Deadline Delivers   作:銀匙

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第29話

 

 

龍田から連絡を受けた翌日、香取達は早速テッドと神通に説明しに行った。

「それなら明日は休みにしちまえよ。こっちは任せな」

「積もる話もあるでしょうし、明日の練習はお休みにしましょう」

という訳で丸1日休みとなった。

ゆえに香取達はその日の仕事をこなしつつ手分けして食材を買い集めた。

そして当日は朝から調理を始め、もてなす準備をしながら到着を待っていたのである。

丁度昼を迎える頃、予定通り球磨達が到着した。

メンバーは球磨、多摩、菊月、皐月、睦月、そして如月であった。

 

挨拶を交わした球磨達は早速広間に通された。

これだけの大人数となるとダイニングでは椅子が足りなかったのである。

広間にまっすぐ並べられた座卓には、それぞれ幾つもの料理が並べられていた。

 

「クマーっ!」

「うわぁ、ごちそうだねー!」

「カーペットの上に直接お座り頂く形で申し訳ありません。御口に合えば良いのですけど・・」

「ねぇ、これ食べて良いのかな!」

「ええ、どうぞ」

「こら!頂きます位ちゃんと言うクマ!」

目を輝かせる一行を見て、香取達は安堵した表情で微笑んだ。

 

そして。

 

「お腹一杯だね!」

「うむ、とても美味しかった。すまぬが、これはどのような調味料を使っているのか教えてくれないか?」

「ええとですねー」

賑やかな雰囲気が続く中、球磨が朝潮の隣に腰を下ろした。

「今日は歓迎ありがとうだクマー」

「いえ、これくらい当然です。お気に召して頂けましたか?」

「充分クマ。ところで町に住む艦娘から訓練を受けてるって聞いたクマ」

「はい。神武海運の神通社長です」

「どんな訓練か教えて欲しいクマ」

「はい。ご説明します」

 

その夜。

 

「それで、どうでしたか~?」

洋上で待っていた龍田は、挨拶もそこそこに戻ってきた球磨に尋ねた。

球磨は龍田から受け取ったハチミツ飴をぽいと口に放り込むと話し始めた。

「神通がやってる訓練はまともな基礎訓練だクマ。でも習わせる順番が上手いクマ」

「・・」

「特殊能力の育成に貢献してるのは龍田の見立て通り買い物屋の方だクマ」

「・・続けて~」

「リスクフルな状況下で制限時間内にミッションを正しくこなし続ける、そういう訓練になってるクマ」

「・・」

「荷物は割れ物や温度管理が必要で、リスクの種類も豊富、それらと遭遇するタイミングも不明」

「・・」

「そんな事を毎日続ければ嫌でも神経が研ぎ澄まされるクマ。球磨や多摩が外人部隊で得たのと同じだクマ」

「・・」

「これらは直接的にLV上げに貢献する訳ではないクマ。ただ、実戦で生き残るのには役立つクマ」

「なるほどね~。で、球磨さん」

「なんだクマ?」

「貴方や多摩さんから見て、真夜中のお仕事をするのに一人前って言えるかしら~?」

「救助隊や討伐班の要員としてって事かクマ?んー」

 

球磨はハチミツ飴を口の中でころころと転がしてながらしばらく考えていたが、

「仕上げに一旦鎮守府に呼び戻して、戦闘でLVを10位上げれば全員大丈夫だと思うクマ」

と、言った。

「なるほどねぇ、そういう事かぁ。それならそっちの方に特化しようかしら」

「こんなもんで良いかクマ?」

「・・充分よ。報酬は後で部屋に持っていくわね。ありがと~」

龍田達は静かにソロルへと帰って行った。

 

 

数日後。

 

「はい、かしこまりました。そのように致します」

電話を置いた香取は首を傾げた。

「メンバーを1人ずつ2ヶ月毎に入れ替えるって・・どういう事かしら」

 

その日の午後、ワルキューレの事務所。

「よぅナタリア」

「どうしたのよテッド。また面倒な依頼?」

「ちげーよ。ナタリアの読みはビンゴだったって話だ」

「あら、どの話?」

「香取達だが、来月からメンバーが2ヶ月毎に1人ずつ入れ替わるんだと」

「・・・はっはーん」

「な。龍田に発案者の神通に教育費寄越せって言ってみるか」

「今後を考えれば買い物を頼んで酷い目にあった人達の補償をしてあげて欲しいわね」

「完全に訓練と見てるよな」

「ええ。鎮守府じゃ買い物屋みたいな類の訓練は難しいだろうし」

「LV以外にも役立つスキルがあるって気づいたんだろうなぁ」

「とはいえ、あんまりソロルの連中がそっち方面で育つのは良い事じゃないわね」

「どういうこった?」

「ますます突出して手のつけられない特殊部隊になるじゃない。出る杭はなんとやらよ」

「俺はむしろ所長の鎮守府の何処が普通か教えて欲しいね」

「・・それもそうね」

 

同時刻、ソロル鎮守府。

「ふえっくしん!」

「お、お父さん大丈夫ですか?例の風邪じゃないですよね!?」

「ただのくしゃみだよ。きっと誰かが褒めてくれたんだよ」

「そうですか・・それなら良いです」

「ところで、大山さんにはいつ会えるかな?」

「えっとですね・・」

 

再びワルキューレの事務所。

「・・寒気がする。所長がまたロクでもない事たくらんでるのか?」

「まぁそれはそれとして、この件であまりライネス達に負担かけるのも迷惑よ?」

「交代しちまうなら育てるというライネスの気持ちに反するしな」

「別に龍田に付き合う事も無いでしょ。そろそろ訓練終わらせたら?」

「んー・・」

テッドは腕を組んで少し考えていたが、

「・・それもそうだな。ロハで身支度整えろと押し付けられた所からちょっと付き合い過ぎてるか」

「そう思うわよ。あれこれ起こされてるけど、元々何の義理も無い話よ」

「っていうのをどう切り出すか、だな」

「それは神武海運と相談しなさいな。当事者なんだし」

「よしよし、おかげで考えがまとまった。サンキューな」

「こういう所から武蔵に相談してあげなさいよ」

「まぁ今日は読みが当たってたぜって言う事を伝えたかったんだよ」

「次から龍田に対処する時は気をつけなさいよ」

「だな。あ、1つだけ確認だけどよ」

「なによ」

「SWSPの出張講座はまだする気あるか?」

「必要無いわよ。買い物屋で充分達成してるし」

「OK。じゃあ俺達の手助けはここでオシマイ、だ」

 

 

 


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