Deadline Delivers   作:銀匙

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第16話

 

 

3月7日0545時、ウェーク島近海

 

 

ガシャッ!

 

HK45CTに新しいマガジンを叩き込むと、フィーナはスライドロックを解除し、チャンバーに弾を送り込んだ。

身軽に感じるという事は残弾が乏しくなってきたという事で、あまり良い兆候ではない。

実際、MP7の弾はあと1マガジン分しかない。これは万一への備えだから使いたくない。

だが・・・

耳を澄ませても、プラントの機械が放つ低いファンの音と、銃撃で破壊された機械のカタカタという音だけだ。

ようやく制圧出来たか?

これだけ警備員を配置しているからには重要な施設に違いないだろうが・・

ふと、ナタリアが手招きしているのに気づいたフィーナは駆け寄って行った。

 

「ここがオペレーションルームのようね」

ナタリアとフィーナは無人の室内に入っていった。

その入口にはフローラとミレーナが立っている。

「ここにお目当ての物があれば良いんだけど・・」

フィーナは設備管理モニタに記された略称を眺めていた。

これはロボットキャリアよね。UPSは無停電電源装置、MIXは攪拌機かしら。

CENは・・この大きさからすると遠心分離機か。

とすると・・・ここに大量に並んでいるCSってなんだ・・

 

ナタリアの声がした。

「フィーナ、そこにCS3とか4とか無いかしら?」

「あります。我々の真下です」

「それがウイルスを保管する棚よ。CS1から9がウイルス、10から19がワクチン・・かしら」

「ここからは階段で繋がってて・・1箇所電磁ゲートがありますね」

「待って・・あー、CSってCULTIVATION SHELFの略か。なら一番最後の棚が完成品ね」

「プラントにはCSとは別にMSというのが1から9まであるんですが」

「何かしらね・・見てみましょうか」

フィーナは壁にかかっていたカードホルダーを手に取った。

「ゲートはどれかで開くでしょう」

ナタリアが頷いた。

「フローラとフィーナでプラントに降りて。ミレーナは入口の警戒。私はここから二人を誘導するわ」

「はい!」

二人はゲートに向かって駆け出した。

 

ピーッ!ウィィィィイイイ・・ン・・ガコン!

 

フィーナがかざした2枚目のIDカードでゲートは開いた。

ナタリアがデジタル無線機に話しかける。

「フローラ、その次の棚がCS8よ」

「了解ボス。これがCS8ですね?」

「ええ、今左手で触ってるのがCS8、右手が9よ」

「了解。私が警戒します」

フローラが周囲を警戒する中、フィーナはCS9の中を見た。

「BIO HAZARD LEVEL4」

目立つように赤く、禍々しささえ感じる警告シールが張られた、低いモーター音のする棚。

そこには病院でよく見るような、注射用のアンプルにも似た容器の中に透明の液体が青白い照明に照らされていた。

ここにウイルスがぎっしり詰まっているかと思うと身の毛がよだった。

ふと、棚の下部を見るとジュラルミン製のアタッシュケースが仕舞ってあった。

取り出して開けてみると、容器と似た形を含む、様々な形の穴が開いたウレタンが敷き詰められている。

フィーナは頷くと、アンプルを3本取り出し、アタッシュケースに収め、フローラに頷いた。

「次は19・・でしたね。誘導してください」

CS19ではCS9とは別の形の容器に、薄緑色の液体が入っていた。

「確かに色が違うけど・・これが本当にワクチンなのかしら・・」

フィーナはアタッシュケースの穴と比較し、同じ形を見つけてそこに5本差し込んだ。

「入れました。あとはMSですが・・」

 

MS1から9は少し離れた場所に置かれていた。

今までと違って棚も一般的な開放棚のような形だし、なにより・・

「籠の中身は白い錠剤ですね」

「錠剤の包装も普通の薬みたいだし・・なんか頭痛薬とか、そんな感じね」

「それに随分大量にありますねぇ」

「籠1つで・・ざっとみて2000錠位か」

フィーナは無線機に話しかけた。

「ボス。これが治療薬かもしれません。この1籠で2000錠位です。多めに持ち帰りませんか?」

「アタッシュケースに入る?」

「ええ・・2籠分は入りますね」

ナタリアは少し考えると

「まず、アタッシュケースにはきっちり入れて。あと、別に持てるだけ持ってきて」

「はい」

 

「・・んー、マガジンホルダにも100錠は入るかなぁ」

「頑張れば1人1万錠は持てそうですね」

「入れられる分だけで良いわ。残り時間も少ないし・・ん?」

「どうしたんです?ボス」

「・・・」

ナタリアは机の上に置かれていた書類を読んでいたが、そのまま折りたたみ、懐に仕舞った。

その時、ナタリアの腕時計のアラームが鳴った。

「・・0615時。時間切れね。ここにもう用は無いわ。撤収よ」

「はい!」

 

ドガン!

 

変身を解除し、突入場所からやや離れた壁を砲撃して水中へと戻ったナタリア達は、侍従長達に手で合図した。

そのまま海面へと登った所で、侍従長がナタリアに話しかけた。

「時間ギリギリダッタノデ心配シテマシタ。如何デシタカ?」

「必要ナ物ハ手ニ入レタト思ウワ。ケドネ・・・」

「ケド?」

「アレガ本当ナラ、チョット許セナイワネェ・・」

「?」

「アー、エットネ・・エッ?」

首を傾げる侍従長に説明しようとして、ナタリアは1点を見つめ、ぽかんと口を開けた。

「・・・嘘デショ?追ッ手ヲ撒イタッテイウノ?」

その視線の先にはここまで来た時と同じ、

 

「IMO59630202」

 

という船体番号をつけた船が減速しつつ近づいてきていたのである。

侍従長が首を振った。

「恐ラク別ノ船デショウ。迎エモ同ジ番号ダト提督ハ仰ッテマシタカラ」

「・・迎エ「モ」・・カ。ソウ言ワレレバソウダッタワネ」

自分達のすぐ傍で停船し、ゲートが開いたので、

「皆乗船シテ!シートベルト忘レズニ!」

と、ナタリアは言ったのである。

 

 

 


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