Deadline Delivers   作:銀匙

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第13話

 

レイと別れてから2時間後。

指令室では五月雨達が報告を行っていた。

司令官は呆然とした表情だったが、やっとの事で声を出した。

「ご・・・轟沈、させて来たのか?」

「はい。これが証拠です」

早霜からIDプレートを受け取った霧島は、刻まれた文字を凝視し、溜息をつくと司令官に向き直った。

「確かに、二人のIDプレートです」

司令官はがくりと俯くと、指令室に静寂が訪れた。

少しして、司令官がのろのろと顔を上げたとき、拳を握り締めていたあきつ丸がついに叫んだ。

「・・なにも、なにも騙し討ちで殺さなくても良かったのであります!」

その言葉は早霜よりも、むしろ司令官に突き刺さった。

動揺した目で司令官はあきつ丸を見た。

「あ、あきつ丸・・」

「デッドオアアライブと命じられた、それは事実であります!命令は絶対であります!」

「・・・」

あきつ丸はぽたぽたと涙をこぼしながら続けた。

「だとしても、せめて・・せめて互いに向き合ってもう1度話し合っても良かったのであります!」

早霜は、五月雨達は、全くの無言だった。

霧島がとりなそうと口を開きかけたが、司令官が首を振って制し、話し始めた。

「あきつ丸」

「これでは夕張殿が、今まであれだけお世話になった夕張殿が、あまりにも、可哀相なのであります・・」

「あきつ丸、頼む。聞いてくれ」

あきつ丸が歯を食いしばったまま床を睨みつけて黙したので、司令官は続けた。

「早霜が撃ったのは、私の命令だからだ。全ては私の責任だ」

「・・」

「私がとことん話し合って、処罰や冷遇はしないから戻るよう説得して来いと言えば良かった」

「・・」

「私は、あの晩、夕張があっさり言った事がとても怖かった」

「・・」

「直すほど気心が知れているなら深海棲艦と他にも通じているのではないか」

「・・」

「鎮守府の内情まで敵方に伝えてしまったのではないか」

「・・」

「お前達を不意打ちするような戦法を取られてしまうのではないか・・」

「・・」

「そう思うと、怖かった。事の重大性を全く理解していない夕張にも、置かれている状況にもだ」

「・・」

「だから一刻も早く、夕張と深海棲艦の関わりを断ちたかった。お前達を、大事なお前達を守りたかった」

「・・」

「だが、夕張も、島風も、大事な一人だった」

「・・」

「その夕張達の言い分を、本当の状況を聞く機会を全く与えなかったのは私だ」

「・・」

「あの晩解体していたとしても、現状でも、それは変わらない・・」

「・・」

「島風が私から遠ざけようと逃走を手引きしたのも当然だな。友を守る為に必死だったのだろう・・」

司令官は霧島から2枚のIDプレートを受け取ると、ぎゅっと握り、額に当てた。

「全ては手遅れになってしまった。私のせいで・・酷い事をしてしまった・・」

あきつ丸はふと、司令官が涙をこぼしているのが見えて我に返った。

「すまない・・夕張・・島風・・すまなかった・・・」

霧島がそっと口を開いた。

「本件は秘匿案件とします。外部への開示は禁止。帰還までの経緯は鎮守府内でも極力言わないでください」

五月雨が霧島に不安げに尋ねた。

「も、もし聞かれたら・・夕張さんの事は皆心配してましたし・・」

霧島は頷いた。

「あくまでも・・極力、ですよ」

「は、はい・・解りました・・」

「あと、今、この部屋で見聞きした事は一切口外する事を禁じます。最上級の機密事項です」

「・・はい」

「では、補給と休養を取ってください。皆様は明後日の0900時まで休暇とします。任務、お疲れ様でした」

プレートを握り締めてすすり泣く司令官の肩に手をやり、目で退出を促す霧島に頭を下げると、5人は部屋を出た。

 

「ごめんね、ちょっと私、寝るね・・」

そういうと五月雨はふらふらとした足取りで、浜風に支えられながら寮に戻って行った。

「自分も、失礼するのであります」

あきつ丸は早霜達の視線を避けるように、足早に歩き去った。

「姉さん・・あの」

早霜が高波を見た時、高波はにこりと頷いた。

「一緒に、もう1つのお役目を果たしましょ?」

早霜は少し驚いた目をしたが、すぐに元の表情に戻り、頷いた。

「はい。もうひと踏ん張り、いたしましょう」

 

そうして。

早霜達は積極的ではなかったが、鎮守府内で艦娘達から聞かれる度に丁寧に説明していった。

あきつ丸と同じように早霜の後ろ姿を睨む子は居た。だが、

「テートクにデッドオアアライブと言われた以上、命令通りデース」

と、鎮守府最高LV保持者である金剛が言った事で表面上は静かだった。

早霜は自らに批判的な子達の視線は気にしていなかった。

正確には、気にしている余裕が全く無かった。

さりげなくではあるが、早霜も、高波も、何をする時も油断なく周囲に目を配り続けていた。

その日の夜、風呂から部屋に戻ってきた早霜に、高波がそっと囁いた。

「・・誰かから言われた、かも?」

「いいえ姉さん。今の所、誰からも」

「就寝後、誰か来るかも、です」

「ええ。でも動くなら・・早く動いて欲しいですね」

「明日の夜が、節目かも」

「出来れば波が立つ前に、始まる前に収めてしまいたいのですが・・」

 

二人の予想に反し、夜も、翌朝も、その午前中も、静かだった。

そして昼食後。

「・・ちっ」

金剛はふと、腹立たしそうな舌打ちが聞こえた方に目を向けた。

そこには立ち去る早霜の後姿を睨む天龍の姿があった。

金剛は天龍に近づくと、

「Hey天龍!ちょっと相談があるのデース。時間作ってくれませんカー?」

と、にこりと微笑んだ。

 

 

 


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