Deadline Delivers   作:銀匙

122 / 258
昨夜公開分はお楽しみ頂けたでしょうか?
ちなみに今日がクリスマスです。
日本では既にイベント終わった感が凄まじいですけど、今日が本来祝うべき日です(苦笑)
メリークリスマス。




第34話

ミストレルの問いに、銃をホルスターに戻したミレーナは肩をすくめた。

「勿論。ロシアンルーレットで生き残ったら許してあげるって言ったら、司令官は喜んで死んで行ったわ」

「えっ」

「私達のミッションで一番多かったのはね」

「ああ」

「スパイというか、深海棲艦に魂を売った司令官の特定と関係者を丸ごと抹消すること」

「・・」

「賭博場は職場より足を運んだわ。そういう司令官は高確率で違法賭博に手を染めてるし」

「・・だから、ポーカーも」

「ええ。残念だけどカード類で私に勝つのは難しいわよ」

「それは他の皆もか?」

「えっ?ええ、まぁ」

ミレーナはちらりとナタリアとファッゾを見て、うげっという顔でミストレルの方に向き直った。

「ボスは今なら勝てる気がするくらい隙だらけだけどね」

ミストレルはニヤッと笑った。

「オーケイミレーナ、もう1回カードで賭けやろうぜ。勝ったチームは負けた奴から1万コインずつもらえる」

「大きく出たわね・・・メンバーは?」

「こっちにはフィーナ、そっちはフローラがつく2対2だ」

「くっ」

ミレーナは渋い顔をした。演習の首席はもちろんナタリアだが、2位は僅差でフィーナである。

私とフローラは一歩及ばない。

だが、ミストレルは悪いがド素人。足を引っ張りまくるに違いない。

それに、なんであれフィーナに勝ってみたい!

「・・良い、わよ」

「へっへーん、じゃあ2人を呼んでくるぜ」

 

フィーナは嫌そうな顔で席に着いた。

「カードなんてうんざりするくらい訓練でやったから、正直見たくないのよね・・」

「まぁまぁそう言うなよ、なっ」

「で?何のカードゲームするの?ポーカー?ブラックジャック?バカラ?神経衰弱でも良いわよ」

「大富豪だ」

「えっ」

一気に嫌そうな表情になるミレーナの横からフローラが口を挟んだ。

「ねぇルールは?後出しは止めてよ」

 

大富豪。

 

大貧民とも呼ばれるポピュラーなカードゲームである。

同時に超のつくマイナールールが星の数ほどある事で知られている。

例えば同じ数のカード4枚を同時に場に出す事でカードの強弱を逆転させる革命という行為がある。

革命のカードにジョーカーを混ぜるのはアリかナシか。最強の札(2or3)で革命出来るか否か。

革命出来るのは大貧民だけか、誰でも出来るか、革命に革命返しが出来るか、

更にはその際成立した状態でより強いカードだけに限るのか限らないのか。

うんざりするほどローカルルールがあるのである。

ミストレルはニタリと笑った。

「そうだな。ちゃんと公平に明示しないとな。ベレー!持ってきな!」

「はぁーい」

ぱたぱたとベレーが手に駆け寄ってきたのは1枚の大き目のボード。

それを見たフィーナ達3人は苦悶の表情を浮かべた。

「・・ぜ、全部明記してあるわね」

「このルール通りいくぜー」

「うっ・・地味に変則的ね・・ジョーカーは山に2枚入ってて、革命では同時に1枚しか使えないとか」

ベレーはそっと去りつつ溜息をついた。

ミストレルさんがどうしてもファッゾさんに勝ちたいと延々考え抜いた超変則ルール。

私ですらたまに間違えるし、あのテッドさんさえ絶叫しながら負けを認めました。

皆さん、勝てるんでしょうか・・・

 

そして3時間後。

 

「ねぇあなた達、そろそろ晩御飯の時間よ?」

「あー、その大富豪やってるのか・・作っといてやるから、まぁ、ほどほどにな・・」

ナタリアとファッゾがそういって生暖かい目で見た理由。

それは

「うっし!また大富豪だぜ!」

と、満面の笑みを浮かべながら最後のカードを放るミストレルはお決まりのパターンで、

「この際1位は良いのよ1位は!2位は渡さない、渡さないんだから!!」

「・・こ・・れで・・良い・・わよ・・ね」

「くっ・・ええっとこれ・・あぁあルール違反じゃない!」

と、真っ赤になりながら2位争いを繰り広げているフィーナ達である。

3人とも2勝程度の差しかなく、ちっとも差が開かない。

フィーナと残る二人がここまでデッドヒートを繰り広げた事は滅多に無く。

「ぬっがあぁぁああ負けたぁああ!」

「ね、ねぇ、そろそろ止めない?」

「1勝差で勝ち逃げなんて許さないわよフィーナ!」

「そーよそーよ!」

「そこまで本気にならなくてもいいじゃない・・次でもう18ゲーム目よ?」

「18回もやって1勝差なのよ!?」

「解った、解ったから。じゃあカード配るわよ。2勝差になったら終わりにするからね」

「さぁミストレル、早くよこしなさいよ」

「へっへーん、4枚ポーイ」

「ミストレル、あんたちょっとは空気読みなさいよ!」

「そんな事言ってられる状況じゃない事もあるんだろ?」

「こんな変態ルールで挑まれる事なんて無いわよ!そもそも受けないわよ!」

だが、フィーナは小さく首を振った。

「相手が有利な状況で、隙を見るしかない場合にはこう言う事もありえるかも」

「待ってフィーナ、絶対騙されてるわよ」

「そもそも私達もうMADFじゃないし」

「あーそっか。まぁ、そうね。じゃあ2枚、はい」

「ぐげっ!?」

ベレーはそっと周囲を片付け始めた。

目の色が変わってる・・よっぽどミレーナさんはフィーナさんに勝ちたいみたい。

 

「・・・あー、勝負は大一番を迎えてるんだな?」

エプロンをしたファッゾが苦笑混じりに見ている先。

そこには眉を顰めるフィーナと、鬼のような形相のミレーナが残り少ない手札を握り締めていた。

ナタリアの額に青筋が立った。

「アンタ達・・ファッゾのご飯をたかがカードゲームで遅らせるって言うのかい?」

フローラが申し訳なさそうにナタリアに言った。

「すみませんボス。この結果で2位が決まるんで・・その、長年の野望が叶うというか」

ファッゾは肩をすくめた。

「まぁ夕食はクリームシチューだし、ケリがつくまで寝かせても美味いだろうよ」

ナタリアがぴとっとファッゾにくっついた。

「あなた・・それじゃ甘すぎない?」

「待ってる間ナタリアの頭を撫でてるよ」

「んっ・・それなら良いわ」

ベレーは一人溜息をついた。

ファッゾさんの美味しいご飯・・出来立てを食べたいのになぁ・・

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。