Deadline Delivers   作:銀匙

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第50話

 

 

翌日。

 

「や、今度の件では本当に助かったよファッゾ」

「我々も一言御礼を申し上げたくて参りました」

ファッゾの家を訪ねたテッドと神武海運の面々は次第を説明し、深々と頭を下げた。

そして出迎えたワルキューレとファッゾ達を前に顛末を説明したのである。

ナタリアは目を丸くした。

「私達の艤装に妖精は居ないけど、建造や修復をする機械には居るって聞くし、他人事じゃないわね」

フィーナは肩をすくめた。

「そういう漏洩ルートは考えもしませんでしたね・・MADFの頃も」

ファッゾも頷いた。

「俺もそんな結末は予想してなかったよ。解決出来たのは武蔵が皆を信じたおかげじゃないか?」

ちょうどその時、ベレーとミストレルがお盆にコーヒーを載せて運んできた。

「コーヒー淹れましたので、皆さんどうぞ」

龍驤がにこりと笑って紙袋を掲げた。

「せやせや、これケーキ屋で買うて来たんや。皆の分ちゃあんとあるさかい、食べんか?」

その途端、ベレーが紙袋を見つめたままピタリと止まったので、大和が声をかけた。

「べ、ベレー・・ちゃん?」

完全に目の光を失ったベレーは紙袋を凝視しながら呟いた。

「・・・気配がします」

龍驤は紙袋を持ったまま周囲を伺い、怪訝な顔をした。

「け、気配ってなんやねん・・・敵か?」

「違います。ビーネンシュティッヒの気配がします」

龍驤はごくりと唾を飲んだ。

「よ、よぅ解ったな・・ケーキ屋のおばちゃんに聞いたらファッゾ達はそれしか買わん言うから・・」

「15個・・ワルキューレの皆さんの分も含めて全員に1個ずつ行きますね」

「せ、せやで・・ん?どっかに個数書いとんのか?」

龍驤が箱の底を見ようと傾けたので、ベレーが慌てて言った。

「あっ、そっ、それ以上傾けたらNO8が潰れちゃいます!」

「NO8てなんやねん!?」

ベレーは両手をババッとかざした。

「そのまま!そのままテーブルに置いてください!私が保護します!」

龍驤は爆弾を扱うようにそっと紙袋をテーブルに置いた。

「こ、これでええか?」

「はい。それでは紅茶を淹れてきますね」

「へ?いや、今コーヒー淹れたんやからそれで・・」

龍驤が言いかけたのをファッゾが全力で阻止した。

「待て龍驤!全てベレーの言う通りにするんだ!」

ファッゾの言葉に小刻みに頷いたのはワルキューレの面々とミストレルである。

「な、なんでファッゾ達真っ青やねん?ま、まぁ好きにしてええけど・・」

ベレーがゆっくりと頷いた。

「お任せされます。アッサムのミルクティーを23%濃い目、任務開始です」

ベレーは紙袋をそっと手に取ると、

「ビーネンシュティッヒ・・ビーネンシュティッヒ・・今日も良い子達ですね~」

と、呟きながらキッチンへと向かったという。

 

 

それから月日は流れ。

 

「どうぞ、開いてますよ」

ドアをノックする前に部屋の中から声がしたので、廊下に居たリットリオはびくりとしながらドアを開けた。

「し、失礼します・・ほ、本日付で着任いたします、パスタの国からやってきました、戦艦・・」

「リットリオ・・いえ、LV的にはもうイタリアさんですね?」

香取は執務机越しにリットリオを見て微笑みながら続けたが、そのリットリオは目を見開いた。

「へっ?あ、はい、確かにイタリアへ改造可能なLVですけど・・どうしてご存知なんでしょうか」

香取はくすくすと笑った。

「いらっしゃる時の身のこなしや艤装の扱い方で。なんとなくですけど」

「そうなんですか。あ、あの、こちらでは鎮守府では習わない特殊技能を身に着けられると伺いまして」

「特殊技能と呼べるほどの物ではありませんが、身に着けておいて損は無いですよ」

「はっはい。これから2ヶ月の間、お世話になります。どうぞ、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ。では早速ですが、武器を選択致しましょう」

「武器、ですか?兵装なら381mm/50三連装砲と・・」

香取はにこやかに、軽く手を振って制した。

「ああいえ、そうではありません。詳しくは鹿島から説明させましょう」

 

「という訳で、最初の2週間はこの家の外に出る時はツーマンセル徹底って事です!」

「そうなんですかぁ・・」

鹿島の部屋に案内されたリットリオは、この町の状況や武器を携行する必要性の説明を受けていた。

次第に青ざめて行くリットリオを前に鹿島は続けた。

「というわけで、リッちゃんはPDW撃った事ある?」

「いいえ。兵装はそれなりに経験がありますけど、ハンドガンやPDWは・・」

「普通そうだよね。じゃ、どれを持つか実際に撃ってみようよ」

 

そして、1時間後。

 

海岸沿いに立つ香取達が有する射撃訓練場の中で、リットリオはイヤーマフを外しながら頷いた。

「うん・・この辺りの方が撃った後に痺れが少ないですね」

鹿島はデザートイーグルを手に取り、首を傾げた。

「こっちは厳しかった?」

「ええ」

「そっかぁ・・やっぱりそうだよねぇ」

今度はリットリオが首を傾げた。

「やっぱり・・と仰いますと?」

「物凄いストッピングパワーって事で買ってみたんだけど、だぁれも使えないの。失敗しちゃった」

鹿島がペロリと舌を出したので、リットリオもつられて笑った。

「それは1発撃つと銃口が物凄く上に跳ね上がるので、手首が引っ張られて痛くて・・」

「15発目くらいから狙った所に当てるの至難の業になるよね」

「はい。でも使えないわけじゃないですから、私が使いましょうか?」

鹿島は首を振った。

「ううん。1発撃てれば良いってもんじゃないからね。毎日何十発と撃つ事になるし」

「あ、射撃訓練もあるんですね?」

鹿島は自分の顎に手を当てた。

「んー・・最初は軽く訓練するし、後は希望があれば補正訓練もするけど・・」

「えっ?」

「とりあえず、リッちゃんのハンドガンはベレッタM93Rね。朝潮ちゃんとお揃いだねっ!」

リットリオは目を丸くした。

「あ、朝潮さんですか?」

「うん」

リットリオは一瞬迷った。軽過ぎる選択と言われているのだろうか・・でも・・

「・・あ、あの、ちなみに鹿島さんは何をお持ちなんですか?」

「私?」

「ええ」

「これだよっ」

そう言うと鹿島はひょいとホルスターから銃を抜いたが、リットリオは眉をひそめた。

「それ・・ハンドガン・・なんですか?」

「うん。Vz61スコーピオン。チェコ製のハンドガン。可愛いでしょ?」

 

 

 

 


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