Deadline Delivers   作:銀匙

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第39話

 

 

「・・・やー、早ぇなぁ」

テッドが呆然と呟いた通り、神通達はあっという間にテッドの家の空き部屋を掃除し、搬入し、配置してしまった。

出来上がりを見た武蔵が

「せっ!洗濯物を椅子の背にかけた所まで再現しなくていい!」

と、真っ赤になって怒鳴るくらいの精密さだったという。

テッドは後ろ手に洗濯物を隠す武蔵に2本の鍵を手渡した。

「ほらよ」

「なんだ・・この鍵は?」

「黄色い方が玄関の鍵、銀の方がこの部屋の鍵だ」

武蔵は洗濯物を洗濯籠に放り込むと鍵を受け取り、目を細めた。

「・・そうか。ここが私の家になるんだな」

「そういうこった」

「そうか・・そっか・・」

その時、扶桑が入ってきた。

「あのぅ、大変良い雰囲気の所申し訳無いのですけど」

「うおっ!?な、なんだ扶桑」

「寮のお部屋の鍵をお返し頂けますか?仮眠室として使うので」

「あっ・・そ、そうか・・ほら、これだ」

「確かに頂戴しました。じゃあ私達はこれで引き上げますね」

「あ、終業までは私も会社に戻る」

「そうですか?今日は仕事も無いですしお帰りになっても構いませんと社長が仰ってましたよ」

「・・・」

「お部屋の調整とか済ませては如何ですか?」

「あ、や、それは山々だが・・良いのか?」

「ええ、大丈夫ですよ。ではそのように伝えておきますので、お二人で仲良くどうぞ」

「あ、ああ」

「では」

 

テッドは階段を下り、事務所に戻ったところで扶桑を呼び止めた。

「な、なぁ扶桑、ちょっと待ってくれ」

「はい、なんでしょう?」

「ええと、運んでくれてありがとな。礼は改めてするからさ」

「それなら甘い物でも頂ければ嬉しいですね~」

「洋菓子か?和菓子か?」

「そうですねぇ・・どちらでも大丈夫だと思いますけど、あ、大和さんはお饅頭が好物ですね」

「・・やっぱり寂しがるかな」

「喜びつつ、でしょうけどね」

「ん、解った。その辺用意する。で、でさ」

「はい?」

「そ、その・・武蔵は晩飯何が好物だ?」

「お作りになるんですか?」

「ほ、ほら、武蔵は片付けがあるだろ?」

「んー・・武蔵さんの好物はビーフシチューとドイツパンですけど・・」

「作るにしても食いに行くにしてもレベル高ぇなちくしょう・・」

「テッドさんが作るなら何でも美味しいと思いますよ?」

「・・無理するよりしっかり作れるもの、か」

「はい」

「ん、そうだな。引き止めて悪かった」

「では、失礼しますね」

 

・・・パタン。

 

扶桑が静かに閉めたドアを見たまま、テッドはポリポリと頬をかいた。

今までも武蔵は仕事の事でしょっちゅう事務所を訪ねてきていたし、最近は朝昼と一緒に食事していた。

だが、それと今とは明らかに違う。

どうにもこそばゆいというか、じっとしていられないというか。

 

 落ち着かない。

 

「あー・・こういう時に限って仕事もねぇんだよなぁ・・」

だが、ふと思い出したようにジト目になると

「1つあったな・・武蔵と相談するか」

そう言って階段を登っていったのである。

 

コンコンコン。

「武蔵、入って良いか?」

「ちょっと待ってくれ・・半分くらい開けてくれ」

「んお?おう・・お邪魔する・・おおう」

テッドがそっとドアを開けると、武蔵は模様替えの真っ最中だった。

「日の当たる位置や押入れの位置が変わったのでな、今までの配置だと居心地が悪いのだ」

「そりゃそうだろうな。なんか手伝うか?」

「いや、家具ぐらい一人で動かせる。で、何か用だったのだろう?」

「あーいや、龍田の仕事の件を相談しようと思ったんだが、まずはこっちを先にやれよ」

「良いのか?」

「落ち着く部屋を確保するのが優先だろ。あ、晩飯は19時で良いか?」

「ええっと・・ならば買い物は1800時開始か。まぁ間に合うか」

「ああいや、今夜は俺が作るし、冷蔵庫にある物で作るから買い物はいらねぇよ」

「えっ?」

「模様替え済ませちまいな。用は今の所それだけだ。じゃあな」

 

パタン。

 

閉まったドアを武蔵は見ていたが、ふふっと笑った。

「家事は私の役かと思っていたのだが・・」

武蔵はぐいと体を起こすと、家具を動かし始めた。

「あれこれ欲張っても仕方ない。まずは家具の配置を決めてしまおうか!」

 

 

そして日は暮れて。

 

コンコンコン。

 

「はい!」

「もうすぐメシなんだけどよ」

「あっ・・もうそんな時間か。すまない、まだ終わってないんだ」

「構わねぇけどメシの前に一旦風呂入らねぇか?埃まみれになってねぇか?」

「まぁ、多少な・・」

「風呂はこの階の廊下を階段と反対に向かった突き当たりなんだ」

「うむ」

「で、24時間風呂だからいつでも沸いてる。好きに入ってくれよ」

「そうなのか!?」

「俺も住み始めた時びっくりしたんだけどな」

「・・ガス代かからないか?」

「あんまり他を知らねぇからなぁ・・でよ」

「ああ」

「入ってる時はこれを風呂場のドアにかけといてくれよ」

そう言ってテッドは紐を通したカメオのブローチを手渡した。

「随分高そうな物だな・・」

「まーな。他に無くってよ」

「着替えはどこでしたら良いんだ?」

「説明するより見てくれた方が早ぇからちょっと来てくれ」

「ああ」

 

「なるほど、ドアの内側に更衣所があって、その奥が風呂なんだな」

「そういうこと。だからそれはここにかけといてくれ」

「なるほどな。解った。じゃあ・・逆算するともう入ってしまった方が良いな。早速借りるぞ」

「おう」

武蔵が部屋に戻った後、テッドは階段を下りながら呟いた。

「改めて見るとカメオの横顔と武蔵ってそっくりなんだよなぁ・・びっくりしたぜ・・」

降り切った所で上を振り向いたテッドは苦笑した。

「好みってのは・・そうそう変わらもんなんだな・・」

肩をすくめたテッドはキッチンへと歩いて行ったのである。

 

 

 


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