モンスターハンター 【紅い双剣】   作:海藤 北

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 少し長めに書きました。


第十五話 ココットの伝説

 赤髪のガウさんの後を追ってカイトさんが集会所を出てからしばらく経った。

 カイトさんは一人で集会所に戻ってきた。

 カイトさんの話によると、ガウさんはラインの救助に向かったそうだ。私の村滞在しているにダフネさんにもすでに連絡を飛ばしているそうで、二人ががりで捜索するとのこと。

 ラインもしぶとさは私も良くわかっているし、あのラインの先輩二人ががかりならきっと大丈夫だろう。私は自分にそう言い聞かせて、自分自身の体の回復に集中することにした。

 

 

 

「う~ん、狩りに行かないとなると少し暇ですねえ」

 フローラは馴れない感触のベッドの上でごろんと転がった。

 フローラが今いるのは訓練所に隣接した宿舎の一室だ。ガウの父親であり、教官のバルドゥスが、一時的に滞在するハンターなどに安く提供しているのだという。

 少しで歩いて村の探検をしてみたい気もするが、早めの回復のために、今日一日だけは食事のとき以外は極力安静にしていようと決めたのだ。

「そんなに暇なら出歩こうよ~」

 ソファーに横になっていた茶髪の少女が手足をジタバタさせた。

「だめです。私は今日は安静にすると決めたんですから」

「ちぇ~」

 茶髪の少女──リンは金色の毛先を指でくるくるといじりながら文句を言った。

 もともとじっとしていられない性格であるリンはフローラのように安静に過ごす、ということはあまり実行できない。すでにソファーの上で寝ながら跳ね始めている。

「ちょっと、埃が飛ぶじゃないですか!」

「暇なんだも~ん!せめて部屋から出て散歩とかしようよ~」

「まあ、暇なのは認めますが……」

 確かに何もせずベッドの上にいるのは飽きるうえに、有意義な時間の使いかとは言いがたい。かといってあまり体は動かしたくないのが正直なところだ。

「せめて本でもあればいいんですが」

「本か~……。あっ、それならカイトの部屋にたくさんあった気がする」

「カイトさんの部屋に?」

「うん。ウチはあんまり難しい本には興味が無いんだけど、雑誌とかもあるからたまに読みに行くんだ」

 なるほど、とフローラは少し腕を組んで考えてから、ベッドを降りて立ち上がった。

「そういうことなら行ってみましょうか」

「やった!」

「でも、走ったりはしないでくださいね。本来の目的から逸脱してしまいますから」

「は~い、わかってますよ~だ」

 あらかじめ釘を刺されてしまったリンは唇を尖らせた。フローラは防寒着を羽織って、リンの後ろについていく形で部屋をあとにした。

 

 

 

「それで俺の部屋に来たのか」

 リンとフローラがカイトの部屋に着いた時、カイトはベッドに腰掛けて雑誌を読んでいるところだった。

「ええ、もしお邪魔でなければ置いてある本を読ませていただきたいのですが」

「そういうことなら別にいいよ。というかここの本のほとんどが俺のじゃなくて部屋を貸してくれたブルックさんのものだから、俺が言うのもおかしいんだけどな」

 部屋にある大きめの本棚には見るからに古い本が並べられていた。上のほうに積んである比較的新しい本がカイトの買った本なのだろう。

 置いてある本の種類は様々だった。伝記であったり、物語であったり、たまには難しそうな政治の本であったり、元ハンターらしくモンスターの生態書であったり、全て読むには恐ろしい時間がかかりそうなほどの本が並べられている。

 フローラは本の背表紙をなぞりながらどれを読もうかと思案していた。

 そしてとある一冊の本でその指を止めた。

「あ、懐かしい本ですね」

 フローラがそう言って本棚から一冊取り出す。古ぼけた表紙にはこう書いてあった。

「ココットの英雄伝説、か」

「ココットの村長さんはまだ生きてらっしゃるのに伝説にされるなんてすごいですよね」

「ああ、そうだな……」

 ココット村の名前は以前にも聞いた。

 狩りには五人以上で言ってはいけないというジンクスがあるということ。それがココットの英雄の婚約者の死にまつわることだということ。そして、ガウやリンの母親がそのジンクスの通りに狩りの最中に斃れたということ。

 カイトはふとリンのほうを見た。リンがあまりこの話題に触れてほしくないことを知っている。以前に自分から話していながら泣き出してしまったこともあるのだ。

 しかし以外にもリンの表情は落ち着いていた。

「そうだ、フローラには話していなかったね」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「そんな、ことが……」

 リンは自分の両親たちに起きた事のあらましをフローラに話した。

「すいません、なんか昔のことをえぐるような事になってしまって……」

 あやまるフローラにリンは「ううん、大丈夫」と首を横に振った。

 リンの表情はやはり暗いものではあったが、しかし以前のように取り乱すようなことはなかった。

「前は話すだけでもつらいことだったんだけど、今は少しは楽になったんだ」

 リンはそう言ってカイトの方を見て微笑んだ。

「今では、ウチにも新しい家族ができたからさ」

 

 その言葉にカイトはハッとなった。

 リンの昔のことを知るたびにカイトは悩んでいた。自分はこの子のために何ができるのだろうかと。何か力になれることは無いだろうかと探し続けていた。

 しかし彼は思っていた。人の傷を癒すことができるのは、傷ついてから経った年月よりもずっと一緒にいた人だけのだろうと。この数ヶ月の付き合いでは知りえない、もっと深い何かをわかる人でないとできない事なのだと。

 しかし、今リンは言ってくれた。“自分と言う存在がいるだけで、少しは気が晴れた”のだと。それは長い間傷を癒す方法を模索していたカイトへの一つの解答であった。

 そのことがカイト自身をも、少しばかり楽にしたのだった。

 

「それでさ、フローラ。その本読んだことあるの?」

 リンは話題をフローラの手にしている本に移した。

「いえ、私が昔読んだのは違う本でしたね。ココット村の伝説に関しては吟遊詩人たちが話を盛り上げるためにそれぞれが脚色して言ったものが多いですから、こうやって本になっているものにもたくさんの種類があるんですよ」

「なるほどなあ。俺はまだ読んでないんだけどさ、ココット村の村長さんの伝説ってどんなものなんだ?」

 伝説と言われるからにはそれなりの功績があるはずだが、その内容に関してカイトはよく知らない。フローラは、そうですねー、と少し考えてから手に持ってる本をぱらぱらとめくってあるページで手を止めた。

「まあ、やっぱり一番大きな功績はこれですね。ココット村の村長、彼はまさにハンター業の始祖なんですよ」

「へっ、つまりその村長さんがハンター業を始めるまでは?」

「まあ、個々で対策をしながらモンスターの脅威に立ち向かっていたんでしょうけど、今よりもずっと危険が多かったんでしょうね」

「まあ確かに、初代ハンターとなれば伝説になるよなあ」

「それだけじゃないんです。まだ装備も充実していなくて飛竜クラスの相手に手も足も出ないような時代に、単身でモノブロスを討伐したというのも有名な話ですね。それ以降、モノブロスは単身でのみ狩りを許される、モノブロスを狩って一人前、っていう風習ができたんですね」

「へえええ、そうだったんだ!フローラはモノブロスを狩ったことあるの?」

「ええ、以前に一度だけ。本当にギリギリの闘いでしたけどね」

「ってことはフローラは一人前なんだ!すごーい!」

 リンがキラキラと目を輝かせる。

 確かに規模の小さな村とはいえ、一人で守ってきたからにはそれなりの腕があることは予想がついていたが、よもやそこまでとは流石にカイトも驚いた。

「この間のフルフルが俺の飛竜デビューだったわけだけど、モノブロスはどのぐらい強いんだ?」

「そうですねえ。そもそも戦闘タイプがぜんぜん違うので一概には言えないですが、体力と素早さに関しては段違いですね」

「げええ、そんなのと一人でやり合うのか……」

 カイトは先日のフルフル戦を思い出してげんなりとした。三人がかりであんなに苦労したのに、一人であれ以上の相手と戦うとなると骨が折れるどころの話ではない。

「さらに狩猟場が砂漠でしたので、クーラードリンクのことを気にしながら戦わなくちゃいけなくて、長期戦にはできないんですよ。はあ、二度とやりあいたくないですね」

 フローラもモノブロス戦のハードさを思い出してげんなりとした顔になった。

「は~、フローラってすごいんだねえ」

 リンがフローラに尊敬のまなざしを向けるが、フローラは「いえ」と笑った。

「それよりもココット村の伝説のこれのほうがすごいですよ」

 そういってフローラが差し出したページの内容を見てカイトとリンは驚嘆の声を上げた。

「ラ、ラオシャンロンを……」

「単身討伐……!?」

 

 二人が驚くのも無理はない。

 ラオシャンロン──通称、老山龍。その山のように巨大な体躯が通り抜けた後には何も残らないといわれる程巨大な古龍だ。「歩く天災」、または「動く霊峰」とも称され、その圧倒的な存在に為すすべなく町や村が破壊されるケースも少なくない。なによりも、それは破壊活動ではなく“ただの移動である”ということが恐ろしいのだ。

 古龍とは正式な種の分類ではなく、古来からいると思われる謎の多い個体の総称である。そしてその全てに共通することが、“存在するだけで災厄となる”ということである。

 そのため対古龍戦においてもっとも優先されることは、討伐ではなくその場からの撃退とされている。そのため対古龍のクエストは例外的に、撃退であっても報酬が支給されるようになっている。

 

 しかし、ココット村の村長はそんな規格外の怪物を一人で討伐してしまったというのだ。

「はあ~、すごい人が世の中に入るもんだな」

「さすがに想像できない世界だね……」

「ふふっ、本当にすごいですよね」

「……ん?待てよ、もしかしてっ……!」

 急に思い出したようにカイトは手に持っていた雑誌『月刊 狩りに生きる』のページをめくり始めた。

「カイト、どうしたの?」

「……あった、これだ!」

 カイトが開いたページにはこうあった。

 

『ジャンボ村で発見!老山龍の亡骸に刺さる伝説の剣!?』

 先月の○日、大陸東のジャンボ村にて坑道の中から大昔の老山龍の亡骸が発見された。その頭部には錆びた剣(片手剣と思われる)が刺さっており、大昔にハンターによって討伐したものと思われる。その状況からココット村の英雄の偉業を連想させると指摘する専門かもいるが詳細は不明。発見者は坑道の作業員とハンターの青年で──

 

「これは……」

「まさに、って感じだね」

 ジャンボ村とは、ハンターを中心とした村づくり、という名目で若い竜人族(人の年齢では相当の歳だが)が興した比較的新しい村だ。テロス密林の西の沿岸部にあり、フローラの故郷のザンガガ村からもそう離れてはいない。

「これは、ロマンがあるなあ……!」

「ロマン、ですか?」

 カイトのその発言にフローラが首をかしげた。

「わからねえかな、ほらこう、ワクワクするじゃん」

 カイトが説明しても女性陣にはいまいちわかってもらえず、最終的に男にしかわからない感性として片付けられてしまった。

「しかし、ココット村の伝説の剣か……。いつか見てみたいな」

「まあ、まだ抜けてないみたいですけどね。あと、発見者の青年のものになるみたいです」

「マジか、抜かれる前に見に行きたいな」

「どうぞご自由に~」

 未だに興奮がさめないカイトだが、女性二人はやはり興味がないようであった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 そんな風に本を読んだり話しながらしてその日は終わり、各自の部屋に戻って次の日の朝を迎えた。

 そしてその日も特に何もなく日が西に傾き始めていた。

 カイトは体がなまらないように訓練所で軽く運動した後、公衆浴場で汗を洗い流し、それから集会所へと向かった。

 集会所には既にリンとフローラがいた。二人はお茶を飲みながらなにやら話していた。ガールズトークに混ざるのは気がひけるが、特にすることも無いので近くの席に腰をお下ろした。

「あ、カイトだ」

「どうぞ、食べますか」

 フローラがスナックの乗った皿をカイトの前に差し出した。

「お、ありがとう。店員さんすいません、俺にもお茶を一つ」

 カイトは近くを通り過ぎた給仕姿の女性に注文をして、差し出されたスナックに手を伸ばした。

「何を話してたんだ?」

「んー、ナイショ」

「なんでだよ」

「カイトさんは女性から無理やり話を聞き出すのですか」

「そういわけじゃないけどよ」

「ふふっ、からかい甲斐がありますね」

「お前なー……」

 そんな風にフローラにあしらわれたカイトだが、内心少し安心していた。

 ラインハルトが行くへ不明になってから三日目が終わろうとしている。これ以上は例え歴戦のハンターといえども雪山での存命は難しくなるだろう。

 つまり今晩か、明日の朝にでもガウたちがラインハルトを連れて村にやってこなければ、ラインハルトの存命確率はほぼゼロになってしまうということだ。

 そのことはフローラも自覚しているだろう。カイトは彼女がもっと取り乱しているのではと心配していたが、そうでもない様子だ。おそらく、ずっとそばにリンが付き添っていたおかげだろう。リンはそばにいるだけで人を元気にする力がある。

(ガウ、大丈夫なんだよな……)

 ラインハルトの身の安全の確保を一任したハンターのことを思い出す。自分よりも遥かに優れたハンターである彼に出来なければ、自分たちにも無理なのだ。今はあの赤毛の大男に任せるしかない。

 そんな他人任せにしか出来ない、力のない自分を恨んだ。

 

 

 

 そして、そろそろ夕食の時間である、といったその時に事は起こった。

 なにやら集会所の外が騒がしくなったのだ。

「どうしたのかな」

「これは村の入り口のほうか」

 まさか、とカイトたちは席を立って集会所を飛び出した。

 

 

 

 そこに立っていたのは赤毛の大男と長身の青いアフロの男、荷台に横たえられた紫色の髪の男、そしてはじめて見る長い銀髪の女性だった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 荷台の上に横たわった男気が付いたフローラが声を上げる。

「ライン!」

 フローラは急いでラインハルトのそばに駆け寄った。

「っ……!酷い怪我……、一体どうして……!?」

 包帯の隙間から見えるラインハルトの顔や手には、爪のようなもので抉り取られた様な痕があったり、内出血で腫れ上がったりしている。リオレイアの鱗と頑丈な鉱石で作られたはずの防具は、何かに思い切り殴られたようにへこんでいた。

「オイ、お前は足を持て!」

「持ち上げんぞ──っと!」

 倒れたラインハルトをカイトとガウは急いで集会所に運び込んだ。

 

「リン!そこのベンチを二つ横に並べてくれ、コイツを寝かせる!」

「う、うん!」

 リンが並べたベンチの上にラインハルトを降ろす。

「カイト、コイツの防具を外すぞ」

「わかってる」

 二人はラインハルトの防具のバックルなどを外して、胴防具(メイル)から順番に外していく。

「っ……!コイツは……」

 すでに包帯などで簡単な処置はしてあったが、それでも傷の様子は良くわかった。

 大きくへこんだ防具の下の肌は内出血により青紫色に変色しており、それを皮膚の上から破ったように血がにじみ出ている。更に首から腕にかけての皮膚がそぎ落とされるようになっていた。

「あ、あああ……」

「フローラ!」

 それを見てしまったフローラが倒れそうになり、リンが慌てて支えた。その時リンもラインハルトの体の傷を見てしまい、フローラを支えたまま青ざめた顔で後ろに下がった。

(やっぱり『アレ』は見せないようにして正解だったな)

 カイトはフルフルの幼体(フルフルベビー)がハンターの亡骸の腹を突き破って出てきた時の光景を思い出す。

(あんなの見た後だったら狩りどころじゃなかっただろうな。しかし俺も肝が据わってるよな……。あの時全然動揺していなかったし……。今も、か)

 カイトはラインハルトの身体を見る。傷の深さはは相当のようで、ガウたちの処置がなければ命に関わっただろう。今生きている事が不思議なくらいの傷なのだ。

「綺麗な水と……、包帯を交換したいな。乾いた布、出来れば包帯かなんかを持ってきてくれ!」

 ガウがカウンターの方に叫び、受付嬢があわてて奥の部屋に入っていった。

「しかし、雪山にこんな傷を残せるモンスターがいるのか……?」

 ガウはラインハルトの傷を見て首をかしげる。

 その正体を知るカイトが口を開きかけた時、

「……この傷は、『轟竜』の仕業だ」

「……親父か」

 いつの間にか二人の後ろにはガウの親父、即ち教官が立っていた。

「雪山にいるモンスターでこんな爪痕をしているのはティガレックス以外いない」

「轟竜、だと……?」

 ガウの顔が強張る。それも当然で、彼にとってティガレックスとは母の仇そのものである。

 カイトはフルフルを倒した後に目撃したティガレックスの姿を思い出した。ラインハルトはあのティガレックスに遭遇したというのが妥当だろう

「カイトたちががフルフルを倒した後にティガレックスと遭遇したらしい。おそらくそいつがやったんだろうと思う」

「姿を見たのか?」

 どんな姿だった、とガウがカイトに聞こうとした瞬間、カウンターの方から受付嬢の一人があわてて走ってきた。

「あ、あの、水を持ってきましたっ!でも、包帯が見当たらなくて……」

「そうか、仕方がない。取りあえず簡単な処置をしているから、カイトとガウは村の人に包帯と薬をもらってきてくれ!」

「わ、わかった!」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 集会所を飛び出したガウは包帯を、カイトは薬を調達することになった。

 カイトが薬を置いている雑貨屋を目指して走り出すと、行く手に人影が現れた。

「薬ぐらいなら私が持ってるから、提供してあげようか」

 その人影は、カイトよりも小柄ながら大きな荷物を背負っていた。フードを深くかぶっているため顔はわからないが、声は女性のものだ。フードからはウェーブのかかったブロンドの髪がのぞいていた。

「……アンタは?見ない顔だな」

「私は主に日用雑貨を村に届けてる商人をしている。ポッケ村にはつい先ほど到着したばかりでね」

 商人だという女性は軽くお辞儀をした。

 女性はカイトの方を一瞬だけ見ると、「ええと、薬は……」と言いながら荷物の中をあさり始めた。

「うん、あったあった。塗り薬と、秘薬だよ。あの傷ならこいつらでなんとかなると思うよ」

「えっと、代金は……」 

「怪我人を前に金は取れないさ。ほら早くいきな」

 カイトに半ば強引に薬を手渡すと、フードの女性は村の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 カイトと手に包帯を持ったガウが集会所に戻って来たのはほぼ同時だった。

「待たせたな」

「よし、そんじゃあやるか……!」 

 ネムリ草とマヒダケを通常より少量で調合して作った麻酔薬をラインハルトの口に流し込む。傷口の周りを新鮮な水でふき取り、そこに先ほどもらった薬をつける。

「ぐっ、あああぁぁっ!」

 いくら麻酔をしているとはいえあまりの痛みに何度も意識が戻る。

「耐えろ、ラインハルト!」

 暴れるラインハルトをガウとカイトで取り押さえて処置を続行する。

 

 そんなことを繰り返して一時間ほど経った。

「……ふぅ、これで取りあえずは完了だ」

 教官がラインハルトに包帯を巻き終わり、額の汗をぬぐう。

「さて、コイツをこのままここに寝かせておくわけにはいかないしな……」

「あ、あの……。ここの片付けは私たちがやりますので、ラインをどこかに寝かしてやってください……」

 先程まで後ろの方で見ていたフローラがおずおずと前に出てきてそう言った。

「ふむ、そうか助かる。よし、訓練所の宿舎のベッドに運ぶ。カイト、ガウ、二人とも手伝ってくれ」

 そう言って教官はカイトとガウと一緒に、ラインハルトを担架に乗せて運んでいった。

 

 

 

 三人が去った集会所でフローラとリンが片付けを始めた。

「フローラ、よかったね。命に別状はないって」

 リンがフローラの肩にやさしく触れる。それによって、フローラの内側に溜まっていた感情が一気に溢れ出した。

「うん、本当に……良かった……」

 安堵の涙をこぼすフローラをリンはそっと抱き寄せる。

(泣いてるウチを慰めてくれたカイトってこんな感じだったのかな……)

 そう思うとリンは少し気恥ずかしくなった。




 ココットの伝説あたりは公式設定どおりです。
 しばらく更新できない可能性もありますが、逃亡じゃないですので、ええ。
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