Deadline Delivers   作:銀匙

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第2話

ガチャ。

 

開いたドアを見た雷は、すぐに書類を置いた。

「・・あ、ちょっと外すわね」

だがヴェールヌイ相談役は軽く手を上げて部屋に入ってきた。

「いや、いいさ。雷、至急頼みたい事があるんだ」

「ここで話して良い事なの?」

「うん。今日貰ったリポートの件だよ」

「それなら良いわね。えっと、主人も居た方が良いかしら?」

主人とは大将の事である。

「いや、今はまだ良い。同じ症例が無いか、他の鎮守府にも確認して欲しいんだ」

「・・・・えっ」

ヴェールヌイ相談役の言葉を聞いた途端、雷とスタッフの表情がこわばった。

「ん?なにかな?」

「そっ・・そうよね・・伝染・・するかも・・しれないものね・・」

「そもそも第9642鎮守府だって、自然発生的に感染したとは思えないし、経路があるはずだ」

「う、うん、解った・・あ、えっと、指示文書作ってくれるかしら?」

「は、はい、かしこまりました・・」

ヴェールヌイ相談役は一気にテンションの下がった雷達を見てしまったと思い、ドアの取っ手に手をかけた。

「あ、じゃあ、邪魔すると悪いから、私は戻る」

「え、ええ、結果が解ったら伝えるわね」

ドアを閉めたヴェールヌイ相談役は溜息をついた。

そうか。気づいてなかったのか。悪い事をしてしまった。

まぁ伝染力が強くないと解れば安心してくれるだろう。

強くなければ、だけど・・・

ヴェールヌイ相談役は廊下を歩きながら窓の外を見た。

これでは今年もチョコどころじゃなさそうだ。

 

 

2月18日

 

「・・なんという事だ」

定例の上層部会にて、その報告を聞いた大将は唸った。

ヴェールヌイ相談役の予感は当たっていた。

第9642鎮守府の調査に当たった艦娘達は、程度に差異はあるが全員が発症していた。

さらに北海道の北東方面に配置されている鎮守府で複数の発症例が確認された。

中将は担当官の報告を聞きながら、どこか得体の知れない不気味さを感じていた。

「これまでに該当する35箇所の鎮守府に発症者の強制隔離命令を下しました。報告は以上です」

出席者の一人が手を上げた。

「他所でも同様の症例が見られる場合は重症化していなくても隔離してはどうだろう?」

別の出席者が答えた。

「少し咳き込んだくらいで隔離していては戦力がガタガタになってしまうよ。現実問題として無理だ」

「インフルのように、検査キットか何かがあれば良いんだが・・」

「それなら881研に検体を送って調べさせてはどうだろう?」

大将も頷いた。

「発症者の所持品や艤装等、サンプルを取り寄せて調べさせよ。扱いは慎重にな」

中将は頷き、後ろに控えた五十鈴に言った。

「感染者の所持品を検体として密封状態で881研に送るよう、2~3の対象鎮守府に指示してくれ」

「解ったわ。881研にも準備するよう伝えます」

五十鈴は部屋を出て、体がふるっと震えた事にびくりとした。

いや、これは廊下が寒いからよ。そうに違いないわ。ちょっと考えすぎよ五十鈴。

・・・うがい、しておこう。

 

 

3月1日午後

 

「・・・多過ぎる」

ヴェールヌイ相談役はリポートを閉じると、ばさりと机の上に放り投げた。

今月に入って鎮守府の壊滅例が急増している。

「突出しているのは・・北だね」

艦娘達が風邪のような症状を発し、床に伏せて出撃出来なくなった所を襲撃され、壊滅するパターン。

第9642鎮守府を始まりとし、次第に北海道を覆うように南下している。

いずれ本州にも来るだろう。

「このままでは、来月には北海道の制海権が取られてしまうね」

確かに今まで哨戒や出撃をさせていた鎮守府が大人しくなれば好機と見る深海棲艦は居るだろう。

だが、所属艦娘が全員重症化すると、ほぼ間髪を置かず侵攻されている。

あまりにもタイミングが良すぎる気がする。

「それにしても・・881研が手こずるなんてね」

いつもならサンプルを届ければ1週間前後で答えを出す881研がまだ沈黙している。

「検体を受領してほぼ2週間・・今朝の段階でも調査中、まだそれらしき物は見つからず、か」

ヴェールヌイ相談役は窓の外を見た。

鉛色の空から舞い降りる雪の粉は、地表をうっすらと白く染めていた。

 

 

3月1日夜

 

881研の棟にある中央監視室に警報が鳴り響いた。

うとうとしていた警備員が慌ててモニタをチェックすると、地下研究室からの非常警報だった。

突然の事で戸惑っていると、蛇又が駆け込んできた。

「どうした!」

「あっ、へっ、蛇又さん!地下の研究所から緊急警報が・・」

「あの大型モニタとスピーカーを切り替えてくれ!」

「わ、解りました」

 

 

 


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