Deadline Delivers   作:銀匙

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第43話

 

 

シュンシュン・・・フィーーーー!

 

やかんの甲高い笛の音に武蔵が眉をひそめたので、テッドは苦笑しながら火を止めた。

「この湯飲みなら沸かした湯を1/4、水を3/4で、大体人肌だ」

「あぁ」

「これに塩を一つまみ」

「入れた方が良いのか?」

「経験的にな。あと、レモン1振りで出来上がりだ」

「・・・」

武蔵は手渡された湯飲みをそっと口にした。

湯の温かさと鼻を抜けるレモンの香りでホッとする。

「うん・・良いな、これ」

「まだやかんには湯が残ってるから、飲みたければ作ってみな」

「あぁ・・テッドは大丈夫なのか?」

「俺はそうならねぇ範囲を知ってるからな」

武蔵はバツの悪そうな顔でテッドを見たが、テッドはニッと笑って見返した。

「・・気をつける」

「とりあえず1~2杯は大丈夫そうだったけどな」

「3杯目以降を・・濃く作りすぎたかもしれないな」

「ん?ツーフィンガーだろ?」

「上手く止められなくてな・・ドバッと出てしまった」

「おいおい、それじゃそうなるのも無理ねぇよ。今度からそういう時は言えよ」

「どうするんだ?」

「俺がまだ飲めるならグラスから移すし、ダメなら捨てるさ」

「勿体無いじゃないか」

「武蔵が悪酔いするよか良いよ。無いに越した事は無ぇけどな」

「うぐ・・そうだな。もう少しゆっくり傾ける事にしよう」

「その辺も慣れだからなぁ」

「・・・」

武蔵が無言で見返したので、テッドは首を傾げた。

「どした?」

「・・お前はいつも優しいな」

「怒ってもしゃーねーし、俺の趣味に付き合ってくれるんだから当然だろ?」

「・・神通達の方がはるかに厳しいぞ」

「そりゃまぁ、可愛い嫁さんだしよぅ・・」

「ぐ」

これが山城や龍驤なら「おちょくるな!」と怒鳴りつけるが、武蔵は解っていた。

テッドが本気で言ってるという事を。

だからこそ恥ずかしくてたまらないし反論しようがない。

真っ赤になって俯くしか無い。

 

「すいませーん」

事務所の方から呼ぶ声がしたので、テッドは返した。

「あいよー!ちょっと待ってくれー!・・・じゃあ火傷には気をつけろよ?」

ぽんぽんと武蔵の肩を叩くと、テッドは事務所に戻っていった。

 

そして。

 

「武蔵さんが遅刻とは珍しいですねぇ・・」

「本当にすまない。生まれて初めて酒を飲んでな」

「えっ?」

「い、いや、本当の話なんだ。それでその、二日酔いになってしまったんだ・・」

「武蔵さん・・お酒飲んだ事ありませんでしたっけ?」

「それはそうだ。いつ招集がかかるか解らぬ中で酔っ払う事など出来ないからな」

「そうでしたか・・」

 

就業開始時刻を大幅に過ぎて事務所にやってきた武蔵は真っ先に神通の部屋を訪ねていた。

それでも神通が怒らない辺りがそれまでの武蔵の勤勉さを示している。

 

神通は苦笑しながら続けた。

「でも、大和さんは旗艦になってからも結構お酒をたしなんでましたよ?」

「え・・本当か?」

「ええ。夜の食堂と言えば隼鷹さんと足柄さんは有名でしたけど」

「ああ」

「意外と大和さんや那智さん、扶桑さんなんかもいらしたんですよ」

「りょ、寮の部屋に夜遅く帰ってくるのは、旗艦の仕事が忙しいのだとばかり思っていた・・」

「いえいえ、私が秘書艦の仕事を閉めるのが2000時くらいですからね」

「そうか。それより遅い筈が無いか」

「まぁ一緒位に執務室を出て、大和さんは食堂に、私はお風呂にってパターンが多かったですね」

「そうだったのか・・でも姉上が泥酔してるのを見た事が無い」

「あまり量は飲まれなかったのかもしれないですね」

「・・」

「折角ですから聞いてみたら良いんじゃないですか?」

「そのうちな。あと、今日の私の仕事は・・」

「ええと、お願いしたいのは倉庫のCエリアの荷解きですね。今日中で良いですよ」

「うん?Cはあまり無いから3時間もかからないだろう・・それで良いのか?」

「二日酔いの人をトラックに乗せる訳には行きませんし」

「うぐ・・すまない」

「次は気をつけてくださいね」

「解った」

「ところで武蔵さん」

「あぁ」

「しょ・・初夜は・・楽しかったですか?」

頬を染めて上目遣いに見る神通、ぽかんとする武蔵。

数秒の静寂の後、

「いや、私は酔っ払った後、どうやって部屋に戻ったかもロクに覚えてないのだ・・」

武蔵がそう返すと、

「あ・・そうでした・・なんとつまらない展開でしょう・・」

と、神通は心底がっかりした表情を見せたのである。

 

そして昼休み。

 

「姉上、ちょっと教えて欲しい事があるのですが・・」

「どうしたの?」

「姉上はどのくらい飲めるんですか?」

「へ?」

首を傾げる大和に、武蔵はポリポリと頭をかきながら事の次第を告げたのである。

 

「あっはっはっは!最初からそんな飲んだら二日酔いして当然やんか~」

「・・うー」

 

そう。

武蔵の背中を面白そうにバンバン叩いてるのは山城であり、声をかけたのは龍驤である。

大和にだけ打ち明けるつもりが、皆にあっさりバレたという訳である。

扶桑がころころ笑いながら返した。

「大和さんはせいぜい日本酒を徳利1本くらいですよね~」

大和が頷いた。

「ええ。晩酌ですからせいぜい1合か2合ですね」

「ばん・・しゃく?」

聞き返す武蔵に時雨が囁いた。

「晩酌っていうのは夕食をつまみに飲むお酒の事だよ」

「お、そ、そうなのか・・という事は姉上は毎晩飲んでいたのか?」

「んー」

大和は少し考えるポーズを取ったあと、

「起きてすぐ用事があるとか夜間に用事が無ければ、ね」

「ええと・・」

武蔵が何と聞こうかと言いよどんでいると、扶桑が口を開いた。

「大和さんが居酒屋になった食堂を訪ねてくるのは週に3日くらいでしたかねぇ・・」

「半分くらいという事か・・姉上は飲むのが好きなのか?」

「楽しい雰囲気が好きだったわ。飲んでる時は皆暗い話題を避けますからね」

「なるほどなぁ」

「時雨さんが来てたのもそういう意味でしょう?」

武蔵がぐきりと時雨を見た。

「しっ!?しししし時雨、お、お前酒を飲むのか!?」

 

 

 


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