モンスターハンター 【紅い双剣】   作:海藤 北

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 フルフル戦その2です。


第十二話 雪山に潜む影②

 突然の咆哮(バインドボイス)にカイト達は耳を両手でふさぐ。しかしそれでも、その爆音は彼らの鼓膜を耐えられないほどの大きさで揺らす。

「うが……あぁ……!?」

 それは彼らの聴覚だけでなく、三半規管の麻痺によって平衡感覚までも奪った。真っ直ぐに立てなくなったカイトは足をもつれさせて、高台の上から落下する。

 咆哮が鳴り止んでもなお、そのダメージに苦しむカイト達を、フルフルは見えはしないが確かにカイト達の姿を捉えた。そして、よたよたとした足取りでカイト達に突進する。

 三人は未だにふらつく足取りで、ほとんど倒れるように横に回避する。

 フルフルは大したスピードを出していないにも関わらず、止まることができずに壁に激突する。その間にカイトは体勢を立て直す。

(まだ頭がフラフラする……。なんつーデカイ声だよ。……しかしこいつ、動きは鈍いな。この程度の動きなら油断しなければ大した事は無いかもしれないぞ)

 カイトはランポスクロウズを抜くと、やっとのことで立ち上がろうとしているフルフルの足に攻撃する。フルフルは特に痛がる素振りも見せずそのまま立ち上がる。

「動きも鈍ければ痛みの感覚もかよ!そういうことなら効くまでやらせてもらうぜ!」

 ゆっくりと振り向くフルフルにカイトは更に攻撃を加えていく。そこへ聴覚も大分回復したたリンがゴーレムブレイド改を抜刀して加わる。

 フルフルは体を大きく回転させて尻尾で二人を払おうとするが、動きがゆっくりとしているので簡単に避けられてしまう。

 二人がフルフルから距離をとると、フローラはその体目掛けて散弾Lv.2を発砲する。分離した弾全てがフルフルの巨体に当たる。

「本当は火炎弾を撃ちたいところなんですけどね……!」

 フローラの現在使用している『グレネードボウガン』は、フルフルの弱点である火炎弾を含む属性弾を一切打つことが出来ないのだ。彼女の他に持つ火炎弾を打つことの出来るライトボウガンは生憎現在工房で修理中である。

 未だに尻尾攻撃を続けるフルフルに、カイトとリンはヒットアンドアウェイを繰り返す。フローラは装填弾を通常弾Lv.2に切り替えると、二人の攻撃の合間を縫って確実に打ち込んでいく。

(話を聞く限りではすごい強そうなイメージがあったけど、これぐらいならたいしたこと無いな。スピードの面を考えるとイャンクックの方が強いぐらいじゃないか?)

 現時点で優勢にたっているカイトはふと油断してしまう。

 カイトは足元でリンと交互に攻撃するのは効率が悪いと考えフルフルの正面に立つ。そしてカイトが頭を切りつけようとした時、

「うおぉっ!?」

 フルフルがその首を伸ばしてカイトに噛み付こうとする。どういう仕組みなのか、首は胴体と同じかそれよりも長く伸びて鞭を振るうようにうねる。カイトは地に伏せてそれをギリギリで避ける。

「あっぶねえ~」

「カイト!油断しないで!」

「大丈夫だって。避けれない攻撃じゃねえよ」

 引っ込めた首にカイトはすぐさま抜刀して切りつける。

 続いてフルフルは正面のカイトに対して突進する。しかしこの突進も非常にゆっくりとしており、カイトカイトは難なく回避する。

「こりゃ、大したことねえな」

 余裕余裕、とカイトはフルフルに更に追撃しようとする。

 しかしその油断が完全に裏目に出る。

 フルフルが突如体勢を低くし、尻尾の先を大きく広げて地面に吸盤のように吸い付ける。

「カイトさん戻って!」

 『ソレ』に気が付いたフローラはすぐにカイトを呼び止めようとする。しかし時既に遅く、フルフルの十八番(おはこ)の放電攻撃からは逃れられなかった。体内の発電器官から一気に放出された電撃がフルフルの全身を包む。時に一撃で対象の命を奪うと言われるその攻撃を、カイトはモロに喰らってしまう。

「──っう、ぁあ……!?」

 ほとんど声になっていない叫びを上げてカイトはそのまま後ろに飛ばされる。

「カイト!!」

 リンがカイトに駆け寄ろうとするが、カイトは直ぐに立ち上がり「大丈夫だ」と手で制止する。

(何やってんだ俺!さっきあれほどフローラに注意しろと言われただろ!)

 今の一撃で冷静さを取り戻したカイトはフルフルから走って距離をとり、一旦呼吸を整える。

(一瞬気絶したものの、身体自体は何とか平気だな……)

 ポーチから回復薬のビンを取り出すと一気に飲み干す。するとそこへフローラが駆け寄ってくる。

「大丈夫でしたか!?放電の前には必ずあのモーションをするので気を付けて下さい!」

「解った。……すまねえ、さっきせっかくアドバイスしてくれたのに、調子に乗って攻撃してたらこのザマだ」

「いえ、無事だったならいいんです。フルフルは動き自体は遅いですが、それを補う攻撃力の高さと動きの多様性があります。突然予想外の攻撃をしてくることがあるので注意が必要です」

 そう言うとフローラは、一人でフルフルに応戦しているリンの援護に移る。

 カイトは所々が焼け焦げた自分の防具を見回す。あのドスギアノスですらもフルフルの電撃で一撃でやられたという話がある。身体に直接ダメージがかかる電撃攻撃の前に防具など在って無いようなものだ。

 さっき一瞬意識が飛んだだけで済んだのは、単に運が良かったからだろう。本来ならばあのまま目を覚まさなかったかもしれないのだ。

(ああ、油断してんじゃないぞ俺!)

 カイトは自分の頬を思い切り叩くと、リンたちの援護に向かう──が、

「エリア移動ですね!」

「うん、ペイントボールは任せて!」

 翼を広げて飛び立とうとするフルフルにリンがペイントボールを投擲する。

 その直後にはフルフルは翼をはためかせて空に舞い、洞窟の天井の崩落して開いた穴から外へと出て行った。

「追いかけましょう!」

「うん!」

 逃がすまいとリンとフローラは走ってエリア3を出て行く。

 一人残されたカイトは思わず苦笑いした。

「俺、いなくてもいいんじゃないかね」 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 カイトを置いてエリア3を後にしたリンとフローラはエリア4を二人で歩いていた。

「やっぱり、狭いところは闘いにくいですね。洞窟から出てくれたので少し楽になると思いますよ」

「……うん、そうだね」

 リンは聞いているのか聞いていないのか良く解らないような曖昧な返事を返した。

「ふふっ、カイトカイトさんのこと、心配なんですね?」

「へっ!?な、何で!?」

「さっきは放電攻撃を完全に喰らっていましたからね。本人は大丈夫だとは言っていたのですが、それでも身体にはかなりの負担があったはずです」

「……う、うん」

 フローラは歩みを止めるとリンの方を向く。

「それでもカイトさんの元に行かなかったのは、彼のことを信頼しているからですか?」

「…うん、そうだね。正確にはあの時カイトに『信用させられた』のかな。ウチが駆け寄ろうとしたら、目で『俺なら大丈夫だから、自分の狩りに集中しろ』って言われたみたいだったんだ」

「はあ、目で」

「あはは、何となくだけどね」

 フローラは少し沈んだ表情でうつむく。

「リンちゃん達は、出会ってまだ一ヶ月くらいしか経っていないのにすごいですね。……私とラインハルトは小さい時からの幼馴染なのに、私、ラインのこと全然解っていない気がするんです……」

「フローラ……」

 フローラは小さな声で絞り出すように続ける。

「言葉ですら言いたいことを、気持ちを伝えられないのに……。私って、私達って……」

 再びうつむくフローラにリンは息を大きく吸い込んで言い放った。

「フローラの馬鹿ちん!」

「ば、馬鹿ちん!?」

 突然リンに馬鹿ちん呼ばわりされたフローラは、驚きのあまりグレネードボウガンを雪の上に落としてしまった。

「そうだよこの馬鹿ちん!全然解っていない?気持ちが伝わらない?そんなのフローラが解ろうとしていない、伝えようとしていないだけじゃん!」

「そ、それは」

「受身じゃ駄目なんだよ!そう、もっと積極的にいかなきゃ駄目なんだよ!」

 ビシィ、とフローラに人差し指を突きつけるリン。フローラはそのままリンのペースに乗せられると困るので急いで話題転化を図る。

「そ、そういうリンちゃんこそどうなんですか?この間も聞きましたけどカイトさんのことはどう思ってるんですか!」

 どうにか話の流れを変えようと苦し紛れに質問し返した。

 しかし以前リンに同じ質問をした時は、「友達だよ」と言い切っていたことを思い出す。おそらく今回も返ってくる答えは同じだろう──と、思ったのだが……

「ふぇっ!?」

 そんなことを聞かれるとは思っていなかったのか、リンも手に握っていたゴーレムブレード改を雪の上に落としてしまう。

「……」

「……」

 二人の間にしばらく沈黙が続く。

「……友達だよ?」

「そ、そうですか……」

 予想通りの答えが返ってきたためフローラは少し残念な気持ちになる。

(お二人の仲は未だに進展が無しですか……。う~ん、今後に期待ですね)

 フローラは「ふぅ」とため息をついた。

 彼女はまだ気が付いていなかった。リン本人すら気が付いていない意識の変化が、ほんの少しずつだが出てきたことに。

「あ、カイトさんが来ましたよ」

 後ろの方を見ると、カイトが荷台をひいてフローラ達の方へ向かってきていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 ようやくリン達に追い付いたカイトは、荷台の上に腰掛ける。

「お前等フルフル追いかけるために急いでいたんじゃないのかよ。こんな所で何してるんだ?」

「あ、うん、ちょっと世間話を」

「世間話?フルフルは追いかけなくても平気か?」

「フルフルは飛ぶのが非常に遅いので見失うことは無いと思います。だから大丈夫ですよ」

「ふうん、そうなのか。……それで、世間話って何話してたんだ?」

「そ、それは、あの、えっと……」

 フローラは返答に困ってしまう。まさか自分達の恋話をしていた、なんて言えない。どうしようかと困っているとリンが助け舟を出してくれた。

「この間フローラが作ってくれた『サイコロミートのステーキ』のソースのレシピを聞いてたんだ。アレ凄く美味しかったから自分でも作ってみたいな~、って思ってね」

 咄嗟に思いついた嘘だがカイトは特に疑うことなく「そうか」とだけ言うとポーチからホットドリンクを取り出してみ干した。

「まあ、フルフルのことを見失いはしないにしても、ホットドリンクの残りが少ないから急いだ方がいいかもしれないな。こんなの飲んでも寒いものは寒いし……」

「そうですね。ペイントの臭気は……、エリア6ですね。ここからそう遠くないです」

「よし、そんじゃあ行きますか」

 カイトは再び荷台をひき始める。

 

 

 

「お、いたいた……」

 カイト達がエリア6に着くとすぐにフルフルを発見できた。カイト達に気付いているのかいないのか良く解らない様子でフラフラ歩いたり辺りを見回したりしている。

「……よし、こいつを使うか」

 カイトは荷台から大タル爆弾を降ろす。

 先程大タル爆弾を誤爆してしまったため残りの数が少なくなっており、使うタイミングが大事になっている。

 しかし、今のカイト達はこの狩りを素早く終わらせる必要があるため、使えるところで使っておきたいのだ。特に大型モンスターが怒り状態になってしまうと非常に凶暴になるため、大タル爆弾の設置に大きなリスクを伴う可能性があるからだ。

「俺がコイツをセットして離れたら、フローラが起爆してくれ」

「わかりました」

 カイトは背中に大タル爆弾を抱えると、フルフルの方に慎重に近付く。

 そしてフルフルの真後ろに回りこんだというところで、突如フルフルがカイトの方へ振り返る。

「なっ……!」

 カイトは今大タル爆弾を抱えているせいで両手がふさがっており、加えて素早く動き回ることが出来ない。

 そのカイトに対してフルフルが放電攻撃のモーションをとる。

(くそっ!冗談じゃねえぞ!そんなの喰らったら腕の中の大タルが起爆する!)

 カイトは背中の大タル爆弾を思い切りフルフルに投げつけて、全力疾走で距離をとる。その直後にフルフルの放電攻撃で大タル爆弾が起爆される。

 完全に爆風から逃れることができなかったカイトは、背中に業火と爆風を浴びて、二転三転と雪の上を転がる。

「ぐおっ……!」 

 いかに耐火性に優れているイャンクックの装備であってもさすがに身体へのダメージがくる。

 なかなか起き上がれないカイトにフルフルが飛びつこうとする。

「させません!」

 フローラはフルフルにLV2拡散弾を打ち込む。当たって少しすると、フルフルの周りで連鎖するように爆発が起きる。

 そしてその爆発に続いてリンが駆けていく。

「やあっ!」

 ゴーレムブレイド改を、爆発で焼け焦げた部位を目掛けて振り下ろす。そしてその勢いを殺さないように─薙ぎに切り払う。

 フルフルの意識がリンの方に向き、リンに向かって噛み付こうとする。そこへフローラがLV2通常弾を打ち込んでひるませる。

 リンとフローラがフルフルに応戦している間にカイトはなんとか立ち上がり回復薬を飲む。

(くっそ……、さっきから二人に助けられてばっかりで全然駄目じゃねえか……!)

 カイトは唇を噛み締める。ハンターになって一ヶ月、最近大分狩りも上達してきたと思っていた。リンやフローラのほうがキャリアが上であると言っても実力の差はほとんどなくなったのではとさえ思っていた。

 しかし、現実にはカイトが何度も致命傷を負っているのに対して、リンとフローラは、掠り傷を追いながらも闘い続けている。

(ただ闇雲に突っ込んでいくだけじゃあ駄目だ。もっと考えて狩りをしないとな……)

 ──近付いてタル爆弾をセットするのは危険だ。だったら……!

 カイトは荷台から残った二つの大タル爆弾を降ろすと荷台から離れたところへと運ぶ。

(よし、この辺りでいいか)

 二つの大タル爆弾をエリアの隅にセットすると大きな声でリンたちを呼ぶ。

「リン!フローラ!フルフルをここに誘導しながら闘えないか!」

 自分から向かうのに大きなリスクを伴うならば、フルフルをこちらに誘い込めばいい。咄嗟に思いついたがいい作戦だと思った。──しかし

 はたしてリン達は自分の作戦を聞いてくれるだろうか?何度も危ない目にあっている自分の言うことなど聞いてくれるのだろうか?信頼してくれるのだろうか?そんな不安がカイトの頭をよぎる。

 しかしそんな不安とは裏腹にリン達は小さく微笑むと「了解!」と言って一旦フルフルから距離をとる。

 あまりにもあっさりと了解されて、なんだかカイトは呆気に取られる。

 そしてカイトも小さく微笑むと呟いた。

「……俺のこと、信頼してくれてありがとうな」

 カイトは静かにランポスクロウズ改を抜くと、フルフルへ向かって走っていった。




 次回でフルフル戦は決着です。
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