Deadline Delivers   作:銀匙

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第3話

 

その夜、2100時。

「予備燃料はドラム缶に詰めといたから曳航していきな!遠征って誤魔化せるぜ!」

「ありがと!これで結構な距離行けちゃうわね!」

「食料も資材も満載しといたぜ!海の果てまで行ってもへっちゃらだぜ」

「そこまで逃げるハメになりたくないわねぇ・・」

「このスーツケースには俺達の餞別が入ってる!かき集めた現金だ!急な話だったから小額で悪ぃがな!」

「気を使わせちゃったわね・・皆ありがとね」

「夕張師匠、今まで助けて頂きありがとうごぜぇました。上手く逃げ切ってくだせぇ・・ううっ」

「そんなに泣かないで。皆も体を大切にね。ちゃんと休んでね」

「恩は忘れねぇよ。あの司令官に爪の垢でも煎じて飲ませてやりてぇぜ・・」

ふと、夕張はすし詰め状態で乗り込んでいる妖精達に話しかけた。

「ねぇ、本当に良いの?これから逃亡生活になるのよ。降りても私恨まないわよ?」

妖精達は口々に言った。

「てやんでぇ、師匠が飛び込むのに俺らがブルってどうするってんだい!」

「おうよ!夕張さんを今助けねぇでいつ助けるってんだ!」

「俺らが揃ってりゃ洋上だって工廠の真似事くらい出来らぁ!任しといてくんな!」

夕張は肩をすくめた。

「まぁ皆が居てくれたら助かるけどね」

島風が荷物を背負いながら夕張の方に振り向いた。

「じゃ、ばりっち!行くよ!」

「うん!じゃあ、さようなら!」

「元気でなー!」

「皆もねー!」

こうして二人は妖精達の熱烈な送別を受け、脱走にはとても見えない雰囲気での出航となったのである。

 

なお、その少し前の2015時。

食堂は奇妙なほど静かな寝息に包まれていた。

夕食を口にした後で着席位置から動けた艦娘は、7歩歩けた磯風を最高とする僅か3名に過ぎなかった。

そしてその3名を含む全員が食堂で朝まで完全に記憶も無く、昏睡状態だった。

司令室では司令官と霧島が突っ伏して眠っていた。

午前中、遠征から戻ってきた艦娘達は異変に気づいたが、司令官が昼まで起きなかったので行動出来なかった。

ちなみに、何か知らないかと訪ねて来た霧島に対し、妖精達は全く記憶が無いとしれっと答えた。

勿論、夜明けまでに帳簿等は完璧につじつまを合わせ、徹底的に証拠を隠滅していた。

妖精を敵に回すと地味に怖いのである。

 

 

出航した翌日。

 

「ばりっち!装備捨てて!じゃないと追いつかれちゃうよ!1ノットでも上げようよ!」

 

島風はとにかく夕張を急かしていた。

自分一人なら追っ手を易々と振り切れるが、何せ夕張は足が遅い。

更にはすし詰め状態の妖精や溢れんばかりの装備を背負い込んでおり、余計遅くなっていたのである。

夕張は装備を手に取りながらそっと島風を見返した。

「うー、全部思い入れのある品なんだけど・・・捨てなきゃダメ?」

「思い出の為に殺されたら意味無いでしょ!」

「しょうがない、か・・でも工具セットだけは捨てないからね!」

その時、妖精の一人がにゅっと顔を出した。

「待ってくんな!方位088に1時間も行きゃ小さな漁港に出る!近くに鎮守府もねぇから警備は手薄だぜ!」

夕張は捨てかけた装備を仕舞いつつ頷いた。

「じゃ、そこに上陸しちゃいましょ!方位088に全速前進!」

島風は溜息をついた。

「はぁ・・しょうがないなぁ、じゃあ行くよばりっち!」

そんな訳で二人は妖精が指示した漁港を真っ直ぐ目指していったのである。

 

上陸した島風は手早く艤装をしまうと、不安そうに周囲をキョロキョロと見回した。

「あまり1箇所に留まってると見つかるんじゃない?」

夕張の妖精が答えた。

「モチのロンだ!西に600m行けばバス停がある。そこから20分後にバスが出るぜ!」

夕張が頷いた。

「そっか。じゃあそのバスに乗っちゃいましょ・・・ええと、これどこに仕舞おうかなあ」

「ばりっち行くよ!おっそーい!」

「ま、まだ積荷片付けてるからちょっと待ってぇ・・」

 

「・・・そろそろ、バスが来る時間だよね?」

「そうねぇ・・」

島風はガードレールに腰掛けながら、油断無く海原を見続けていた。

夕張はバス停に掲示されていた路線図を眺めていた。

その時、妖精の一人が夕張に言った。

「なぁ師匠、街中で互いを呼び合うのに艦名じゃ目立つんじゃないかい?」

「あー、そっか。大本営から外に出る時も街中で鎮守府名とか言うなって言われたわねぇ・・」

「だろ?だから何か偽名考えようぜ」

「んー・・島ちゃんどうする?私はビットで良いけど」

島風が怪訝な顔で見返した。

「えっ・・それ使うの?」

「慣れてるし」

「うーわ・・島風はどうしようかなぁ・・」

妖精がにやりと笑った。

「作戦中のコードネームで良いじゃんかよ」

「アイランド?」

「そうそう」

「んー、もうちょっと何とかしたいよぅ。丸解りじゃん」

「そんなら島風を英語にするとさ、アイランドウィンドだろ?」

「もろ直訳だよね、それ。一発でバレるし長過ぎだよ」

「まぁ待てよ。でさ、その頭2文字ずつ取ってアイウィはどうよ?」

「えー」

 

プップー

 

「あ、バスが来たわね。あれで良いのかしら?」

「OKOK、あのバスだ。終点まで650コインの前払いだからアイウィも用意しろよ?俺達は隠れるぜ!」

「えっ確定なのそれ?私まだ・・」

島風は抗議しようとした。

だが、さっさと乗り込んでしまった夕張の先ににこやかに待っている運転手の顔が見えて、

「ごっごめんなさい!乗ります乗ります!」

と、慌てて財布を取り出しつつ乗ったのである。

 

こうして、二人を乗せたバスは港を後にしたのだが。

 

「な、なんだろうね、ばりっち」

「そう、言われてもねぇ・・」

 

バスから降りた場所は人間が大勢歩いている駅前の市街地だった。

名前も改め、艤装も仕舞っていたのだが、それだけでは不十分だった。

通りを歩く人達からが向ける訝しげな視線に気づいたのである。

 

 

 


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