「!」
テッドは傍目にも解るくらいピクンと反応した武蔵を面白そうに眺めた。
「良い感じか?」
コクコクと頷きながら武蔵は返した。
「あぁ!これは良い!程よく酸味が効いて旨い!」
嬉しそうにクイクイと飲み進める武蔵にテッドは微笑みながら言った。
「良かったじゃねぇか。好きな物が1つ増えてさ」
「・・・」
武蔵は空になったグラスをコトリと置くと、テッドを見返した。
「どした?」
「・・あぁ。テッドのおかげでまた1つ、楽しい事が増えた」
「またって、他になんかあったか?」
武蔵はにこりと笑った。
「沢山あるぞ。仕事の話をする時だってテッドと話すと楽しいし」
「・・」
「弁当を作る時は次は何を作ろうか、喜んでくれるかなと楽しみだし」
「・・」
「作った弁当を二人で食べると味がずっと美味しく感じるし」
「・・」
「テッドが笑ってるのを見ると私も嬉しくなる」
「あ・・あー」
「テッドの横に並んで歩けばいつもの景色がキラキラして見えるし」
「お、おう・・」
「今日からはテッドの家から帰らなくて良くなったし!」
「・・」
「空の弁当箱を持って事務所のドアを開ける時・・結構寂しいんだぞ?」
潤んだ目で自分を見る武蔵を見つつ、テッドはごくりと唾を飲んだ。
あ、あれ、武蔵、実はかなり酔っ払ってねぇか?
絶対普段聞かせてくれないような凄ぇ事聞いてる気がする。
「そ、そうか・・あ、あー、ええと、今日はもう遅いから寝るか?」
「断る」
「えっ?」
「こーとーわーるぅ!もっと飲むー」
間違いねぇ。こいつ、ギリギリまでシラフで一気にへべれけになるタイプだ!
「ほーら。お前完全に酔ってるから!部屋まで送ってやるから寝るの!」
「よってませーん」
「酔ってる!完全に酔ってるから!」
「あはっはー!なんか楽しくなってきたのー!」
武蔵に肩を貸しながらテッドは思った。
次からは1~2杯飲ませたら寝かせよう、と。
翌日。
「ふ・・う・・お・・」
武蔵は布団の中でそっと額に手をやった。
な、なんだこれは。
誰が頭の中にクラッシュ・シンバルなんか持ち込んだんだ・・・おおお止めてくれ・・
そんな時。
コン・コン・コン
武蔵は目を瞑りながら必死に考えた。
誰だ?
姉上や山城、龍驤は勝手に入ってくるからノックなんてしない。
時雨にしては音が大きいし、神通は4回鳴らす。
扶桑か?でも何か違う気が・・
武蔵は精一杯声を上げた。
「んー・・」
しかし。
「おーい武蔵ぃ、粥と水持って来たぜぇ」
「・・・・・・・・・・」
「あー、やっぱり相当酷い事になってるか?」
「・・・・き」
「?」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「んなっ!?なっ、なんだどうした!?」
「テッ、テテテテテッド!?なんでここに・・う、おお・・自滅した・・」
ベッドから飛び起きて自分を指差したかと思うと両手で頭を抱えて再び横になる武蔵を見て、テッドは肩をすくめた。
「朝から忙しいなぁ」
「うー・・」
「とりあえず頭ガンガンか?」
無言で頷く武蔵。
「典型的な二日酔いだな。とりあえず水分補給して胃に軽く入れな」
「・・・」
布団を顔半分まで引き上げ、半身を起こしてこちらに向く武蔵を見て、テッドは可愛いなと内心微笑んだ。
テッドはちゃぶ台に水と粥の土鍋を載せたお盆を置いた。
「無理しないでさ、まずは水を飲んでまた横になれ」
「・・・」
「少ししたらちょっとずつ粥を食いな。茶碗一杯分しか使ってないから食えると思うぜ」
「・・テッド」
「おう」
「ごめん」
「なんで?」
「・・最初の晩に続き、最初の朝までこの体たらくはさすがに申し訳ない」
「初めて酒飲んだんだから加減が解らねぇのは仕方ねぇだろうよ。装備と一緒でさ」
「・・」
「でも、これで懲りねぇで次からも付き合ってくれると俺は嬉しいな。もっと早く切り上げさせるからさ」
「・・だらしのない嫁だと思わないのか?」
「二日酔いにならない程度を覚えていけば良い。それだけの事じゃねぇか」
「・・」
「なんでも最初から100点満点なんて無理だ。俺がそうじゃねぇんだから武蔵も同じでホッとしたぜ」
「・・そうなのか?」
「俺ばっかり何でもヘタレじゃ気ぃ使う・・つーか凹むぜ?」
「・・そっか」
「おうよ。ま、粥は温かい方が旨いから適当に諦めて起きてくれ」
「・・・あぁ」
「じゃあ俺は仕事始めるからさ、下に降りて来る時は寝癖直せよ?」
「・・・私の髪は本当にクセっ毛でな」
「別に入りたきゃ風呂入って良いぞ?どうせ24時間沸いてんだから」
「・・あぁ、そうだったな」
「じゃな」
・・・パタン。
「うー・・・」
武蔵はぽすんと布団に横になると目を閉じた。
あぁバカバカ。今朝からは私がご飯を作ろうと思ってたのに!
とんだ醜態を晒してしまった。
寮の部屋だと寝ぼけるなんて何てみっともない・・・
・・・でも。
「ホッとした・・かぁ」
本当にマズいと思うのだが、テッドは私に・・甘い。
そうだ。奴は甘いんだ。
この短い時間の中でもそれだけはハッキリ解った。
「これは・・相当厳しく自分を律せねば堕落してしまうな・・よし!」
そう言って勢い良く起き上がったのだが、
「う・・お・・部屋が・・・回る・・・」
押し寄せてきた気持ちの悪い感覚に、そのまま体育座りするように顔を伏せてしまったのである。
「お・・おはよぅ・・テッド」
「あーあー真っ青だなー」
「もう少し水を飲んでも良いだろうか・・」
「白湯の方が良さそうだな。座ってろよ」
「いや、いい。自分でやってみる」
「今無理するなよ」
「慣れておきたいからな・・」
「そうか?・・じゃあ一緒に行くか」