Deadline Delivers   作:銀匙

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第49話

 

 

そして、その日の夜。

 

テッドは受話器に向かってうんざりした顔で話しかけていた。

「龍田さんよ。判明したぜ、何もかもな」

「聞かせて~」

「まず、誰がと言う意味では、妖精って事になる」

「・・・はい?」

「所長達が来た時、神武海運は帰港直後だったから妖精達が艤装に乗っていた」

「・・」

「その妖精達が夕島整備工場の応接室で、夕島整備工場の妖精に茶飲みついでに話しちまった」

「・・で、聞いた側の妖精さんが売ってたの~?」

「ちげーんだなこれが」

「?」

「その妖精用応接室ってのがビットの事務机の引き出しの奥にあるんだけどよ」

「ええ」

「その引き出しの中にビットがスマホを仕舞っててな」

「ええ」

「スマホの常駐ソフトに「幹事君」ていう夕張会の作ったソフトがインストールされててな」

「・・ええ」

「ビットがロクに説明読まずに弄ったせいでラジオトーク機能が常時ONになっててな」

「えっ・・・」

「ビットとアイウィの会話とか妖精用応接室の会話とかの諸々が夕張会全員の幹事君に流れてたんだよ」

「あらー」

「だから幹事君のラジオトーク機能を聞いてた夕張が鎮守府内に噂として流したって訳さ」

「情報源を皆が直接聞いてたら情報は極めて正確に伝わるわねぇ・・」

「ああ」

「なるほど。夕張会なら大本営にもメンバーがいるわねぇ」

「その大本営所属のレイとか言う奴を問い詰めたら白状したよ」

「なんて?」

「世間の日常会話が面白かったからビットには内緒にしておこうって皆で示し合わせてたんだと」

「・・わぁ」

「もちろん町の死活問題だって事を説明して納得させたし、設定も直させた。だからしばらく様子を見てくれ」

「なるほど、なるほどぉ。筋道は通ってるわね。他にルートが無いと良いんだけど~」

「そうである事を祈ってるぜ。とりあえず、報告は以上だ」

「じゃあ1ヶ月くらい聞こえてこなければひとまず完了にしましょうね~」

「あ、いや、半年、いや1年くらい様子見ても良いぜ?」

「・・・」

数秒の沈黙の後、龍田は続けた。

「そろそろ提督の事は許してあげて~、本当にテッドさんの事高く評価してるのよ~?」

「絶対大本営には戻らねぇからな」

「解ったわよ。だから香取さん達を手伝ってあげて~」

「そっちだけどよ、本当に分析依頼来るのか?」

「そのつもりだけど・・今はそこそこ忙しいんじゃないの~?」

「今日明日寄越せって言ってるわけじゃねぇが、当初の話とだいぶ変わってねぇか?」

「そぉ?」

「そもそもあの5人を使って狐狩りさせようとしたんだろ?」

「訓練やりながらの副産物として期待しただけよ~?」

「で、狐狩りは終わったわけだろ」

「そうね・・きっとね」

「でも香取達のなんでも屋はNG出しただろ?卒業試験の後はどうすんだよ」

「それなんだけど~」

「おう」

「卒業検定合格の代わりに何でも屋の開業を近々OKにするって伝えるから~」

「なんでだよ?」

「色々あるの~」

「まぁ良いけど、俺達はもう普通に隣人としてつき合わせてもらうぜ?」

「しょうがないなぁ・・でもDeadlineDelivers登録の件はお願いね~?」

「カムフラージュ用の話だろ。解ってる」

「じゃあ1ヶ月経ったら連絡するわね。完了とするかはその時に~」

「はいはい。あ、龍田!」

「なぁに?」

「完了の礼とか言って所長寄越すなよ!絶対な!」

「先手打たれちゃったかぁ。しょうがないわねぇ・・・解ったわよ~」

 

ガチャリと電話を切ったテッドはニッと笑った。

今度こそ龍田を先回りしてやった!

 

一方。

 

「・・・そういう事だったんですね」

神武海運では武蔵と武蔵所属の機関長が神通達とその所属妖精達に説明を行っていた。

神通がふるるっと身震いした。

「私に疑いがかかっていたとは・・武蔵さん、無実を証明してくださってありがとうございました」

神通の機関長がぺこりと頭を下げた。

「誠に申し訳ありません。喋った者につきましてはおやつ抜き1ヶ月の処分とし、皆にも徹底させます」

龍驤が肩をすくめた。

「そうは言ってもどーでもええ噂の1つ2つ喋るのはしゃーないで?」

山城も頷いた。

「機械が勝手に音を拾ってたのなら誰も悪意は無かったわけだしね」

時雨が首を振った。

「逆を言えば、そういう事が現実にあったわけだから、どこでも気をつけるべきだって事じゃないかな」

大和は頬杖をついた。

「まぁ過去の歴史で言えば、情報管理の不徹底が戦争の敗因の1つではあるんだけどねぇ」

扶桑が首を振った。

「人の口に戸は立てられぬと昔から言いますからね」

武蔵が頷いた。

「確かに噂話の1つや2つ解らなくはないが、そんな事で仲間を疑うのはもううんざりだ」

神通が溜息をついた。

「まぁ、濡れ衣は嫌ですしね・・」

「噂話は程々に、という事だな。まぁ今回神通は何も悪くなかったのだが」

龍驤が答えた。

「後は・・スマホには注意って事かいな?」

山城が頷いた。

「たとえば無料で性能が良いと有名な某日本語入力アプリは中国の諜報機関に入力情報を流してるのは有名な話よ」

「タダより高いものはあらへんって事やんなぁ」

「アプリを作るには数千万の金がかかる。タダで配るって事は誰が何故その金を負担してるのかって事よ」

「何が欲しいねん?噂話とかか?」

「違うわよ。企業システムのログインIDやパスワード、あるいは株価を左右する機密情報とか、そういうもの」

「コッソリ知りたいから日本語入力アプリに化けてるスパイっちゅう事かいな。あこぎやなぁ・・」

「調べもせずホイホイ入れるユーザーが悪いのよ」

武蔵が頷いた。

「という訳で、一応1ヶ月くらい様子は見るが、漏れが続かなければ一件落着、だ」

大和が手を叩きながら言った。

「武蔵とテッドさんの夫婦初の共同作業、大成功ね。お疲れ様~♪」

「んなっ!?」

時雨達も口々に

「そうだったね」

「せやせや!ホンマめでたいな~」

「おめでとうございます~」

などと言いながら手を叩いたので、武蔵は真っ赤になって俯いたという。

 

 

 


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