Deadline Delivers   作:銀匙

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第27話

口火を切ったのは、震えながらファッゾを指差したフィーナだった。

「い、い、いきなり話が飛びすぎです!そ、そそ、そっちの紳士ですか!」

フローラは自分の両頬に手を当て、首を振りながら言った。

「ひっ、一晩中そんな声聞かせたらミストレルちゃんやベレーちゃんの情操教育に良くない!良くないです!」

ナタリアはちらちらとファッゾと床を交互に見ながら言った。

「わ、私はファッゾが聞かせたいなら・・その、良い、かなって・・」

ミレーナは絶叫した。

「柔軟性高すぎですボス!フローラも何一晩中とか言ってるの変態!フィーナも何とか言いなさい!」

ファッゾは自分が言った事をどう取られたかに気づき、その反応に真っ赤になった。

「お、俺は部屋で談笑しても廊下に声が聞こえるって意味で言ったんだが・・あ、そっちか、そっち、な・・」

ミレーナが即座に反撃した。

「紛らわしすぎです!絶対狙ってやってますよね?!」

「ま、待て、誤解だ。ていうか俺のせいなのか?」

「他に誰も居ません!」

「お、おお・・あ、でも一晩中なんて絶対体力続かないから心配しなくて良・・」

「そんな事心配してないです!」

その時、キリッとファッゾの方に向いたフィーナは真顔で訊ねた。

「では、何時間までならOKなんですか?」

「どさくさに紛れて何聞いてるのフィーナ!?私一人に突っ込み役押し付けないで!」

「な、何時間って、そんなの計った事ない。30過ぎてからはその、1回か2回で」

「ファッゾさんも真面目に答えないでください!」

「一晩・・2回まで・・」

「何メモしてるんですかボス!」

「あ、いや、毎晩は無理だよナタリア?さすがに続かな」

「ファッゾぉぉぉぉぉおぉおおお!」

その場で唯一の常識人となったミレーナだけでは到底持ちこたえられる筈も無く。

大変爽やかな朝の雰囲気に全くふさわしくない濃ゆい会話は表通りにまで漏れ聞こえていた。

ゆえにワルキューレ事務所の前に、頬を染めて聞き耳を立てる静かな群衆が出来たのも無理なからぬ話で。

 

なお、家に戻ったファッゾはミストレルとベレーに告白された事を正直に打ち明けた。

するとミストレルは眉をへの字に曲げ、

「あぁん?もしかしてファッゾ・・今まで気づいてなかったってのか?」

ベレーは気の毒そうな顔をして

「ナタリアさん・・あんなに解り易いサイン出してたのに・・」

そして声を合わせると

「ニブ過ぎ」

と、重い溜息を吐かれたそうである。

 

その晩。

 

「はぁー・・」

「ファッゾさん、お代わりは?」

「うーん」

「・・全然聞いてないわね」

ルフィアはそう言って肩をすくめると、カウンターに陣取るファッゾの横を過ぎていった。

その光景をカウンターの端から見ていた情報屋のマッケイは、ジントニックのグラスを手に近づいて行った。

「よぅ、ファッゾのダンナ」

「・・あぁ、マッケイか」

「えらい上の空だな」

「あぁ、ちょっとなぁ」

マッケイはちらりとファッゾを見て、カウンター越しにライネスを見た。

ライネスはグラスを拭いていたが、視線に気づくとそっと厨房の奥に移動していった。

「俺は感謝セールとかはしたことねーんだけどよ」

「あぁ」

「ファッゾがそんな調子だと俺も困るんでな」

「あぁ」

「ケイルに聞いてみたらどうだ?」

ファッゾはその時になって、怪訝な表情を浮かべるとマッケイのほうを向いた。

「なんでそこでケイルが出てくるんだ?」

「ファッゾ、あんな美女美少女の艦娘がうじゃうじゃ居る鎮守府で司令官は男一人なんだぞ?」

「・・あ、あぁ」

「まともな男なら半日もたたずに襲い掛かるか誰かに恋する筈だろ?」

「・・」

「なんでそういう事にならねぇか、だよ」

ファッゾははっとした。

 

 艦娘の艤装には、感情を抑制する装置が組み込まれています。

 

海軍時代に教官が教えてくれた事だ。

長期に渡って戦地で戦い続けるには、艦娘達はとても多感で、自己制御だけでは心許ない。

事実、最初期は精神を崩壊させてしまう艦娘が相次いだが故に、やむを得ず組み込んだ。

僚艦の轟沈や色恋沙汰など、時にドライな態度を取るかもしれないが、それはその影響だと。

恋愛問題についてはそういうものだと思って、そこで考えが止まっていた。

だが。

当然司令官側にだって、恋愛感情はあるはずだ。

・・・まさか。

マッケイはファッゾの肩を叩いた。

「そろそろ司令官を捨てて来いよ、ファッゾ」

ファッゾはがたりと席を立ち、札を何枚かカウンターに置いた。

「ライネス、マッケイと俺の分だ!」

慌しく出て行ったファッゾを目で追いながら、マッケイは呟いた。

「色んな意味でごちそうさん。末永く仲良くやんな」

 

コトリ。

 

振り向くとライネスが目の前にジントニックを置いていた。

「・・これは?」

「感謝セールとやらに乾杯だ」

マッケイはライネスを見返し、二人はニッと笑った。

 

 

 





1箇所、漢字からカナ表記に変えました。
言われて気づいたのですが、こちらの方がしっくり来るかなと。
ご指摘ありがとうございました。

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