Deadline Delivers   作:銀匙

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第32話

 

 

そんなある日の事。

 

「やぁやぁ久しぶり。元気そうだね。ちょっと日に焼けた?」

「・・・」

「・・大・・あ、いやいや、テッドさん?」

「・・・で」

「で?」

「でっ・・でっ・・出たぁぁぁぁあああ!」

「!?」

 

ひっくり返るほどの勢いで自席から後ろに飛びのき、テッドは背後の壁にビタリと張り付いた。

 

「よぅ、なんかあったのか?」

雑誌とお菓子を買い込んだミストレルは、テッド仲介所の前に出来た人だかりの1人に声をかけた。

「いや、俺達も良く解んねぇんだけどよ、なんかテッドの悲鳴が聞こえたらしいんだよ」

「はぁ?助けにいかねーのかよ」

「あそこにいるSWSPの連中は入ったらしいけど、大丈夫だからって追い出されたらしい」

「・・どういうこっちゃ」

「俺もそれしか知らねぇんだ」

「ふーん、サンキューな」

「おう」

ミストレルは指差されたSWSPの一人に声をかけた。

「よっ、中はどうなってるんだ?」

「およ?みっちゃんも野次馬かい?」

「つーか、テッドのトラブルなら助太刀しようかと思ってさ」

「あたいらもそう思ったんだけどさ、海軍の頃の上司が訪ねてきただけだって言われちゃってね」

「今、中には誰が居るんだ?」

「神武海運全員とテッド、海軍の方は3人だ。一人は司令官の格好してたからそいつじゃない?」

「まぁ・・それだけ居りゃテッドは安全か」

「周囲はうちのツヴァイ班が見張ってるけど、特に異常は無いみたい」

「そっか。なら何でお前らここに居るんだよ」

「なーんか妙な雰囲気だったからさー」

「妙?」

「海軍の方はすんげー親しそうなのにテッドは真っ青だったんだよねー」

「・・訳わかんねーな」

「うん」

ミストレルは買い物袋からプチシューの袋を取り出した。

「食うか?」

「おっ、新発売の夕張メロン味じゃん。もらうもらうー」

袋を手渡すと、ミストレルはテッド仲介所のドアの方を見た。

マズい展開になったとして、どこから突入すりゃ良い?

 

一方。

テッドの事務所の中で、提督は小さくソファに座りなおすと、そっと話し始めた。

「いや、何度も言うけどね、今まで色々世話になってるみたいだから一言礼を言いたくて来ただけなんだってば」

「・・・・」

「そこまで睨まないでくれると嬉しいなぁ・・」

「・・・」

その時、ずっと提督の隣で黙していた長門が口を開いた。

「これが日頃の行いの悪さというものだぞ、提督」

「えー・・」

真っ青な顔で机の陰から提督を睨んでいたテッドは、長門の言葉にコクコクと何度も頷いた。

長門は続けた。

「事ある毎に復職はいつだのなんだのと言ってたそうではないか」

コクコクコク。

「あーいや、テッドさんの分析力が優秀なのは事実だし、今の117研は腑抜けになってるからさ・・ちょっとはね」

ブルブルブルブル。

「それで本当の用向きさえ疑われるほど警戒されては本末転倒ではないか」

・・・ジーッ。

テッドはこの3人ではまだ長門は信用出来そうだと内心思っていた。

だが神武海運の面々はいつでも攻撃出来る態勢を崩さず、びっしびしに緊張したまま警戒を解かなかった。

そんな様子を見て、提督を挟んで反対側に座っていた龍田は小さく肩をすくめた。

「えっと・・その辺に関しては私もネタにしてた所があるから私のせいでもあるわねぇ・・」

提督は龍田に振り返った。

「ん?そうなの龍田さん?」

「まぁ用件を切り出す為の軽いジャブみたいな意味が半分くらいだったんだけど・・」

「残り半分は?」

「・・名誉会長にしろ、ヴェールヌイ相談役にしろ、今の117研にほんと失望してるのよねぇ」

テッドがそっと口を開いた。

「やっぱり二人とも半分本気じゃねぇか」

提督と龍田は同時に頭を掻いた。

「そりゃまぁ優秀な人材は喉から手が出るほど欲しいし・・」

「まぁ半分冗談だから~」

テッドはビシリと龍田を指差した。

「意味は一緒じゃねーか!割合が変わらない分、朝三暮四よりひでーじゃねーか!」

「でも、テッドさんが本気で大本営に帰りたくないって事は解ったし、この仕組みが代替案なのも本当よ」

「・・・それだけどよ」

「なにかしら?」

「本当に、あいつらだけで鎮守府を調べられると思ってるのか?」

「どういう事ですか~?」

「練習巡洋艦2、駆逐艦1、重巡2だぞ?どうやって偵察するんだよ」

テッドの言葉に頷いた武蔵が続けた。

「正面切るなら正規空母か戦艦は必要だし、密偵なら潜水艦か工作艦が必要だ。それらが一切居ないではないか」

提督は頷いた。

「なるほど。確かにもっともな指摘だけど、その辺どうですか龍田さん」

龍田は微笑んだままテッドを見返した。

「・・・別にあの子達を捨て駒にする意図は無いわよ~」

「・・・」

「偵察ミッションを遂行する際は、続行か撤退か非常に微妙な判断の連続になるでしょ?」

「まぁな」

「だからそれらの情報を最初に得る目や耳となる子がハンドリングするのが一番良い」

「・・」

「とはいえ、手足となって働いてくれる子達も一定以上のスキルは要る」

「・・」

「だからハンドリングは鎮守府に居る高錬度の子達が行い、ここの子達が実働部隊としてアシストする」

「・・」

「香取さんと鹿島さんはそうした子達を教育する専属教官を目指して欲しいからミッションには出さない」

「・・」

「一方で町に負担とならないよう順番に少しずつ育成していくつもり。これで説明になったかしら?」

テッドはじっと聞いていたが、小さく首を傾げた。

「一見正論っぽいが、目的は他にもあるだろ?」

「あらぁ、たとえばどんな事~?」

「DeadlineDeliversの実力測定、たとえば高錬度の深海棲艦達の、な」

龍田が微笑むのを止め、薄く目を開けて見返した。

「仕方ないわねぇ・・」

長門が口を開いた。

「そうなのか?龍田」

龍田は諦めたように溜息をつくと肩をすくめた。

「提督がここに来たがってるのは知ってたから、誰かに襲撃された際に町としての反撃力を知りたかったのよ~」

だがテッドはジト目のまま答えた。

「それはこの間、旧コンテナ埠頭の一件で解っただろ?どうして続けてるんだよ・・」

龍田の目元がピクリと動き、声がより低くなった。

「こういう時が「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」って言いたくなる訳ね・・よく解ったわぁ」

 

 

 


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