モンスターハンター 【紅い双剣】   作:海藤 北

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ヤツです


第九話 静かな始まり

 テロス密林からそう遠くない、巨大な平原に位置する村『ザンガガ村』。カイトとリンの二人はポッケ村を離れて一時的にこの村に滞在している。

 テロス密林における大型モンスターの発生情報が複数報告されたため、村専属ハンターであるフローラと、その幼馴染でドンドルマ帰りのラインハルトと、滞在している間の時間で出来る限りの狩猟依頼をこなしていこうということになっていた。

「──なっていたんだけれども……」

 カイトはビールを一気に飲み干す。

「なっていたんだけれども、これはどういうことだ!?」

「そんなことウチに言われてもどうすることも出来ないよ……」

「なんで他の依頼が既に達成されているんだ!?」

 机の上に『依頼達成』の判が押された、依頼書を放る。

「う~ん、ウチたちがダイミョウザザミと戦っている間に誰かがやったってことだよね」

「誰かったって、この量だぞ俺たちが狩りに出ていた時間は移動含めて二日間。その間にイャンクック二頭と、ダイミョウザザミを狩るなんて有り得るのか……?」

「もしかしたら一人じゃなかったのかもよ。ここに来たハンター」

「う~ん……」

 カイトはジョッキをテーブルに置くとそのまま突っ伏す。

 実は、カイトは防具を一式新調したので、超金欠状態なのだ。そのため、この機会に沢山のクエストをこなしてお金を稼ごうと考えていたのだが、肝心の依頼が全て達成された後だったのだ。

「あ、おはようございます」

 いつの間にか集会所に人影が二つ増えていた。

 今挨拶したのがフローラ。そしてその後ろからついて来たのがラインハルト。

「あっ、二人ともおはよう!あははっ、二人で仲良く登場だね」

「なっ!そんなんじゃありません!」

「はっはっはっ、俺たちカップルに見えちゃうかい!まあ間違ってはいないけ──おぶぅっ!」

 最早お約束となったフローラの拳がラインハルトに炸裂する。

 フローラとラインハルトは幼馴染らしいのだが、フローラはラインハルトの性格のせいで男嫌い気味であるという。

 ラインハルトが長椅子に座ると、フローラはわざわざ椅子を他から持ってきて離れたところに座った。

「お前、どんだけ嫌われてんだよ……」

「はっはっはっ、嫌よ嫌よも好きのうちさ!」

 その言葉に反応して、フローラはラインハルトをギロリと睨む。

「……黙っててください」

「あ、すいませんでした」

 あまりの迫力に思わずカイトもたじろぐ。

「あはは~、あんまりきつく当たってると嫌われモガモガ」

「ちょっとリンちゃん?」

 フローラがあわててリンの口を両手でふさぐ。

「何言おうとしているんですか?」

「ついうっかり」

「ついうっかり!?」

 そんな二人のやり取りを、何も知らない男二人は「はて?」と首をかしげる。

「……なんだかよくわからないけど、あんまり人をからかうんじゃないぞ?お前なんてからかわれたら直ぐに泣きそうな顔になるくせに」

「な、泣かないよ!?勝手に話を捏造しないでよ!」

「あれ~もしかしてリンちゃんって意外と泣き虫さんなんですか?」

「違うってば!」

 そういうリンは既に涙目になりかけている。

「はっはっはっ、本当に仲がいいな」

「全くだ」

 相変わらず輪の中にに入れない男二人は、そばで静観している事しか出来なかった。

 

 しばらくフローラと取っ組み合っていたリンは、急に何かを思い出したかのように顔を上げた。

「そういえばウチホットドリンク買い足しておこうと思ってたんだ。ドコに売ってるか教えてくれる?」

「ん?あ~、その辺のものが売ってる店は裏路地にあるから結構わかりにくいかもな。……なんなら俺が案内してやろうか?」

「それがいいでしょうね。私はこの方と話すことがあるのでここに残ります。……手を出したら殺しますからね?」

 フローラは再びラインハルトを睨む。

「大丈夫だよ!ウチ拳には自信あるから!きっとフローラよりも強いと思うよ」

「ああ、そこは俺も保障するわ」

 自信満々に言うリンに、カイトも真面目な顔でに肯定する。

「おおうふ……。は、はっはっはっ、気をつけるよ」

 対するラインハルトは顔面蒼白で額に汗を掻きながら小さくうなずく。

「それじゃあ行きますか」

「うん、すぐ戻るね」

 そういってリンとラインハルトは酒場を出て行く。

 残された二人はテーブルを挟んで座り、お互いに一言も発しない。

(こ、これは気まずいな)

 普段リンがそばにいるときならば何とかコミュニケーションをとることが出来るが、二人っきりで話したことなんて一度もない。

(……くそっ…こういう空気は苦手だ)

 何か言わねばとカイトが口を開きかけた瞬間、

「……あなたはリンちゃんのことどう思っているんですか?」

 意外にも先に口を開いたのはフローラだった。

「どうって……、狩りが上手いよな~とか?」

 それを聞いてフローラは大きくため息をつく。

「そうじゃなくて、女の子としてどう見ているかって事ですよ」

「女の子として……?」

 そんなことを質問されるのは初めてだった。

(う~ん、いやまあ確かにアイツ可愛いけどね……。可愛いけど、別にそういう感じじゃ……。いや待てよ。そうだ、すごい可愛いじゃん?そんな()と一つ屋根の下で暮らしてる俺って実は超幸せ物じゃね!?……もうしばらくこの生活続けたいかも)

「……なにニヤけてるんですか、気持ち悪いですよ」

「気持ち悪いっ!?」

 思わず声が裏返る。

「……まあ、あなたがどう思っているかなんてどうでもいいんですが、少なくともリンちゃんはあなたにそういった感情はありませんよ?」

「は、はあ」

「この間のダイミョウザザミの狩りをしている時にリンちゃん本人が言っていたんですけれども、あくまで『友達』だそうですよ?」

「ふ、ふーん……だから?」

(……何だこれ!?この、告白していないのにフラれた感じはっ!?)

 理由は良く解らないが急に気持ちが沈んでしまい、カイトはテーブルに突っ伏すとそのままビールを一杯注文した。

 

 それからお互いに話すことなく沈黙がしばらく続いていた。

 その酒場に一組の男女が入ってくる。

「ホ~ント田舎よねぇ。何もないんだから~。ね、タッくん?」

「まあまあ、そう怒るなよ。こんな田舎に何日もいるつもりはないさ。あくまで中継地点だよ」

「そうよね~、私こんな田舎には住みたくないわ~。てか、なんでこんなところに住んでいる人がいるのかしら~」

「ふっ、それは貧乏だからに決まっているだろう」

「さっすが~、タッくん物知り~」

 入ってきた二人組みはどうやらハンターのようで、二人ともボーンシリーズを身につけている。

(あ~、ああいう人たちとは関わり持ちたくねえなあ……) 

 カイトが二人をボーっと見ていると、フローラはテーブルを叩いて立ち上がり、その男女の元へと向かっていく。

「今の言葉、撤回してください」

 フローラはカップルの前に立つと、キッと睨みつける。

「あ?誰だよお前?調子乗ってんとブッ飛ばすぞコラ」

「や~ん、タッくんこわ~い」

 男がフローラを睨み返すが、フローラは動じない。

「……この村には、この村が大好きで住んでいる人が一杯いるんです!……そんな人たちを馬鹿にすることは私が許しません!」

 フローラはラインハルトを睨んでいるような時とは全く比べ物にならないような表情で男を怒鳴りつける。

(まあ俺もさっきの言葉にはカチンときたな……)

「は?許さなかったらどうなんだよ?やんのかコラ!ああん!?」

「てかコイツ何熱くなってんの~きも~い。さすが田舎娘って感じよね~」

(っと、流石に止めに入らないとまずいな)

 カイトが腰を上げて、フローラのところへ行こうとした瞬間、

「まあまあ、お互いに落ち着いてくださいな」

 仲裁に入ったのはこの酒場のマスターである、六十代ほどであろう、落ち着いた雰囲気のある老人だ。

「フローラちゃんも、ここはひとまず…」

 老人になだめられたフローラは、まだ何か言いたそうな顔をしていたが、渋々席の方へ戻ってくる。

「あはは~アイツ逃げてったよ。ダッサぁ」

「オイおっさん、何か依頼無いの?俺たち超つえーからよ、何でもやってやんぜ」

「申し訳ありませんが、ここ数日これといった依頼が無いのです。ですから──」

 老人が言いかけたところで、村人が酒場に飛び込んでくる。

「だ、誰かハンターはいないか!?緊急の依頼だ!」

 村人は走って来たのか、息を切らしている。

 依頼書をマスターに手渡そうとすると、横からかカップルに奪われる。

「丁度いいや。俺たちがやってやんよ」

「さすがタッくん、かっこい~」

「そ、そうですか!助かります!」

 そう言うと村人は酒場を出て行った。

 カップルも早々に酒場から出て行ってしまい、再び沈黙が訪れる。

「……くそっ、久々の依頼だったのに!マスター、お代わり!」

 結局カイトはそのままビールを飲み続けて、リン達が戻ってくるころにはすっかり酔いつぶれていた。

 

 

──フラヒヤ山脈の洞窟内部にて──

 

 

「つーか、さっきの女マジむかつくわ。一回ぶっ飛ばしときゃよかった」

「やだ~タッくんてばすぐ暴力で解決しちゃうんだから~」

「ま、こんな依頼とっとと終わらせてドンドルマに向かうぞ」

「そういえば今回の依頼って何の依頼なのぉ?」

「あ~、えっと確か──」

「……?どうしたの急に黙っちゃって……」

 女が振り向くとそこには誰もいなかった。

「……タッくん?っちょ、ちょっとお、どこ行ったの?」

 女は辺りを見回すが誰もいない。

「……ちょ、ちょっ、フザけんな!私一人置いてく気!?」

 大声で喚く女の後ろに、ドサリと何かが落ちる音がした。

「……な~んだ、タッくんそこにいたの──」

 女が振り返った先には血まみれの男の上半身だけが落ちていた。

「……は?ちょっと……何、コレ」

 はっと上を見上げるとそこには真っ白い飛竜がぶら下がっていた。

「……は、はは……」

 完全に腰が抜けた女はその場に座り込んでしまう。

 飛竜はその首を伸ばすとそのまま女を丸呑みにする。

「嫌だああぁぁぁ!やめてってば!放してよおぉ!」

 必死にもがこうとするが、既に飲み込まれていて体を動かせない。

 そして、腹の中の女の体を、何本もの触手のようなものが這う。

「……じょ、冗談でしょ……?」

 

 

 

 『帯電飛竜フルフル』──大きく伸びる頭や、放電攻撃で対象を追い詰める。洞窟に多く生息し、目が退化している代わりに非常に優れた聴覚を持つ。雄雌の区別がなく、自身の体内で受精した卵を、他の生物に植え付けて産卵させる。幼体は母体を食い破って生まれてくるという。




そう、次回はヤツです
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