Deadline Delivers   作:銀匙

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第11話

 

 

運転席で溜息をつく南城を見下ろしながら、警官は肩をすくめて続けた。

「それに、やつらを器下地区から追い出すだろ?」

「ええ」

「すると逃げた先から俺達が文句言われんだよ。てめぇのせいでゴキブリがうちに来たじゃねぇかってな」

「逮捕してくださいよ」

「おいおい、刑務所送りなんてゴキブリ共の思う壺だ。今より生活がタダで良くなるんだからな」

「えー・・」

「もし強盗に懲役1年なんてなってみろ、入獄目当ての犯罪が激増しちまうぞ?いいのか?」

「治安維持の為に取り締まらないって一体・・」

「ただでさえ現場で上手く始末しろって通達が出てるしな・・あぁめんどくせぇ」

「現場で始末?」

「おっと口が滑っちまった。適当な理由でパクられたくなかったら今の言葉は他言無用だ」

「解ってますよ。それはそうと、お願いですからせめて上駒トンネルが繋がるまでパトロールしてくださいよ・・」

「ほう、警察脅して交換条件出そうってのか?シャブ中で暴れたって事にして撃ち殺してやろうか?」

警官がホルスターから銃を抜いたので南城は慌てて首を振った。

「ち、ち、ち、違いますよ。それとこれとは別です。絶対言いませんし、単にさっきの話の続きです」

「ま、検討しといてやるよ。用は済んだだろ?ほれ、俺は忙しいんだ」

銃を仕舞い、背を向けてしっしっと手を振る警官に、南城は肩をすくめながらギヤをリバースに入れた。

絶対何も検討してくれないだろうが、今、偽パト連中を追い払ってくれた事には感謝しなければならない。

でも、ちょっと気分転換したいなあ・・とほほ。

 

チリリン。

 

「いらっしゃいませー。あ、南条さん。こんにちは」

「こんにちは」

キッチンから顔を覗かせたライネスは首を傾げた。

「納税はまだ先だし、先物に興味は無いし、金利が安かろうとローン組む予定は特にないぞ?」

「いえいえ、本当に一息入れに来ただけです」

カウンターについた南城に水を渡しながら、ルフィアは訊ねた。

「あまり顔色が良くないですね。どうかしましたか?」

「それがですね・・あ、えっと、アイスコーヒー頂けますか?」

「はーい」

 

 

「器下地区なぁ・・」

ライネスは苦笑しつつ首を振ったが、ルフィアは眉をひそめながら訊ねた。

「ねぇ、そのパトカーに乗ってたのは黒人だったの?」

「ええ。筋肉ムキムキの。車内にぎゅうぎゅう詰めに入ってる感じでしたから相当大柄だと思いますよ」

「うーん・・」

ルフィアは少し考えていたが、宙を見たまま呟いた。

「ねぇ、上駒トンネルがいつまでも修理されない理由知ってる?」

「え?」

「町役場は修理業者を毎年入札させてるらしいんだけど・・」

「そうなんですか・・てっきり放置してるのかと」

「でもね、応札した業者が工事に入ろうとすると妨害を受けるらしいのよ。それも2年連続で」

「え?誰が妨害するって言うんです?」

「目撃情報では、筋骨隆々の黒人連中だったそうよ」

「まさか、そもそも崩落したのも・・」

「今の話考えると嫌な予感がするわね」

南城はジト目になった。

要するにバイパスの要である上駒トンネルをわざと通行止めにし、自分達の餌場を通るよう仕向けていると?

「溝山さん、たまったものじゃないですね」

「・・そうねぇ。バイパスの開通を一番喜んでたものね」

その時。

 

「溝山さんがどうかしたの?」

「さっきはありがとね、南条さん」

 

声に振り向くと、買い物袋を提げたフローラとミレーナが立っていた。

「あらいらっしゃい。聞いてく?」

ルフィアはそう言いながら、カウンターの椅子を2つ引いた。

 

「へー」

フローラが不機嫌になる様子を確かめながら、ルフィアは続けた。

「工事会社の人がうちで妨害された事を話してたから、100%噂って訳でもないわ」

「どんな妨害されたのよ?」

「建機や資材を盗まれたり、作業に因縁つけられて暴力振るわれたり、トラックが突っ込んだり」

「それが例の黒人グループって訳?」

「目撃された範囲ではね」

「酷いわね」

「結局怪我人続出で工事が続けられないってのが手を引いた理由だそうよ。前回はね」

「ちょっとボスの耳に入れとこうかなぁ」

ミレーナが頷いた。

「器下地区の周辺は道路が曲がりくねってるから見通しも悪いし走りにくいのよね」

「バイパスは早く復活して欲しいよね」

南城が苦笑した。

「折角道があるんですからねぇ」

ライネスが肩をすくめた。

「それもそうだが、そんな連中の都合に振り回されてるってのは面白くないな」

フローラが頷いた。

「ええ。私達を不便にさせて商売してるって事ですからね」

南城はコーヒーの最後の一口を飲み干すと、席を立った。

「すみません。愚痴を聞いてもらって気が楽になりました。ごちそうさまでした」

「気にしないでくださいね。400コインになります」

「ええと、はい400コイン丁度。レシート頂けますか?」

「どうぞ。ありがとうございました」

 

 

「只今戻りましたー」

信用金庫の従業員口から入った南城は誰ともなく職場に向かって声をかけた。

ひょいと上司が顔を上げる。

「ご苦労さんな。溝山農園と木林工業の件はどうだった?」

「えぇ、二つ・・」

南城が言いかけたとき。

 

「てっ!てめーらぁ!お、おお、大人しくしやがれー!」

 

二人がひょいと声のほうを見ると、正面入り口から入ってきた男が喚いていた。

だが、職員も順番を待っている客もちらっと見ただけで元の用事を再開し、全くの無反応であった。

男はその反応に明らかに戸惑っているが、南城は理由がよく解った。

フルフェイスのヘルメットを被り、手には獲物を持っているが・・

「ゴルフクラブ?何だってカーボンのドライバーなんか・・せめてサンドウェッジにすりゃ良いのに」

南城がそう呟いた時、受付に居た女性職員が頬杖をついたまま言い放った。

「アンタよそ者ね。この町をバカにしてるの?」

「お、おおおおまえ、こ、これが見えねぇのかよ!ぶん殴るぞ!」

「見えてるわよ。だからバカにしてるのかって聞いてんのよ」

「ど、どういう事だよ!?警察呼ぶ時間稼ぎしようったって」

「警察なんか来ないわよ」

「はぁ!?」

「へっぴり腰で喚いてる男が一人居るくらいで警察なんて来ないしそもそも呼ばないわよ」

「ふ、ふざけてんじゃねぇよ頭カチ割られてぇのか!こっ、これに現金詰めろ!つっ使い古した札でだ!」

ぶるぶる震えながらバッグを差し出した男に、女性職員が肩をすくめつつ答えた。

「今日は機嫌が良いから1回だけ教えてあげる」

「な、何をだよ」

「今アンタにわざとらしくキャーとか言いながら10万コインくらいくれてやるとするでしょ」

「なんだよそのくれてやるって言い方!」

「黙って聞け」

「・・おっ、おう」

 

 

 


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