Deadline Delivers   作:銀匙

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第25話

 

ナタリアがフィーナの言葉で変な方向の妄想全開状態になった、その時。

 

「おーい、誰かいるかー?」

「!」

今まさに話題の人が階下で呼んでいたのである。

 

「・・いや、だから、女の子の部屋に入るのはマズいだろ」

「ボスはまだ具合悪いですし!」

「なおダメだろ!」

「覚悟が居るんですって!さぁ!」

「お、おいおい押すなって」

ガチャッ!

階下で待っていると断るファッゾをフローラとミレーナが無理矢理連れてきたのである。

フローラが開けたドアの中を見たファッゾは赤面した。

真正面にはベッドの上にちょこんと座ったパジャマ姿のナタリア。

隣の椅子には同じくパジャマ姿のフィーナが居たからである。

・・・パタン。

「ちょっ!何でそっと閉めるんですか!」

「ばっ馬鹿!二人とも寝巻き姿じゃないか!俺はそこまで無礼者じゃない!」

「紳士モードはちょっと横に置いといてください!」

丸聞こえの3人の会話を聞いて、ナタリアとフィーナは頬を染めた。

フィーナは思った。

しまった。確かにこれは恥ずかしい。

海水は持ってないから変身という訳にも行かない。

ここで着替えさせて、もしドアが開いたらナタリアは自殺するか吹っ切れてファッゾを押し倒すかどちらかだ。

どちらの先もろくでもない結末しか見えないからこのままいくしかない。

 

「・・・」

「・・・」

 

持ち込まれた椅子に座り、ナタリアの真正面に居ながら物凄く居心地悪そうに床しか見ないファッゾ。

状況に反応しすぎて真っ赤になって押し黙ってしまったナタリア、という構図である。

フィーナは自分のパジャマの襟元を手で押さえつつ、深呼吸した。

しょうがない。呼び水は必要だろう。

「あ、あのぅ、ファッゾさん」

「お、おぉ」

「まずは色々ご迷惑かけてすみませんでした」

「あぁいや、俺はナタリアにDeadline Delivers始める時に世話になったしな。こういう時はお互い様だろ?」

「お互い様・・」

「Deadline Deliversは皆小規模な会社だ。うっかり体調を崩しちまう事もある。俺だっていつそうなるか解らんしな」

「・・」

「ウマの合わない奴は仕方ないが、互いに上手くやれるならその方が良いだろ?」

その時、ナタリアがそっと顔を上げて言った。

「・・ファッゾが、そんな事言うなんて思わなかったわね」

「ん?どれの事だ?」

「ウマの合わない奴なんて居るの?」

「おいおい、俺だって感情も嗜好もある。俺個人として気に入らない奴も居るし」

「・・」

「ナタリア達を良く言わない連中だって気に入らんさ」

 

!!!

 

ファッゾは普通にそう言ったのだが、ワルキューレの4人はピクリと反応した。

ゆえにファッゾは首を傾げた。

「そんなに俺は誰にでもへらへらしてるように見えてるのか?」

フローラが思わず答えた。

「いっ、いえいえいえいえいえ」

ファッゾは怪訝な顔でフローラを見た。

「なんでそんなにしどろもどろなんだ?」

「あ、ああああああの」

ファッゾが一気にジト目になった。

「何かドッキリでも企んでるのか?」

「ちっ違います、違います!」

「それを鵜呑みに出来るほど鈍感じゃないんだが?」

 

「・・・鈍感よ」

 

ファッゾの一言をおうむ返しにつぶやいたのは、ナタリアだった。

ファッゾはいつもの癖でナタリアを見て、パジャマの開いた胸元が見えて慌てて下を向いた。

「な、なんだ。一体なんだナタリア」

「ファッゾは鈍感、そう言ったのよ」

「ええっ?」

「な・・なら、今の状況どう見てるのよ?」

「さっぱり解らん。本調子じゃあないなら横になってろとは思うが」

「横になりたいわよ」

「じゃあ何で呼んだんだ」

「仕事が手につかないからよ!」

「風邪引いた事に俺は何も絡んでないぞ?」

「絡むどころかバッチリど真ん中よ!あなたのせいじゃない!」

ファッゾはサングラスを外し、ナタリアをまっすぐ見た。

「待て。俺は本気で身に覚えが無い。俺がナタリアに何をしたんだ?」

ナタリアはファッゾの膝の辺りを見つめたままぷるぷる震えていた。

フィーナはこの奇跡のような流れにドキドキしていた。これは千載一遇のチャンス!

フローラは思った。ま、結果オーライよね。後はボス次第だけど・・どうかなあ・・

ミレーナは両手をぐっと握っていた。ボス!頑張れ!ファイト!

 

永遠のように感じる5秒間が過ぎた時。

ナタリアはキッと顔を上げてまっすぐファッゾを見た。

 

「わっ・・わたっ・・私はね・・」

「・・あぁ」

「もう、ずっと、ずっとファッゾの事が好きだった」

「え?」

「貴方がなんでも屋の頃から、貴方は良く私の事を見てくれてた」

「・・」

「機嫌の良し悪しも、具合の良し悪しも、そんな時私が何を欲しがるかも」

「ま、まぁなぁ」

「それは商売柄だったかもしれない。そして私は深海棲艦で、しかも凄く維持費のかかるレ級だし」

「・・」

「人間の貴方とどうこうなれる筈無いって思ってた」

「・・」

「でも貴方はミストレルを迎えてDeadline Deliversになった」

「うん」

「Deadline Deliversになってからも、貴方はちゃんと私を見てくれた」

「・・」

「私が町の連中に何て言われてるか知ってる。とても悲しかったけど貴方の言葉が救いだった」

「ん?例えば?」

「そ、その、見る奴はちゃんとアタシの行動を評価してるし、俺もその一人だよ、とか」

「あぁ、言ったなぁ・・」

「自分の不甲斐なさに気づきたくないから成功してる奴の悪口を叩いて誤魔化してるんだ、とか」

「その通りだろ?」

「嬉しかったんだもん!そうやって私が傷ついてる時にちゃんと励ましてくれるの貴方しか居なかった!」

「そ、そうか。あれ?なんか怒られてるのか俺?」

「今回の看病もそうだけど、適切な時に適切に優しくするのっていつも見てないと出来ないじゃない」

「・・まぁな」

「だから嬉しかった。私を、ワルキューレのボスじゃない私を見てくれてるって」

「・・」

「だから・・・えっ?あ、ありがとフィーナ」

ナタリアはフィーナが手渡したグラスの水をそっと飲んだ。

フィーナは思った。

ボス、少しだけブレーキ踏んでください。ファッゾさん置いてきぼりです・・

 

 

 


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