長いようで短いお話でしたが、最後まで読んでいってください。
「リン、本当に忘れ物はないか」
「子供じゃないんだからそんなに何回も確認しなくても平気だってば」
「リンはまだまだ子供だろ」
「もう二十歳になったから!」
「……二十歳ってことは、もう二年経つのか」
「そうだねー。長かったような短かったような……」
「はじめに十八歳って聞いた時は驚いたなあ。てっきり十五かそこらかと」
「失礼だなー……!」
「若く見えたってのは褒め言葉だろ?」
「物は言いようだよ、それ。まあお母さんに言ったら喜ぶんじゃない」
「お前の母さんは異常だよ……!姉妹って言っても違和感ないからな」
「あの時母さんが言ってた“血筋”っていうのが原因なんだろうけどね」
「……人間じゃない血が混じってる、ってことだよな」
「そうだね。この世界には竜人族や海の民、土竜族みたいに人間の他にもいろんな種族が暮らしているからね。もういない種族なのか、それともどこかでひっそりと生きているのかわからないけれど、ウチの先祖はきっと人間以外の別の種族だったんだろうね。お母さんとお揃いのこの紅い瞳と、この毛先の黄金色がその証拠」
そう言ってリンはその髪を優しく撫でた。二年前とは異なり肩の少し下まで伸ばしたその髪型のおかげで、なるほど少しは大人びて見える。
「ウチの反射神経とパワーは、この血のお陰だね」
「言っておくが、それだけじゃないからな。努力があって今のお前があるんだって事を忘れんなよ」
「わかってるってば。ウチだってずっと頑張ってきたんだから」
「その調子で俺に追いついてくれよな」
「あのねえ、上位とG級では大きな隔たりがあるんだからね」
「……まあ俺がいうのも何だけど、お前も十分異常なペースでランクアップしてるんだからな。出会った時はまだ下位のヒヨっ子だったのに、今じゃ上位のクエストじゃ敵なしの実力だからな」
「だからこそG級って言う壁の高さを身をもってわかってるんだよ」
「ま、精々頑張ってくれ」
「もっちろん頑張らせてもらうよ」
「はっ…………」
「むむっ…………」
「……」
「……」
「……はあ……」
「なんかね……」
「色々あった二年間だったね」
「あり過ぎだ。二年前のティガレックス戦が可愛く思える」
「それは言い過ぎじゃない?」
「言いすぎじゃねえよ……。なんだよこの結婚ラッシュは……」
そう言ってカイトは手元の封筒に目をやった。
差出人はラインハルトとフローラ。結婚式を挙げるからドンドルマに来いという旨のものだった。
「あはは……。ガウとレイラさんはユクモ村の方で早々に挙式しちゃうしね」
「親族にすら結婚事後報告ってどういうことだよ……。バルドゥスのおっさん、結婚式行きたがってたじゃねえか」
「んー、恥ずかしかったんじゃない?」
「そういうものか?」
「そうじゃないかなー」
「そんなこと気にするやつじゃないだろ」
「まあ、確かに……」
「ガウたちには時間が空いた時に会いに行こうぜ。それより今はラインハルトとフローラだろ」
「だねー、二年ぶりかあ」
「もう二年経つんだから早いよな」
「あはは、ほんとにね」
ほんの少しの立ち話のつもりが思った以上に話がはずみ、二人は荷台に腰掛けて続きを話し始めた。
◇ ◇ ◇
──二年前、ポッケ村──
村長とギルドマネージャーに呼ばれてカイトたちが訪れたのは農場の奥の洞窟。
以前は氷の壁に阻まれて奥までいけなかったのだが、地揺れの影響で氷壁が崩れており先へ進めるようになっていた。
奥に行くと空間が広くなっているところがあり、洞窟の天井が崩れているため光が差し込んでいた。
「…………こ、これは……!」
「なんと……」
「大剣……?」
カイトたちが目にしたのは氷に突き刺さった大剣だった。
大剣とは言ってもその大きさは普通の大剣とは比べ物にならないほど大きく、とてもではないが持ち上げることなどできないものだ。
「……これは一体……」
巨大な大剣を前に唖然とするカイトたちに村長がしわがれた声で説明を始めた。
「これは遠い遠いご先祖様の使っていた大剣での。“とあるモンスター”を追っている間に心半ばで倒れてしまったまま放置されていたのであろうな」
「いやいや待ってよ村長さん!こんな大きな武器どうやって使ってたっていうの!?」
リンやフローラは自分の身の丈の何倍もある大剣を目の前に、これが何者かの手によって振るわれていたという事が現実的な話とは思えなかった。
しかし、他のハンターたちは何か思い当たるフシがあるのか何やら納得しているようだった。
「伝説の巨大竜人、か……」
「きょ、巨大竜人……?」
カイトがポツリと呟いたその単語をリンは聞き逃さなかった。文字通りであれば巨大な竜人、ということだが、果たして本当にそんな竜人が存在するのだろうか。
そのカイトのつぶやきに対する村長の反応は肯定だった。
「その通り、千年に一人しか生まれないという巨大な竜人がこの大剣の持ち主であり先祖での。まあ、ドンドルマのハンターであるヌシらには馴染み深いかの」
「いえ、馴染み深いということは無いんですが……」
カイトたちが本拠地にしていたドンドルマには大老殿という場所がある。ここは首脳たちが集まる場所であるため一部の認められた人々しか立ち入ることが出来ないのだが、ここにとある有名な人物がいる。
その人物というのが大長老と言われる巨大な竜人だ。
この大長老、若い頃(一体何百年前のことだかは不明)にはハンター稼業に身をおいており、かのラオシャンロンを相手に素手で相撲をしたり、その尻尾を切断してしまったなどといったにわかに信じられないような伝説を残している。
現役を引退した今もその気迫は衰えておらず、彼に謁見するには相応の実力者でなければならないというルールがある。
「ワシのご先祖様はかの“黒き神”、アカムトルを退けたお方でな。双対を成す“白き神”も倒さんと、その拠点にするためにポッケ村を拓かれたそうな。それまではアイルーたちが暮らしていた何もないところだったのだがな、幸いな事に温泉が湧き、鉱石にも恵まれた土地であったために今も村は続いておる」
そんな伝説的なハンターが使っていたという得物が、目の前にそびえている大剣だという。
「ポッケ村に伝わる伝承にはこんなものがあっての。『狩人、白き神、討ち下しかけるも、災害、白き神守護し、その争い引いて分ける結末なり。未来ある狩人、黒き神を討ちし“災厄の戦士”怪なる物滅ぼし続ける時、
白き神目覚め、かつての怨念、成就願わん。さりとて“未来ある狩人”、白き神を討ち倒し、全てを守り全てを終わらさん。』……とな」
「黒き神、と言うのは先ほどもおっしゃっていたアカムトルムのことですかね」
そう聞いたのはラインハルトだった。彼の知識欲が刺激されたようで、その目は少しか輝いていた。
「うむ。まあ、覇竜が動いたという目撃情報は今のところ聞いておらん。しばらくは平気であろう。だがしかし、もし覇竜が打倒されるような事がれば、願わくば若き狩人たちよ。もう一度この村を訪れてはくれんかの」
村長がハンター全員を呼んだ理由はこれだった。もしも村に有事があった時には力を貸して欲しいという、村長直々のお願いだった。
そしてそれに対する狩人たちの返事は皆同じ、首を縦に振るもだった。
「……ありがたやありがたや。ポッケ村も安泰だの……」
ここが故郷である者にとってもそうではない者にとっても、この村は大切な、掛け替えのない場所になっていた。
「お礼に、という訳ではないのだがの、ヌシらに使ってもらいたいものがある」
そう言って村長が向き直った先には、巨大な大剣がそびえ立っていた。
「そ、村長さん。いくらなんでもウチらにこんな大きな武器は……」
「ホッホ、違うでの。この武器をこのまま扱える者はもう数百年現れんだろうからの。お主らにこれを削りとって使って貰いたいという話での」
「削りとって……?」
「ウム、見たところ古龍の骨などを使用した硬質なピッケルならば、表面をどうにか剥がし取れると思うのでな」
「今回は私の方からピッケルを提供させていただきますわ」
そう言ってギルドマネージャーはリンに大きなピッケルを手渡した。
「え、えっとじゃあ、いかせてもらいます」
リンは自分でいいのかと戸惑いながらも、普段大剣を振るう要領で思い切り特製ピッケルを振り下ろした。
ガツン、という音が洞窟に響き渡り、少し遅れて何かがゴロリと落ちる音がした。
「この黒い塊は……」
「おそらく龍属性を内包した素材かの。是非武具作成に役立てておくれ」
リンはしばらく自分の手で持っている黒ずんだその塊を眺めていたが、ハッとしてみんなの方を振り返った。
「あ、でも一つしか無いしどうしよう……」
自分がほしい、という願望が全く隠せておらず顔に出ているリンを見てカイトたちは苦笑いした。そして、この場で最年少であるリンに気をつかってあげるのが年長者の勤めだろうと、心のなかで満場一致したのだった。
「俺たちはいま武器とかに困ってないから、それはリンが使いなよ」
「え、ええ、でも……」
と遠慮したような素振りを見せるが、リンの顔は若干笑っている。相変わらず隠し事が出来ない体質のようだ。
「い、いいんだよー。リンちゃんが使っちゃって」
(フローラ、完全に子供扱いしてるな……)
「ほ、本当にいいの……?」
「いいからいいから」
「……じゃあ、ありがたく」
(……なんともいい笑顔だ)
そんな調子で黒い塊はリンのものとなり、そのまま鍛冶屋で武器に鍛えあげてもらうことになった。
そうして一週間後、村もすっかり元通りになり今まで通りの賑わいを見せ始めた頃。
「そろそろ俺たちはここを発とうと思う」
村人たちで混み合った酒場の、とある一角のテーブルでそう言ったのはガウだった。
「ギルドナイトの問題も解決したからな。また腕を磨くために別の地方へ行くことにする。専属をポッケ村に移したばっかりで手続きが面倒だが、まあ仕方がない」
「私もそろそろだと思っていたからな、問題ない」
ダフネもレイラと同じく問題は無いようで、黙って首を縦に振った。
しかしラインハルトだけは、なにか言いたげな顔をしていた。
レイラはラインハルトの言いたいことはある程度察しがついていたが、本人の口から言わせようと、ラインハルトに話すよう促した。
「なにか言いたいことがあるのだろう?」
「……あ、ああ……」
ラインハルトは一呼吸整えてから、ガウ、レイラ、ダフネの三人の方に身体を向けた。
「……俺は、このパーティーを抜けようと思う……」
「……」
「俺には王立書士隊に入るっていう夢がある……。そのためにはものすごい量の勉強をしなくちゃならないんだ。はっきり言って、数年は狩りが疎かになっちまうと思う。三人には迷惑かけられないから、抜けさせてくれ……!」
それを聞いたガウはゆっくりと立ち上がり、ラインハルトの目の前まで歩いて行った。
そしてその太い腕を振り上げて──、
拳でラインハルトの額に軽くどついた。
「おいラインハルト」
「な、なんだよ……」
「迷惑かかるから、じゃなくて、夢を追うため、って言えばいいだろうが。面倒なやつだな」
「……悪い」
「まあお前が勉学なんぞにカマかけてる間に俺はG級への一歩を踏み出させてもらう」
「はっ、試験通ったらG級へに速攻昇級してやるからな……!」
「へっ、吠えてろガキ」
そんな風に悪友どうし軽口を叩き合う二人を、レイラとダフネは黙って見守っていた。
八年前、親元を離れてたった一人でドンドルマに飛び出してきた者同士、偶然にもパーティーを組みそれからずっと切磋琢磨し合ってきた仲だった。
そんな二人も、それぞれの目指す道のためにここでお別れとなる。
その晩は年長者であるダフネ持ちで、日付が変わっても飲み明かしていた。
そして、それから二日後。ガウ達はポッケ村を発った。レイラ、ダフネ、に加えてウカムルバスの調査に来ていたギルドナイトのカークが新しいメンバーとして迎え入れた。
行き先はカークの故郷だというジャンボ村だ。
ジャンボ村はポッケ村からひたすら南下した所にある海沿いの村だ。
村としては新しい方で、若い竜人族が開いた村だという。
カークは、久々に家族に会いに行くのが目的のようだが、レイラとガウに関しては新たな狩猟場への期待でいっぱいのようだ。
ガウは去り際に、父であるバルドゥスと一言だけ交わし合い、あとは振り返らずに行ってしまった。非常に潔い別れではあったが、まさかその一年後に結婚報告が来るとはバルドゥスも思っていなかっただろう。
それから一月も経たないで、次の別れがやってきた。
怪我が完治したラインハルトが、フローラとともにドンドルマに行くという。
ラインハルトの王立書士隊入隊試験のためであり、フローラのハンター修行のためであり、そしてラインハルトの実家にフローラを紹介するためだという。
最後に関してはラインハルトが無事試験に合格して、落ち着いてからだという。
リンとフローラは泣いて抱き合い別れを惜しんでいた。リンとしては、初めての、そして唯一の同世代で同性の友人であり大切な仲間だった。
中々二人が泣きやまず、予定よりも少し出発が遅れたりもした。
一方でカイトとラインハルトは、ガウとラインハルトがそうであったようにお互いに軽口を叩き合い、それから固く握手を交わした。
「書士隊の試験パスしたら、ハンターとしてもすぐに追いついてやるからな」
「まあ、気長に待ってやるよ」
「言ったなこの野郎……」
「おうおう、いくらでも言ってやるさ」
「…………くくっ」
「ははっ……、最後までこんな調子かよ」
「俺ららしいだろ」
「……だな」
特殊な環境で育ったカイトにとって、親友と呼べる存在は彼が初めてだった。
別れが惜しくないかと言われれば、惜しいに決まっているが、それでも彼らはそれ以上は言葉を交わさなかった。
それは、不思議な縁でまたすぐ会えるような気がしたからだった。
◇ ◇ ◇
「そして現に、またこうして会う機会が出来たわけだからな」
「だね。思ったよりもずっと早くね」
「試験は一発パスだったみたいだな」
「正直ウチにはどれぐらい凄いことだかわからないんだけどね……」
「まあお前には一生無縁のことだからな」
「そ、それってどういう意味さ!」
「なんでもねーよー」
「馬鹿にしてるでしょ!」
「冗談だって」
「ふんっ……!」
「悪かったって、そんなに怒るなよ」
「…………出発前にパンおごって」
「……わかった。それでチャラにしてくれ」
「……よろしい」
リンはニヤッと笑うと、荷台から飛び降りた。
「そろそろお花持って行こうか」
「……そうだな」
リンが白い花束を取り出したのを見てカイトも荷台から降りた。
二人が向かった先は、住宅がある地域から少し離れた丘の上。村で亡くなった人たちの眠る小さな墓地だった。
その中の、特別大きくは無いが、手入れが行き届いていて綺麗な二つの墓石の前で立ち止まった。
その墓石にはこう書かれていた。
『コルト・シルヴェール、ここに眠る』
『ローザ・スチュアート、ここに眠る』
既に墓石の前には花が添えられていた。おそらくメイとバルドゥス、ブルックのものだろう。
リンは父の墓石の前に花束を添えて手を合わせた。
カイトもそれに続いて手を合わせ、暫くの間墓地には風の音だけが通り抜けていた。
それからリンはしゃがみこんで、今は亡き父へと語りかけた。
「お父さん、ウチは今年で二十歳になりました。まだまだお父さんたちには遠くおよばないけど上位のハンターになったよ。お父さんの最期を看てくれたカイトもここにいるよ。あのね、ウチねドンドルマに行くんだ。お父さんたちが見ていた景色をウチも見てみたくなって。しばらく戻れないかもしれないけど、心配しないでね。ほら、元気だけが取り柄だから……。うん、だから挨拶しに来たんだ。……行ってきます」
リンはもう一度父の墓石手を合わると、次はローザの墓石の前で手を合わせた。
「あなたの夫は相変わらず元気です」とか「でもちょっとやかましいです」とありたっけの報告をした。
そして、もう言うことも思いつかない、となったところで、やっとのこととで二人は墓地をあとにした。
二人が墓地から村の中心部に戻ってくると、早朝にもかかわらず村中の人たちが集まっていた。
それはもちろん二人を見送るために集まった人たちだった。
道中困らなようにと、ありったけの干し肉や豆をくれる人がいれば、中には樽ごとお酒をくれる人もいた。
二十年間自分を育ててくれた村の人々との別れが惜しいリンは、一人ひとりに挨拶をして回っていた。
そしてやっとのことで二人が荷台の近くまでたどり着くと、そこには村長とギルドマネージャー、G級受付嬢のシャーリー、そしてバルドゥス、ブルック、メイの三人がいた。
まず村長とギルドマネージャーから、ドンドルマのギルド支部での登録が円滑に行えるように紹介状が手渡された。
シャーリーもドンドルマの知り合いの受付嬢に二人のことは伝えてあると言ってくれた。
リンのことを我が娘のように育てたバルドゥスは年甲斐もなく鼻水を垂らしながら泣いていた。髭まみれのおっさんが泣いて抱きついてくるわけだが、リンは嫌な顔はせず、むしろもらい泣きをして抱き返した。
「リンッ……!元気でやるんだぞぅ……!」
「うん……!ウチ頑張るよ……!」
リンが若干バカっぽく育ってしまったのは、この髭のおっさんのせいでは無いかという説もある。
記憶をなくしていたカイトを雪山で救ってくれたブルックは、カイトと一緒にそんな二人を見て苦笑いしていた。
カイトはポケットから鍵を取り出してブルックに手渡した。
「お借りしていた部屋の鍵、お返しますね」
「……うん、たしかに」
「二年と、半年……。ほんとうにお世話になりました」
「いやいや、大したことはない。それにしても不思議な縁だったな。雪山で倒れている君を見た時から、何かが始まる予感はしていたんだ。おかげで流れるように時が過ぎた」
そう言って笑ったブルックは、ポケットをごそごそと探って、そこから新しい鍵を取り出した。その鍵はよく見るとカイトが返却した部屋の鍵と同じものだった。
それをカイトに手渡してブルックは言った。
「それはその部屋のスペアキー。……ここに帰ってきた時は、いつでも使っていいからな。この村を実家だと思ってくれればいい」
「……ありがとう、ございます……」
カイトは手渡されたその新しい鍵を、大事にポケットにしまった。
そして最後に二人はメイと対面した。
メイは二人が何か言おうとする前に、二人をぎゅっと抱き寄せた。
「おっとっと……」
「うわわっ、お母さんっ!?」
「まあまあ、しばらくお母さんに抱かれていなさい」
二人はしばらく、言われるままにメイの腕に抱かれていた。
「私もリンぐらいの年の頃には、バカ四人と一緒に大陸中旅をして回っていたもんだよ。世界ってのは広くてね。今まで全く知らなかったことや、自分よりずっと優れた人々……、綺麗なもの、理不尽なこと、好きな人、嫌いな人……。そりゃあもう、色々あるんだ。だからハンターとしてだけじゃなくって、もっといろいろな経験をして成長してきて欲しいんだ」
リンの頭をガシガシと撫でてからメイは言った。
「ただ、自分の命だけは大切に。それだけは母さんと約束して」
「……うん。ありがとうお母さん……!」
「……良い返事だ。そして……」
メイは二人を抱いていた腕をぱっと離して、それからカイトの瞳を覗き込んだ。
「……本当にいい眼をするようになったね。昔見た時は、暗く濁った黒だったけれども、今は透き通った綺麗な黒だ」
「……この村に来て、たったの半年で変わっちゃいましたからね。……本当に、いい所です」
「環境は人を変えるからね。各地を回る旅は、リンだけじゃなくて君にとってもいい刺激になるはずだ。目一杯、この広い世界を堪能してくるといいよ」
メイは最後にもう一度二人を抱き寄せ、それからポンポンと頭を撫でた。
二人とも二十歳を超えているにもかかわらず、不思議と恥ずかしかったり、嫌な気はしなかった。
それからもう一度村の人々全員に向けて別れの挨拶をすると二人は荷車に乗り込んだ。それを確認したモンメが手綱を握ってポポを進め始めた。二人が見えなくなるまで村の人々は手を降ってくれており、二人もそれが見えなくなるまで手を振り返し続けた。
やがてポッケ村が見えなり、二人は狭い荷車に揺られながらただ前を見つめていた。
「ドンドルマにはどれぐらいで着くかな」
「んー、そうだな。ゆっくりと向かうから四日、ってところじゃねえかな」
「そこそこかかるね……」
「移動こそが旅の醍醐味だからな。少し寄り道しながら向かおうぜ。どうせ式までは一週間以上あるんだ」
「まあ、それもそっか。そうと決まれば美味しい特産品のある町を回っていこうよ!」
「相変わらず食い意地張ってんな……」
「なっ、そういうわけじゃないよっ!どうせなら、って事で……!」
「はいはい、そういう事にしておくよ」
「ぐぬぬぬぬ……」
「パンでも食べて機嫌直しせ」
「食べ物で釣られると思わないことだよっ!」
「食べないのか?」
「…………食べる」
「だろ?」
二人のやり取りを横目で見て「うるさい人達ですニャ……」とモンメはこぼした。いつになっても変らない二人に半ば呆れているオトモであった。
「今日中にはフラヒヤ山脈は越えちゃいたいんだけど、ギルドマネージャーからもらった情報によると、ドドブランゴの目撃情報が出ているらしい」
「……なんならいま、少しずつだけどブランゴの群れに囲まれてるよね」
「これはお出ましかな……」
「早めに荷車は隠しておいたほうがいいかもね」
「だな、そうするか」
そして二人は獣の咆哮を聞いた。
「やっぱり旅にトラブルは付き物だな」
「でも、問題は無いでしょ」
「……まあな」
「──だって、ウチらはモンスターハンターなんだから」
まず最初に一言だけ。
一年と五ヶ月間、本当にありがとうございました。
誤字脱字が多かったり、文章構成力の無さから読みにくい文章になってしまったり反省点は山のようにありますが……。ひとまずこの三十話を迎えられたこと、本当に皆さんのお陰だと思っています。コメントや評価、お気に入りが励みになりました。
話数30話、文字数20万字余りと決して長いお話ではありませんでしたが、かなりの体力を取られる作業でした……。
さて、皆さん。
「回収してない伏線あるじゃないか」と思われた方もいると思います。それもそのはずです。
何を隠そうこのお話、書き始めた頃は四部構成の予定でした!(笑)
このベースで書き続けると完結は120話……。私の遅筆ではとてもとても達成できません……。
それでもこの打ち切りのような終わり方ではあんまりですし、まずキャラクターの掘り下げがされてなさすぎますよね。
そこで、頑張って続きを書かせていただきます。
ですが、一章30話といった分量にはもちろん出来ませんし、まず書き溜めが皆無です。いつ投稿が始まるかもわかりませんし、いつ完結するかも全くわかりません。
それでも一人でも読んでくださる方がいる限りは続けていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
ここで少し30話の内容に触れましょう。
巨大竜人の事は、ゲーム上でドンドルマに訪れたことがある人なら馴染み深いでしょう。
ポッケ村の開祖が巨大竜人だったってお話、非常に興味深くて面白いですよね。あの巨大な大剣を使うような人たちなら、ラオシャンロンの尻尾を切断しても納得できますよね。
ただ逆に、『大長老の脇差』って太刀ありますけれど、あれは彼らの脇差しにしては小さすぎませんかね……。
さて、すぐ始まるかもしれないし、開始まで時間がかかるかもしれない次章のタイトルは『白銀の鋼刃』です。
そうです、ガウの相方のレイラが主人公です。
時間軸は30話時点から10年前まで遡り、そこから今現在に至るまでのお話、つまりは第一章の裏話のようなものになります。
回想で一度登場しましたが、ガウとレイラの出会いについてなども詳しく書かせていただきます。
あと、この後に三十話までの登場人物紹介も投稿させていただきます。
ぜひ読んで復習してみてください。
『紅い双剣』としては最終話ですが、同じ小説の中で章分けで続きを投稿していきますので、新たに検索していただかなくて結構です。
ではまた次章でお会いしましょう!