モンスターハンター 【紅い双剣】   作:海藤 北

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試験期間が明けたので、投稿再開します!
長めです!


第六話 密林の大怪鳥

「あづい……」

 カイトとリンとガウの三人は、三日間かけてテロス密林に到着した。ちなみにポポは暑さに弱いため、途中の村でアプトノスの竜車に乗り換えている。

「前も暑かったけど、今日は特に暑いね~」

「お前、よくマフモフなんて着てて大丈夫だな」

「だ、大丈夫じゃな、い……」

 ポッケ村よりもかなり南に位置するテロス密林は一年を通して温暖で、毛皮のコートでいるには少々暑すぎる気候である。

 マフモフ全装で固めたカイトは当然、赤顔多汗の大惨事である。

「こまめに水分補給をするんだぞ。狩りに来て熱中症で倒れました、なんて元も子もないからな」

「わがってます……」

「よし、そしたら二手に分かれて捜索しよう。お前ら二人は絶対一緒にいること。標的を発見したらかならずペイントボールを当てること」

「らじゃー!」

「了解……」

 二人はガウと分かれるとエリア4の海岸線を抜けてエリア3に到達した。

 カイトはふとエリア7へと続く洞窟の入り口を見た。

 後からガウに聞いた話だが、リオレイアはガウの友人らが無事討伐したらしい。

(俺もいつかは、あんな飛竜を狩れるようなハンターになりたい)

 カイトは決意に燃える瞳を静かに閉じた。

 それを見てリンは微笑んだ。

(……ウチも、頑張るよ)

 二人は再びイャンクックの捜索を再開した。

 

「げ、行き止まりか」

 カイトはエリア8の岸壁の上に立っていた。

「このツタで下りられるんじゃない?」

 リンの指差した先には、岸壁に何重にも絡まってツタが生えていた。

「なるほどな。んじゃあ降りてみるか」

 そう言ってカイトはツタ伝いに下りていく。そしてそれにリンも続く。

 降りていく途中でカイトに近付く影があった。

「……!気をつけてカイト、ランゴスタだよ!」

 ランゴスタは甲虫種の仲間で、巨大な蚊のような見た目をしている。尾の針から分泌される麻痺性の液で獲物を弱らせ捕食するのだが、人間はならば数秒麻痺する程度で済む。そのため直接命に関わるようなことは無い。しかし──

(今やられたら、落ちる!)

 しばらく空中停止していたランゴスタが急降下をしてカイトを狙う。

「うぉっ!?」

 カイトは体をひねって紙一重で麻痺針を避ける。

「あ、あぶねー……」

 安堵するカイトの頭上で、ぶちっ、と音がした。

「ん、何の音だ?激しくいやな予感がするんだが……」

 ぶちっ、ぶちぶちぶちっ、とその音は続く。

 よく見るとカイトの握っているツタが次々と切れている。

「えっ、ちょっとまっ──」

 ぶっちーん、とついにツタは切れて、カイトはまっさかさまに落下する。

「っうおぉぉぉおぉ!?」

 どちゃっと地面に落ちるが、幸い下は何らかのモンスターの巣立ったらしく、小枝と枯葉のクッションが衝撃を和らげてくれた。

「…痛ててて…ついてねえ……」

 起き上がろうとしたカイトのお腹の上に何かが落下してきた。

「ぐほっ!?」

 同じツタにつかまっていたリンもその上に落ちてきたのだ。

「わわっ、ごめん!今上どけるから!」

「……お、重い……」

 ぶっちーん、とツタではなく、他の何かが切れる音がした。そして続いて「ばっちーん」と何かが叩かれる音がした。

「……キ、キミはデリカシーってものが無いのかな?」

 リンはワナワナと体を震わせてカイトを睨む。

「……すいませんでした」

 ぶたれた頬がまだ痛む。

「……いいよもう、先進もう」

「……はい」

(怒ってる……。温泉の時並に怒ってる……)

 「ゴゴゴゴゴゴゴゴ……」という効果音とともに進んでゆくリンの後ろを、カイトは静かについて行った。

 

 エリア6に入ると、リンは何かに気が付いたように急に真剣な顔つきになる。

「大型モンスターの寝床みたいだね」

 言われてみれば洞窟の中央部に何か大きなものが居たであろう痕がある。

 丁度その時翼のはためく音が二人の耳に入る。そしてそれは、洞窟の上部に開いた穴から入ってきた。

「あ、あれが」

「……イャンクックだね」

 全身を覆う赤い鱗、青い大きな翼、顔全体を覆う大きなクチバシ、そして何よりも──こちらの存在に気が付いたイャンックックが咆哮とともに広げた扇状の耳。

 自分の何倍もある巨躯、初めての大型モンスターとの闘いを前にカイトの体中から汗が噴出す。

「クエェェエェ!」

 イャンックックが、自分の縄張りに入った敵へ、怒りを向ける。

「来るよ!」

「おうよ!」

 二人は武器を抜くと臨戦態勢にはいる。

 カイトはふと竜車に乗っているときのガウの言葉を思い出す。

『イャンクックは人間を捕食すようなことはしない。しかし、縄張り意識が強いから、自分の縄張りに入った奴は徹底的に排除しようとする』

 なるほど、と思うとカイトはリンに叫ぶ。

「常に洞窟の出口の近くで戦うんだ!イャンクックは俺達を縄張りから追い出したいだけだから、そこまで追って来るような事はしないはずだ!」

「なるほどね……うん、わかった」

 イャンクックが二人に向かって突進をする。

 リンは大剣の腹でガードし、カイトは大きく跳躍して避けると、腰にぶら下げておいたペイントボールを手に取りイャンクックに投げつける。「べちゃり」という音と共にペイントの実の粘液がイャンクックの体に付着し、鼻を刺すような臭いが辺りに広がる。

「う、この臭い結構きつい……」

 リンは突進の勢いで前のめりになっているイャンクックに一撃を叩き込む。

 しかし、目に見えるようなダメージは無く、逆にリンは甲殻に弾かれ仰け反っている。

「この甲殻、思った以上に硬い!」

 イャンクックは立ち上がるとリンに向かって尻尾を回転させる。

「うわっ!」

 リンはとっさに前転回避すると、納刀して距離を取る。

「甲殻が硬い上に、尻尾のせいで後ろにも死角が無い!これじゃ思うように攻めれないよ!」

(甲殻は硬くて歯が立たないか、それなら──)

 カイトはランポスクロウズを構えてイャンクックに向かって突進し、腹下にもぐりこむ。そして腹に向かって回転しながら三連撃を叩き込む。

「やっぱりな!甲殻の無いお腹なら十分に歯が通る!」

 イャンクックが突進をしようと構えたので、足に巻き込まれないようその場を離脱する。

 イャンクックはそのままリンに向かって突進するが、再びリンはガードをして防ぎ、腹下へと潜り込む。

「はあっ!」

 頭上に弧を描くようにゴーレムブレイド改で斬り上げる。

 イャンクックが怯んでいる隙に足元を離脱し、すばやく納刀する。

 一撃離脱──それは、極端な重量武器である大剣を扱う上で最も基礎的な立ち回りだ。一撃を抜刀で与え、納刀し、隙を見つけてまた抜刀する。大剣を構えると非常に動きが鈍くなってしまうため、このようにして戦わないとモンスターの攻撃を喰らう可能性が非常に高くなってしまう。

 つぎの標的をカイトに絞ったイャンクックは突進のモーションに入る。

(ギリギリまで引き寄せて避けた方が、カウンターに早く移れるな)

 カイトはイャンクックが突進をしかけるのを待った──しかし、イャンクックは突然『十数メートルもの距離を一跳躍で詰めてきた』。

「なっ!?」

 突然の攻撃に、横へ飛び込むような形で回避する。

(なんつー脚力だよ!)

 跳躍距離としてはドスランポス等と大して変わらないのだが、その巨体がそれだけ跳ぶという時点でおかしいのだ。

 カイトが立ち上がろうとした瞬間───

「っ!カイト、危ない!」

 イャンクックは跳躍した姿勢のまま体をひねり尻尾をカイトへ向かって振ろうとしていた。

「くっ……!」

 その尻尾を避けようと更に横へ逃げる。

 しかし、イャンクックは更に次の攻撃へと移ろうとする。

「はぁっはぁっ!クソッ、スタミナが……!とにかく逃げねえと……!」

 スタミナが尽き、視界も不安定になってきた。

「カイト!腹下!」

(腹下……そうか!)

 疲労に固まった体を無理矢理動かすと、最後の力で突進を仕掛けて来たイャンクックの腹下を前転回避で避ける。

 そこへリンが飛び込み渾身の回転斬りをイャンクックの足へ叩き込む。

「クワァアァア!?」

 その一撃でイャンクックは転倒し、リンはカイトに肩を貸すとエリア5の方へ向かって走り出す。

(……クソッ、また助けられた……)

 逃げながらカイトは、自分の弱さを痛感した。

 

 

 

「取り敢えず水飲んで」

 カイトはリンに手渡された水筒の水を飲む。

「はぁ……。悪いな、助かった」

「ううん、礼を言われるようなことじゃないよ」

 ニコッと可愛らしく笑う。イャンクックと対峙する前の怒りオーラは全く見られない。狩りのこととなるとスイッチのオンオフがすぐに出来る奴だ。……単にアホ、ではなく忘れっぽいだけかもしれんが。

「……いま、すっごい失礼なこと考えたでしょ?」

「滅相もございません」

(何でこの村の連中は人の心が読めるんだ)

 また怒られても困るので、すぐに話を切り替えた。

「それよりもイャンクックへの立ち回りのことなんだが、最後みたいに連続して攻撃されるとスタミナが持たない。どうにかしてうまく立ち回れねえかな……」

「あ、その事なんだけどね、さっきお腹への攻撃をした時に気が付いたんだけど、足元って実は向こうの攻撃が全然こないんだよね。だから足元を中心に立ち回っていれば基本大丈夫かな。突進されたときは横に飛ばばいいし、さっきみたいに距離を詰められたり、尻尾を振り回されたら、腹の下をくぐって避けるのがいいかも。イャンクックは急に真後ろ向けないみたいだしね」

「な、なるほど……」

 カイトは素直に感嘆してしまう。

(さっきの短い戦闘の間にそこまで観察できるなんてな……。大剣の扱いもそうだし、リンは間違い無くハンターとしての天賦の才能の持ち主だ)

「あ、ちょっと待ってね、いま回復薬の調合するから……わぁっ!?ナニこれ、紫色になった!」

 ──実戦においては、か。

 

 

 

「それじゃあ、十分に休憩したし行くとするか」

「……ううん、その必要は無いみたい」

 言われてみればペイントの臭気がこちらへ近付いている。

「よし……、さっきやられた分ここでやり返す!」

「油断しちゃ駄目だよ!」

 イャンクックの着地点にリンは移動してゴーレムブレイド改を構える。

「はああぁぁぁ!」

 イャンクックは最大溜めの斬撃に堪えられず地面に落下する。

 地面でもがくイャンクックにリンは回転斬りを、カイトは乱舞を叩き込む。

(ドスギアノスの時には無意識にやっていたけれども、これ鬼人化って言うんだってな……)

 無意識で鬼人化を取得したということには、ガウもブルックも驚いた。

 それもそのはず、鬼人化は素人が双簡単に扱えるほど易しい技ではないのだ。

(にしても、鬼人化はスタミナの消費が激しいな……。あんまり使いすぎると、もしもの時に回避が出来ないな)

 イャンクックが立ち上がろうとすると、カイトは素早く距離をとり納刀する。

「はぁっ!はぁっ……!」

「大丈夫?」

「あ、ああ……」

 口では大丈夫だといっているが、たった一度の乱舞で休憩した分のスタミナを全て持っていかれたような錯覚に陥る。

(クソッ、こんなのそう何回も使えねえぞ……!)

 リンは立ち上がったイャンクックの足元へ素早く移動し、抜刀、回転斬り、斬り上げの三コンボを見舞う。

 イャンクックの意識は完全に足元のリンにいき、リンをクチバシでついばもうとする。リンはそれを横へ回避すると、納刀して更に距離をとる。

 その隙にカイトはイャンクックへ接近し、連続して剣を叩き込む──しかし、その内の一撃がイャンクックの足へヒットしてしまう。肉質の硬い足を全力で斬りつけてしまったカイトは当然体を大きく仰け反らしてひるんでしまう。

 そしてそこへイャンクックの回転尻尾攻撃が向けられる。

(避けれねえ!)

 カイトはとっさに頭部を両腕で覆う。その瞬間、イャンクックの尻尾が腕ごとカイトを吹き飛ばす。

「かはっ……!」

 カイトは二、三度バウンドして、さらに地面を転がる。

「カイト!」

 倒れているカイトの元へリンが駆け寄る。

「大丈夫!?意識はある!?」

 リンはカイトの顔を覗き込む。するとカイトは「いててて……」と頭を押さえながら上体を起こす。

「尻尾を喰らう直前に、自分で後ろに跳んでショックを和らげたから、思ったほどのダメージは無いな……。それよりリンは、目の前の目標に集中してくれ……!」

 カイトが無事なのを確認すると、リンはホッと胸を撫で下ろして、イャンクックの方へ向きなおす。

「カイトの敵は、ウチが取る!」

「いや、まだ俺死んでないけどね!?」

 リンがイャンクックに向かって走っていくのを見て、カイトは立ち上がると、口元の血をぬぐって応急薬を飲む。

(あの硬い甲殻が厄介だな……。どうにかしてアレを吹き飛ばせないか)

 イャンクックと闘っているリンの方へと走っていく途中で、さっきの洞窟を脱出するの時の光景を思い出す。

(そういや、足には大剣の刃が通ってなかったのに、どうして転倒させることが出来たんだ……?いくらリンが馬鹿力だからといって、打撃だけで転ばすことが出来るのか……?)

 カイトの接近に気が付いたイャンクックは猛ダッシュでカイトに向かって突進する。それをカイトは回避し、振り向きざまに急ブレーキを掛けて、ターンをしようとするイャンクックを見る。そして気が付いた。

(……そういうことか!)

 カイトはイャンクックの攻略法を確信すると、リンに向かって叫ぶ。

「リン!急停止したタイミングだ!」

 それだけ言っただけでリンはハッとした顔をして、納得したようにうなずく。

(たったこれだけ言って理解するなんて、やっぱさすがだな)

 再びターンをしてカイトへ突進するイャンクックをかわすと、カイトはその後を追う。そしてそれに気が付いたイャンクックは更にターンをしてカイトを迎撃しようとする。

「……今だ!」

「うん!」

 今まさにターンをしているイャンクックの元へリンが走りこむ。ターンをしているそしてイャンクックの軸足──すなわち内側の足を、外側からなぎ払う。

「クエエエェェ!?」

 急ターンというバランスが不安定な状況にあった所へ、更に外部からの力が加わり、イャンクックはいとも簡単に転倒した。

「よし!」

「そんじゃあ、畳み掛けるぜ!」

 カイトは頭上でランポスクロウズを交差させる。「バシュッ」という音と共にカイトと双剣を赤いオーラが包む。

(動き回るイャンクックに鬼人化をしても意味がない。確実に何発も食らわせる状況にだけ使う!)

「おおぉぉぉ!」

「はあぁぁぁ!」 

 カイトは胴体へ乱舞を、リンは頭部へ溜め三攻撃を与える。

「グワアアァァ!」

 イャンクックは大ダメージを負って、じたばたともがく。

 ここで更に追撃をしたいところだが、鬼人化の長時間維持は体がもたないので、武器を収めて距離をとる。それにあわせてリンもイャンクックから距離をおく。

 イャンクックは立ち上がると、その大きな翼をはためかせ飛び始めた。

「まずい、エリア移動か!……クソッ、ペイントの効力が切れている!」

 気が付くと、辺りにはあの鼻を刺すような臭いはなくなっていた。

 飛び去る方向を見極めようと、イャンクックを注視していると、イャンクックは突然エリアを囲むように旋回飛行を始めた。

(……?なんだ、何をしている……?)

 イャンクックはしばらくエリアの周りを飛び回ると、突如二人の居る方向へ急降下してきた。

「んなっ!?」

「うわっ!」

 カイトは大きく横にだいぶして避けるが、リンは反応に遅れてしまい、苦し紛れにガードをする。

 しかしリンはそのガードごと吹き飛ばされてしまい地面を転がり、岩壁に衝突する。

「……ぐっふぅっ……!」

「リン!」

 カイトはリンの元へ駆け寄ろうとするが、イャンクックがカイトの目の前に割って入り、思わず距離をとる。

 しかしそれがまずかった。イャンクックは後ずさったカイトに向かって火炎液を放つ。

「なっ!?」

 初めて見る攻撃にカイトは一瞬動揺し回避が遅れた。直撃はしなかったものの、フードや、コートの袖の部分に火炎液を喰らい燃え始める。

「あづっあぁ!」

 マフモフは殆どがガウシカの毛皮で作られているのであっという間に火が広がていく。

「ぐっ、がっああぁぁ!」

 エリア5の付近には水場がなく、火を消す手段がない。コートを必死で脱ごうとするが、マフモフは頭からかぶるポンチョのような構造をしているので素早く脱ぐことが出来ない。

 そして、熱さにもがくカイトへ向かってイャンクックが突進を仕掛ける。

(ぐっ!くっそ、避けらんねぇ……!)

 避けなくてはならないことは頭ではわかっているが、熱さのあまり体がいうことをきかない。

イャンクックがカイトへ到達する瞬間、一発の発砲音が響き、続いてイャンクックの頭部で爆発が起きる。

 そして、少し離れたエリアの境目辺りから一つの影がカイトの元へと走り寄って来る。そしてその影は、腰からナイフを取り出すとカイトのコートを縦に引き裂き、無理矢理脱がせた。

「はあっ……はあっ……。ガウか……。た、助かった」

 カイトを助けたのは先程二手に分かれたガウだった。

 カイトは応急薬を飲み干すと辺りを見回す。

「そんなことより、リンは!?」

 先程イャンクックの滑空に吹き飛ばされたリンを土煙の中に探す。

「ウ、ウチは大丈夫だよ……」

 予想外にも後ろから声を掛けられる。

「リン!大丈夫だったか!?」

「うん、直接的な攻撃は大剣のガードで喰らわなかったし、壁に衝突したときも防具のお陰で何とか……」

 リンを見ると擦り傷や切り傷が多少見られるがそれといった外傷はなく、防具にも大きな破損は見られない。

(それに比べて──)

 自分はどうだろうか。カイトは上半身がインナーだけになった自分の体を見回す。

 マフモフは一応分類では防具ということになっているが、実際にはただの防寒具だ。イャンクックの火炎液を一度喰らっただけで殆ど燃え落ちてしまった。

(そろそろ防具も作らなきゃやっていけないってことか……)

「さて、そろそろイャンクックの意識が戻るぞ?お前等準備はいいか?」

 イャンクックは背筋を伸ばして顔を上に向けてふらふらと立っている。

 イャンクックは、非常に優れた聴覚をしている半面で大きな音に弱いという弱点がある。ハンターは普通、音爆弾などでイャンクックの聴覚を奪うが、他にもタル爆弾でも可能である。そして今回の場合は、ガウの徹甲榴弾である。

 イャンクックは意識が戻ると、嘶き、その場で何度も跳ね、その口からは火炎液が漏れていた。

「怒り状態だ、気をつけろ!特にカイト、今のお前が攻撃を喰らってタダですむと思うな!」

 怒り状態とは、名の通りモンスターが怒った状態で、攻撃力や肉質が大幅に上昇したり更には──

(……早い!さっきまでとは比べ物になんねえ!) 

 カイトはイャンクックの猛攻を右へ左へと回避しながら反撃のタイミングをうかがう。しかし怒り時の凄まじいスピードのイャンクックを前に全く攻撃が出来ない。

 リンの方を見ると同じようになかなか攻撃に踏み込めず苦戦しているようだ。

 カイト達が一番恐れていることは、誤って肉質の硬い部分に攻撃がヒットしてしまった時のことである。攻撃が弾かれひるんでしまったら、まず次の攻撃は避けれないだろう。

(そういえば……)

 ガウ、と呼ぼうとした所でイャンクックが飛び去ろうとする

「まずい!ペイントの効果が切れてるよ!」

 リンが叫ぶや否や、ガウはヘビィボウガンのタンクメイジを構えると空へ舞い上がったイャンクックにペイント弾を打ち込む。

 タンクメイジは、火力が特別火力が低い訳ではないのだがそれでもカイトと集会所で始めて会った時肩に担いでいたデュアルキャストと比べるとやはり劣るものがある。回復弾やペイント弾が撃てるところから補助用に使っているのだろう。

「ふぅ、まあこれで一旦体勢を立て直せるか。さっきは助かりました有難うございます」

「まあな!格好よかっただろ、ピンチに駆けつけてさ」

 ガウが胸をドンと叩く。

 しかし、リンはそのガウをジト目で見てこう言った。

「……ずっと陰に隠れていつ飛び出そうかタイミング窺ってたしょ」

「え?」

「ふふ、あの狩りの最中俺の存在に気が付くとはさすがだ」

「……オイ、アイテムの荷台はどこやった……?」

「おやおや、急に言葉遣いが荒くなったな」

 カイトは額に青筋を浮かべてガウを睨む。

「年上には敬語を使うようにしていたんだが……アンタは例外だ」

「例外!?」

 ガウは「何故!?」という顔をしているが、カイトとリンは相変わらず冷ややかな目でガウを見ている。

「ぐ……ま、まあいいじゃないか。もう過ぎた話だろ?ホラ、こっちに荷台があるから」

 ガウについていくと草むらの影にさまざまなアイテムの乗った荷台が隠されていた。そして──食べ散らかされたヤングポテトチップスと、食べながら読んだであろうオトナ向けの雑誌が散乱している。

 上段回し蹴り一発。

 平手打ち一発。

 最初がカイト、二発目がリン──かのように見えるが実は逆である。一発目のリンの上段回し蹴りがあまりにも強烈で、ガウが少しかわいそうに見えたため、平手打ちで勘弁してやることにした。

 しかし、一発目が強力すぎたのか、ガウはそれでKOされてしまった。

「わあ、カイトの平手打ち効果抜群だね」

「いや、多分違うと思うぞ」

 ガウは完全に白目をむいて動かなくなってしまった。

(第一印象ではもう少し真面目な人だと思っていたんだけどな……)

 

 

 

「それじゃあ作戦通りに行くぞ」

「うん」

 ペイントの臭気を追って三人(うち一人は意識不明の重体により二台の上)はエリア3に来ていた。

「それじゃあ準備が出来たらサインを送って」

「うん、わかった」

 カイトは、イャンクックに気付かれないように静かにエリアの端を移動する。そしてイャンクックをはさんで丁度リンと反対側まで来ると、大声出してイャンクックの注意を引く。

「こっちだ鳥野郎!」

 カイトに気が付くとイャンクックは飛び跳ねてから、突進を始める。まだ怒り状態から戻っていないようで、口元から火炎液が漏れている。

 カイトはそれを大きく避けると、距離をとって攻撃に移ろうとしない。

 イャンクックは振り向くと火炎液をカイトに向かって吐き出す。

 カイトはそれを横に避けるが、その避けた方向へ更に火炎液が吐き出され、カイトの目の前に着弾する。

「あづっ!」

 カイトは更にイャンクックから距離をとる。

(あんなに連発できるのかよ……!こりゃ、長くは持たないな)

 カイトは額から吹き出す汗をぬぐう。

 丁度そのときリンが声を上げる。

「準備できたよ!」

「よし!」

 カイトは一直線にリンの元へと向かう。そこにはシビレ罠が設置してある。つまりドギアノスの時と同じく陽動作戦である。

 しかし、ドスぎあのすの時とは決定的に違うことがある。それはシビレ罠と一緒に設置された二個の大タル爆弾である。大タル爆弾はタルの中に大量の火薬を詰めた非常な危険なアイテムであるため、人によっては敬遠しがちな傾向にあるが、その危険さと引き換えに絶大な破壊力を誇る。また、安全面への考慮からギルドは一人が一度に設置できる大タル爆弾は例外を除いて二つまでという決まりを定めている。

 カイトがリンの元へ到達しようであろうその時、カイトは突然横に吹き飛ばされる。

「がはっ!?」

 カイトを襲撃したのを猪のような外観をした牙獣種ブルファンゴである。

 ブルファンゴは環境適応能力が高く、ほぼ世界の全域に生息する。どこからともなく現れ突進をして、今日もどこかで大型モンスターと戦うハンターの邪魔をしている。

「……っ!」

 イャンクックはリンに向かって突進を始めたが、その先にはカイトが倒れている。上半身インナーのカイトは防御力が無いに等しく、先程のダメージでなかなか立ち上がれないでいる。

 リンはカイトの元へ滑り込み、抱きかかえると、そのまま一緒に横へ回避した。そして、そのまま横にいたブルファンゴを抜刀で斬り捨てる。

 振り返ると停止できずにシビレ罠にかかったイャンクックが体を痙攣させていた。

 リンは手元を見ると、先程まで起爆用に持っていた石ころが無くなっていた。おそらく回避した際にどこかに落としたのだろう。

(どこかに代わりになるものは!?)

 必死に辺りを見回すが、草が生い茂っており石のようなものは見当たらない。

(まずい……!そろそろシビレ罠の効力が切れちゃう!)

 直後にシビレ罠が「ボン!」と音を立てて壊れた。

(こうなったらウチの剣で起爆する!)

 リンがゴーレムブレイド改を抜こうとした瞬間、突如大タル爆弾が爆発し、リンは熱風に思わず顔を手で覆う。

(だ、誰が起爆を!?)

「ふう……今のはマジでギリギリだったな」

「ガウ!」

 土煙の向こうには、荷車に腰掛けたままタンクメイジを構えるガウの姿があった。

 そして大タル爆弾の爆発で倒れたイャンクックが──立ち上がった。

「お、瀕死のようだな」

 イャンクックの耳が小さくたたまれている。これは瀕死状態の合図である。

 イャンクックは立ち上がると足を引きずって逃げ出そうとする。

「待っ……痛っ!」

 リンは立ち上がって追いかけようとするが、先程の回避行動の際に足を挫いたらしく、足を押さえて座り込んでしまう。

 ガウは既にボウガンをしまいその様子をじっと見ている。

「これだけ攻撃して、大タル爆弾も当てたのにまだ生きてるなんてよ……。どんだけタフなんだよ、モンスターってのは」

 先程まで倒れていたカイトは、上半身を起こして立ち上がろうとしている。インナーだけになった上半身には火炎液による火傷と打撲や切り傷が至る所にあった。ボロボロの体を無理矢理起こすと腰からランポスクロウズを抜く。

「……いい加減疲れたから、そろそろ終わらせんぞ!」

 カイトは鬼人化するとイヤンクックへ乱舞を仕掛ける。足の辺りの甲殻は大タル爆弾で吹き飛んでおり、容易に斬る事が出来た。足に連続して攻撃されたイャンクックはたまらず転倒する。

 下敷きにされないように後ろにステップをしてかわし、更に乱舞を叩き込む。背甲はまだ残っていたがそれでも乱舞を続ける。火傷した手からは血が滲み、自分の血と返り血とでマフモフの白い毛皮が赤く染まっていく。腕が取れたのではないかと錯覚するまで斬り続けた。

 そしてついに、狩りの終わりがやってきた。

 イャンクック一度身体を勢いよく起こし、自分を仕留めた小さな狩人を見て、それから小さく鳴くと、そのまま動かなくなった。

「はは、さすがに限界だ……」

 イャンクックの亡骸に覆いかぶさるようにカイトも意識を失った。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 深夜、テロス密林を抜けた草原の道を進む竜車の荷台にの上には、手綱を握るガウとその横に座っているリン、そして後ろのホロの中で寝ているカイトの三人がいた。

「ふう、今回は本当に大変だったなあ」

「ま、これでお前たちも初心者は卒業ってことだな」

「ううん。ガウに二回も助けられちゃったし、まだまだだよ、ウチ達は」

 それを聞いてガウは笑う。

「ははっ、昔からそういうところだけは真面目だな。ま、そうやって一つ一つ反省していけるなどんどん上達していくだろうな。『兄貴』として鼻が高いな」

「そういうところ『だけ』ってなにさ!…まあ…その、うん、ありがとうね」

 それを聞いてリンは微笑した。身寄りの無い自分を本当の妹のように慕ってくれることがうれしかった。

「それにしても楽しみだなあ」

「リンはポッケ村から出たとしても狩場だけだったもんな」

「うん。だからすっごい楽しみなんだ。カイトもびっくりするだろうね。起きたら知らない所なんだから」

「そういやアイツ、あれから一度も起きてないもんな。いや~、竜車まで運ぶの大変だった」

「荷車に乗せてたから大した事ないでしょ。それだったらウチらだってガウのこと運んだんだからね」

「いや待て。俺を気絶させたのはお前等だろ!?」

「原因を作ったのはそっちでじゃん!」

「いやアレはお前たちの成長のためにも──」

「あんな雑誌のどこが必要だったのさ!」 

 静かな草原に、そんな二人の声だけが響き渡っていた。




クック先生に会いたいのでMHP2Gを買いなおしたいこの頃。
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