Deadline Delivers   作:銀匙

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第18話

深夜の工廠に、小さな足音がした。

その足どりは確かで、暗がりを迷う事無く、まっすぐ兵装庫へと進んでいった。

 

「・・こんな夜更けに単独出撃かい?電気もつけねぇでどうしたよ?」

 

妖精に声をかけられた人影は、兵装庫の棚に置かれた主砲へと伸ばしていた手をびくりと止めた。

とはいえ、普通の子なら絶叫してしまう位、妖精は音もなく背後に立っていたのであるが。

「そもそもどこ行こうってんだ?司令官の命令にしちゃ、俺達は聞いてねぇけどな」

「あ・・貴方達には関係ありません」

「そりゃねぇな。ここにある物は全て俺達が管理してるんだぜ?」

人影は答えぬまま、荒々しく12.7cm連装砲を掴むと艤装にガチリと装着した。

妖精は続けた。

「早霜がやらないならアタシが殺るってか?不知火ちゃんよ」

不知火は再びびくりとしたが、ぷいと視線を逸らすように早足で魚雷の棚へ向かって歩いて行った。

その背後を妖精がついていく。

「経緯はすっかり説明されたし、お悩み相談も受けるって金剛が言ってたじゃねぇか」

不知火が黙って4連装酸素魚雷の発射装置に手を伸ばした時、妖精は一段声を低くして告げた。

「それに、命令も無く武器持って海に出たら反逆罪だぜ?」

不知火は発射装置の手前で手を止めると、目を瞑りながら答えた。

「・・あの二人を討った後であれば、不知火はどうなろうと構いません」

「なぜそこまで恨む?」

「陽炎の弔い合戦です」

「陽炎ちゃんは遥か遠くの西方海域で沈んだんだぜ?」

「どこで沈もうと、深海棲艦に沈められたのです」

「その理屈ならそもそも陽炎を向かわせた司令官だって仇って事になるぜ?」

「・・そっ・・・それは」

「それは?」

「・・少し・・そうだと・・思ってます」

「おいおい」

「陽炎が・・大破したあの時に撤退出来ていれば・・」

「・・」

「ですが戦艦が全て無傷だった。やらねばならない刻限も迫っていた。最後のチャンスだった」

「・・」

「だから仕方なかった。そう思う事に決めました。だから司令の差配について今更蒸し返すつもりはありません」

「・・」

不知火はギッと妖精達を睨み、歯を剥き出しにして怒鳴った。

「でも夕張は!島風は!そんな必要はどこにもありませんでした!」

 

妖精は不知火の殺気漂う表情を黙って腕を組んで見返していた。

不知火は怒りで震えながら続けた。

「あの時、追跡隊が編成された時に長期遠征中だった事が返す返すも腹立たしい」

「・・」

「早霜さんだって夕雲さんを失っているのに、何故徹底的に追い詰めて討たなかったのか」

「・・」

「不知火には全く理解出来ませんが、不知火は不知火として筋を通します」

「夕張さんが陽炎ちゃんを直接殺したってんならまだ解るが、なんか筋が違うんじゃねぇか?」

「そっ、そんなことはありません!すっ筋違いなどでは!決して!」

その時。もう1人人影が現れた。

「・・不知火さん」

「きっ!霧島秘書艦・・なぜ・・」

「そういう風にお考えになる人が出ないか、それが早霜さんと高波さんの心配だったと伝えた筈ですよ」

「・・」

「ですからわざと二人はそういう気持ちで撃ったと喧伝した」

「・・」

「その行為に同調する人が来たら説得しよう、そう思っての事です」

「不知火には解りません。余計な事をして姉妹が沈む遠因を作ったのに、何故許すのです?」

「では、過去の出撃で貴方が撃ち損じた敵艦が居た事をもって、僚艦が沈んだのは貴方の責任だと誰か言いましたか?」

「っ!それとこれとは」

「どう違いますか?遠因を問うなら全く同じです」

「・・」

「更に言えば、出撃そのものが深海棲艦達を刺激している事は事実です。我々が討伐しているのですから」

「・・」

「ならば出撃した事そのものが遠因と言えますから、突き詰めれば自業自得の一言に集約してしまうのです」

「・・」

「轟沈は自業自得。そんな事を言われて納得出来ますか?」

「・・出来ません」

「不知火さん。兵装を棚に戻し、寮で睡眠を取ってください。浜風さんが気づいたら心配しますよ」

「!」

「司令は連帯責任を問うお方ではありませんが、貴方が強行すれば浜風さんは自分を責めるでしょう」

「・・・くっ・・」

「1度眠り、起きたら私と話しましょう。時間は明日の午前中に必ず作ります」

「・・」

「とにかく、今夜は部屋に戻ってください。私は貴方を失いたくありません」

「・・そんな・・そんな簡単に・・姉の轟沈を・・割り切れるものではありません」

霧島が溜息をついた時。

「不知火!何をしているのです!」

「はっ・・浜風・・」

「あれほど、あれほど夕張さんが直した方達がどうなったか説明したではないですか!」

「・・」

浜風は不知火と霧島達の間に割って入り、息を切らせたまま霧島の方に向き直り、がばりと土下座した。

「霧島秘書艦!申し訳ありません!かっ、必ず、必ず浜風が説得します。どうか今だけ見逃してください!何卒!」

「・・浜風・・あなた・・」

不知火はぽかんとしてその様子を見ていたが、次第に目が揺れ始めた。

霧島はカリカリと頭を掻いた。

「・・浜風さん」

「はいっ!」

「昨日の帰港時、司令とのやり取りを覚えてますか?最上級の機密と言った部分です」

「全て覚えてます!」

「では特別に許可しますので、その事を不知火さんには打ち明けて構いません」

「必ず伝え、解らせます!」

不知火は眉を顰めた。烈火のごとく怒っていた司令が帰港時に浜風達に何を言ったのだろう・・

「では、不知火さんと一緒に自室へ戻ってください。兵装は全て置いていってくださいね」

浜風はキッと不知火を睨みつけた。

慌てて視線を逸らした不知火からひったくるように主砲を外すと、兵装庫の棚にドスンと置いた。

「さぁ、帰りますよ」

「・・」

「帰るんです!これから朝までかけてきっちり理解してもらいます!」

「えっ・・あ・・じ、自分で歩けます・・ちょっ・・苦し・・」

「問答無用!」

霧島達が後ずさりする程の迫力で浜風は不知火の襟首を掴み、なかば引きずるように寮へと戻っていったのである。

 

 

 




表現を訂正しました。
いやあ、何時間も悩んでたのがお恥ずかしい…

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