Deadline Delivers   作:銀匙

219 / 258
第40話

 

 

「頂きますっと」

「あ、あぁ・・頂き・・ます」

テッドは並べた料理にスプーンを入れようとしたが、武蔵の返事に首を傾げた。

「どうした?何か足りなかったか?」

「あ、いや、その、なんだ」

「おう」

「・・は、初めての夕食なのに、その、作らなくてすまなかったな」

「なんで?」

「な、なんでって・・こういうのは私の役割かと」

「別に決めてねぇだろ?」

「・・あー、いや・・」

「?」

ますますきょとんとするテッドに、武蔵はもじもじしながら答えた。

「そ、その、そういう役割に・・憧れててな・・」

「素敵な奥さん的な?」

「う、うむ」

「エプロンかけて台所で振り向いて「あなたお帰り~」みたいな?」

次第に頬を染めつつ頷く武蔵。

「・・そっかぁ」

テッドは一旦スプーンを置くと少し考え、続けた。

「俺の方はやれる奴がやりゃ良いやっていうか、全くこだわりが無かったんだけどさ」

「・・う、うむ」

「とりあえず今は演習期間って事にしとかねぇか?」

「演習?」

首を傾げる武蔵。

「あぁ。ほら、兵器とか変えた後はいきなり出撃しねぇだろ?」

「うむ。演習で運用方法や扱いについて学ばねば怖すぎる」

「だから俺達は今日から一緒に住みつつ位相合わせをする段階と考えりゃあさ」

「・・」

「鎮守府の生活で言う演習みたいなもんだろ?」

「・・」

「いきなり全部がピッタリ一緒なんてあるはずねぇからさ」

「そうだな。神通達との生活でも互いに当たり前と思う事の差異の解消に一番苦労したものだ」

「だろ?」

武蔵は目を細めた。

「・・ありがとう、テッド」

「ゆっくり差を埋めていこうぜ。さ、食おうぜ。冷めちまう」

「うむ」

 

「ほいご馳走様でしたっと」

「ご馳走様・・あー・・驚きの連続だった・・」

「どうかしたか?」

「いや、オムライスは鎮守府でもたまに出たんだがな」

「おう」

「中が麻婆茄子の混ぜご飯というのは初めてでな」

「そっか」

「食べてみれば旨かったのだが、次々出てくる具が予想外過ぎてな」

「あー・・確かに山下食堂の定食とかでも見かけねぇか」

「う、うむ。これはどこで習ったのだ?」

「習ってねぇよ」

「えっ?」

「料理習った事なんてねぇんだが、一人暮らしって連続性なんだよ」

「連続性?」

「例えば月曜日に麻婆豆腐食うとして一通り買ってくるだろ」

「ああ」

「すると麻婆豆腐の素は1袋で4人分とか入ってるんだよ」

「・・ふむ」

「それも1人前x4じゃなくて2人前x2とかが多いんだよ」

「ふむふむ」

「だから1袋の半分が残ったとすりゃ、早く使わなきゃいけない」

「封を開けていれば、そうだな」

「でも2日続けて麻婆豆腐なんて飽きる」

「ああ」

「だから茄子買って来て麻婆茄子にするが、もうひと工夫しないと代わり映えしない」

「それで卵で包んだのか?」

「そういうこった」

「今から思えば卵にかかってたのがケチャップではなく醤油という時点で気づくべきだった」

「・・麻婆豆腐にケチャップはナシだろ?」

「無い無い絶対無い。醤油で合ってる」

「良かった」

「・・麻婆茄子にさつま揚げを入れるのは好みか?」

「いや。期限が近かったから食っちまおうと思っただけだ」

武蔵は小さく安堵の溜息をついてから続けた。

「ふむ。テッドも色々やりくりして、たくましく生活してきたのだな」

「イチイチ無駄にしてたら外食より高くなるし、その外食だって決して安くはねぇからなぁ」

「なるほど。さて、食器は私が洗う。仕舞ってある場所を知りたいのでな」

「そうか?今日は模様替えで疲れてるんじゃないか?」

「いやいや、大丈夫だ。心配要らない」

武蔵はにこやかに食器を手に立ち上がった。

テッドの料理はマズかった訳では無いが、あまりにも奇抜すぎる。

これは早く自分が調理役を押さえた方が良い。

そう思っての行動だったが、テッドには内緒である。

 

食器を仕舞いながら、武蔵がポツリと呟いた。

「さっき、外食も安くないといってたが・・ちなみにな」

拭き終えた食器を武蔵に手渡しながらテッドが答えた。

「おう」

「昨晩の焼肉なんだが・・」

「おう。旨かったな」

「それはそうなのだが、合計が約18万だったらしい」

テッドが目を見開いた。

「・・マジか」

「あぁ。神通からは内緒にしておけと言われたんだが・・言っておいた方が良いかと思ってな」

「お、俺、やっぱ払った方が良いかな?」

「いや、テッドはほとんど食べてないから気にするな。私と姉上の補給分がほとんどだからな・・・」

「そういや俺ん家に駆けつけてくれる直前に帰港したんだよな・・」

「あぁ。航海後に1回でも喫食してればその後食べる量は人並みで済むのだが・・」

「ほんと違うんだな」

武蔵は溜息をついた。

「とにかく私や姉上は帰港直後の食事は気が重いのだ。顎が痛くなってくるし、申し訳なくなってくるのでな・・」

「大変だなぁ・・」

「そして前に航海直後の食事を取った事がある店に再訪するとな」

「おう」

「以前の量を食べるものだと思われて、頼んでないのに物凄い量を出されたりするのだ・・」

「まぁそう思うだろうなあ」

「鎮守府では基礎訓練や演習、出撃などで毎日海に出るから、ほぼ常に沢山食べる事になるんだが」

「おう」

「航海が無ければ普通の1人前で充分なのでな、体調が悪いのかと逆に心配されてしまう」

「極端に違うもんな」

「だから大和型というか、戦艦の艦娘達はいきつけの店を指定する事が多いんだ」

「そういう差異に戸惑わない店、か」

「まぁ、最初に一言聞いてくれれば済む話だからな。だから鳳翔がやってる店があれば一番気楽に入れる」

「なるほどなぁ・・他の艦種もそうなのか?」

「いや。軽巡や駆逐艦、潜水艦は常時少量だし」

「ほう」

「空母や重巡は艤装を使ったとしても更に毎回差が激しい」

「なんで?」

「空母は艦載機の種類や積載量、出撃機数、それに破損度合で、重巡は装備兵装によって大きく変動するのだ」

「ほほぅ・・じゃあ龍驤は苦労してるんだな」

武蔵がジト目になった。

「うちの龍驤は高LVの軽空母だからな・・・うらやましいものだ」

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。