Deadline Delivers   作:銀匙

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S.07話

 

12月28日早朝、ファッゾ達の家。

 

ジリリリン!・・ジリリリン!

 

「うー・・誰だよこんな朝っぱらから・・」

ミストレルは大あくびをしながら、片目だけ開けて受話器を取った。

ミストレルの部屋が一番電話に近いのである。

「へい、ブラウン・ダイヤモンドリミテッドの本日の営業時間は終了・・」

「ごめんミストレルさん!夕島整備工場のアイウィなんだけど、ベレーちゃんに急ぎの用事なの!」

「・・・は?」

 

「あれからずっと片付け続けてたのか?」

「ずっと、でもないんだけどね・・」

アイウィの声が只事じゃない。

ミストレルの話を聞いたファッゾ達、そしてワルキューレの7人が夕島整備工場に急行した。

だが、そこで伝えられたのは

 

「あまりにも沢山のゴミが出たからゴミ置き場まで運ぶのを手伝って欲しい」

 

という物だった。

「まぁこれだけ積み上がったら2人で運ぶのしんどいわよね・・」

ナタリア達は全く人騒がせなんだからと文句を口にしつつも手伝ってくれた。

ファッゾはベンチで休んでいたビットに声をかけた。

「で、結局コンテナ1本と資材庫に納まったのか?」

「へへへ・・頑張ったよー」

「よくやったな」

「うん・・・でも・・」

「なんだ?」

「島ちゃんが居てくれたから、かなぁって」

ファッゾはにこりと微笑んだ。

「それが解ってるんなら良いさ。いつか言葉で伝えてやれよ?」

「そうねぇ・・そうよねぇ・・」

その時。

 

「あ、あの、ビットさん」

「なぁにベレーちゃん?」

「あの、ビットさんのお部屋は、片付けないんですか?」

「・・・へ?」

 

数秒後。

 

「忘れてたぁあぁああ!」

 

というビットの切ない叫び声が響き渡り。

「それは・・ええと・・捨てる」

「はい、じゃあ次」

「そっ・・それ・・んーパス2!」

「じゃあこっちに置いといて、次」

「そっそれ・・ぬむむむう・・・」

「捨てるの?」

「すっ・・すっ・・」

「捨てるんだね?」

「・・・はい」

「はいゴミー」

アイウィが次々と部屋の物を指差し、ビットが捨てるか判断する。

捨てるとなった物はベレー達が交替で袋に詰めてゴミ置き場に運んだ。

「もう0900時になるよ!いつ収集車来てもおかしくないよ!」

「解ったわよぅ、捨てるわよぅ」

「はいゴミー」

これだけ聞くとアイウィが無差別に捨てる事を迫っているように聞こえるが、実際は違う。

買ったばかりの服や大切にしている物は最初から指を差さない。

その辺はずっと一緒に住んでいる2人であり、解っているのである。

要はそろそろ不要だと思うけれど踏ん切りがつかなさそうという物だけを指差してるのである。

それがまた図星だからビットは実に悩ましい判断を迫られるのだが。

「次これー」

「あっ・・えっ・・えー・・えーと・・えー」

「捨てるー?」

「でっ、でもっ、まだ使え・・・」

「ここ壊れてるよねー」

「たっ、確かに直せない部分だけど・・でっ、でもぉ」

「捨てるよー」

「うぅぅううう・・解りましたー」

 

こうしてビットの部屋から10袋分のゴミが出されたのだが。

「・・・あー、後でもう1回来ます」

うず高く積みあがったゴミの山を見上げた収集車の人達は、数袋だけ積み込むと帰っていった。

ちなみに空の収集車が2回も満杯になったという。

 

「やっと大掃除が終わったわねー」

「そうだねー」

口から魂が抜けるんじゃないかという勢いで呆然とする二人に、ミストレルは話しかけた。

「さっぱりして良かったじゃねぇか。ところで正月飾りとかはどうするんだ?」

アイウィが首を振った。

「うちは特にしないよー」

「おせちもか?」

「うん。高いしー」

ビットも頷きながら言った。

「家で豪華な食事って食べてないからねぇ」

「マジかよ。何食べてんだよ」

「世界各国のレーションよ。通販で売ってるし、日持ちするし」

「正月も!?」

「そうよ」

「なんでだよ?!」

「だって年末年始は山下食堂閉まっちゃうし」

「・・なぁビット、もしかしてお前ら食事って」

「昼も夜も山下食堂行ってるわよ?」

アイウィが続けた。

「山下食堂がお休みならトラファルガーかお蕎麦屋さん」

「100%外食かよ。朝は?」

「食べないわよ?」

「コーヒーだけだよねー」

やり取りを聞いていたナタリアが腰に手を当てながら言った。

「呆れた。私達だって鎮守府出てからは一応調理してたわよ?」

ビットが真面目な眼差しをナタリアに向けた。

「それがですねナタリアさん」

「ええ」

「私達が台所に立つと食材が炭になっちゃうんです」

「・・」

「色々料理の本とか見たんです。あれこれやったんです」

「・・」

「でも炭になるのを止められませんでした!」

「威張れることじゃないわよ?」

「ですから!私達は食材を無駄にしない為に調理を諦めました!やむを得ない処置だったんです!」

「みっちゃーん」

「あいよ姉御」

「この子達に調理指導してあげたら?来年から」

「おっ、そりゃ良いな。丁度ベレーも出来るようになったしな」

ビットがポンと手を叩いた。

「それよっ!」

 

 

 


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