Deadline Delivers   作:銀匙

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第10話

 

しばらくして。

「・・連絡、取れたわよ」

ぱあっと笑顔になった五月雨と高波を前に、レイは続けた。

「ただし、悪いけど貴方達を完全に信用したわけじゃないの」

「えっ・・」

「ビットちゃんに危害が加わるリスクについて、夕張会は全力で阻止する事に決定したわ」

五月雨は首を振った。

「わっ、私達も夕張さんには恩があります!だから無理矢理捕まえるような真似はしません!」

高波は首をかしげながら訊ねた。

「あ、あの、夕張会としてって・・どうやって決めたの、です?」

レイは肩をすくめてスマホをちらつかせた。

「幹事君の投票機能よ?」

五月雨は真っ青になった。

「そっ、外に漏らしちゃったんですか!?秘密にしてくださいって言ったのに!」

「大本営や憲兵隊にチクる訳無いでしょ。それこそビットちゃんの身に危険が及びかねないし」

「あうー」

「まぁそんな訳で、会合場所ももう決めたし、そこまで私が案内するわ。行きましょうか」

「えっ?・・・夕張さんと、御話出来るんですか?」

「そういう事。それも夕張会の総意よ」

高波が頷いた。

「幹事君・・便利かも、です」

途端にレイの目が輝いた。

「解る?幹事君V6.00の良さ!」

「えっ!?ええ、あ、はい、かも・・」

「V5.92までは外洋に居る会員の投票が遅延する問題があったんだけど、新開発の投票プログラムでは・・」

五月雨と高波はさっぱり解らない専門用語のオンパレードに目をぱちぱちさせながら思った。

やっぱり夕張はどこの夕張でも似ている、と。

 

 

浜風達に連絡を取った五月雨達は、合流時にレイを皆に紹介した。

早霜が深々と頭を下げた。

「レイさん。お手を煩わせてしまい、申し訳ありません」

「まぁビットちゃんとこのままお別れは寂しいからね」

「外出の許可、よく、取れましたね」

「表向きは新型高圧缶の外洋航海テストって事にしてあるの。実際装備してるしね」

「もしかして・・手馴れてらっしゃいますか?」

「さぁねぇ。ご想像にお任せするわ」

「この後は会合場所までレイさんにご案内頂く、そういう事でしょうか?」

「ええ。燃料が半分割ってる子は居ないわね?じゃあついてきて!」

こうしてレイを先頭に、6人は海原を進んで行ったのである。

 

その頃。

「短時間で用意出来るのがここくらいしかなくて。ごめんなさい」

「良いの良いの。色々してもらっちゃってごめんなさいね」

「とんでもない。ビットさんには今まで散々お世話になってきたんですから」

「悪いんだけど、もうちょっとだけ手を貸してくれるかしら」

「もちろんです。明日の夜まで非番ですから、しっかりお役目頑張っちゃいます」

アイウィはそっと建物のドアノブを掴んだが、その途端、顔をしかめた。

「うわっ・・埃積もってる・・気持ち悪いなぁ・・」

それでもドアノブを回し、ゆっくりと中に入り、見回した。

さっきナナミちゃんが言ってたセーフハウスってここの事なのかなぁ。

うす暗いし、かび臭いし、くっ、蜘蛛の巣張ってるし、なんか無駄に天井高いし。

埃を被った変な機械が一杯置いてあるし。

私にはセーフどころか余裕でアウトなんだけど・・・長袖長ズボンで良かったなぁ。

まさかずっとこの工場を根城に商売する事になるなど、この時のアイウィは予想すらしなかったであろう。

 

 

五月雨達が鎮守府を出発してから4日目。

 

「そ、そろそろ・・着きませんか?」

「んー」

五月雨がレイに恐る恐る訊ねたのも無理はなかった。

巡航に適した速度でとはいえ、レイに導かれるまま外洋を1日近く進み続けていたからである。

「帰りもちゃんと送ってあげるから!さ、行くわよ!」

「あ、あと3日で戻らないといけないんですよー」

「大丈夫!間に合うから心配しない!」

高波が遠くの影を認め、眉をひそめた。

「遠方に艦影・・・かなりの数かもです」

レイは目を細めた。

「へぇ・・あなた目が良いわね。あれが目的地よ、行きましょ」

 

五月雨にしろ、浜風にしろ、早霜にしろ、高波にしろ、あきつ丸にしろ。

110鎮守府から来た面々は呆気に取られていた。

周囲見渡す限り、夕張、夕張、夕張、そして夕張、なのである。

互いに親しげに、その多くが工具、スマホ、あるいは何らかの部品を手に議論している。

その数は数百とも数千とも、もはや数え切れなかった。

五月雨は恐る恐るレイに訊ねた。

「あっ、あの」

「なぁに?」

「も、もしかして、夕張会全員、いらっしゃるんですか?」

「いいえ?都合ついた子だけだから、3割くらいかしら」

「3割でこんなに!?」

「ほとんど全部の鎮守府に居るからね」

「はー」

「でも、これだけ1度に集まるのは久しぶりかな」

早霜がそっと訊ねた。

「やっぱりそれは・・」

「ビットちゃん人気者だから。会合での技術提供も多かったし、腕も良いしね」

早霜は小さく頷いた。

「やはり、そうだったのですね・・」

五月雨が訊ねた。

「それでその、うちに所属していた夕張さん・・ええとビットさんは・・どちらに・・」

レイはくるりと振り向くと、五月雨をまっすぐ見ながら言った。

「その前に1つ。司令官がデッドオアアライブと言った事は伏せといてくれないかしら」

「えっ?」

「ビットちゃんは純粋だし、繊細でもある。投票の時にもそこは伏せたの。本人も見るから」

五月雨は腕を組んで少し考えていたが、

「じゃあ解体の事も言わない方が良いですよね」

「そうね・・戻ると厳罰に処される、その辺りにしておいてくれないかしら」

「解りました」

 

 

 


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