Deadline Delivers   作:銀匙

172 / 258
第15話

 

 

パパパッ!パパパパパパパパ・・・

 

突然、フィーナの頭上から粉々に割れた窓ガラスが降ってきた。

フィーナは鏡を引っ込め、頭を庇いながら壁を見つめた。

この音と弾痕だと・・5.56mmNATOか。

向こうがフルオートでライフル弾を撃ってくるなら、建物は撃って問題ないってことよね!

フィーナは一瞬の切れ間をついて反撃した。

フィーナの発射した3発の弾丸は正確に警備兵2体を天国へと導いた。

「・・強化されてるわけではない、か。普通の深海棲艦ね」

背後から声がした。

「そっちはどう?フィーナ」

「2体片付けました。通常艤装のようです」

「こっちも15体始末したわ。防弾装甲くらい追加してるかと思ったんだけど」

 

そう。

 

深海棲艦も艦娘も通常兵器では歯が立たない、というのはおとぎ話である。

まず、艦船や航空機に搭載されている対艦用レーダーでは、深海棲艦や艦娘は小さすぎて反応しない。

また、数キロ先の高さ2mも無い、潜水可能で海面色に似た深海棲艦を目視で見つけるなど絶対に不可能である。

これが「見えない敵」という誤解を生んだ。

次に、海上では艦船の常識を超えた挙動で移動出来る為、艦砲等の大型兵器で攻撃しても着弾前に避けられてしまう。

そもそも直径1m程度しかない対象物に命中させられる精度など無いのである。

ならばと大型爆弾を用いても、海に潜って手順に従って対処すれば、ほぼノーダメージでクリア出来る。

かといって狙撃銃やライフル等の対人兵器を用いようにも、それらの射程圏内に入る前に逃げられてしまう。

仮に接近出来て身体に当てられたとしても、艤装が自身ならびに船魂の状態を加味して身体を再構成してしまう。

そして艤装は基本的に分厚い金属の塊であり、対人兵器を適当に着弾させても損傷しない。

以上の理由から、「近代海戦用」レーダーでは見つけられず、「近代海戦用」兵装ではダメージを与えられない。

ゆえに近代海戦用の最新兵器は万能だと信じていた人類には「攻撃の通じない化け物」と写ったのである。

昆柊所長と海底国軍元首の異様なまでの執念が生み出した特殊なシステムだが、得体の知れないものではない。

そもそも、もし攻撃が一切通じないなら艦娘が深海棲艦を、あるいはその逆を攻撃出来る筈が無いのである。

 

では、艦娘と深海棲艦はどうやって戦っているのか。

 

艤装には必ず、脆弱だが壊されてはならない「クリティカルポイント」と呼ばれる場所が出来てしまう。

例えば可動部の継ぎ目は装甲が弱いのに、内部に重要な配管や配線が通っている箇所がある。

煙突に爆発物を放り込まれればより中枢に近い部分に損傷を受けてしまう。

深海棲艦が主砲や航空機を使うには耐水ゲート(口のように見える部分)を開けねばならないが、内側には可燃部もある。

艤装で最も重要なのは船魂とのインターフェースである「コア」と呼ばれる装置である。

「コア」が壊れると霊力の支援が得られなくなって身体が形成出来なくなり、艤装が停止し、洋上航行が不可能となる。

これが轟沈と呼ばれる状態であり、艤装と船魂が分離してしまうので、艤装だけ持ち帰っても復旧は不可能となる。

従って、敵艦種をいかに早く特定し、いかに早く「コア」を壊せるかが攻撃の要点である。

逆に、いかに艦種を悟られず、「コア」を守り抜くかが防御の要点である。

この為、艦娘側も深海棲艦側も敵側に知られてしまったクリティカルポイントは対策を打つ。

例えば他の船から艤装の煙突を貰い、自分の艤装に加工して組み込むといった細工を近代化改修と呼ぶ。

より幅広い、あるいは抜本的な対策は艦娘なら改や改2、深海棲艦なら後期型などと呼ばれる。

ただし大掛かりな対策ほど加工に高い技術や設計図が必要とされるし、加工後の艤装は取扱いがシビアになる。

艦娘に高い艤装取扱いレベル(Lv)が求められるのはその為である。

 

このように艤装の状態管理は大変重要であり、たとえ新米の司令官でも損傷を見逃してはならない。

その為、やむを得ず、やむを得ず、最も目立つ服の損傷にてダメージを表現するしかなかった。

決して紳士的な理由ではありません!

そう、初代881研昆柊所長はキリッとした顔で拳を握り締めて強調したそうである。

だが艦娘達は全く納得しておらず、昔から艦娘達が不満に思う事のトップである。

他にやり方があるでしょと幾ら訴えても、海軍の面々は小さく咳払いをして目を逸らすだけである。

この「悪しき仕様」は海外への技術供与においても脈々と受け継がれている。

ゆえに艦娘の間では洋の東西を問わず大変盛り上がる定番の話題であり、881研の評判が芳しくないのである。

 

更に記すと、船魂の霊体イメージが一定である為に艦娘は年を取らない。

一方でこの霊体から具現化する機能を進化させたのが一部の深海棲艦が持つ「化ける」能力である。

艦娘にしろ、深海棲艦にしろ、生成後の身体の維持に必要なエネルギーは飲食等から得る。

艤装は機械ゆえ、燃料で動き、修理には鉄鋼石やボーキサイトを必要とする。

つまり艦娘や深海棲艦が生活していくには、食事と資源のそれぞれを補給していく必要がある。

そして艤装の制御、思考や記憶といった部分を司る船魂のエネルギー源は何かというと「需要」である。

ゆえに鎮守府には艦娘を明確に必要とする象徴たる「司令官」が必要とされるのである。

深海棲艦が凶暴なのは、「需要」を攻撃する事で他者に認知してもらう事をもって代用しているのではないか。

881研は過去にそのような説も含め幾つか提起しているが、いずれも推測の域を出ていない。

 

さて。

 

以上を踏まえると、何故龍田や天龍、木曽といった面々が帯刀しているかもお分かり頂けるだろう。

敵の懐に飛び込んで正しくクリティカルポイントを攻撃出来るなら、武器は刀でも良いのである。

更に言えば、現代的な武器である銃器類でも全く構わない。

全ての艦娘ではないが、接近し、かつ正確に狙えるのなら拳銃弾程度のパワーでも壊せる所はある。

提督がブローニング1910で他所の鎮守府に所属していた天龍に対し攻撃を加えた顛末は以前記した通りである。

では、なぜ兵装があるのにナタリア達はMP7等の対人兵器を使うのか。

駆逐艦の有する12cm砲でさえ建物を崩してしまう恐れがあり、さらに遠距離攻撃専用ゆえ屋内戦には向かない。

ナタリアの持つ主砲ともなればビルごと瓦解させてしまうから自身も死の危険が生じてしまう。

ゆえに、屋内戦といえば対人兵器による銃撃戦、あるいは刀剣類による戦いとなるのである。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。