Deadline Delivers   作:銀匙

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第19話

 

 

帰って来たファッゾの説明を聞いて、ミストレルはテーブルをバシンと叩いた。

「不参加だと!?ふっざけんなファッゾ!」

ファッゾは眉一つ動かさずに答えた。

「護衛部隊は高練度の戦艦や正規空母の連中が占めてる。今回はガチだ」

「う」

「斥候部隊は高機動型の空母と軽巡がメインだ。レーダーでは航空探査には勝てん」

「じゃ・・じゃあ輸送は・・」

「高速型限定、ダメコン必須、積載量重視だ」

「だ、だったらアタシ達だって行けるじゃないか・・」

「遠征特化型の連中より速く荷役が出来るか?6隻フル艦隊より積めるか?」

「ぐ」

「残念だが今回の任務で俺達に都合の良いピースはこれしかなかったんだよ」

「え?」

そういうとファッゾはチケットを取り出した。

掛け金の欄を見てミストレルとベレーは目を丸くした。

「ちょっ!?」

「いちじゅうひゃく・・せん・・まん・・ファ、ファッゾさん・・これ・・」

「この掛け金は、恐らく参加者のギャラに使われる筈だ」

「・・・・」

「俺だってクーの気持ちを考えれば何かしてやりたい。だからせめて資金を出したのさ」

ミストレルが肩をすくめた。

「その割には鉄板の賭け方じゃねーか」

「まぁ、そうなって欲しい未来にかけたんだよ。ナタリアとお別れなんて切ないだろ?」

「んな事あるか。ところで、姉御は斥候部隊なのか?てっきり護衛部隊かと思ったが・・」

「だな。俺も意外だった」

ベレーがチケットを見つめながら言った。

「誰も怪我せずに・・戻ってこられると良いですね」

ファッゾはベレーの頭を撫でながら言った。

「そうだな・・うん、そうだなあ・・」

 

 

輸送作戦開始から2日後。

 

「航空隊長カラ姫ヘ。海域F2G58ノ掃討作戦開始ヲ許可願イマス」

「許可シマス。シッカリ潰シテラッシャイ」

「ハハッ」

唸るように低い音で重々しく飛び立つ大型爆撃機とキーンという高い音を立てる攻撃機が3機。

4機を単位とする数編隊がそれぞれ滑走路から飛び立っていった。

姫は窓の外を見た。

北の果てで我々は生まれたが、余りに寒すぎて艦娘も深海棲艦も居なかった。

機械にも雪と氷の世界は芳しくないので南下する事にしたが正解だった。

姫は海図へと視線を移した。

今回の行き先は第6駐留ポイントであるセフィ島である。

航行中は航路上で遭遇した敵のみを攻撃しているが、駐留先では周辺海域の敵をじっくり索敵して殲滅する。

セフィ島を駐留ポイントに選んだ理由は航続距離的に丁度良かった。ただそれだけだ。

 

 艦娘と深海棲艦を一掃し、妖精に平和な世を取り戻す。

 

我々の唯一の目的。

いつかきっと叶えてみせる。

 

 

その頃。

 

「コレ・・本当ニモンスターナノ?長サモ幅モULCC級タンカー4隻分位アルンダケド」

「島ガ動クワケナイデショ」

「ソウダケド・・コンナノ100万トンジャ済マナイワヨ・・」

「ア、チョット待ッテ」

「何?」

「深海棲艦ノ通信・・モンスタート接敵シタミタイ。避難命令ヲ部下ニ発シテル」

「発信源解ル?」

「雑音ガ酷イノヨ、モウチョット待ッテ・・OK、特定シタ」

「コッチデ戦闘時間ヲ計測スル」

「オ願イ」

 

ナタリア達は出航前、自分達の航空機にレーダーと広域アンテナを取り付けていた。

そして航路に先回りすると航空部隊を展開。周囲の無線通信を傍受し始めたのである。

どんな阿呆だろうと自分達が壊滅的な被害を受けるなら救難信号くらい発するだろう、と。

 

読みは的中した。

モンスターと遭遇してしまった可哀想な深海棲艦の艦隊が逃亡に失敗したようだ。

基地への通信内容が生々しい状況を伝えてくる。

 

 「攻撃機ガ多過ギテ対空砲ガ間ニ合ワナイ!モウ砲身ガ溶ケル!交換シテル暇ガ無イ!」

 「海中ダ!海中ヘ逃ゲロ!」

 「ウソダロ!爆弾ガ海面デ爆発シナイ!コッチニ来ル!ギャアァァアア!」

 「ボス!ボス!助ケテ!助ケテェェエエエ!」

 

ナタリアは黙って聞いていたが、ぴくぴくと眉が動いていた。

相当怒っているサインなので他の3人は静かにしていたが、気持ちは同じだった。

 

深海棲艦の断末魔なんて、聞いていて気持ちの良いものではない。

自分達の裁量で自由に動ける状況なら、駆けつけてモンスターを火の海に沈めてやりたい。

だが、今は輸送部隊の安全確保が最優先だ。

 

「フィーナ、護衛部隊ニ送リナ。接敵位置ト状況、手短デ良イヨ」

「OKボス」

 

ナタリアからもたらされた情報は護衛部隊を動揺させたが、統制は取れるようになった。

モンスターと遭遇してから全滅まで僅か5分という事実。

反撃らしい反撃さえ出来ずに全艦轟沈したという事実。

それを聞いてモンスターに1発くれてやると息巻いていた連中が一気に大人しくなったのである。

 

護衛部隊のリーダーはかつて武蔵と呼ばれた戦艦娘だった。

姑息な手を使う司令官に辟易し、昼間に堂々と鎮守府を後にしたというつわものだ。

彼女はテッドの作戦が気に入っていた。スパッと潔く理論的で無駄がない。

「よし。全艦、方位022に航路を修正。繰り返す、方位022だ」

出来る事なら帰港まで輸送部隊を護衛したい。その為には気づかれてはならない。

まずは輸送先であるセフィ島まで出来るだけ最短で移動する。

 

 

作戦開始から4日目。

 

 

「・・アァ、ナンテコト」

ナタリアは極力距離を置かせつつ、交代で航空部隊にモンスターを見張らせていた。

そして航行軌跡を収集し、今後の航路を計算したのである。

その結果

 

 3日後の取引日時に、取引場所でモンスターと遭遇する。

 

という最悪の展開になる事が判明。

部下からこれを聞いたナタリアの反応が冒頭の一言である。

悲痛な面持ちでナタリアの言葉を待つレ級達。

しばらく沈黙していたナタリアは

「テッドニハモウ電波ガ届カナイ。護衛部隊ノ連中ト話シ合ウワヨ。連絡ヲ」

「了解ボス」

 

 

 

 

 


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