どうしても最初は設定重視になって地の文しかなくなってしまい、また結構重苦しくスタートしてしまいましたが、徐々に明るい雰囲気に変えていくつもりです。初投稿なので駄文等々ありますが、あしからず
6年前、両親が離婚した。
理由は笑っちゃうほど明らかで、両親が離婚するきっかり一年前、姉さんが車に轢かれて死んでしまったのだ。冗談のようだけれど、事故現場は他でもない我が家だった。というのも、姉さんが私のために自慢のミートソース・スパゲティを振る舞うべく立っていた台所に、フェラーリが勢いよく突っ込んだのだ。とても信じられないが、台所ごと姉さんを粉々にしたのは、馬鹿馬鹿しいピンク・フェラーリなのだ。運転手は未成年のボンボン。脳みそはアルコール漬け。ボンボンはあろうことか、そのままピンク・フェラーリをバックしようと試みた。馬鹿みたいなピンク・フェラーリが唸りをあげてタイヤを回し、姉さんのむくろを床にペーストする作業を、私は声も出せずに見守っていた。近所のひとが通報してくれにらしく、ボンボンはすぐに確保された。翌日のニュースで知ったことだが、ボンボンは姉さん以外にも6人轢いていたらしい。
私と両親にとって、姉さんは誇りだった。囁くような特徴的なしゃべり方、腰まですらりと伸びた黒髪、屈託のない笑顔、モデルのような脚。私たちはよくリビングで話をした。姉さんは床に座り、脚をソファに掛けて、色んな話を聴かせてくれた。失った日々。だから、私たちが失ったものは、あまりに重く、かけがえのないものだった。なによりも、死因が馬鹿みたいなピンク・フェラーリなのだ。
それからというもの、父は気力をまるで無くし、会社を辞めたあと酒浸りの生活をおくった。父にとって現実とは、瓶にあと何L酒が残っているかであり、私と母には目もくれなかった。しかし一応、私のために一年間夫婦の仮面を付け続けてくれたが、もはや父にはもうどうでもいいことだったと思う。
離婚して、私が母と一緒に家を出るとき、父が最後に私を呼び止めた。私はその姿を忘れることができないでいる。こたつにすっぽり覆われて、口は半開き、頑なに赤く腫らした眼を私にむけないでいる、うろたえる可哀想な父の姿。ろくでもない一年を過ごしてしまったと言わんばかりの、取り返しのつかない後悔。その時きっと、父は姉さんを思い浮かべたに違いない。最後に床の汚れとなった愛すべき姉さん。ピンク・フェラーリの重みでスポンジのようになって死んだ姉さん。だから自棄になり、取り返しのつかない馬鹿げた真似をして、更なる不幸を呼んでしまい、結果自分の娘の死を汚したのは他ならぬ自分であったと。しかし許しを与える姉さんはもういない。床の汚れは拭き取られ、遺体は墓の下である…
父は何も言わなかった。私もだ。そして、母と一緒に千葉へ向かった
総武高校に入学してから、私は割りとうまく人付き合いをしていた。自慢で言う訳ではないけれど、私は割りと美形だったのが大きな原因だと思う。誰かが言っていた、美しさとは商品になると。私は全面的にこの考えに賛同する訳じゃないけれど、一理なくもないと思っていた。大抵の人は物静かな美女に対して、まだ発掘されてない宝物があるような感情を抱くと思う。ミステリアスな雰囲気を持つ女子は神秘のベールに包まれており、それを前にしていじめだなんて発想はまず出てこない。たとえどれほど親しい口をきかなくても。しかし、下品な男に言い寄られるのは覚悟しておかなければならない。そこさえ上手く立ち回りできたら、学園生活はそこそこ悪くないものとなるのだろう。誰だって可哀想なキャリーのように、いじめっ子に豚の血を頭からかけられるような高校生活は送りたくないだろう。宝物なんてものはなにもない。ベールの奥にはただただがらんどうだ。飛びっきりおしゃれな蝉の脱け殻みたいだ、と私は時々自嘲的に笑ってしまう。
そんな私が比企谷先輩に出会ったの高校一年の2月のことだ。ようやく、時計の針は時間を刻み始めた。姉さんが死んだ、あの日から。