モンスターハンター 【紅い双剣】   作:海藤 北

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 本章は第一章の終了時点から十年遡ったユクモ村から始まります。
 主人公はガウのパーティーメンバーでありポッケ村での騒動の決着に一役買った、太刀使いのレイラに移ります。
 第一章では非の打ち所のない天才的なハンターとして登場しましたが、十年前の彼女はどうでしょうか……。

 第二章の話数は第一章と比べてかなり少ないです。狩りの場面も少なくかなりハイペースでお話が進んでいきますが、第一章の裏話として読んでいただけたらと思います。


第二章 【白銀の鋼刃】
第三十一話 旅立ちの決断


 ハンターの世界において多くの英雄譚が語られるシュレイド地方からは遥かに離れた地。

 そこにはまた別の生態系が根付き、それに適応したハンターたちが己の武器を振るっていた。

 その地方の玄関口とも言えるモガの村から、大陸の奥へ奥へと進み、険しい山道を登り切ったところ。そこには温泉街として有名なユクモ村がある。

 山奥にある分モンスターからの被害も決して少ないとは言えず、専属のハンターが常駐している。

 そんな専属のハンターの中に、稀代の名ハンターとして若いながら有名になった一人の少女がいた。

 

 彼女の名前は、レイラ・ヤマブキ。まだ齢十七でありながら、G級ハンターとして狩猟場で活躍している。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「ただいま帰った」

「あ、お帰りなさいレイラさん」

「お帰りなさーい!」

 

 レイラが依頼を終えて集会所に戻ると、ユクモ村専属のギルドガールであるササユとコノハが迎えてくれた。

 

「依頼の方は達成した」

「伺っています。ええと、渓流でのナルガクルガ亜種の討伐クエストでしたね。報酬はこちらとなっています」

「うん、確かに」

 

 ユクモ村における、いわゆる集会所は湧き出しの温泉浴場が併設されており、集会浴場と呼ばれている。

 そんな集会浴場で、『日向・覇シリーズ』の防具を身につけた少女が受付嬢と書類の交換などを行っていた。

 彼女の身につけている日向・覇シリーズは、『峯山龍ジエン・モーラン』の上位素材を用いて作られた防具であり、その堅牢な作りに加え、刀剣を振るう者にとって有用なスキルが多く付与されている。

 

「レイラさん、お疲れのようでしたらぜひ浴場に浸かって帰ると良いと思いますよ」

「む、そうだな。そうさせてもらう」

 

 クエストから帰還したばかりでかなり汗もかいているので、レイラはササユの勧め通り湯に浸かることにした。受け取った報酬をポーチに入れ、番台をしているアイルーに挨拶をしてから浴場スペースに入った。

 武具を脱いだ彼女は「ふう」と一息ついた。武具というのはやはり重いものであり、脱いだ時の開放感とともに、狩りの疲れがどっとその体を襲う。

 

(この防具はやはり良い防具だ。……しかし、峯山龍の討伐は私一人で行ったものではない。いつまでもこんなものに頼っていてよいものか……)

 

 彼女はギルドカード上ではG級の称号を得ているが、ユクモ村にはG級の窓口が主事情より設置されていないため、それに合わせてあえて上位防具を身に着けている。

 

(まあ、峯山龍級の『バケモノ』を私一人で相手になど出来るわけがないのだが)

 

 レイラがジエン・モーランの素材を手に入れたのは、修行のために村を離れていた際に大砂漠の都市ロックラックにて開催された『峯山龍狩猟祭』に参加した時だった。

 ジエン・モーランは超大型古龍に分類される非常に危険なモンスターだが、その反面ジエン・モーランがもたらす素材や鉱石の希少価値が高く、街には大きな恵みを、立ち向かったハンターには大きな栄誉をもたらす『勇気と繁栄の象徴』とされ、『砂の国の風物詩』として広く知られている。

 対ジエン・モーランの狩猟は例外的に五人以上での参加が認められており、各々のパーティーが撃龍船に乗って、砂の大海原を駆けまわりながら己が腕をふるう。

 しかし対ジエン・モーランの狩猟はあくあまで街への被害を出さないことを優先としているため、討伐は義務とされていない。この点は他の古龍のクエストとも共通している。

 ──レイラが参加した際には無事討伐されたのだが。

 

(この武具は己が腕の象徴ではない。本当に高みを目指すならば自分一人で強大な敵に打ち勝たねばならない)

 

 ただひたすらにハンターとしての高みを目指している彼女は、ただG級という称号を手に入れだけでは満足できていない。

 防具を全て脱いだレイラはユアミタオルを体に巻き、頭から湯をかぶった後、足先からそっと湯に浸かった。

 狩りで使った全身の筋肉がほぐされていく感覚に、普段の彼女からすれば珍しい緩んだ表情で「はあーー……」と長い溜息をついた。

 自慢の長い銀髪が湯につかないように頭の上で丸めてあるため、うなじから覗く白い肌が色っぽく赤らんでいた。

 普段はハンターとしての修行に没頭している彼女だが、女性としての嗜みを捨てているわけではない。

 このように狩猟が終われば思い切り羽根を伸ばして、温泉の湯で肌を撫でながら、その艶などをまめに確認したりしている。

 その後しばらくしてから温泉から上がり、普段着として利用しているユクモノシリーズに着替えから、日向・覇シリーズは両手に抱えて集会浴場をあとにした。

 ユクモ村のハンターは、集会浴場から渡り廊下で直通の部屋を与えられるが、レイラは両親の実家で暮らしているため、いつも正面口から集会浴場を出入りしている。

 レイラが石階段を下っていると、下の方から自分と同じユクモノシリーズを纏った少女が急いで駆け上がってくるのが見えた。

 

「おや、サクラじゃないか。どうしたんだそんなに急いで」

「あっ、レイラさん!」

 

 サクラと呼ばれた少女はレイラに呼び止められてその足を止めた。

 髪型はレイラと同じようにロングで前髪を切りそろえており、瞳もその髪と同じように美しい黒色をしている。

 

「もしかしてご両親と一緒に狩りに行くのか?」

「は、はいっ!あの、お父さんとお母さんはもう来てましたか?」

「いや、私が出た時にはまだいなかったから大丈夫だと思う」

「良かったー……。畑にお水をあげていたら思いのほか遅くなっちゃって」

「そんなに急いで転んで怪我でもしたら、元も子もないから気をつけるんだぞ」

「は、はいっ!気をつけます……!」

「じゃ、またな」

「いってきまーす!」

 

 そう言って黒髪の少女サクラは、さっきよりは速度をゆるめた軽い駆け足で石階段を登っていった。

 レイラは彼女の一家が好きだった。

 サクラの両親は両名ともハンターで、サクラもその影響を受けて駆け出しハンターとして頑張っている。ハンターとは言ってもまだ十歳になったばかりの彼女は、キノコやはちみつ採取程度のクエストにしか行っていない。

 サクラの両親はというと、両名とも上位の資格を持つハンターだが、腕前としては可もなく不可もない。レイラと比べてしまうと遥かに劣ってしまう。

 しかしサクラは腕前が劣る人間が嫌いなわけではない。確固たる目標や、意志のない、人間が嫌いなのである。

 サクラの両親、シラカゼ夫婦は村のみんなを守りたいという一心からいつも狩猟場を駆けまわっている。その姿はレイラにとって尊敬すべきもので、いつかああなりたいと常日頃から思わされていた。

 

 レイラが石階段を下り終えると、左手に長椅子に座って涼んでいる竜人族の女性の姿があった。

 

「どうも村長さん」

「あらレイラさん。クエストお疲れ様」

 

 人よりも永く生き、人よりも多くの英知を持つ竜人族は人々を導く存在として村や街の長に就くことが多い。

 この村長も、見た目こそ三十代ほどではあるが、実際のところどれほど生きた存在なのかはわからない。

 

「あの、この間相談した件なのですが……」

 

 レイラにしては珍しく、申し訳無さそうに村長の顔を伺った。

 対して村長はニッコリと笑うと「そんな顔なさらないで」、とレイラの肩に手をおいた。

 

「もう一度村を出て修行の旅に出たい、ということでしたわね」

「はい……」

「大丈夫ですよ。この村にはシラカゼさんの一家以外にも多くのハンターさんがいらっしゃいますわ。だからレイラさんは何も気にせず、自分のやりたいことをやればいいのですわ」

 そう言って村長は、懐にしまってあった紙の束をレイラに手渡した。

「これは……?」

「わたくしの知り合いの方々が多くいらっしゃる地方の地図ですわ。──ドンドルマ、という名に聞き覚えはあるでしょう?」

「ドンドルマといえば、遥か離れたこの地にも聞き及ぶハンターの街ですね」

「まだまだ若いのですから、どうせならば遠く離れた異国の地まで行って、そこで己の力を高めてくると良いでしょう」

 

 いずれは遠くへ行ってみたいと思っていたレイラにとってはこれ以上にない申し出だった。

 それにドンドルマのといえば、風邪の噂に聞く伝説級のハンター、【赤眼の獅子】などもいるという街ではないか。その他にも自分とさほど齢の変わらないというG級ハンターもいるとか。

 レイラはすでにまだ見ぬ異郷の地に心を踊らせた。

 

「しかしレイラさん。これには一つ条件があります」

「条件、ですか」

「はい。レイラさんは、今となってむこうの地にも広く名の知られたハンターです。悲しいことですが、あなたのことを利用しようとする人間も沢山出てきます」

「…………」

 

 村長の言っていることはレイラにとって見に覚えのある話だった。

 以前モガの村やロックラックに修行に行った時に、自分に向けられる沢山の悪意があることを知った。

 

「ですから、わたくしが呼んだ者をお一人だけ同行させて欲しいのです」

「……つまり監視する人を付けなさい、ということですね」

「そうです。数日以内には村に来られるそうなので、出発はその時でよろしいですか?」

「……そうですか、わかりました」

 

(村長の紹介する人物なら、何も問題はない、はずなんだが……)

 

 村長と別れた後も、レイラはなにかモヤモヤと引っかかる感情に苛立っていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「ただいま」

 

 そう言ってレイラが実家の扉を開けると、両親と美味しそうな香りが出迎えてくれた。

 

「おかえりなさいレイラ。ご飯できてるわよ」

「母上、今日は献立は……」

「ヨロイシダイの煮付けよ」

「やった!私の好物!」

 

 両手を上げて喜ぶレイラの様子は、家の外ではなかなか拝めない。

 普段から大人びた言動をするレイラだが、そんなに取り繕ったところでまだ十七歳の少女である。

 

「でも、ヨロイイシダイのうろこ取りなんて大変だったんじゃないの」

「そこはお父さんに任せたから大丈夫よ」

「やれやれ骨が折れたよ……」

「父上、ありがとうございます!」

「はは、レイラの喜ぶ顔が見られたから良かったよ」

「お父さんったら、わざわざ自分で釣りに行ったのよ」

「たまには行かないと腕がなまってしまうからな」

「はいはい、それじゃあ食べましょうね。ほら、レイラも席について」

「あっ、いま防具置いてくるから」

 

 自室に武器と防具を置いたレイラは席につき、手を合わせてから両親との食事を楽しんだ。

 

(やっぱり母上の料理が一番だな)

 

 そんなことを思いながら、レイラはとあることを言おうかどうかの決断に悩まされていた。

 とあること、とはもちろん、さきほど村長から受けた提案のことである。

 ロックラックなどに出向く際も一度は止められたほど心配症な両親だ。遠く離れた異国へ行くとなれば一悶着あるに決まっている。

 だが、今回その話題を言い出せないでいる理由はそれだけではない。

 それほど遠く離れた地へ赴くということは、簡単には帰ってこられないであろうということだ。

 気軽に往復できるような距離ではない。折角の機会を有効に使うためには、一年や二年程度では戻ってくることはできないだろう。

 

「どうしたの、レイラ。お箸が止まっていますよ」

「あ、いや……。その……」

 

 この母の料理ともお別れとなると考えると、いよいよ話題を出しにくくなってしまった。

 そのため次にレイラの母が言った言葉は、彼女を動揺させるには十分だった。

 

「村長さんからお話は聞いています」

「……え、それってどういう……」

「レイラが最近、また村を離れて修行したいって言ってるってこと。ちゃんと聞いてますよ」

 

 母はあくまで微笑んでいるが、父は仏頂面で黙っているので、やはり反対されるのだろうな、とレイラは半ばあきらめた。

 両親といえば、自分がハンターになるといった時でさえ反対したのだ。一人娘を異国の地に行かせてくれるほど甘くはないだろう。

 しかし母の言葉は、またもやレイラが予想もしなかったものだった。

 

「……行ってもいいんですよ」

「…………えっと、……え?」

「今回は私は反対しません」

「で、でも……。今回はモガの村やロックラックに行った時とは話が違うよ……。一度行っちゃったら、何年も戻ってこないかもしれない。一度熱中しちゃったら、私にはそれ以外見えなくなっちゃうから……」

「お、俺は反対したぞ……!」

 

 いつもならもっと強く出てくるレイラの父も、今日ばかりはなぜか大人しかった。

 

「レイラはもう十七歳。人の家に嫁いで、ここを出て行く事だって出来る年齢なんだから。いつまでも親が縛り付けていちゃだめかなって、お父さんと話し合いをしたの」

「ふん……」

「父上、母上……」

「だから、私たちは止めないわ。レイラのやりたいようにやりなさい。出発の日まで、ご飯はレイラの好きなもので作ってあげるから、食べたいものがあったら言ってね」

「…………ありがとう、ございます…………。本当に…………」

「あらあら、泣かないで。もう十七歳でしょ」

「…………わかってる、だけど…………」

「大丈夫、大丈夫。何も今生の別れってわけじゃないんだから、ね」

 

 若くしてG級まで上り詰めた天才レイラは、本当に久しぶりに親の腕の中で泣いた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 いよいよレイラがユクモ村を発つ日になった。

 その見送りは村人総出によるものだった。激励をしてくれる人、ねぎらいの言葉をかけてくれる人、笑って手を握ってくれた人、泣きながら惜しむように手を握ってくれた人。

 そんな村の人々を見て、レイラは自分は幸せ者であることを実感し、後ろ髪を引かれる思いになった。

 しかしそんな名残惜しさを振りきって、グァーガが牽引する荷車へと向かった。

 その荷車の際には、村長と初めて見る長身の男が立っていた。

 

(この人が……)

 

 村長が言っていた監視役、なのだろう。

 村長の気持ちは痛いほどわかるが、それでもレイラは心のモヤモヤが消えなかった。

 レイラはあくまで、己の力を試しに新天地へと赴くのであって、同行者などは不要であると考えている。

 もしも自分一人では完遂不可能なクエストが出てきた時、その時に初めて現地で仲間を集め、そのクエストが終われば解散させてしまえばいいというのがレイラの考えだった。

 目の前の男の身長はゆうに一九○を超えており、身につけている武具もG級のものだ。

 

(まあ村長の紹介の人だから、実力は確かなんだろうけど……)

 

 そんなことは今のレイラには関係なかった。

 彼女にとって同行者のだというこの男の存在が、体にできたしこりのように思えてならなかった。

 

「ダフネ・フランクだ。よろしく頼む」

「……レイラ・ヤマブキだ」

 

 村長との約束なので同行を断るわけにも行かず、レイラは渋々ながらダフネと荷車に乗り込んだ。

 ふと後ろを振り返ると、涙を浮かべながら見送ってくれている両親と、大きく手を振りながらレイラに別れの言葉をさけんでいるサクラの姿があった。

 

「レイラさん!私っ……、絶対にレイラさんにみたいなハンターになります!!絶対に、なりますからっ!!だからっ、それまではさようならーー!!」

 

 そんなサクラにレイラも大きな声で別れの言葉を返した。

 村人が点になって見えなくなるまで、レイラはずっと後ろを振り返っていた。

 そして遂に何も見えなくなると、前を向き直し、それから横で手綱をにぎるダフネの方をちらりと見た。

 

 その視線はやはり不要なものを見るそれであったが、レイラの、ダフネへの見方が変わったのはこの後すぐに遭遇する出来事のおかげだったりする。

 

 端的に言うと、旅路でいきなりモンスターと遭遇したのだった。




 十年前のということで、レイラの歳は十七歳。この時点でG級ハンターであり、その腕前は十分なものなのですが、第一章のレイラと比べると色々と幼いです。
 第一章ではスポットがあまり当たらなかったダフネもたくさん登場してきます。その他だ一章の登場キャラクター達はあと少しお待ち下さい。
 あと、今回は一章の反省を活かして、こまめに登場人物紹介を挟むことにします。
 本文が読みやすいように改行などを少し改善しました。第一章にもそれらを適用させて順次直していくつもりです。
 
 それではまた次話で。
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