Deadline Delivers   作:銀匙

18 / 258
第18話

ナタリアはクーを横目で見ながら静かに口を開いた。

「だったら払う物払いなさいな、クー」

クーはそっとナタリアを見た。

「・・払ったら・・助けてくれる?」

「そんな状態なら閑古鳥で退屈してるでしょ、テッドだって」

「・・・へ?」

ナタリアはニッと笑った。

「この町にどんだけDeadline Deliversがいると思ってるの」

「?」

「皆で運べば怖くないわ。アンタが町の連中を雇いなさい」

クーが目を見開いた。

「全財産はたいたって足りないよ!」

ナタリアはクーを睨みつけた。

「そのくらいの意気込みを見せな!ダチの命と預金残高どっちが大事なんだ!」

「へぅう・・」

ナタリアはタバコを揉み消すと立ち上がった。

「さっさとテッドのところに行くわよ。みっちゃん、この事ファッゾに伝えて」

ミストレルが頷いた。

「あいよ姉御」

 

 

夕方。

「モンスターのクソ野郎が何だ。おい、裏の駐車場にそのテーブル持ってけ!この黒板もな!」

テッドは咥えた葉巻からブスブス煙を上げながらDeadline Deliversのボス達に指示している。

それに大人しく従っている辺りがDeadline Deliversとテッドの関係を物語る。

テッドの家に来られるDeadline Deliversは基本、ボスだけである。

なぜならボスだけでも百人以上居るからで、家に入りきらない以上は仕方ないと面々も納得している。

駐車場を埋め尽くすDeadline Deliversのボス達は、一様に硬い表情をしていた。

それはそうだ。モンスターが居る事が濃厚な海域への配達なんて1度だってなかった。

とびっきり危険な話だが、それを見事やってのければ後々有利になる。

ボスはこの後の力関係とリスクを天秤にかけていた。

どこまでを引き受けるか、受けないか。完全なバクチである。

一方、集まってきた面々を見て真っ青になっているのが依頼者となったクーである。

「い、いったい幾らギャラかかるんだろう・・ねぇルフィア、億単位かなぁ・・」

そう、傍らにいる相棒のルフィアに言ったが、

「しょうがないでしょ、町の皆が助けてくれるんだから。また稼ぐしかないわよ」

と、もはや諦め顔である。

 

テッドは3本目の葉巻をくゆらせながら運ばせた黒板を睨んでいたが、大きく頷くと声を上げた。

 

「よし!テメェら良く聞け!マッケイの情報ではモンスターは島みたいにデカイ図体してやがる!」

「遭遇した艦娘も深海棲艦も皆殺しにするくらい血に飢えてやがる。全く手に負えねぇ」

場内のざわめきが大きくなる。

「だから!今回は輸送船団、護衛部隊、そして斥候部隊を募集するぜ!」

「斥候部隊は出来るだけ散って化け物を早く見つけな!スピードと正確さが勝負だぜ!」

「化け物に接近する必要はねぇからギャラは少ないが、護衛部隊に知らせりゃボーナスだ!」

おおっと声が上がる。

「護衛船団は集まった情報をもとに航路を決めてけ。モンスターを上手く避けるのが目的だ!」

「それでもモンスターと遭遇した場合は輸送船団と別れて化け物を引き付けろ。戦うのもアリだ!」

「護衛船団は化け物と出会えばハイリスクだがギャラは最高だ!遭遇しなければ濡れ手に粟だぜ!」

数名のボスが思案顔になる。戦艦や正規空母といった重火力を擁する連中だ。

「輸送船は高速型限定だ。満載の半分だけ積み、装備はダメコン1つ!逃げる為の機動性を確保しろ!」

「モンスターと遭遇したら各艦個別に散会、だが荷物は指定海域まで届けるんだ」

「ギャラは普通、ただし届けた事が確認されればボーナスありだぜ」

ファッゾは目を見開いた。

確かに軽巡など、輸送向きの船が持てる火力じゃフル装備したってモンスターに勝てる筈が無い。

ならば最初から丸腰で逃げの一手に特化し、かつダメコンを積んで轟沈は避けるという事か。

「・・なるほどな。さすがテッド」

ファッゾがそう呟いた時、テッドは一層声を張り上げた。

「よし!斥候部隊!護衛部隊!輸送部隊!早く名乗りを上げた奴からギャラを多く出すぜ!」

「おー!」

あっという間にテッドの周りにDeadline Delivers達が群がっていく。

「じゃあねファッゾ。あぁ、アンタんとこは止めときなさいよ?」

そう言いながらあっという間にテッドの元に走っていくナタリア。

「うーん・・まぁ止めとくのが妥当か」

説明を聞いて乗り気になるほどファッゾは興奮していなかった。

ミストレル達はナタリア達に比べれば遥かに火力は弱く、輸送能力に秀でているわけでもない。

斥候部隊の志願者は軽空母を擁する連中が多い。いくらベレーが広域レーダーを持ってても航空探査に勝てる筈がない。

何より、クー達だけで行くより成功確率は高いだろうが、いつもより数倍危ない事に変わりはない。

ファッゾは溜息をつき、俯いた。

「臆病司令官は健在、か」

大本営で罵倒された過去が頭をよぎる。

だが。

わざわざ二人を不得手な戦いに送り出すような事はしない。

艦娘達をむざむざ死に追いやるような事は決してしない。

俺は、そう、決めたんだ。

 

やがて。

 

志願し、説明を聞いたボス達が部下に伝える為に会場を後にしていった。

ナタリアはファッゾの所に戻ってくると

「ねぇ、あたし達に賭けときなさいよ。賞金は山分けで良いからね!」

そう囁くとウインクして走り去った。

 

ファッゾはすぐには意味が解らなかったが、やがて周囲を見て理由が解った。

様子見を決め込んでいたDeadline Deliversのボス達が、志願者と入れ替わるようにテッドの周りに集まったのである。

青い顔のクーをチラリと見た後、テッドはおもむろに黒板をひっくり返した。

 

「さあ、ここからがお楽しみだ!トトカルチョの時間だぜ!」

 

ファッゾは頭を掻いた。

 

「1番!斥候部隊で1番最初にガセじゃないネタを護衛部隊に渡すのは何班だ!」

「2番!輸送部隊がモンスターに食われずに輸送出来るか否か!」

「3番!護衛部隊がモンスターと遭遇して生き残るか否か!遭遇しなきゃ親の総取りだぜ!」

「まだまだあるがまずはこの3つだ!オッズはこれだ!さぁ張った張ったぁー!」

 

志願の時の熱気より遥かに盛り上がりを見せる会場。

テッドが用意した金を入れる木箱があっという間に高額の札で埋まっていく。

 

ファッゾは少し考えた後、

「ナタリア達の班が一番最初に護衛部隊に正確なネタを渡す」

「輸送部隊は無事輸送を終える」

「護衛部隊は生き残る」

に、それぞれ50万コインずつ賭けた。

ファッゾはチケットを見ながら思った。

 

「ナタリアの差し金か、テッドの計らいか」

 

ファッゾはトトカルチョのチケットを懐に入れると、会場を後にした。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。