Deadline Delivers   作:銀匙

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新年、明けましておめでとうございます。
皆様からの温かい励ましを頂きましたので、これより1月3日まで特別編をお届けいたします。
今回はリクエストの中から、Deadline Deliversの年末年始をお届けします。
大事件は起きませんので、ゆるゆるとした日常をお楽しみください。

なお、今回の特別編でも1日複数話公開を目指します。
別に恒例にするといった自滅フラグを立てるつもりは無いんですけどね。
・・・無いですからね?




特別編-それぞれの年末年始
S.01話


 

 

「ばりっち!今年最後のゴミ収集車来ちゃうよ!」

「えー待ってー」

「間に合わなかったら捨てられないんだよ!」

「もう良いよ、捨てるの諦める」

「・・全部捨ててやる」

「やっやめてー!」

 

中庭でぱんぱんに膨れたゴミ袋を両手に持ったまま、ベレーは事務所を振り向いて溜息をついた。

只今12月28日月曜日の早朝、可燃ごみの年内最終日である。

 

ベレーは普段から週に1度、夕島整備工場でハウスキーピングのアルバイトをしている。

ゆえに二人が捨てられない性格である事を良く解っていた。

なおかつ、アイウィは大掃除など、イベントを作れば捨てられるのに対し、

 

「いや、絶対何かに使えるのよ。ほら、このチューブだって一昨年の夏にね・・」

 

そう。

ビットはトコトン捨てられない。いや、捨てないタイプなのである。

この工場の裏手には、各地の夕張から保管を委託されているコンテナ群がある。

しかし2日前のアルバイトの際、とんでもない事が解ったのである。

 

 

12月26日、1000時。

 

ベレーは手に小包を持ち、そっとアイウィに声をかけた。

「あの、アイウィさん」

「なーにベレーちゃん」

「今朝届いた荷物なんですけど」

「・・あ、3434鎮守府の夕張さんからの荷物でしょ」

「はい」

「あれ、ごめん。80番コンテナに入れといてって言わなかったっけ」

「伺ったんですけど、もう入らなくて」

「へっ?」

アイウィはきょとんとした後、怪訝そうな顔で帳簿を開いた。

「・・えー?80番以降のコンテナは未使用の筈だよ?」

「で、でも、80番から最後の149番まで探したんですけど、全部埋まってました」

「・・本当?」

「はい」

アイウィは途端にジト目になった。

この家でこんな事態を引き起こすのは1人しか居ない。

アイウィが大きく息を吸い込んだ時、ベレーはすいっと自分の耳を塞いだ。

もう慣れっこなのである。

 

「ばりっちぃーっ!」

 

半径100mに響き渡るアイウィの絶叫の後、ビットはとてとてと歩いてきた。

「・・はいはいなーに?大声出しちゃって。あらベレーちゃん、いらっしゃい」

「お邪魔してます」

「ばりっち!コンテナ勝手に使ってるでしょ!」

「げっ」

「ばりっちには150番コンテナ1個丸ごと使って良いよって言ってるじゃん!」

「そっ、そうね」

「なのになんで80番から149番まで69個も勝手に使ってるの!」

「空いてたからちょこっと借りてただけよ?」

「・・・・」

「わ、解ったから主砲向けないで」

「言い訳を聞こう」

「・・・だっ、だってしょうがないじゃない!置き場所が無いんだもん!」

「却下」

「ほっ、ほら、取っておいた物でお客さんの修理出来た事も1度や2度じゃないし」

「その為の資材庫は別にある。却下」

ベレーは足音を立てないように部屋の隅に移動した。

アイウィの声色がかつてないくらい低い。そして口調まで変わってる。

は、早く気づいた方が良いですよビットさん・・

 

「もう決めた!全部捨てる!全部っ!」

「お代官様それだけは!それだけは勘弁してください!」

「ベレーちゃん!」

案の定の展開になった事に苦笑していたベレーは急に呼ばれたのでびくりとした。

「はっ、はい」

「ファッゾさん達の手を借りられないかなあ?」

「ええと・・」

ベレーは天井を見ながら考えた。

年内の仕事は12月始めに終わってる。

大掃除はほとんど終わってるし、正月の飾りつけは30日にやるって言ってた。

年始の仕事は1月中旬に1件あるだけだってファッゾさんがぼやいてた。

ナタリアさんの方は・・・3月まで無い筈だ。

「30日までなら大丈夫だと、思います」

アイウィがずびしとビットを指差した。

「28日が今年最後の可燃ごみの日です」

「は、はい」

「それまでに必要なものは150番コンテナへ移し、残りは捨てます」

「うぇえええっ!そんな!コンテナ1個になんて入らないよー!」

「捨てます」

「けっ、経営者の横暴を許すなー!」

「・・70個分のコンテナレンタル代、月幾らすると思ってるの?」

「えっ」

「うちは一般向けには1畳辺り月5000コインで貸してるんだよ?」

「うっ、うん」

「ただし1コンテナ丸ごとなら、ちょっと値引きして40000コインで貸してるの」

「げ」

「ばりっちが毎月280万コイン払うんなら良いけど?」

ビットは目を逸らしながら渋々答えた。

「あ、その、ら、来月中には・・せ、整理する・・方向で・・前向きに・・」

アイウィは請求書の用紙を取り出しながら言った。

「じゃあ今月分の280万コイン払ってね」

「28日までに何とか致します!」

「よし」

ベレーは肩をすくめた。

40フィートドライコンテナ70本分の私物って一体・・

アイウィはベレーの方を向きながら続けた。

「そういうわけで、70本分のコンテナのゴミなんてゴミ置き場に置けないし」

「ですね」

「町外れの処分場まで運ぶのを手伝って欲しいんだけど、テッドさん通した方が良いかな?」

「んー」

ベレーはすこし考えたが、

「先にファッゾさんと相談した方が良いかと、思います。お値段的に」

アイウィは溜息をついた。

「そうだね」

 

 

 

 


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