Deadline Delivers   作:銀匙

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S.05話

 

12月26日2200時。夕島整備工場。

 

「じゃ、この赤丸をつけた物だけ1セットずつ残してください。あとは売ります」

「承知致しました」

 

最初に到着した責任者以下40名は全員赤疲労でダウンした。

結局増援を含めて計70名もの店員が投入され、ダウンした人数も50名を越えた。

懸命の作業の結果、買取対象となったコンテナは70本中68本。

そしてビットが手元に残したのは全て1つずつ。

なのに全部あわせてもコンテナ1本の1/3程であり・・

 

「まさかこんなにダブってるとは思わなかったわ」

 

というビットの言葉通りで、酷いものだと14セットも重複していたという。

「ちゃんと見てから買いなよー、そしたらこんな惨事にならなかったじゃーん」

というアイウィの言葉に、店員達もうんうんと頷いていたという。

そして明日、メディアを移送する事が決まり、コンテナにはタグと封印が成され・・

「で、では、今日はこれで失礼します・・明日は8時に伺いますので・・」

店員達はヨロヨロとした足取りで帰って行ったが、しっかり仕事を済ませていたのはさすがプロである。

 

 

12月27日の朝、キッチン「トラファルガー」。

 

「おっちゃ・・ライネスさん、窓の拭き掃除終わったよー」

「ありがとな、クーちゃん」

「このお店のおかげで僕達は生活出来てるからねぇ。感謝感謝ー」

「ははは。ま、その通りだな」

二人が店内を眺めていると、ドアを開けてルフィアが入ってきた。

「表のゴミ拾い始めたいんだけど、手伝ってくれます?」

「勿論だよ。クーちゃんも来てくれるかな?」

「いいよー」

「よし、じゃ行こう」

 

キッチン「トラファルガー」の年内の営業は26日で終了とした。

以前は30日くらいまでやっていたのだが、開けてても客はほとんど来なかった。

その数少ない客のうち二人は、また家族となってしまった。

ゆえにライネスは年末休みをしっかり取る事にしたのである。

それは体を休める意味もあったが、ルフィア達と楽しむ時間を作るためでもあった。

ライネスは枯葉を箒で集めながらルフィアに訊ねた。

「しかし、温泉位行けたのに、どこも行かなくて良かったのか?」

「んー」

ルフィアはライネスのほうに振り向くと、続けた。

「まぁ貴方も長生き出来るようになったし、お金に余裕が出来たら行きましょ」

「その位の予算なら今でもあるぞ?」

「まぁそうなんだけど・・ちょっと心配なの」

「何が?」

「貴方と結婚出来て、貴方が私達と同じ時間を歩めるようになったじゃない?」

「そうだね」

「艦娘として生を受けて以来、こんなに幸せな毎日は初めてなの」

「・・・」

「だからこれ以上幸せになると、全部無かった事になるんじゃないかなって、ね」

「・・そうか」

ライネスはルフィアをそっと抱き寄せると、くしゃりと頭を撫でた。

「大丈夫だよルフィア。明日は今日より幸せになっていくんだよ」

「・・・うん」

そんな二人の様子を、クーは少し離れた所から微笑んで見ていた。

ルフィアの言う通り、今は生きてきた中で一番不安が無い。

不安が無い事が不安だという贅沢な悩みを、ルフィアも僕も抱えている。

ライネスのおっちゃんは結婚以来、本当に僕達の事を真剣に考えてくれている。

だからこその平和なのだと思う。

願わくば、この幸せな日々がずっと続きますように。

そしてそれが、ライネスのおっちゃんに負担となりませんように。

 

 

12月27日昼頃、夕島整備工場。

 

「NO88のコンテナ、封印解きますー」

「8号車と5号車は給油と休憩で抜けます」

「8と5了解、あ、2号車が帰ってきたから積み込み準備始めー」

「ういすー」

 

約束通り0800時に現れた彼らは、昨日とは違いトラックに分乗してきた。

軽トラから2トンロングまで混じっている所を見るとかき集めてきたのだろう。

そして1台積み終わると出発し、2時間ほどで帰ってくる。

運び先を訊ねると、

「近くの倉庫を1週間だけお借りして、とりあえずそちらに運んでるんです」

と、いう答えが返ってきた。

アイウィはもしかしてと思ったが、黙っておいた。

そして、彼らの隣では。

 

「ええと・・これなんだっけ・・あーそうか、あの部品か」

「ばりっち、残り空き容量はコンテナ2/3本分だからね!」

「解ってるわよぅ・・」

そう。

彼らが買い取り対象としなかったコンテナ2本分の整理をしていたのである。

ちなみに今日もベレーに応援を頼もうと思ったのだが、ファッゾが

「ベレーは昨日救護班として頑張ったから休ませるぞ」

と低い声で念を押して帰ったので呼べなかったのである。

 

「では、失礼します!お疲れ様でした!」

「ご苦労様~」

 

アイウィは最後まで残って片付けていた店員達を見送ると中庭に帰ってきた。

そこには既にビットがコンテナの中身を持って来て広げており・・

「捨てたくなぁい、勿体無ぁい、捨てたくなーい、勿体無いよー」

と、涙目で唸っているビットの姿があったという。

アイウィはふるふると首を振った。

ここで自分が仏心を出せば、ばりっちは間違いなく元通り仕舞うだけだ。

レイさんから甘やかしてはダメだとアドバイス貰ったじゃないか。

ここは心を鬼にして!鬼にして整理してもらおう!

「ばりっち、タイムリミットは明日の0830時までだからね」

「はーい」

そこでふと、アイウィは自分の大掃除をやっていない事に気がついた。

「ばりっち、私も大掃除するから何か必要だったら事務所に来てね」

「コンテナもう1本貸してください」

「4万コイン払う?」

「・・おにー」

「ていうかさ、ばりっち」

「なによー」

「資材庫の要らない物片付ければ入るんじゃないの?」

「・・・行って来る!」

駆け出していったビットを見送ると、アイウィは事務所の中へと戻っていった。

 

 

 


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