モンスターハンター 【紅い双剣】   作:海藤 北

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 説明回。


第十七話 家族の話

 ラインハルトに続きカイトも目を覚ましたという報告を聞いて一同は胸を撫で下ろした。

 しかし、ラインハルトは寝ているフローラをベッドに無理やり引き込んだらしく、フローラの全力のコークスクリュー・ブローによって再び意識がなくなったらしい。

「いや~、びっくりしたよ!ウチがご飯を持って部屋に入った瞬間、フローラがラインハルトに拳をめり込ませたんだからさ。ウチと同等……いや、ウチ以上の威力があったかもしれないね」

 自分が見た光景をやや興奮気味に話すリン。そしてその横で恥ずかしそうにうつむくフローラの姿が集会所にあった。

「だ、だって急にあんなことするから……その……」

 フローラが何かゴニョゴニョと言っているが、声が小さくてよく聞き取れなかった。

「まあ何にせよあいつの復帰はまだ先みたいだな」

「ちょっと、何で嬉しそうなんですか……」

 含み笑いをするカイトをフローラが目を細めて睨み付ける。

 何かとラインハルトへの当たりが強いフローラが、こういう時はかばう一面も見せ、内心ではどれだけラインハルトのことが好きなのか周りにはバレバレである。

「いや~、別に~?」

「ほら!絶対笑ってるでしょ!」

「だから笑ってないって」

「笑ってますってば!」

「ほらほら二人とも落ち着いて……」

 身を乗り出して言い合いを始めた二人をリンがたしなめるが、そんなリンもニヤけながらの仲裁で状況を楽しんでいるのは言うまでも無い。

「そんで、いつもならこの辺りでガウかラインハルトの茶々が入る頃だけど、どっちもここにいないからな」

「ラインハルトはわかるけどガウはどこに行ったんだろうね。おっちゃんやブルックさんも見てないし……」

 リンが首をかしげる。いま名の挙がった人物はみな、朝からずっと姿を見せていない。普段ならばここ集会所に食事を取りに現われるはずなのだが、その気配はない。

「ラインの怪我の治療をしてもらったお礼を言おうと思っていたんですけれど、一体どこに居るんでしょうね」

 フローラはジョッキに麦酒を注いで一口飲む。そのままリンのグラスへ注ごうとするが、リンは手を横に振って断った。

「あっ、ウチは大丈夫だよ。ウチ、お酒はちょっとね……」

 フローラの差し出した瓶とは別の、水の入った瓶を手に取って自分のグラスへ注いだ。

 以前リンは、アルコール度数の低い果実酒の一杯で泥酔し服を脱ぎだそうとしたことがった。それほどにお酒に弱いリンはそれ以降絶対にお酒は飲まないようにしている。

「うふふ、苦手なんですか」

「そ、そんな目で見るなあ!子供っぽいって馬鹿にしてるんでしょ!」

「そんなことないですよ~?うふふふふ~」

 顔を真っ赤にさせて唸るリンの頭を、フローラは満面の笑みで撫でる。フローラの顔は完全に小動物を愛でる時のそれであった。

(あ~、ありゃモンメを撫でてて時と同じ顔してんな…。相変わらず可愛いものには目がないってか)

 カイトはそこまで考えて頭にひっかるものを感じた。

「ん……、あれ?何か忘れているような……」

「そ、それは僕のことですかニャ……」

「な……」

 後ろから聞こえた声に振り向くとそこには──

「モ、モンメ!」

「久しぶりですニャ……!」

 集会所の裏出口の壁にもたれ掛かりながら親指(?)をグッと上げているのは、カイトの一時の相棒、モンメだった。

「一時って言うか一瞬だったな。久しぶり」

「……もうこのご主人様は嫌ですニャ」

 ザンガガ村に一匹で置いてけぼりにされていたモンメは、青アフロの男ダフネにポッケ村まで連れて来てもらったのだ。

 ちなみにダフネと銀髪の女性は早朝から狩りに出かけたようで、またしても声をかけるタイミングを失ってしまった。

 

 

 それから集会所は食事をする人々で混んできたため三人は外へ出ることにした。フローラはラインハルトの看病をしながらモンメと遊ぶということで、モンメを抱えて訓練所の宿舎のほうへ行ってしまった。

 残された二人は特に行く当てもなく、それぞれの家へ戻ろうとした。

 そのとき後ろからカイトを呼ぶ声が聞こえた。

 二人が同時に振り返るとそこには、通称"鍛冶屋の兄さん"と呼ばれる青年が立っていた。

「おっと、悪い悪い。急に呼び止めちまってよ」

 鍛冶屋の兄さんは笑いながら頭を掻く。

「それで用ってのは、まさか……!」

「そう、そのまさかだよ。……頼まれてた特注マフモフ、完成したぜ」

「よしキタァ!」

 全力のガッツポーズのカイトに、親指を立てる鍛冶屋の兄さん。状況を読めていないリンが一人、ポカンとしている。

「特注?」

「そう、特注!俺のマフモフ、クック戦の時に燃えちゃったじゃん。けれどこの村やっぱり寒いからさ、マフモフ作ることにしたんだけど、どうせならってことで毛皮増量の特注品にしてもらったんだよ」

「どんだけ寒がりなのさ……」

 リンも今は上に防寒着を羽織っているとはいえ、集会所などではインナーしか着ていない。

 しかしカイトはたとえ建物の中でも決して着ているものを脱ごうとしない重度の寒がりなのだ。

「ふふっ、この数日間は本当に地獄だったぜ……。しかし、今日からは俺は寒さには負けない!」

「いや、この時点で負けてるでしょ」

 リンの冷静な突っ込みを聞き流したのか、聞いていなかったのか、カイトは鍛冶屋のお兄さんと一緒に颯爽と居なくなってしまった。

「……ウチは自分の部屋に戻るかな」

 一人ポツンと残されたリンは自室へと戻ることにした。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 リンは部屋に帰るとアイテムの調合の練習を始めた。なにを隠そう、リンは調合が大の不得意である。

 最初こそカイトに教える立場だったが、今となっては、コツをつかんだのか急成長したカイトの足元にも及ばない状態となってしまった。

(前カイトに思いっきり馬鹿にされたからなあ……。うん、そろそろ見返してやるから!)

 と、気合は十分なのだが、リンが調合を始めたのは基礎中の基礎、回復薬の調合である。これではカイトを見返すことになるのはだいぶ先だろう。

 そして更に、

「うわっ!な、なにこれ!」

 回復薬になるはずだったのその液体は、何故か煙をもうもうと出し始め、そして……しめやかに爆散した。

「あわわわわっ!」

 飛び散る硝子から顔を守るように手を交差させ、そのままの体勢で尻餅をつく。

「爆発音が聞こえたけど大丈夫か!?」

 その音を聞きつけてカイトが部屋に飛び込んできた。

 しかし流石ラッキースケベマン、床に転がっていた瓶を踏んでしまいバランスを崩して前のめりに転んでしまった。そしてその先には尻餅をついたままのリンがいた。

「どわあっ!」

「へっ……?って、わわわわわっ!」

 倒れるリンの上に覆いかぶさるカイト。その二人の顔の距離実に十センチ弱。リンが顔を真っ赤にして口をパクパクとさせ、カイトも顔面蒼白で額に汗を流す。

 二人の間に数秒の沈黙が流れ、そして──

「……キ、キミってのは……」

 拳に力を入れるリン。慌ててカイトが弁明しようとするが、リンの顔は聞く耳を持たないと語っている。

「ま、待て!これは事故だ!」

「いっつもいっつも……!」

 カイトが必死だが既にその拳は握られていた。もはやカイトには衝撃に備えることしか出来ない。

「なんでそうなのさああぁぁ!」

「だから誤解だっ──ごふっ!!」

 フローラのコークスクリュー・ブローをも凌駕するパンチをまともに受けたカイトは、そのまま入り口のほうまで飛んで行き、部屋から自動退場となった。

 それから冷静になったリンが急いで部屋の外に転がっているカイトをベッドに運び看病したが、彼が起きるまでには実に三十分もの時間を要した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「痛てて……本気で殴りやがって……」

「あはは……、え~っと、ごめん」

「はあ、そう思うならもう少し済まなそうにしろよな……」

 リンのベッドの上で目覚めたカイトは、まだ体が痛むためしばらくベッドから動けず、そのままリンと世間話をしていた。

 新しく入荷された本があんまり面白くなかっただの、集会所の新メニューが美味しかっただの、僻地はあまり華のある話題はないが、こういった身近な話題についての雑談は楽しいものである。

 

「そういえば、お前が俺にカイトって名前をくれた時、物語の主人公の名前だって言ってたじゃんか。探しても主人公の名前がカイトの物語が見つからないんだよな。リンはその物語の本とか持ってたりしないのか?」

「あ、うん、ええとね。その物語は本とかじゃないんだ」

「それって、吟遊詩人とかから聞いた話ってことか?」

 リンはううん、と首を横に振った。そうだとするとどういうことなのか、とカイトは尋ねた。

「その物語は、ウチのお母さんが聞かせてくれたやつなんだ」

「リンの、母さん……」

「うん……」

 度々話には聞くリンの母親。

 教官のバルドゥスとその妻や家主のブルック、それにリンの父親とは違いこの村の出身ではないということは以前聞いたことがあるが、それ以上詳しいことを聞いたことは無い。

「ちょっと、見てもらいたいものがあるんだ」

 そう言ってリンは立ち上がると、リンの部屋のインテリアにしては小洒落た、背の低い棚の引き出しを開けて、一枚の小さな紙のようなものを持ってきた。

「写真技術って、知ってる?」

「ん、ああ……。確か、見たものをそのまま紙に写しだせるっていうすげえ技術だろ」

「うん。都会でもまだまだ普及していない技術らしいんだけどね、その技師さんが昔、このポッケ村に数日間滞在したことがあったんだ。なんでもここからのフラヒヤ山脈の景色を写したいって」

 ポッケ村から望むフラヒヤ山脈の景色は圧巻である。カイトが露天浴場からその景色を見た時は息を飲み込んだものだった。

 そんな絶景の噂が伝わり、風景画などを好んで描く画家などにはひっそりと人気を集めていたりしている。

 おそらくその写真技師も、噂を聞きつけてやって来たのだろう。

「その時ね、記念にどうぞって、うちの家族とガウの家族とブルックさんで写真を撮ってもらったんだ」

 

 そういってリンが差し出した一枚には、七人の姿が写されていた。

 狩りの前か後に撮ったのか、大人は全員防具を身に着けていた。

 リンの両親が亡くなったのよりも前ということは、色々な話から想像するに十年以上は昔であると思われる。

 真ん中で緊張した表情で立っているリンは、今でも十分幼い容姿をしているが(顔のみ)、それよりも純粋なあどけなさがあった。

 その左横には元気のよさそうな少年が腕を組んで立っている。髪がオールバックでないことや、そもそもガタイが今ほどよくないので全く別人に見えるのだが、おそらくガウであろうという少年はリンと打って変わって笑顔で写真に写ってた。

 ガウの後ろには、ガウと同じように腕を組んで笑っているバルドゥスの姿があった。親子で同じポーズを取っているあたり、今とは違って仲も良かったのだろう。顔こそバルドゥスのものだが、今のように髭は生やしておらず、クロオビシリーズも身に着けておらず、グラビド系の鎧をまとっていた。

 その右横には髪の長い女性が写っていた。立ち位置的におそらくガウの母親であるローザ・スチュアートという女性なのだろう。おそらくレイア系の防具だが、写真には色が無いため詳しくは分からない。

 

 そして、その右に写る二人に目を移したとき、カイトは先日の夜のような謎の頭痛に襲われた。

「くっ……!?なん、だ……これ……」

「カ、カイトッ……!?」

 頭を抑えて膝をついたカイトの顔をリンが慌てて覗き込んだ。

 カイトは額に汗を浮かべてしばらくしばらく顔をしかめていたが、やがて痛みも引いたのか一息ついてからゆっくりと立ち上がった。

「だ、大丈夫……?」

「おう、なんとかな……。この間といい一体何なんだ?」

 カイトは連続して起こる頭痛に困惑していた。ただ原因として共通していることがある。

「リンの両親、か……」

 

 カイトはもう一度写真に目を落とした。

 ローザの隣、リンの後ろから肩を回している笑顔で写っている女性。この人がリンの母親であるメイ・シルヴェールだろう。身長はおそらく今のリンとさほど変わらず、顔立ちもよく似ている。髪の毛もリンと同じようにウェーブのかかったショートヘアーであるが、写真から色は判断できないものの、リンと違って全体が薄い色の髪であるようだ。身に着けている防具はリンの身体に隠れて詳しくは見えない。

 そしてその右隣に立っているのが、リンの父親であるコルト・シルヴェールだと思われる男性だ。身に着けている防具はクロオビ系統のようであるが、バルドゥスが現在身につけているクロオビSシリーズに比べて色が薄いような気がしなくも無い。

 そして、その横にいるのが若かりし頃のブルックなのだろう。今と違って厳格そうな表情をして写っていた。防具はブロス系統のものだと思われる。

 

 写真の中にあるのは本当に幸せそうな風景だ。愛する家族や友と共に身を寄せ合っている、ありふれていながら、それ以上に無い喜びのひと時。

 しかし、ここに写っている風景は今となっては存在しない。その事実が胸に深く刺さった。

 

 リンは写真に写った緊張顔の自分と、輝くような笑顔で笑う母親の姿を見て、懐かしむように、そして悲しげに目を細めた。

「お母さんはウチが眠れない時はいっつも一緒の布団に入って物語を話してくれたんだ」

 リンの脳裏に浮かぶのは、本当に幸せだった日々。狩りの遠征の合間、どれだけ疲れているかも分からない状態で、リンが寝るまで朝から晩まで一緒にいてくれた母の顔が今でも鮮明に思い出される。

「その中で、ウチがすっごい好きだった物語があるんだけどね。その主人公の名前がカイトっていうの」

「それは、どんな話だったんだ?」

「う~んとね、まず主人公のカイトはすっごく強いハンターなの。すっごく強いんだけどね、仲間が一人もいなかったんだ」

「……なんか傷つくな」

 自分と同名の、というか自分の名前の由来のキャラクターにいきなりボッチ設定がつくとはあまり気分のいいものではない。

「あははっ、確かにね。それでね、いっつも人を寄せ付けない感じで振舞って、どんなに危険なクエストにも一人で行っちゃうんだ。でもカイトの周りで、実はカイトは心の優しい人だってことに気が付きはじめる人たちが出てくるんだ。カイトは周りの人に危険なクエストに行かせたくなくて一人で行動しているんだって。それでその人たちにカイトもだんだん気を許していって仲間になっていく、っていう感じのお話だったなあ」

 要約してしまえば、孤独に振舞っていた心優しい青年が徐々に他人に心を許していく物語、ということだ。

「あははっ、今こうやって口に出してみるとなんてことない内容だけど、子供の頃のウチにとっては本当に心が温まって大好きな物語だったんだ」

「それは、リンのお母さんが考えた話なのかな」

「う~ん、今となってはわからないね」

 一つ安心したことは、自分の名前の下となったキャラクターが極悪非道の悪人だったりしなかったことだ。もしそうだとしたらしばらく立ち直れないだろう。

 

「あ、ちなみにウチの名前にも由来があるんだ」

「リン、にか?」

「うん。リンっていう名前は、古龍の“キリン”から取ったんだって。キリンのように気高く、美しく、強くなって欲しいって」

「古龍、か」

 古龍とは一般的に、詳細が判明していないモンスターの総称である。固体の生存数が極端に少ないことに加えて、一固体で天災にも匹敵する危険性をもっているため、調査が進展しない厄介なモンスターである。

 その古龍の情報を専門に取り扱う機関が『古龍観測所』である。竜人族を中心とした組織構成をしており、大陸各地、更には他の大陸にまでその調査の足を伸ばしており、各地で古龍観測所の飛ばした気球を確認することが出来る。

 時にはその古龍観測所の力を以ってしても、中には本当に存在しているのかもわからない、まさに伝説のような古龍の名前が語られるようなこともある。

「その古龍がいるところは嵐になる、とか、その古流が通り過ぎたところには何も残らない、とか固体によって色んな伝説があるけど、キリンって古龍は、雷を操るってこと以外は詳しい生態は分かっていないらしいんだ」

「雷か……。フルフルの電撃とは違うんだろうな」

「あはは、だろうね~」

「それにしても、気高く、美しく、強く、か……」

「……なにかな?」

 カイトが顎に手を当てて復唱するのを見てリンは目を細めた。

「強く、は分かるけど気高くっていうのはどうだろうか……」

「……カイト~、どういう意味かな?」

「いや、気高いって言うのはもっと大人びて、凛としていて……」

 カイトとしてはいたって真面目に考察していたのだが、自分の過ちに気づいた時には既に遅く、満面の笑みで拳を握るリンの姿が視界に写った。

 

 まだ先ほどのダメージが抜け切っていないカイトに容赦ない一撃が加えられる。殴り飛ばされたカイトはそのまま窓から外へ落下していった。一階でなければ大事だっただろう。

 カイトにとっては本日二度目の退室(強制)となった。

「いてててて……。少しは手加減しろよな……」

 窓の外で大の字に倒れているカイトはジンジンと痛む箇所を手でさすって大きくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 ────やはり俺はあの男のことを知っている

 

 




 楽しい話もそろそろ。
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