今回私達が討伐に当たるモンスターは『フルフル』ですね」

「フルフルか……」

「フルフルはご存知ですか?

「いやまあ 名前を何度か聞いたことがあるだけだ。俺のこの『ランポスクロウズ』にフルフルの素材を使っているんだけど、それは、拾って来た素材を使っただけさ。実際にフルフルに遭遇したことはないな」

「……そうですニャ。このボクが拾ってきた素材ですニャ」

 突如カイトの背中の方から声が聞こえて振り返るが不思議なことに誰もいない。

「ん?」

「し、下ですニャー!ぼくですニャご主人様!モンメですニャ!」

 そのまま視線を下ろすとそこには茶ぶちの猫──カイトのオトモアイルーであるモンメがいた。

「モンメ!?何でここに!?」

「お久しぶりですニャご主人様!長い間一緒に狩りにも行けず寂しい思いをしていたところ、ご主人様がこの村にいっらしゃると聞いたので、商人の荷車に乗ってここまで来たのですニャ!」

 モンメがカイトの足に飛びつく。

「あ、すまん。すっかり忘れてた」

「ひどいですニャ」

「きゃーーっ!!」

「何事!?」

 突然フローラがモンメに飛びついて抱き上げる。

「何!?なになにこのコ!?カイトさんのアイルーですか!?」

「え、あ、そうだけど……」

「か、かかか……可愛い~~!」

 モンメを強く抱きしめてそのまま頬擦りする。

「た、たすけてご主人」

「あ~ん、もう!可愛すぎる!カイトさん、このコ持って帰っちゃってもいいですか!?」

(こ、こんな親しそうにフローラに話しかけられたの初めてだぞ……。いつのまにか『さん』付けになってるし。何だこれ、アイルーが繋ぐ新しい友情なのか?)

「ちょ、ちょっとフローラ!?落ち着いて……」

 暴走するフローラをリンがなだめるのに三十分ほど掛かったとか。

 

 モンメの登場で目を離していた間に、酒場のベンチに寝かされていたラインハルトは姿を消していた。




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次回こそヤツです。
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