Deadline Delivers   作:銀匙

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第20話

 

話はこうして現在、つまり夜中のコンテナ埠頭へと戻る。

 

「うー」

「ボス、帰り運転したら絶対コケますよ?」

「ここで寝る~」

「ダメです」

「うー」

フィーナは溜息を吐いた。

旧コンテナ埠頭は最初からナタリアとフィーナの二人しか居なかったが、今は真夜中といって良い時刻。

周囲の町明かりもすっかり減ってしまい、ふと見上げれば綺麗な星空である。

そしてしんしんと寒さが降りてきている。

「バイクで来てるのにモヒート11本を立て続けに飲むなんて・・」

フィーナは自分のバイクをキックスタンドで立たせると、ナタリアに近づいた。

「ボス、そこで寝たら風邪引きますよ」

「うー」

「何をそんなに悩んでるんですか?」

「・・・」

そしてナタリアの耳元で囁いた。

「抱かれたい男でも居るんですか?」

「・・・うん」

フィーナは素直過ぎるナタリアの返事にびくりとした。

こ、これはもしかして、聞き出すチャンス!

「それはひょっとしてー、テッドさんですかー?」

「・・・」

「ライネスさんですかー?」

「・・・」

・・ま、まさか。

「・・ファッゾさん・・ですか?」

「うん」

フィーナは一人真っ赤になってきょろきょろと周囲を見回した。

い、今、ボス、「うん」て言った!?言ったよね!?

も、もう1回聞いてみよう・・

「好きな人はファッゾさんで間違いないですかー?」

「そう・・よ・・むにゃ」

ほ、ほ、本物だー!?

ボイスメモ用意しとくべきだったー!って何に使うのよ私!

「ううーん」

ナタリアがバイクごとよろめいたので、フィーナは真っ赤になりながらもナタリアのバイクのスタンドを起こした。

そしてナタリアに肩を貸し、手近にあった木のベンチに二人で腰を下ろす。

フィーナの思考は目一杯空回りしていた。

 

ボ、ボボ、ボスの本音聞いちゃった気がする。

やーどうしよう私。もうファッゾさんをまともに見られない。

その前にボスと明日から普通に会話出来る自信が無い。

しかしボスはどうしてファッゾさんが好きなんだろ?

いやーどうしよ。どうしよー!

そして夜明けまでそこに居た為、二人は見事に風邪を引いた。

 

 

「へぷちっ!」

 

その声を聞いた時、ミレーナは怪訝そうに顔を上げた。

誰だ今の可愛いくしゃみの主は。

 

「へぷちっ・・へっ・・へっ・・へぷちゅん!うー」

 

そして主を見つけたミレーナは目を見開いた。

嘘でしょ。フィーナなの!?

 

「くしゅっ!・・ふっ・・ふっ・・くしっ!」

違うくしゃみの声がして、同時にフローラの驚いた声がした。

「・・・ボス?」

「なに?・・ふっ・・くしっ!」

「あの、やたら可愛いんですけど。ボスのくしゃみ」

「ちっとも・・くしゅっ!・・嬉しく無いわよ」

「いや・・それ、破壊力ありますよ?」

「へぷちっ!」

「いや、ボスのも可愛いですけど、フィーナもなかなかだと思うなー」

「いやーここはボスでしょー」

フローラとミレーナは互いを見て頷いた。

これは白黒つけたい!

 

「朝っぱらから何を言ってんだよ、フローラ」

「いーから早く!」

まずフローラがすっ飛んで行った先はテッドの事務所だった。

テッドは二人のくしゃみを聞いていたが、

「いや、これ完璧風邪だろ。早く寝かせてやれよ。2~3日仕事待ってやるから。じゃな」

と言って帰ってしまった。

フローラは腕を組んだ。

「うーん・・後誰が良いかしら」

ミレーナがぽんと手を叩いた。

「ファッゾさんなんてどう?」

「良いわね!」

 

そしてファッゾの事務所にミレーナが訊ねてきたという次第であった。

 

「・・二人のどっちが可愛いくしゃみかって?いや、知らん」

「知ってるかじゃなくて、聞きにきてください!」

「今?」

「はい!早く早く!」

「二人がくしゃみしてるのか?」

「はい。それもう盛大に!」

ファッゾは眉をひそめた後、

「んー・・後で行く。用意があるから先に戻っててくれ」

と言って部屋に戻ってしまった。

ミレーナはベレーに訊ねた。

「なんか怒らせちゃったかな?」

「いえ、そんな事は無いと思います。ファッゾさんが怒ると気配が変わるんで」

「気配?」

「すっごく怖いです」

「へー・・まぁ、じゃあ事務所で待ってるからって言っといて」

「はーい」

 

そして20分後、ワルキューレの事務所。

 

「あーやっぱり、こりゃ大風邪引いてるよ」

「うー・・さっきからちょっと熱っぽいとは思ったのよねぇ」

「すいません・・外で夜明かししちゃって」

ファッゾは事務所に来るなり、二人がふらふらなのに気がついた。

溜息をつくと持参したバスケットを机の上に置いた。

「ちょっと待てな・・」

そういってバスケットから取り出したのは3つの魔法瓶と紙コップだった。

目で追っていたナタリアは怪訝そうに訊ねた。

「ファッゾ、それ何?」

「魔法瓶」

「中身よ」

「飲んで当ててみろ」

そう言うとファッゾは1つ目の魔法瓶からコプコプと中身を注いだ。

濃い茶色の液体は、とても芳しい匂いを漂わせた。

「あ、いい香り」

「ほら、フィーナも飲んでごらん」

「・・ありがとうごじゃいます」

「完全に鼻声だね」

「はい」

それぞれ渡されたコップを両手で包む二人。

そっと口をつける。

「・・ハーブティ?」

「ご名答。美味しいかナタリア?」

「ええと・・」

「フィーナはどうだ?」

「厳しいです・・匂いだけの方が良いかなあ」

「そうか。ナタリア、どうだ?」

「うーん・・それがあんまり味がしないのよね・・」

「それはちょっとマズいな」

ミレーナが突っ込んだ。

「えっ、ファッゾさん、それどういう意味です?」

「飲んでみ?ヤバい物は入れてないから」

「・・はぁ」

ずずっと一口啜ったミレーナは目を白黒させた。

「濃ゆっ!苦っ!うっ・・・うがいしてくるー!」

ミレーナが洗面所に駆け出したので、フローラははっとした顔になった。

二人はこれを平然と飲んでいるのである。

 

 

 


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