ハイスクールD×DI×S‚BSR   作:ZERO(ゼロ)

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第三話:禍津を纏いし颶風

「断る」

 

唯一言、それこそ宗教の勧誘を断るかの如く吐き捨てる一誠。

それに対して微笑むような表情をしていたリアスの様相が疑問を浮かべたものへと変わる。

 

リアスの疑問の表情は尤もだ。

別に彼女はおかしい事を言った訳ではない、彼の力を彼女“なり”に認めて眷属にならないかと誘っただけの事。

正直な話、自画自賛と言う訳ではないが『グレモリー』の後継者に眷属に誘われると言うのはかなり名誉な事なのだが。

 

ちなみに下僕云々以外に彼女が目の前の一誠を眷属に加えようと思った理由は他にもある。

本来は依頼されリアス達が倒さねばならなかった存在を目の前で何の苦も無く殺す人間。

『歯牙にもかけない』とは正にあのような事を言うのだろう、見ている方が逆に怖くなる程の光景だった。

 

そこでリアスは考えた。

彼は世界において認知されていない未知の神器を持っているのではないかと。

この世界には未だに解明出来ない謎やら何やらが数多く残されている、彼の力はその謎の一種なのではないかと。

 

そのような一種の謎めいた力を多くの者達は放っておいてはくれまい。

悪魔を簡単に始末する人間、苦もなく斬り捨てる人間、そんな一種の怪物を神族も魔族も見逃しはしないだろう。

彼らの協力を得ようと画策するものも現れるだろうし、いっそ彼らを殺してその力を得ようとする者すら出て来るかもしれない。

そもそも今回は大したはぐれ悪魔でなかったようだから良いものを、強力な神器を持つ者や神話級の魔物などが襲ってきたとしたらそれこそ太刀打ち出来まい。

 

故にリアスは彼を自らの眷属にするという方法で『保護』しようとしていたのだ。

それに幾ら強力な力を持っているといっても彼は高が人間、今までは偶々あまり強くない悪魔が相手だった為に生き残れたのだろう。

次はもっと凶悪な悪魔に遭遇するかもしれない……正直、これ程の力を持っているのならば殺されてしまうのは惜しい。

 

リアスとしてみれば人間は『庇護すべき立場』なのだろう。

悪魔に比べれば人間は脆弱で、高々長くて百云年程度しか生きられない弱い存在だ。

そんな者達が穏やかに生きられるように彼女は自分の力を使うべきだと言う立派な志があった。

 

後は自らの眷属に彼を加える事が出来れば戦力アップになると言う打算的な考えもあった事は否定出来ない。

悪魔と言うのは優しさも持つが意外と計算高い存在だ、だからこそ遥か昔に一度は多くの爵位持ちの悪魔達が命を落としながらも種の全滅が無かった理由なのだから。

 

だがまさか即効で断るとは彼女も思わなかった。

―――少々苛立ちを覚えたような表情でリアスは言葉を返す。

 

「……理由を、聞いても良いかしら?」

 

苛立ちを覚えた表情のリアスに対し、一誠は答えを語る。

それは至極簡単であり、至極当たり前であり、そして至極普通の答えであった。

 

「いや、理由も何も……普通に考えれば当然の事だろう?

なら聞くがお前は良く知りもしない、自分に殆ど関わった事も無いような相手に行き成り『眷属にならないか』などと訳の解らない勧誘を受けて受け入れるのか?」

 

……まあ確かに、それは当然の答えである。

常識的に考えても一誠とリアス達は知り合いでもなんでもない、精々学校で少し顔を見合わせる程度の関係だ。

リアスの幼馴染である駒王学園生徒会長のソーナ、役員である匙とは相応の付き合いをしてはいるのだが―――極めて当然の答えを返されたリアスは苛立ちなど忘れ、呆けた様な表情となった。

 

「あっ……そ、そうね……良く考えてみれば貴方の言う通りだわ。

ごめんなさい、此方の事情も説明する前に早急だったわね……えっと、少し長くなるけど良いかしら?」

 

ズボンのポケットから煙草を出して咥えると頷く一誠。

性格的には無愛想で排他的に見える彼だが、比較的に人の話を聞かない様な無礼者と言う訳でもない。

所謂一つの『外見と態度で損しているタイプ』と言う奴だ―――まあ本人はその態度を改める心算も無いようだが。

 

 

★★★★★

 

 

其処から暫くの間、リアスからの説明が続く。

彼女達の正体が悪魔だと言う事、駒王学園が彼女達の正体を隠す為の隠れ蓑だと言う事。

遥か昔の時代に起こった戦争で悪魔と言う種が絶滅の危機に瀕した事、その為に他種族を悪魔へと転生させる事で小規模精鋭の軍団を作って悪魔と言う種を存続させて来たと言う事。

更に悪魔達のステイタスのようなものとして自らの眷属の優越を競う為に『レーディングゲーム』なる催しをしている事、とまあ大体この位だろうか。

それ以外に神器(セイクリッド・ギア)だの、堕天使だの、神の御使いだのと色々な事も説明していたようだが、一誠としては全く興味の無い話であった故かそこら辺は適当に聞き流していた。

―――まあ、掻い摘んで話の内容を要約すれば『自分の陣営が人材不足なので眷属になって欲しい』との事だ。

 

「はっきり言わせて貰うと今の貴方は危険なの。

貴方はその不思議な力で悪魔を退ける事が出来る、でもそれは常に貴方の命が危険に晒される事に他ならないの。

どんなに能力が凄くても、どんなに身体能力が高くても貴方は悪魔の攻撃一つで命を落とす可能性がある……強さがどんなにあっても一瞬の慢心が命取りとなるわ。

特に貴方の力の異様さ知って、それを得る事を望む存在も出て来るでしょう―――堕天使にでも目を付けられれば貴方は確実に標的にされるわ」

 

確かに彼は強いだろう、中の下とは言えどもはぐれ悪魔を簡単に始末出来るのだから。

……しかしこの世界には先程のはぐれ悪魔・バイサーよりも強い存在など幾らでも存在する。

そんな連中に襲われて力を奪われたとしたらそれこそ脅威だ、悪魔と長年冥界の覇権を争っている堕天使勢にでも渡ろうものなら目も当てられない。

 

「ふ~ん、そうか」

 

だが、そんな言葉に一誠は煙草を吸いながら相槌を打つだけ。

興味が無いのか、それとも自分が誰にも負けないと高を括っているのだろうか?

いや若しくはそれ以外に理由があるのか? 何にせよ今の彼にとって世俗の騒ぎやら何やらはあまり関心が無いと言う事だろう。

逆にその態度に少々苛立ちの様なものを感じながらもリアスは言葉を続ける。

 

「いや、何が『ふ~ん』よ? 自分の事なのよ、もっと真面目に聞きなさい!

コホンッ……まあ良いわ、それで提案があるんだけどどう? 貴方、悪魔になってみる気は無い?

転生悪魔として私の眷属になれば他の連中から標的にされても対処の仕方もあると思うし、悪い申し出じゃないと思うわよ?」

 

まあ確かに悪い申し出ではないだろう。

グレモリー家と言うのは身内(眷属なども含む)に対して実に愛情が深い。

悪魔にしては珍しいタイプであり、しかも冥界においては結構裕福な一族でもある。

そんな彼女の眷属になれれば一誠ならば努力次第で良い意味でも悪い意味でも性的な意味でも可愛がって貰える筈だ。

 

……しかし、そんな彼女の提案に一誠は首を横に振る。

何処の馬の骨とも解らない様な人物がグレモリーの眷属になるなどどう考えても破格の条件だろう。

だが一誠にとって『破格の条件』であろうが何であろうが譲れない事があるのだ。

 

「悪いが俺は悪魔になる心算は無い。

俺は人間として最後のその時まで生きると誓った―――誰に誓ったのかは覚えていないがな、それが俺の矜持だ。

誰にでも譲る事の出来ないものはある筈だろう、お前には無いのか? 」

 

所詮、ちっぽけな矜持(プライド)かもしれない。

でもそれを最後の最後まで貫いて生きると思い出す事の出来ない『誰か』に約束した。

そんな誇りを貫く姿をリアスは否定出来まい、彼女もまた『リアス・グレモリー』と言う己に誇りを持って生きているのだから。

 

「そう、ね……確かに私の提案は貴方の事を考えない勝手なものだわ、ごめんなさい。

でも私の言った言葉に嘘も偽りも無いわ―――貴方は確かに大きな力を持っている、だけど力だけで渡っていける程に悪魔や堕天使は甘くない。

例え一度追い払う事が出来たとしても、第二・第三の刺客が貴方を襲うでしょうね……そこで後悔してからでは遅いのよ?」

 

だがリアスも一定の理解は示すが折れはしない。

説得するように一誠に説明しているが、その本質は人助けよりも打算の方が強いだろう。

転生悪魔を眷属としている者達、その中でも上級悪魔にとっては有能で精強な眷属を得ると言う事は立派なステイタスである。

特にリアスの場合は色々な事情も相俟って強力な力を有する眷属を何よりも欲していた―――だからこその執拗さなのだ。

 

まあこのままでは何時まで経っても平行線が続くだけだ。

少しだけ考えるような素振りを見せたオズは仕方なくある事を思い付いて口を開いた。

 

「なら、一つ俺と賭けをしよう。

俺とお前を含めた4人とで勝負をして、勝った方の言う事を聞くというのはどうだ?

ただし勝負方法は俺が決める、人数差があるんだからその位は良いだろう?」

 

一誠の提案はある意味、リアスにとって願ったり叶ったりである。

相手が勝負方法を決めるとは言え、リアスの眷属はお世辞抜きにも実力者が揃っているのだ。

どのような勝負方法を選ぶのかも知らぬまま、彼女は自信有り気に頷くと口を開く。

 

「ええ、解ったわ……その代わり、結果には不服は言わせないわよ?

そして約束する、どんな結果が出ても私は『リアス・グレモリー』の名において受け入れるわ。

―――で? その勝負の方法ってのは一体何なのかしら?」

 

何気なく聞いたリアスに対し、一誠は無表情のままで答えを返す。

彼の口から語られた勝負方法は少なくとも、いや明らかに彼にとって圧倒的に不利なものであり、リアスらを絶句させた。

 

その内容とは―――

 

 

★★★★★

 

「……ねえ、一つ聞いて良いかしら?

貴方もしかしてふざけているの? それとも私達が手加減するとでも思ってるの?」

 

リアスの言葉に肩を竦めると、首や肩を回しながら手招きする一誠。

場所は先程一誠がバイサーを始末した、鬱蒼と生い茂った木々の生えた林から少し離れた人気の無い公園。

其処にて対峙する一誠とリアスらグレモリー陣営四人―――彼が提案した勝負方法、それは1対4での模擬戦と言う明らかに一誠にとって不利極まりないものだった。

 

挑発を行う一誠に対し、リアスを筆頭にグレモリー陣営は若干の苛立ちを覚えつつも構える。

余りにも嘗め過ぎだ……こう見えてもグレモリー陣営は今迄に何度も自ら達の領地に侵入したはぐれ悪魔達を狩って来た“相応の力を持つ”猛者達だ。

それを知ってるのか、いや寧ろ知らないからこそ一対多などと言う不利な条件を出したのだろう―――正直言ってはいけないが『余りにも調子に乗り過ぎだ』とリアスも眷属達も思う。

 

「一応、言っておくわね。

どれだけ貴方が強いか知らないけど、さっきのはぐれ悪魔相手に生き残れたのはあくまでも“まぐれ”よ。

偶々運が良くあまり強くない奴と戦ったから人間でも生き残れたと言うだけの事。

だけど貴方が悪魔の、それも上級魔族に目でも付けられればたちまち吹き飛ばされるわ……それが解らないの?」

 

本来優しい筈のリアスがこのような口調になっているのは一誠の態度にあるだろう。

彼女とすれば別に人間に対して偏見があった訳ではない、強かろうとも短い時しか生きれぬか弱い人間を守るのは貴族として当然の事なのだ。

上に立つ者が下の者を守る、騎士道精神にも通ずる尊き慈愛の精神を持つ事こそが上級魔族の務めである。

 

「……早くしろよ、やらねぇのか?

それとも何だ、お前らの言う『戦い』ってのは口喧嘩の事を言うのか?

だったら最初からそう言え、ビビッてるなら初めから偉そうな態度取るんじゃねぇよ」

 

しかしそんなリアスの考えに興味など無く、挑発文句を続ける一誠。

ならばこの先にあるのは舌戦や禅問答ではあるまい、どちらかがどちらかを平伏させねま終わりはしまい。

小さく溜息を吐いたリアスは自らの最も信頼する眷属、姫島朱乃に向かって言葉を飛ばした。

 

「なら仕方ないわね、教えてあげるわ……貴方が戦ったはぐれ悪魔を祐に越える悪魔の力を。

朱乃、少し痛いお灸を据えて彼の眼を覚まさせてあげましょう―――眷属云々の話はその後でも遅くは無いから」

 

微笑みながら頷く朱乃、この状況下で逆に笑っていられる彼女は実に恐ろしい。

すると何時の間にか彼女の身体からバチバチと電気が迸る……彼女は別名『雷の巫女』と呼ばれ恐れられる存在だ。

リアス陣営の中でも魔力を行使する事に特化した『女王』と呼ばれる存在であり、更にそれに併せて真正のドSでもある。

 

続いて整った容姿の青年木場祐斗は手に禍々しい気配のようなものを放つ剣が握る。

彼は眷属の中で『騎士』と呼ばれる存在で、眼に見えぬ程の速度と達人級の剣術を併せ持つ最速のナイトだ。

また、彼は自らの望む通りの魔剣を生み出す『魔剣創造(ソード・バース)』なる神器を持っている。

 

その横に居た小猫も戦闘態勢となる。

前記した二人とは違い特殊能力を持っている訳でも無さそうだが、放たれる闘気は並大抵のものではない。

それもその筈である、彼女は小柄ながらリアスの眷属で『戦車』と呼ばれる存在で打ち出される一撃は巨木をも圧し折る。

 

どうやら既にリアス陣営は準備完了と言った所だ。

だが彼女達を見ながら一誠は肩を竦め、吸おうとした煙草をポケットに戻しながら誰にも聞こえないように呟く。

 

「……成る程、この程度の挑発で冷静さを事欠くか。

どうやら“何処の世界”でも選民主義の輩は変わらんらしいな……ん? 何故俺はそんな事を……?」

 

若干疑問を持ったかのように首を傾げる一誠。

しかし直ぐに表情は無表情なものへと戻ると、片手に不気味な気配を纏う槍を召還して握った。

やる気満々のグレモリー陣営とは違い、何処か気だるそうな雰囲気で槍を地に突き刺したままに構えも取ろうとしない―――それがリアス達の苛立ちをピークへと押し上げたのだった。

 

しかし立派な志を持つ者はそれと共に理解せねばならない。

自分の考えの押し付けは視野狭窄を生み、本当に見るべきものを見れないで居る事を。

相手との器の違いを種族の違い程度で垣間見れない輩に上に立つ資格はない……それを今からリアス達は存分に知る事となる。

 

―――所詮は“相応の力を持つ”程度の輩では、本物の化物を超える事は不可能だという事を。

 

 

★★★★★

 

 

「祐斗!」

 

『はい!』と言う返事と共に神速の騎士は飛び出す。

飛び出す速さは徐々に増し、武流の前に躍り出る頃には既に眼では反応し難い程の速さとなっている。

手に握られた剣の銀光はまるで閃光の如く、その速度のまま木場は姿を消すとその刃が佇んだままの一誠を襲う。

 

「一応、もう終わるだろうけど下僕の特性を教えてあげるわ。

祐斗の役割は『騎士(ナイト)』、その特性はスピード……『騎士』となったものはスピードが増すの。

祐斗自身の目では捉えきれない速度と達人級の剣捌き、その二つの合わさった最速のナイトに捉えられないものは無いわ」

 

確かにその速度は神速、剣捌きは達人級。

今まで少なくないはぐれ悪魔を狩って来た木場の斬撃を避けられる者は居まい。

事実、刃が空を切る音が響き、次に響くのは愚かな世間知らずの青年の声の筈だった―――だが響いた声はリアスが良く知る、己が信頼する騎士の青年の驚愕した声だった。

 

「―――なっ!? そ、そんな、馬鹿な!?」

 

響き渡る木場の悲鳴にも似た驚愕の声。

慌てて木場の方を見たリアスも、彼女の眷属達も己の目を疑う。

何故なら、本来ならば敵を捉えている筈の木場の剣刃が何も無い空間を薙いでいたのだから。

いや、違う……本来ならば“其処”に居た筈の一誠の姿がまるで実体を失ったかの如く忽然と消え果たのだ。

 

代わりに舞い散るは宵闇の如く漆黒に染め上げられた鳥の羽―――

次にリアス達の目に映ったのは、最速の騎士たる木場祐斗をも超える目にも留まらぬ速度で動き回る“何か”。

更に其処から映ったのは倒れる木場の姿と、その目の前に突然現れた目元を面で隠す痩躯の男。

両手に携えた二振りの短刀を回転させながら背の鞘へと仕舞うと、リアス達の方を見る。

その身体が血の如き液体状の何かへと変化し飛び散り、再び人の姿を取った……『兵藤一誠』と名乗る存在の姿へと。

 

「……目で捉えきれないなどと言っていたが、その程度を“最速”等とは言わん。

『本当の最速』と言うのは、相手が斬られたのに気付かない程の速度を持つ存在だと思うが?

ヤレヤレ、どうやら想像以上に期待外れらしいな―――折角思い出した能力を試せると思ったのに」

 

吐き捨てる一誠。

足元の木場は傷一つ付いていない所を見ると、恐らく全ての攻撃が『峰打ち』だったと言う事だろう。

まあ寧ろ、全ての斬撃が刃の方であったとしたら……グレモリー陣営の『自称・最速の騎士』は五体満足ではなかった事は容易に想像出来る。

 

「せ、先輩!! 今助けに……」

 

光景に驚愕して呆けていたリアス陣営。

その中で小猫はいち早く気を取り直して木場を援護しようと地を蹴る。

しかし彼女の目の前では退屈そうに空欠伸をする一誠が挑発するように手招きしていた。

 

「……!? 嘗めないで下さい!!」

 

武流に向かって叩き付けられる拳。

巨木をなぎ倒す程の一撃を受けて本来ならば唯で済む筈があるまい。

されどその拳は空を切り、代わりに気付いた時には小猫の首に再び痩躯の男の姿に変わった一誠の足が絡み付いていた。

 

「くっ!? くっ、く、っくる、しい……」

 

必死に絡み付いた足を解き剥がそうとするが時既に遅し。

首を絞めたまま宙に飛び上がった痩躯の男姿の一誠はそのまま一瞬足に力を込め、小猫を絞め落とす。

そのままクッションのような状態の草むらに放ると、再び元の姿へと戻って口を開く

 

「この嬢ちゃんはどうやら見かけに寄らず力があるらしいな。

だがまあ、別にその力を行使される前に絞め落とせば良いだけだろ? 首は鍛えられても頚動脈は鍛えられん」

 

更に高速で姿を変化させながら一誠は地を蹴る。

残像を残しながらその身は雷を放った朱乃よりも一瞬先に彼女の元に辿り着き、無数の連撃を叩き込む。

 

「えっ……う、嘘、そんな、そんな馬鹿な!!? あっ、あああああああっ!!?!?」

 

悲鳴を上げながら倒れ込む朱乃。

顔や腕など、目立つ所には一つも攻撃を打ち込む事はせずに当て身のみを叩き込んだようだ……そんな事は簡単に出来る筈も無いと言うのに、簡単に成すのは実力の差であろう。

 

一対多などと言う条件に苛立ちを覚えていた筈が蓋を開ければ既に眷属三人は戦線離脱状態。

しかも目の前には別次元の化物かと感じる程の強さの人間―――有り得る筈があるまい、悪い夢でも見ているのだろうか?

 

「嘘、嘘よ……そんな馬鹿な事が……!?

小猫は『戦車』―――圧倒的な力と屈強な防御の持ち主、朱乃は『女王』で私の次に強い者の筈よ!?

それが、それが人間を相手に傷一つ付けられないなんて……何者なのよ貴方は!?」

 

だが其処でリアスはふとある事に気付く……先程の彼が使っていた力、あれに見覚えがあったのだ。

そうだ、何故に忘れていたのだろうか? あれは、あの存在そのものに恐怖を覚えるあの圧倒的な強さを彼女は“あの日見た”筈だった。

 

「ま、まさか……まさか、貴方……あの時の……!?!!?」

 

思えばリアスはあの日の恐怖は脳裏から捨て去りたかったものだったのだろう。

相対しているだけで殺される、姿を目にしただけで自分の死ぬ姿しか想像出来ない凶悪な人の形をした“何か”。

更に別の日、身体を堕天使の光槍で貫かれて明らかに致死状態だった男が何も無かったかの如く堕天使を切り裂いている姿も見た事がある―――恐らくアレもこの人物だ。

 

「……何だ、覗き見していた癖に正体に気付いてもいなかったのか?」

 

一誠の言葉に途端に冷や汗が噴き出して背を伝う。

かなり遠くで見ていた筈だったのにそれにすらこの人物は気付いていたと言う事だ。

何が『まぐれ』だ、何が『灸を据える』だ、リアスは自分で過去の得意げな自分の事をぶん殴りたくなる。

 

「どうやらその態度は俺の勝ちで良いんだな?」

 

だが眷属達が挑みながらも自分だけ何もしないなどリアスに出来ようもない。

あれ程の者達だ、恐らく脅かす程度の魔力ではビクともしないのは明白……ならば周辺を吹き飛ばす位の力は込めるべきだ。

 

「まっ、待ちなさい!! まだよ、認められないわ!! 唯の人間が悪魔より強いなんて有り得ない!!」

 

放たれる紅き魔力の奔流、迫るそれは滅びの力を有したリアスの特技。

全てを悉く滅する魔力の前に傷一つ受ける事などないと言う事は決して有り得ない。

事実、リアスの放った魔力に晒された周囲の草木や木々は次々と消滅していく―――常人ならば欠片も残さず消滅する筈だ。

 

しかし彼は決して常人などではない。

何故認めようとしないのか? 高が唯の人間に上級魔族とその眷属の転生悪魔が纏めて来て傷一つ付けられない違和を。

彼らは人間でありながらそれらを祐に越えた存在だ、認めるべき現実を受け入れる事から何もが始まる。

 

それと共に理解するべきであったのだ。

世の中には決して手を出してはならない存在があるという事を。

三度姿が痩躯の男に変わると同時に放たれた魔法弾が大爆発を引き起こす―――既に其処に一誠の姿は無かった。

 

「……これでチェックメイトだ」

 

後ろから響く声に驚いたリアス。

首元には短刀が突き付けられ、一薙ぎされるだけで彼女の命の灯火は消えるだろう。

完全なまでの完敗、文句の付けようの無い敗北―――それはリアスの生きてきた中で初めて味わった挫折。

 

「くっ……わ、私の、私の負け、よ」

 

力なく尻餅をつき、項垂れるリアス。

かなり限界に近い魔力を込めたのだろう、だがそれも唯の人間である筈の男には通用しなかった。

まあそれだけではなく恐らく彼女はこれ程までに手も足も出ない敗北に喫したのも初めてだったのだろう。

体力よりも気力が、心が折れてしまった故に立ち上がる気力もなくなってしまったと言う事だ。

彼女達を一瞥すると一誠は悠々とリアスの横をすり抜けて歩き出す。

 

勝者が敗者にかける情けなど殆どない。

特に自分達の力にそれなりの自信を持っていた連中にとって『情け』など最も屈辱的な事だ。

故にもう此処で語るべき事はない、黙って去る事がある意味での『武士の情け』だろう。

 

「……ま、待って!!」

 

不意に後ろから掛けられた声に立ち止まる武流。

力の入らない身体を推してヨロヨロと立ち上がったリアスは彼らの背に叫ぶ。

 

「何なの……貴方は一体、何者なのよ!?」

 

背を向けたまま立ち止まっていた一誠は顔も向ける事無くそのまま口を開く。

 

「唯の人間だよ、一応な……これに懲りたら、相手を見掛けや種族で判断して油断しねぇ事だ」

 

がっくりと肩を落としたリアス、彼女は敗北を知った事でこれからもっと強くなるだろう。

一誠はふと立ち止まったまま再び彼女に向かって言葉を飛ばした―――彼女が思いもしなかった言葉を。

 

「まあ、敗北させてそのまま『ハイさようなら』じゃ流石に目覚めが悪いな。

確か俺に眷属になれとか言ってたか? だったら俺に指図するな、あくまでも対等の条件でならお前の協力者になってやる―――ただしお前らが協力するに値しない輩なら叩き潰す、これでどうだ?」

 

まあその条件は明らかにリアスにとって不利なものだが、彼女にとっては寝耳に水だったろう。

驚愕し、疑問を浮かべたような表情で一誠を見つめると、彼は言葉を続ける。

 

「……何、大した理由じゃない。

俺自身のある目的の為にお前らを利用する、唯それだけの事だ。

別にお前も人助けだの庇護だのなんて目的だけではなく打算的な部分もあるだろ、ならこれで良い筈だな?」

 

まあ、此処らへんが落し所と言ったところか?

元々一誠は誰かの命令に無条件に従うと言う事を好まない性格をしている。

自分自身の意思を貫いて生きる事を美徳と考える彼にとって誰かに従うと言うのは自分を否定するのと同じだ。

しかしそれでも協力者と言う形でリアス達に力を貸そうとしているのだから彼なりの妥協とも言えるだろう。

……初めから素直にそう言えば良いものを、天邪鬼な青年である。

 

「……ほ、本当に? 本当に、協力してくれるの?」

「あぁ……だがさっきの条件を忘れるな、それと賭けの取り分は何れきっちり払って貰うぞ」

 

その言葉に嬉しそうな表情をするリアス。

打算的な考えもあったのは事実だが、今の表情は間違いなく嬉しかったのだろう。

眷属と言う形ではないが、これもまた一つの絆(?)の形としては有りなのではないだろうか?

こうして一誠はリアスら『グレモリー陣営』の協力者として関わっていく事になったのであった。

 

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