モンスターハンター 【紅い双剣】   作:海藤 北

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第十九話 回帰点

 久々に受注した難易度の高い依頼の明細書を片手に、カイトは珍しく一人で荷車に揺られていた。

「しっかし、一人で狩りに出るのなんて久しぶりだな」

「ご主人、一人と一匹ですニャ」

 すぐに同じ荷台に乗っているモンメからツッコミが入った。ちなみにモンメと共にいく狩猟もかなり久しぶりのことである。

 今回の狩りの対象となる『ドドブランゴ』は、大型の牙獣種で、ブランゴの群れをまとめるリーダー格のモンスターだ。素早いステップで相手を翻弄し、その豪腕で対象を叩き潰す。また、相手を氷結状態にする氷ブレスや氷塊を投げるなどといった、厄介でバリエーションの多い攻撃を仕掛けてくる。

「モンスターとしてのランクはフルフルとさほど変わらないらしいけれど……」

 今回はフルフル戦と違ってソロでの狩猟である。苦戦を強いられることが予想される。

 属性は炎が有効ということらしいが、カイトの持っている素材では炎属性の双剣を作ることはできず、すっかり手に馴染んだランポスクロウズを、今回の狩りでも使用することにした。

 カイトはポーチの中と荷台のアイテムをざっと確認する。

(一人での狩猟となる分、回復系統のアイテムは勿論、スタミナをつけるアイテムや、砥石もいつもより多く必要になる。ポーチが少しかさばるけど、これは仕方がないな)

 荷車に揺られながら、カイトはふと、向かう先のフラヒヤ山脈を見た。山脈は大きな雲をかぶっていた。天気は、吹雪。

 そしてカイトはふと思い出す。あの時も吹雪であったと。

 今回の狩猟には、“あること”を確かめるために来ている。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「ああクソッ……、やっぱり冷えるな……」

 猛吹雪のエリア6を、カイトは震えながら歩いていた。時折体に襲いかかる風が、その冷気でカイトの体を芯から冷やし震え上がらせた。

「よりによって吹雪とはなあ……」

 ぶつぶつと一人で文句を言いながらエリア8の方へと向かって歩いていた。そもそも寒いのが大の苦手のカイトは、本来ならば雪山でのクエストというだけで乗り気ではないのだ。天気が悪ければ尚更である。

 しかし、狩りの拠点をポッケ村に置いている時点で避けて通れないのは確かである。

「毎度言っていますが、文句を言っても始まりませんですニャ」

「わかってるけどさ」

「寒いのは自分だって同じですニャ。お互い頑張るしかないのですニャ」

 オトモアイルーに諭されている自分が情けなくなり、今回は寒さへの文句はもう言わないようにしようとカイトは思った。

 それからカイトは足を止めると周りを見回した。

「ギルドからの報告によるとこの辺りか……」

 フラヒヤ山脈の峠道の頂とも言えるエリア8でカイトは地図とクエスト明細書を広げる。本来ならば、絶景が目の前に広がっているのだが、この天気では白い絵の具で塗りつぶされたように何も見えなかった。

「こんなに寒いのに、ここ一帯を形成する山が火山だってのは驚きだよな」

 フラヒヤ山脈の山々は火山であるということはあまり知られていないことだが事実である。中には未だに時折噴火を繰り返す山もあるという。

 

 カイトはしばらくエリア8を捜索するが、ドドブランゴはおろか、ポポなどの草食系モンスターすら見当たらない。

「……おかしいな、この近辺に依頼書の内容としてはドドブランゴとブランゴの群れが出現したから、東の峠が使用不可になる前になってしまう前に排除しろって要請だったのにな。ブランゴの群れっていうぐらいならどこかに姿ぐらい見えてもいいと思うんだがな」

 そう呟いて、カイトが一歩前に出た瞬間──

「ギャウァッ!」

「なっ!?」

 突然、カイトの周りの地面から五頭のブランゴが飛び出してきた。

「雪中に潜っていたのか!」

 予想外のところからの登場にカイトの判断は遅れ、背後からの奇襲を喰らってしまう。ブランゴはギアノスたちほど長くは無いが、非常に鋭利で攻撃力としては十分な爪を持っている。

「がっ!」

「ご主人さまっ!」

 幸いクックメイルのお陰で、その鋭利な爪が肌まで届くことはなかったが、大きく前に突き飛ばされたカイトは雪の上を何度も転がり、こうなると前も後ろも、自分が今どこにいるのかわからなくなってしまう。急いで立ち上がるが、目の前にはブランゴたちの姿はなく、ハッとしている間に、更に横から攻撃を受けてしまう。

「くそっ!」

 出鼻をくじかれて冷静冷静さを欠いたカイトは闇雲にランポスクロウズを振り回した。しかし剣先が一頭にかすっただけで、他のブランゴ達は巧みなステップでそれを避けていった。

「ちょこまかと動き回るんじゃねえっ!」

 それでも何とか喰らいつき、なんとか二頭のブランゴを倒す。三頭が崖の下で固まってこちらの動きを窺っているのを見つけたカイトは、ダッシュで斬り込みに掛かる。

 ──いつものカイトならば気付いていただろう。冷静ならば気が付かないはずがなかった。その存在に。その殺気に。

「ご主人さま危ないですニャ!」

「!?」

 突如カイトの周りに大きな影ができる。モンメの警告はすでに遅く、カイトがハッとして見上げると、その影の主はカイトを目掛けて飛び込んできていた。

 咄嗟に後ろに跳んだカイトをかすめるようにして大きな腕が地面へとめり込んだ。少しかすっただけだったはずが、カイトの頭からは赤い血がたらりと流れ落ちてきた。

「……お前が、ドドブランゴ……!」

 そこにいたのは、通常のブランゴよりもはるかに大きな個体、つまりドドブランゴであった。カイトを襲った腕は、それだけで人間の成人男性の身体よりも太く、大きい。牙を剥き出した顔からは溢れんばかりの殺気が漂ってくる。

(こんな気配プンプンのヤツに気がつけないなかったのか……!どうにも今日は調子が悪い……!)

 目に入りそうになった血をぬぐってカイトはランポスクロウズを構えた。

 しかしそんなカイトが動くよりも先にドドブランゴが動いた。動いたというよりも“跳んだ”という方がいいだろう。

「……は?」

 さっきまで十メートル先にいたはずの巨体が、巨腕が、今カイトの目の前に迫っていた。横へ?後ろへ?前へ?

 回避方法を思案するが、今の状態からそれを避けることなど出来なかった。ただ腕を前で交差させて、急所を守ることしかカイトには出来なかった。

 

 ──ゴキュリ

 

 嫌な音とともに、ランポスクロウズ共々衝撃に貫かれ、カイトの左腕の骨がピシリと嫌な音を立てた。

 ハッと気が付けばカイトは仰向けに倒れていた。ドドブランゴと遭遇してからわずか数秒、電光石火の出来事に頭が混乱する。そして、痛みが遅れてカイトの体に襲いかかった。

「──……っぁぁぁあああああ!?」

「ご主人さま、大丈夫ですかニャ!」

 カイトはそれをモロに食らってしまた。人体を支える芯に対して、理不尽な、強大な力を無理矢理にねじ込まれた。見てわかるような折れ方はしていないが、ヒビは確実に入っている。腕のありとあらゆる神経が脳へ痛覚を送った。

「があああああぁぁぁっ!」

 あまりの痛みに、雪の上を転がってもだえるカイト。せめてブランゴを近づけまいとモンメが武器を振るってカイトを守る。しかし敵の大将は待ってくれるはずもなく、ドドブランゴは追い討ちをかけるようにして地面から自身よりも大きな氷塊をすくい上げ、それをカイトの方へと放った。

「ご主人っ!あれは避けないとまずいですニャッ!」

(……!あんなのにつぶされたら、骨折どころじゃねえ!)

「……っ!おおおおおおおおおおっ!」

 カイトは獣のような雄たけびを上げて、負傷した左腕のことなどお構い無しに思い切り横へ飛んだ。しかし、落下時に砕けた氷の破片が頭に当たる。その一撃で視界が歪み、足取りがおぼつかなくなる。

 そしてそんなフラフラのカイトにドドブランゴは容赦なく飛び掛る。

「……いい加減に、しろっ!」

 飛び掛ってきたドドブランゴを避けながら、負傷を免れた右手のランポスクロウズを振るい、腕を落とさんと言わんばかりの勢いでドドブランゴの肩にねじ込んだ。

「ゴォォォッ!?」

 予想外の反撃にドドブランゴは大きく後ろヘ跳んで、一定の距離をとって威嚇する。

 カイトはポーチから、回復薬にハチミツをいれた強化版、回復薬グレートのビンを取り出し、口で蓋を開けてそのまま中身を一気に飲み干した。

「はぁっ……!はぁっ……!……クソッ、予想よりも……全然、速い……!」

「ご主人様、撤退を推奨しますニャ……!」

 カイトは激しく痛む左腕に顔をしかめた。体を動かすたびに腕の芯がギシギシと痛んだ。

(この怪我で狩猟続行できるのか……?もっと集中しなきゃやられるのに、痛みで意識が持ってかれる……!)

 

 今の状況をみると、モンモの言うとおり撤退(リタイア)が最も賢い判断だ。

 しかし、今のカイトにその選択肢はなかった。

(あと、あと少しで“思い出せそうなんだ”……。じわじわと“感覚が戻りつつあるんだ”……!)

 いま、扉の前に立ち、その扉を開けようとしているカイトにリタイアという選択は絶対になかった。

 しかし、劣勢なのは確かである。何か方法を考えて現状を打開せねばとカイトは辺りを見回した。

(何か、何かないか……?今の状況じゃ全力でやり合っても確実に負けるだけだ。何かアイツに致命傷を与えられるようなものは……!)

 カイトとドドブランゴはお互いに睨みあい、両者の間に数秒の沈黙が流れるが、それを破って先手に出たのはやはりドドブランゴの方だった。

「ゴオオァァッ!」

「ぐっ……!」

 ドドブランゴは両手を挙げて二足で立ち上がり大きく咆哮した。耳を押さえるカイトの周りの雪中からブランゴが飛び出てきた。おそらく今の咆哮は仲間を呼ぶためのものだったのだろう。

「ニャニャッ、囲まれましたニャ!」

 モンメはカイトの背後を守るようにして武器を構えた。このブランゴの群れを相手にするのはまだしも、向こうにはドドブランゴもいるため状況は劣勢を極めている。

 

 ──考えろ、考えろ。普通に立ち向かったところで勝ち目はない。まず周りのブランゴを排除しろ。一撃で、素早く、ドドブランゴから意識をはずさないように……。

 ぐるりと思考を巡らせてからカイトはドドブランゴと視線を合わせながら武器を腰の鞘へしまった。

「……あるじゃねえか、ドドブランゴの豪腕があるからこそ、この状況を覆せる一手がな……!」

 カイトは血まみれの顔でニヤリとすると、ドドブランゴの正面からそれるように横へ走り出した。当然それを追ってドドブランゴは拳を振りかぶるが──

「よしジャストだ!」

 その拳の先には同じくカイトを追ってきたブランゴが割り込み、骨が砕け、内臓がつぶれる音と共に、比喩などではなく本当に紙切れのように飛んでいった。

 自分の同胞を倒してしまったことに焦ったのか、一旦距離をとるドドブランゴ。そして再びカイトの元へ飛び込んでくるが、

「何度やっても同じだ!」

 ドドブランゴはまた見事にカイトの誘導に引っかかり、次は二匹いっぺんにブランゴを倒してしまう。

 強大な腕による攻撃を引き付けてから避ける。そんなギリギリの戦いの中で、カイトの脳はビリビリと熱を帯び始めてきた。

 

(あと少し、あと少しなんだ……!死ぬ間際の、命と隣合わせの状況で俺は感覚が戻っていく……!)

 思えば、リンとの最初の狩りでもそうだった。数多の経験を得て修得するはずの双剣の秘技『乱舞』をカイトはあの場で成してしまった。それはドスギアノスとギアノスの群れに追い詰められた絶体絶命の状況において。

 カイトがあの場で乱舞を習得したのではない。“過去の自分の技を思い出した”に過ぎないのだ。記憶を失う前の自分は双剣の扱いに秀でていたということはもう確信している。闘技場で初めて双剣を手にした時手に馴染んだのもそのためだろう。

 

 カイトはドドブランゴの猛攻を避けて同士討ちを狙いながら、ランポスクロウズを抜いて少しずつドドブランゴにダメージを与えていった。ヒビの入った左腕の痛みは、湧きでたアドレナリンによって意識の外へと飛ばされていた。

 モンメも、カイトに意識の集中しているブランゴを死角から一頭ずつ順番に仕留めていった。

 そしてそんなことを繰り返しているうちに、いつのまにかドドブランゴを取り囲むブランゴの姿はなくなっていた。

「……ゴオオァァッ!」

 再びドドブランゴが咆哮する。しかし、今回のそれは仲間を呼ぶためのものではなく怒りの咆哮である。その口元からは白い息がもれている。

 白い毛を逆立て息を荒立てているドドブランゴは唸り声とともに雪原を蹴り、わずか数歩でカイトとの差を詰めた。

(速い……!)

 横殴りの拳をカイトはしゃがんで避ける。自分の体の上を通り越したドドブランゴの背後から一撃を加えようとするが、相手のバックステップによって阻まれる。

 再び頭上を通り越して、次はカイトの背後に回ったドドブランゴは四足を地面につけたまま大きく仰け反ると、口から氷の粉末を吐き出した。

(ブレス……!?)

 横へ回避しようとするが、反応が一瞬遅れたためブレスをモロに喰らってしまった。氷のブレスはカイトの上半身を氷結させて動きの自由を奪った。

(まずい……、このままだと……!)

 再び焦りを覚えたカイトだが、じわっとした脳の感覚のあとには冷静さを取り戻していた。

 そしてぐるっと後ろを振り返ると視界の端に小さな穴が飛び込んだ。

「モンメ、あの穴だっ!」

「りょ、了解ですニャッ!」

 カイトは思うように動かない体で必死に走り穴を目指した。その後ろからは全速で追いかけてくるドドブランゴの雪を蹴る音が近づいてきていた。ドドブランゴは最後の一歩で大きく跳躍しカイトへと拳を振るう。

「……間に、合えぇぇっ!」

 間一髪で穴の中にカイトとモンメが滑り込み、空を切ったドドブランゴの拳は雪の壁にあたり、その衝撃で上から崩れた雪にドドブランゴ埋まって身動きが取れなくなった。

「はぁっ……!はぁ……!な、何とか助かったか……!」

「ギ、ギリギリですニャ……」

 そのまま穴の中をはって進むと、出た先は思いのほか落差があり、落ちた衝撃で上半身を覆っていた氷塊が割れた。しかしそれと同時に左腕に大きな負荷がかかり、カイトはたまらず悲鳴を上げてしまう。

(ああ……痛え……)

 歯を食いしばりながら何とか立ち上がり、自分の這い出てきた穴の方を見る。

(雪に埋まったぐらいじゃまだ死んでないはずだ……。早く次の手を考えないとな)

 そこでカイトは穴とは逆の方向の高台を見上げた。

「……そんじゃあちょっと、仕返しといくか」

 足と右腕だけの力で何とか壁を登りきり、そこから下を見下ろす。そこにはちょうど雪に埋まっていたドドブランゴが這い出てくる姿が見えた。

(急所の心臓は、あの厚い背筋のせいで絶対に刃が届かないからな……)

 左のランポスクロウズを鞘にしまい、残った方を両手で構えて飛び降りようとした、その時、カイトは信じられないものを視界にとらえた。

「……な、んだコレ……」

 カイトの立っているちょうど横に見たこともないモンスターの姿があった。

「死体……いや、“抜け殻”……?脱皮する竜、だと……?」

 そうしてその抜け殻らしきものをカイト覗き込んだとき──

「ニャニャッ!?」

「うわっ!……クソッ、フルフルベビーか!」

 その中からフルフルベビーが飛び出してきて、カイトに噛み付いた。そしてその時上げた声で下のドドブランゴに気が付かれてしまった。

「ああもう、行くしかねえじゃねえか!」

 噛み付いているフルフルベビーを強引に引き剥がすと、モンメを高台に残したままランポスクロウズを構えて一直線に飛び降りた。

「あっ、待ってくださいですニャー!」

「喰らえええぇぇぇぇっ!」

 その刃先はドドブランゴの首元へ、その奥まで突き刺さった。

「ゴオオオオォォ!?」

 ドドブランゴは悲痛の叫びを上げると、カイトを振り払おうとして暴れ出した。首元から溢れる血と共にランポスクロウズがずりゅりと抜け、そのままの勢いでカイトの体も放り出され、雪原に転げ落ちた。

 深手を負ったドドブランゴはカイトに背中を向けて隣のエリアを目指しはじめた。

「逃すかよっ!」

 そしてそこで安易に追いかけてしまったのが良くなかった。ドドブランゴはぐるりとカイトの方に振り向きながらその拳を振るった。

「しまっ……!」

 しまった、と言い終える前にその拳はカイトの体に至り、内臓という内臓を揺らし、谷の方へと飛ばされてしまった。

 

 その時脳にぶつり、という音が響いいた。

 この光景を思い出すのは何度目だろうか。目の前にいる轟竜。その眼光に足を止めてしまった自分は次の瞬間谷の底へと真っ逆さまに落ちていった。

 

 

 血まみれの双剣と、目の前に倒れている男。

 

 その男の葬儀を隠れるようにして見ている自分。

 

 逃げるようにフラヒヤ山脈に辿り着いた自分。

 

 そして、轟竜との対峙。

 

 自分が何者なのか。

 

 そんな映像と情報が一気に頭の中を駆け巡った。

 

 

 そこで、はっと意識が覚醒し、谷底まで転げ落ちないように雪に刃を突き立てた。

「ご主人様大丈夫ですかニャー!」 

 姿は見えないが、モンメの声が聞こえるということはそこまで落下していないと思われる。

 崖、と言ったが上から見てそう見えただけで実際には斜度が三十度程度の急斜面だった。痛む体でなんとか這い上がるとモンメが駆け寄ってきた。

「し、心配しましたニャー!」

「悪い、ちょっと無茶した」

 カイトは回復薬グレートを飲み干してからモンメの頭を撫でた。モンメは頭をなでられるのが好きで、気持ちよさそうに目を細めた。

 

「寒い……」

 寒さに苦手な体質と、大量の出血のせいでカイトの身体はすっかり冷えきっていた。回復薬の空き瓶をしまうついでにホットドリンクを飲もうとポーチを探るが、中のビンのほとんどは割れていた。

「さっきの衝撃で……。だったらさっさと帰らないとやばいな……」

 膝に力を込めて何とか立ち上がると、フラフラとモンスターの休息エリアであるエリア5へ向かって歩き始めた。

 モンメは気が付かなかったが、カイトは今まで見たことのないような瞳をしていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

(血の匂いが濃くなってきた……。やっぱりこの先にいるな…)

 カイトが鼻をすすると、冷気による痛みと一緒に“嗅ぎ慣れたなまぐさい匂い”が鼻を刺した。

 カイトはランポスクロウズを鞘からぬいて慎重に歩みを進める。そしてエリア5に踏みこみ、ドドブランゴの姿を発見した。

(……寝ているな)

 

 目標のドドブランゴはエリア5の真ん中で横になって睡眠をとっていた。

 雪獅子の名の由来である真っ白い体毛は血で紅く染まっており、自慢の牙も半分に欠けていた。突然睡眠行動に入ったということは瀕死の状態であるということだろう。

 しかし、対するカイトも相当の重症である。お互いに体力を消費しきっているため、決着はこのエリアで着くと思われる

「(ご主人様、どうしますかニャ……)」

「(……そうだな、荷台の大タル爆弾を使おう。勝負は一瞬で決めたい)」

 カイトは荷台から大タル爆弾二つをおろして、ドドブランゴの傍らに気付かれないように並べた。

 モンメにアイコンタクトを送るとモンメは頷いて小タル爆弾を持ち上げた。そうしてそれを大タル爆弾目掛けて精一杯投擲した。

 小タル爆弾は大タル爆弾の少し手前に着弾し、小さな爆発を起こした。そして大タル爆弾二つがそれに誘爆して巨大な爆発を起こした。

 爆音でドドブランゴの悲鳴は聞こえなかった。爆炎と爆風のせいでその姿もよく見えない。

「や、やりましたかニャ……?」

「……いや」

 カイトがスッと目を細めたその先の、雪煙が舞うその中からドドブランゴが飛び出してきた。

「……!」

 それに対してカイトは一切のためらいもなく地面を蹴った。方向はドドブランゴの飛び出してきた方向の真正面。このまま行けばドドブランゴの豪腕の餌食になるだろう。

「ご、ご主人っ!?」

 今まで見たことのない、自分の主の無謀な行動にモンメは動揺を隠せなかった。

 しかしカイトは至って冷静で、ドドブランゴの振りかぶった左の拳をくぐるように身をかがめ、二本の剣を左に水平に構えてドドブランゴの顔面から左肩にかけてを薙いだ。

 カイトとドドブランゴがすれ違った時には、ドドブランゴは力尽き地面へと倒れこんだ。

「や、やりましたのかニャ……?」

「……ああ、今回の狩りは終わりだモンメ」

 カイトは振り返らずそう言ったため、モンメにはその表情を見ることはできなかった。

 カイトはしばらくそのまま立っていたが、やがてランポスクロウズを鞘に納めるとモンメの方を振り返ってこう言った。

「さ、とっとと剥ぎ取って帰ろうぜ」

 その表情は、違和感なくいつものとおりだった。

 

 

 そして、

 

 

 そして、エリア5に新たな二つの影が飛び込んできた。

 

 

 カイトが見上げると、そこには帯電竜フルフルとその亜種の姿があった。フルフル亜種は白い身体をした通常個体とは違い、血のような紅い体色をしている。基本行動は同じだが、弱点属性に違いがあることで知られている。また体力は通常個体よりも多い場合が多く、単体でも厄介な相手だ。

 しかし、単体でも厄介な相手が今は通常個体も携えてこの場にいる。

 しかもカイトとモンメはドドブランゴ戦の後である。

「ご、ご主人様!ここはこの場を早く離脱したほうがいいですニャ!フルフル二体の相手は万全な時でも厳しいと思われますニャ!」

 モンメが慌てて退却を促すが、カイトは二頭を見上げたまま動こうとしない。

「……そうだな。……()()()()()()()()()

 そう言ったカイトの目の前に二頭の飛竜が舞い降りた。

 モンメは完全にパニックになっていたが、カイトはやはり動こうとしない。

 

「──でも今回は平気だ」

 

「ニ、ニャ……?」

 カイトの言葉の意味をはかりかねたモンメだが、次の瞬間その意味を分からせられた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 結果、二頭のフルフルはどうなったかというと、きちんと二頭とも討伐された。

 しかしやったのカイトではない。

 

 フルフルとその亜種が舞い降りた直後、その背後に更に二つの影が飛び降りてきた。

 一人は『グラビドZシリーズ』の防具を身にまとった長身の男、もう一人は『凛・極シリーズ』を身にまとった長い銀髪の美しい女性ハンターだった。

 そして、それぞれが一撃を持って二頭を仕留めたのだった。

 

 どうやら二人の討伐対象のフルフルだったようで、瀕死に追い込んだあとペイントの効果が切れていまいしばらく探しまわっていたそうだ。

 剥ぎ取りを済ませると、ポッケ村に向かうといういう二人と一緒にフラヒヤ山脈を下山していくことにした。

 ベースキャンプで一晩明かした後、今はポポに荷台を引かせて村に向かっている最中だ。

 手綱を握っているのは『グラビドZシリーズ』のヘルムを取ったダフネという青いアフロの男だ。

 以前ザンガガ村で初めて会って以来しばらく顔を合わせていなかったが、この間のガウの救出時にポッケ村に顔を見せていた。とはいってもその後すぐにザンガガ村に戻ってしまったため、ちゃんと顔を合わせたのは今回が初となる。

 そしてその横に座っているのが『凛・極シリーズ』を身につけた女性、名前はレイラという。ガウ、ラインハルト、ダフネと共にドンドルマを中心に狩りをしていたらしい。

 注目すべきは、その二人の防具だ。それはG級の狩りをこなした者のみが手に入れることのできる素材から作られた防具だ。言い換えれば、ハンターの頂点である『Gの領域』に到達していることを証明しているということだ。

 さらに、レイラの『凛・極シリーズ』はG級指定されたラオシャンロンの亜種の素材から作られた防具だ。G級指定の老山龍のクエストに駆り出されるということは、頂点であるG級ハンターの中でも更に特別な存在であるということだ。

(それもそのはずだ……。この人は【白銀の鋼刃】の二つ名で通った超有名人。若手ハンターの中で最も注目されていると言ってもいい)

 先日カイトが読んでいた『月刊 狩に生きる』の記事の中にも、狩猟祭での優勝に関するものがあった。

 ちなみに二つ名とは、G級のハンターにのみ与えられる通称のようなものである。

 

(それに俺はこの人と……)

 横から吹き流れた風に揺れた、【白銀の鋼刃】の二つ名の由来でもある長い銀の後ろ髪をじっと見る。

 そのカイトの視線気づいたのかレイラが振り返ってカイトの方に寄ってきた。

「……ふむ、やはり“貴様とは以前ドンドルマで会ったことがあるな”」

 カイトは横目で荷台の奥でモンメが丸まって寝ているのを確認した。それから小さくため息をついてから、レイラの蒼い瞳を見て、こう言った。

 

「……ああ、久方ぶりですね、レイラ・ヤマブキさん」

 

「はあ、敬語はやめないか。狩人の世界に年功序列などない」

 レイラはカイトのカタい返事に苦笑いした。

 カイトもそれ聞いて「それもそうか」と言葉を崩した。

「それで?私は貴様が記憶喪失だと聞いていたんだが……」

「……どこからそんな情報を」

「ふふ、聞くかね?」

 レイラが妖しく笑ったのをみて、どうせ話す気はないのだろうとカイトは諦めた。

 それからカイトはレイラの問に答えた。

 

 

「つい、昨日思い出したんだ……。いや、確信に変えた、ってところか……」




 カイトの記憶が戻りました。次回以降、とんとんと話が進んでいきます(予定)。

 ついに新キャラの名前が出ましたが、レイラのルックスは『凛・極シリーズ』まんまです。前髪パッツン、銀髪ロングです。
 ダフネはグラビド防具をつけている時はアフロが隠れてしまいます。
 二人ともG級ハンターで、ガウとラインハルトは上位ハンターなので格上です。
 年齢は、ダフネ>ガウ>レイラ>ラインハルトで、ダフネはすでに30代。

 不定期更新ですが、金曜日投稿が多いので二週間に一回ぐらいチェックしてみてください(読んでくださいお願いします)。
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