「いや~、フローラがあんなにアイルー好きだったんだってね~」
「お恥ずかしいところをお見せしました……」
カイト、リン、フローラ、ラインハルトの四人はフラヒヤ山脈の峠道を歩いているところだ。
やっとのことでフローラを落ち着かせたと思ったら次はラインハルトが行方不明になってしまい、彼の捜索をしている内に日が暮れてしまい、出発を一日遅らせたのだ。
ちなみにラインハルトはドンドルマの狩り仲間だという男と話していたという。つい先日までポッケ村に滞在しており、ザンガガ村に来て数日依頼を一人でこなしていたという男だ。
「それにしてもあの量の依頼を一人でこなすなんてすごい腕だよね~。流石はガウとラインハルトの仲間ってところだね」
「確かにな……。しかし、別の意味でも、流石はガウ達の仲間って感じだったな」
「あははっ、確かに!」
昨日ラインハルトと話していた男は、大柄なガウよりもさらに背の高い男だった。ハンターの間で『鎧竜』と呼ばれる上級飛竜、グラビモスの素材で作ったであろう防具を身に纏っていた。しかし通常ならばグラビモスの甲殻は灰色をしているのだが、その防具は黒い甲殻で覆われていた。
武器は持っていなかったので不明だが、防具からでもその腕は十分に窺える。『しかし』──
「なんというか……強そうに見えなかったんだよな……」
「そうだよね~」
「ふふっ、むしろ弱々しい印象の方が強かったですね」
ダフネ、と名乗ったその男はその巨躯に見合った立派な筋肉で、褐色の肌はその威圧感を増させている──ようなことは無かった。
何が悲しいのか知らないが、何ともいえない悲壮感に満ち溢れた表情をしており、目の周りに出来た陰影は、ダフネのネガティブなオーラを増させていた。自己紹介の声も非常に弱々しく小さな声であった。
しかし何よりも目を引いたのは、青色のアフロである。ガウ一味は奇抜な髪型や色にするのがルールなのだろうか?
「はっはっは、あいつは俺も認める変わり者だからな」
「お前が言うなよ……。ていうか寒っ!そういや俺もうマフモフじゃないんだった!ホットドリンク五個で最後までもつかなあ」
寒さが苦手なカイトはフラヒヤ山脈の冷気に思わず身震いした。
「お前はよくその格好で平気だな……」
「あはは、ウチもかなり寒いよ」
リンは先日のダイミョウザザミの狩りで入手した素材でザザミシリーズを製作したのだ。しかしこのザザミシリーズという防具、とにかく素肌が出ており、極寒の雪山には寒すぎる格好だ。
クセのある茶金のグラデーションの髪が冷たい風にふわりと揺れる。
リンの燃えるように紅い瞳は、ザザミの甲殻の赤色とよくマッチしている。
「はっはっは、リンちゃんがが倒れた時は荷台に乗せていくが、カイトが倒れた時はそのまま捨てていくから安心しろ」
「一々お前は俺に喧嘩を売るスタイルなのか」
二人が睨みあう中、リンが前方の影に気が付く。
「カイト!ラインハルト!フローラ!前方にギアノスが四頭!」
「っと、お喋りはここまでだな」
「わかってら!」
カイトとラインハルトは素早く前方に視線を向け、武器に手をかける。
「これに続いてくださいっ!」
フローラはグレネードボウガンを構えて散弾Lv.2を装填し引き金を引く。くつにも分裂した弾丸が複数のギアノスにヒットする。
「グギャアアァ!?」
遠距離からの思いがけない先制攻撃にギアノス達は動揺し動きが鈍る。
「はっはっは!行くぞお前ら!」
「「了解!」」
そこに近接武器三人が一気に走りこむ。
「はあっ!」
リンが近くにいた二頭を薙ぎ払って吹き飛ばす。その二頭が立ち上がろうとしたところをラインハルトがハンマー『グレートノヴァ』を振り下ろして絶命させる。
残りの二頭が跳躍をしようとした瞬間、カイトが一瞬で距離を詰めて斬りつける。ひるんだ二頭のうちの一頭の首筋を切り上げるようにしながらバックステップで距離をとる。そしてその瞬間にもう一頭の頭を通常弾Lv.2が貫く。
「ふう……、とりあえず終わりかな?」
「なんか組んで間もないのにいいコンビネーションだったな」
「まあ俺とフローラの愛の絆のお陰かな!」
「黙っててください」
「スイマセンでした」
安心した四人が武器をしまおうとしたその瞬間、
「ギャアギャア!」
仲間の悲鳴を聞きつけてか、十頭以上のギアノスが集まり四人を取り囲んだ。
「やべっ!」
「正面の五頭を倒して、とりあえずこの場を脱出するぞ!」
「フルフルに取っておきたかったんですが、ここは仕方がないですね!」
フローラは拡散弾Lv.1をセットすると、前方五頭の内一頭に打ち込む。
ギアノスにヒットした拡散弾の弾が、周りにばらばらと広がり一気に爆発を起こす。
「ついて来て!」
リンが走り出し、その後ろにフローラが続く。
カイトとラインハルトは武器をしまうと荷台を全力で押す。ザンガガ村近辺に人に飼われたポポがいなかったため、荷台を人力で運んできたのだ。
「クソッ!足元が雪の所為で安定しねえ!」
「ゴタゴタ言ってねえで前に進むことだけ考えろ!」
二台運搬にもたついている二人に後方からギアノスが飛び掛ろうとする。
「こいつはヤベェ……なぁっ!」
ラインハルトは荷台から手を離すと後ろのギアノスの迎撃に掛かる。
「カイト!後ろは俺に任せな!」
「二人とも急いで!」
既にギアノスの群れを突破したリン達が二人を呼ぶ。
荷台を押すカイトの前にギアノスが立ち塞がる。
「邪魔だぁっ!」
勢いをつけて荷台を押し、ギアノスにぶつける。
しかし、ギアノスは一瞬ひるんだものの、体勢を直ぐに立て直すとカイトに襲い掛かろうとする。
「カイトさん!」
フローラはギアノスに通常弾を撃ち込む。
「グギャアァァ!?」
二発の通常弾を受けたギアノスはその場に倒れる。
「まだっ……!」
絶命したと思われたギアノスが起き上がりそのままカイトに襲い掛かる。
「ぐはぁっ!」
「カイト!」
そのまま横に薙ぎ倒されたカイトの上にギアノスが圧し掛かる。背中から落ちたため、腰のランポスクロウズを抜くことが出来ない。
カイトを押さえ込んだギアノスが攻撃をしようとする。
「カイトさん動かないでください!」
フローラはカイトの上のに乗っかったギアノスに照準をあわせ引き金を引こうとする。
「!?」
しかし、その瞬間その照準の延長線上にラインハルトの姿が映る。
撃ちだされた弾は狙いをそれて荷台の車輪に当たる。
荷台はバランスを崩して転倒し、荷物が雪原にばら撒かれる。そのうちの一つ、大タル爆弾が転がっていき、谷の方へ落ちる。
それは偶然に偶然が重なっただけだった。
寒冷地方の空気は、水が蒸発せず空気中のわずかな水分も凍ってしまい、非常に乾燥している。
ドゴオオオオォォォォォォン!!
大爆音と共に大タル爆弾が爆発した。
爆発は地を揺らし、驚いたギアノスが力の上から飛び退ける。そして次の瞬間、ミシッ、という音と共にラインハルトの足元の雪に亀裂が入る。
「んなっ!?まずい──」
次の瞬間轟音と共に一気に雪が崩れる。
「うっ……!うおぉぉ!?」
「ライン!?」
ラインハルトはギアノスと共に雪崩に巻き込まれて谷底へと落ちていった。
◇ ◇ ◇
それから、谷に下りてラインハルトを探しに行こうとしたフローラを止めて、泣きじゃくるのをなだめている間にしばらくかかった。
「……それじゃあ、このままギルドに報告に向かう形でいいな……?」
「はい……。ラインを捜索に行って私達まで迷ったら話になりませんから……」
説得の結果、フローラにラインハルトの捜索は後回しにして、まずはギルドに報告に行くという形になった。
正直な話、カイトだって直ぐに捜索を始めたかったが、フラヒヤ山脈はギルドでも捜査があまり行き届いていない地域で、峠道以外の詳細な地形が地図に記されていないのだ。先程まで晴れていた峠道も吹雪き始めてしまい捜索が困難なのは自明であり、苦渋の選択の結果だった。
「それに、ラインはこれぐらいで死ぬような人ではありませんから……」
フローラは心配な気持ちを精一杯抑えながら言葉を紡ぐ。
「ああ、そうとなれば急ぐぞ」
「そうだね。ギルドへの報告は早ければ早い方がいいからね」
「……はい」
三人は壊れた荷台の車輪を簡易的に補修すると先へと進んだ。
「今は……、エリア6だから、洞窟を突っ切るのが一番近道だな」
ラインハルトとはぐれてから既に二時間以上歩き続けていた。日が天頂から西の空へと向かい始め、段々と薄暗くなってきていた。
「夜になる前には村に着きたいな」
「そうですね、急ぎましょう」
そのまま三人は洞窟の中に入っていく。
そして洞窟に入ってしばらくして。
「……!」
ピクリとカイトが顔を上げる。
「どうしたの?」
「……血の臭いだ。人の血の臭いがする……」
「え!?」
なぜ人の血の臭いであると思ったのかはわからないが、彼の本能がそう告げていた。
「……この先だ。大分近いから気をつけろ」
リンとフローラはそれぞれ武器を抜き、カイトも荷台を引きながらも腰の双剣に意識をおく。
カイト達が進んだ先に何かが落ちているのが見えた。
「あっ!」
「きゃっ!」
リンとフローラが悲鳴を上げる。
「これは……」
そこに落ちていたのはボーングリーヴとそれを履いている『足』だった。
足とは言っても、ギアノスなどのモンスターに食い荒らされたようでほとんど肉は残っておらず、骨が出ていた。しかしながら、氷点下の気候であるため骨にこびりついた肉は腐ることなく残っていた。
「この防具……、おそらくあの時のカップルのだな」
「た、確かに……」
「じゃあ、ギルドに報告が無かったのって……」
亡骸の一部から目をそらしながらリンが尋ねる。
「ああ、こういう事だな。おそらくもう一人もな」
その時フローラの口から思いがけない言葉が出る。
「……これは放っては置けませんね。他へ被害が出るのも時間の問題です。村への報告の前にフルフルの討伐を完了させてしまいましょう」
「なっ、お前ラインハルトの捜索はどうするつもりだ?」
「さっきも言ったでしょう?彼は……ラインは、あんなことで死ぬような人ではありませんから」
何らかの根拠を持って言っていることではない。しかし、翡翠色の瞳からは不安の色が少しばかりは減っているように見えた。
彼女には解るのだ。彼は生きていると。それは長い付き合いの間柄だからこそ信じられることなのだろう。
「ねえカイト。フローラが大丈夫って言ってるんだから、私たちはフルフルの狩りをした方がいいんじゃない?」
「……ああ、そうだな。フローラ、防具を見る限りお前はフルフルを狩った事あるんだよな?」
「はい、今まで一人で五頭ほど……」
「一人で五頭!?そ、そいつは心強いよいな。俺たちに対フルフルのアドバイスをもらいたいんだが」
「そういう事でしたら、今ここで軽く作戦会議をしましょうか」
「そうだね。でも、その……。ちょっと、ここから離れたいかも……」
チラリと落ちている足の方を見る。
「ああ、じゃあ場所を変えるか」
「そうですね……」
カイト達はエリア4の方に移動し階段状の段差の上に腰掛ける。
「それではフルフルの生態からお話しますね」
それからフローラは十分ほどかけて、フルフルの生態について話した。出発前にラインハルトが話したよりもずっと詳細に。
「音に敏感となると奇襲もなかなか出来そうに無いな。背後から近付いたところではなから見えていないらな意味が無いからな」
「そうですね。正面に立つと首を伸ばして噛み付いてくるので注意してください。後ろ側、特に尻尾の肉質は非常に硬いので並の武器じゃ刃が通りませんね。近付いた時は発電攻撃に気をつけてください。あと、距離を取ると三方向に分かれる電気ブレスを撃ってくるので──」
「待て待て、待てよ。前は駄目、後ろも駄目、近付いたら駄目で距離をとっても駄目だと?んなもんどうやって戦えばいいんだよ」
「確かにかなり厳しいそうだね」
「フルフルが次に何を攻撃をするのか予想しながら戦っていかないと厳しいですね。とは言っても皆さんはフルフルの狩猟が初めてですから、私の方から指示を出しますので狩猟中は私の声を注意して聞いてください」
「まあそうするしかないな。了解だ」
「おっけ~」
「それでは行きましょうか」
三人は立ち上がってエリア5の方に引き返した。
「この先のエリア3がフルフルの巣になっていることが多いですね。気を引き締めていきましょう」
カイトは岩陰に荷台を隠し奥へと進む。
「……何も、いないな」
辺りを見回すがギアノスどころかランゴスタの一匹も飛んでいない。
「他にモンスターの姿が見えないってことは、フルフルがここを巣にしている可能性が高いってことだよね」
「まあ、今はいないみたいだな」
カイトは双剣をしまうと洞窟の中を探索し始めた。リンとフローラもそれぞれフルフルの痕跡を探すべく洞窟の中を歩き回る。
そしてカイトがとあることに気が付く。
(ん、アレは……)
洞窟の高台の上に何かがあった。
カイトは慎重に近付いていくと、だんだんとその姿が鮮明に見えてきた。
(アレは、もしかして……!)
高台の上にあったのは、ボーンシリーズを身に纏った女性の死体だった。その時、カイトはその死体に違和感を覚える。
(何でこの死体は五体満足に残っているんだ……?)
さきほどの男の死体のように食い荒らされた形跡はない。
そして違和感がもう一つ。
それは、まるで妊婦のように膨れ上がった腹。数日前にカイトが酒場で見た時にはなっていなかった。
「一体何が……」
カイトが屈んでよく見ようとしたその時、女の腹がうごめいた。
「な!?」
カイトが咄嗟に後ろに仰け反った瞬間──
「ピギィィァァア!」
女の腹が割け白い生物が飛び出してきた。
「何だぁコイツ!?」
腹を割いて出てきたその白い生物は、女の内臓を貪り食い始めた。それは、肝臓を裂き、眼球を抉り取り、腸を引き摺り出す。
そこへ、カイトの声を聞いたリンとフローラが駆けつける。
「カイト!どうしたの!?」
「っ!お前らは見るなァッ!」
これは彼女達に見せてはいけない。彼女達が見て良いもではない。そう思った彼は叫んだ。
しかしその声は突如の轟音に掻き消される。
「──ヴァァァアアァァァ!!」
いつの間にか現れていた白い悪魔は、鼓膜を破るほどの爆音で
──フラヒヤ山脈の谷底──
吹雪の谷底をラインハルトは右足を引き摺りながら歩いていた。
(痛てえ……。骨が折れてないのがせめてもの救いかね……)
雪崩に巻き込まれたラインハルトは奇跡的に雪中に埋まることなく、打撲などを数箇所に負ったが、大きな怪我は無かった。
(大きな怪我はしていないと入っても……、この崖は登れないよな)
ラインハルトは自分が落下した崖を見上げる。
崖というよりは一キロメートル以上も続く険しい斜面だ。雪崩れたばかりなので歩くと足が深く埋まってしまう上に、雪崩れの再発の恐れもある。
(他に登れそうなところを探すしかないな……)
ラインハルトがその場を立ち去ろうとした時、彼は背後に現れた『ソレ』の存在に気が付く。
「……オイオイ、マジかよそりゃ勘弁だぜ」
人生で初めて陸の女王と対峙した時と同じ感覚に襲われる。それは『死』の感覚。予感でも恐怖から生まれた幻想でもなく、明確な死へ向かっている感覚。
「この場は見逃して……、くれはしないよなぁ」
ラインハルトはゆっくりとグレートノヴァを抜く。
それは生への活路ではなく、死の延長に過ぎない行為だとわかっていながら。
2ndから始めた人のバインドボイスの初体験は、クエスト順的に恐らくコイツだと思います。通常時は拘束時間が長い割りに向こうも動かないので大したことが無いんですが、怒り状態だと一転してやられちゃうことありますよね。
ラインハルトが遭遇したモンスターはさて何者なんでしょうね。