Deadline Delivers   作:銀匙

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第19話

 

 

バツが悪そうに葉巻を吸うテッドを見ながら龍田は続けた。

「本業に影響する時期に無理に分析頂く必要は無いですよ、調査は大体長期に渡りますから~」

「・・」

「うちのチームが物証を集める上で、こんな所が欠けてるとか、こんな物が無かったかとか」

「・・」

「そういう所をお時間がある時にちょ~っと見て頂けたら良いな~って」

「・・」

「もちろん軍として分析料はお支払いしますから、閑散期の副業に如何ですか~?」

「・・それを受けたとするだろ」

「はい~」

「そしたら所長はその、俺に海軍に帰って来いって言わなくなるのかよ」

「そこまでは保証しかねます~」

テッドは鉛のように重い溜息を吐いた。

テッドはとても疲れていた。

前の晩はよく眠れなかったし、起きてからも龍田に何と釈明しようかなど、あれこれ考えていたからである。

少なくとも今聞いた1つ目の依頼は頭の片隅に入れておけば良い話だ。

2つ目に関しても閑散期だけと念押しし、先に町長に断りを入れれば、まぁ受けられなくは無い。

いずれ武蔵を迎える事も視野に入れているのだから、収入は多くて困る事は無い。

だが・・なんか嫌な予感が止まらない。これで終わらない気がする。

くそ。普段ならもう少し頭が回るのに。

「解ったよ、2つ目も引き受けるけど条件がある」

「何でしょうか~」

「まずは分析を受けるのは閑散期のみに限定する。これは町全体との信用問題になるから譲れねぇ」

「良いですよ~」

「もう1つは1回あたりの分析料だ。それなりの額を期待したいんだが?」

龍田が傍らの文月を見ると、文月は難しい顔で電卓を叩き始めた。

「えっと~、これくらいでどうですか~?」

電卓の画面を見たテッドは首を傾げた。

「・・なぁ、所長がこれで頼めって言ったのか?」

「へうっ!?」

文月は予想外の一言にぎくりとした表情を浮かべてしまった。

この話は提督に内緒でやっているので、当然許可は貰っていない。

元々提督は117研時代の事を話したがらないので、テッドとの関係は手元に無かった。

そして交渉の基本として、いつも通り支払っても良い額の2割を提示したのである。

テッドはジト目で屈みこみ、文月と目線を合わせた。

「なぁお嬢ちゃん」

「は・・はい」

「俺は所長からさ、分析官として年収100万ドルの価値があるってよく言われてたんだよ」

「ううっ」

テッドは目が泳ぎまくる文月をじっと見つめつつ、ポケットからゆっくりとスマホを取り出した。

「・・所長に電話してみっかなぁ。あれは嘘だったんですかって」

文月は慌てて電卓を叩きなおした。

「こっ、これでどうでしょうか!?」

テッドはスマホを持ったまま、電卓の画面を食い入るように見ながら大仰に首を傾げた。

「・・年に40件も分析依頼が来るのかなぁ」

「え、ええっと、ええっと」

テッドはスマホのロックを解除しながら言った。

「・・所長の番号はっと」

文月は諦めて電卓を三度叩いた。

「これでお願いします!」

テッドは電卓の数字をチラリと見た後、肩をすくめた。

「んー・・・今年は初年度だし、リハビリ兼ねてるからこれで良いか。来年度はまたお話しような」

「あ、ありがとうございます・・」

「で、俺の報酬は小切手か?信金経由か?いつくれる?」

「へっ?あ、ええと、分析結果をこちらで受領してから3日以内に山甲信用金庫経由で・・」

「あぁっと聞こえなかったな。依頼時から3日以内、だよな?」

「じゅ、受領時・・」

「電話すっか」

「依頼時で結構です!」

「ん、解った。振込手数料はそっち持ちな」

深々と溜息を吐く文月を見て、龍田は小さく肩をすくめた。

文月の外見を見れば手加減するのが普通だが、毎日魑魅魍魎を相手にしているテッドでは勝負にならない、か。

来年の交渉は私がやるか、文月ちゃんにリベンジしてもらうか後で考えましょう。

龍田は振り向くと、じっと立っていた子に声をかけた。

「話は理解してもらえたかしら~?」

「ええ」

「じゃあテッドさーん」

立ち上がっていたテッドはざざっと後ずさりした。

「な、なんだよ、3つ目なんて勘弁してくれよ?」

「さっき言ってた顔合わせですよ~、ご紹介します。専従班班長の香取さんです~」

「練習巡洋艦香取と申します。この度はお世話になります。何卒よろしくお願いいたします」

深々と頭を下げる香取に、テッドは慌てて体勢を立て直すとぺこりと頭を下げた。

「ええと、よろしくな。俺はその、この町で仲介人やってるテッドだ。龍田、俺の事は・・」

「以前海軍と縁があった方、と、説明してありますよ~」

「そうか。で、香取さんはソロル所属なのか?」

「正確には、どこにも所属していませんよ~」

「・・どういうこった?」

香取が顔を上げて微笑んだ。

「こちらで住まう以上、IDプレートなどは所持していない方がよろしいかと思いまして」

テッドは怪訝な顔で龍田を見た。

「そこまで徹底するのか?」

「私はこだわらなかったんだけど、香取さんがそうすべきだと~」

テッドは肩をすくめた。

軍を除籍扱いで特定のミッションに専従するなんてCIAのやり方じゃないか・・

「なぁ龍田、まさかとは思うんだが、その、香取さんの住まいとか、身支度のあれこれってやつは・・」

「私がこの町の空き物件や店舗を把握してるとでも~?」

「龍田なら知ってそうな気がするんだが」

「そこまで暇じゃないんで~」

「解った解った。支度金はあるのか?それともそこから稼がせるのか?」

「あらぁ、だから香取さんにお任せしようかと思ってたんですけど、テッドさんが整えて頂けるんですね~?」

「へっ?」

「香取さん、このバッグに当座の支度金が入ってます。良かったですね~手伝って頂けるなんて~」

「ありがとうございます。右も左も解らないので助かります」

テッドはぎゅっと目を瞑った。くっそハメられた。

「あーもー、解ったよ。とりあえず今夜は旅館に泊まれ。住まいは明日見繕ってやるよ」

「宿はどちらにあるのでしょうか?予約した後歩いて伺いますので地図とか頂ければ・・」

「良いよ。ここから遠いし、俺の車で送ってやるよ」

龍田は文月に頷くと、くるりと背を向けた。

「じゃ、そういう事で私達は引き上げますね~」

テッドはその背中に声をかけた。

「おっと待て、まだ用があるぜ」

 

 

 

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