Deadline Delivers   作:銀匙

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第10話

ベレーが転がり込んできた翌朝。

 

3人で朝食を取っていると、ベレーははっとした顔で告げた。

「アッ、ソウイエバ、私、人間ニ化ケラレマス」

ファッゾは頷くと、

「そうか。じゃあ食べ終わった後で良いから化けておいで」

と返した。

ベレーが変身する為に海水を求めて出て行った後、ミストレルはファッゾに尋ねた。

「・・なぁ」

「んー?」

「深海棲艦ってさ」

「うん」

「大人しい奴多いよな」

「・・そうだな。まぁワルキューレの4人組みたいに派手な連中も居るが」

「いや、派手か地味かじゃなくてさ、なんつーか、性悪な奴ってあんま見た事ねぇんだよ」

「・・でも鬼や姫、その取り巻きはかなり怖いって聞いたがなあ」

「そいつらも、どっちかっていうとさ」

「ああ」

「真面目な奴が理由があって怒ってるって感じだったけどな」

「・・へぇ」

「向かった先の海域で人形抱えた小さい深海棲艦に「帰レ!」って涙目で言われた時は罪悪感ハンパなかったぞ」

「うーむ」

「この戦いってさ、何で始まったんだ?」

「俺が生まれた頃には既に大海戦の只中だったからな。詳しくは知らん」

「ベレーもそうだけど、深海棲艦って元艦娘多いじゃん」

「まぁな」

「・・本当に戦ってどうにかなる問題なのかなあ」

「今朝は随分深い悩みだな、ミストレル」

「まーな」

そんな二人の会話は戻ってきたベレーによって途切れた。

 

「あ、あの、ただ今戻りました」

戸口に立つ人影をミストレルは二度見した。

「お、おま・・ベレー・・か?」

「は、はい。どこか変でしょうか?」

服の裾を指で挟みながら、ベレーはもじもじとしていた。

ファッゾは肩をすくめた。

「やれやれ、世の中の美人は艦娘か化けた深海棲艦なんじゃないかって気がしてきたよ」

ファッゾの言葉の通り、化けたベレーは美少女という言葉がふさわしかった。

銀髪に青い瞳、透き通るように白い肌、ほっそりした体型。

人間で言えば高校生か大学生くらいだろう。

シンプルで落ち着いた、悪く言えば地味なワンピースもベレーの大人しさに良く合っていた。

ベレーはちょこんとソファに行儀良く座ると、二人の視線を辿りながら言った。

「あ、あの、この服がダメでしたら着替えますけど」

「いや、そういう事じゃないよ、ベレー」

「なんつーかさ、アタシらは何で戦う羽目になっちまったんだろうって思ってたの」

「ふえ?」

「お前さんのように大人しい子に主砲向けて撃つなんて、やっぱできねーよ」

「わ、私も、何で戦うのか、よく解らないです」

「ベレーが見た中でさ、いかにも性悪っていうような深海棲艦って居た?」

ファッゾの問いにベレーは眉をへの字に曲げた。

「もちろんですよ!艦娘も深海棲艦も民間船も見境無く撃ちまくってくるのとか」

「お・おお・・」

「わざと至近弾ばかり打って傷ついた姿を見て笑う奴とか!」

「えー・・」

「休戦協定結んだクセに徒党組んで夜戦仕掛けてきて海域ごと奪っちゃう連中とか!」

「ひでぇ」

「艦娘もそうですけど、深海棲艦側にだって性悪の連中は居るんですよー!」

ぶんぶんと拳を振って力説するベレーを見た後、ファッゾとミストレルは顔を見合わせた。

そして、ファッゾはにこりと笑って言った。

「よし、言いたい事をちゃんと言えるのは良い事だ」

「へうっ!?」

ミストレルが続けた。

「この町じゃさ、黙ってると美味しい所は皆取られちまうからちゃんと主張しろよ」

「は、はい」

「まぁしばらくは町に出る時は俺かミストレルと一緒に行動するといい」

「わ、解りました」

「ところで、私は司令官だったから深海棲艦側の艤装ってよく解らないんだが」

「そうでしょうね」

「装備とか維持方法とか教えてくれないか?」

「あ、説明書をご覧頂いた方が解りやすいかもしれませんね」

「・・説明書あるんだ」

「私もなりたての頃はこれを見て覚えたんですよ」

「艦娘の方で説明書ってあったっけ?」

ミストレルもベレーも肩をすくめた。

「まぁ、使い方はなんか記憶してた」

「そうですね。マニュアルが頭の中にある感じでした」

「そういう風になってるって事か。とりあえず、ちょっと読ませてもらえるかな」

「どうぞ」

こうしてファッゾは深海棲艦の運用方法を学び、特に給油が要らないという点について

「良いなぁ・・燃料代考えなくて良いのか・・良いなぁ・・」

と、呟いていたという。

 

話は現在に戻る。

 

洗濯物を干している最中に事務所の電話が鳴ったので、ベレーは階下の事務所に向かって叫んだ。

「ごめんなさーい、誰か電話に出てくださーい」

「あいよ、アタシが出るー」

ミストレルは腰を上げたファッゾを手で制しつつ受話器を上げた。

「ハロー、ブラウン・ダイヤモンド・リミテッドだ」

すると、一瞬の沈黙の後、聞きなれない声がした。

「あーっと、覚えてるかな・・何年か前に台湾沖で会った、第11263鎮守府の隼鷹なんだけどさ」

ミストレルは一瞬考えたが、すぐに表情がぱあっと輝いた。

「久しぶりだなおい!っといけねぇ、あー、あの時はおかげで無事帰港出来たぜ」

電話の向こうで隼鷹が笑った。

「心配すんなって。外の公衆電話からかけてるからさ。覚えててくれて良かった」

「当たり前だろ。で、仕事か?」

「仕事になるのかな・・どこから話せば良いのかってくらい長い話なんだよ」

「おう。なんなら直接会うか?」

「助かる。明後日、海上で落ち合えないかな」

「場所は?」

「ええっと、この間会った台湾沖辺りは?」

「台湾沖か。あぁ、かまわねぇよ」

「じゃ座標位置を言うぜ。そこに1400時くらい」

「あいよ・・ん、メモした。じゃあ28日の1400時、台湾沖な」

「じゃーな」

 

ガチャリと電話を切った時、ファッゾは眉を顰めてミストレルに言った。

「おいおい、依頼ならテッド通させた方が安全じゃないか?」

「まだ依頼って決まった訳じゃなさそうだからな」

「1人で行くなよ?台湾沖だって艦隊航路も戦域もあるんだ」

「解ってる。ベレーと一緒に行く」

「よし、ベレーに説明しといてくれ。出港準備もな」

「あいよ」

「俺はこれからテッドに説明してくる。台湾沖だと・・2週間くらいか?」

「そこまでかからねぇと思うけどな」

「まぁ早く終わる分には問題ないさ」

そういうとファッゾは車のキーを手に、がたりと席を立った。

 

 

 


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