Deadline Delivers   作:銀匙

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第52話

 

 

出てきたそれを目の前にして、リットリオは恐る恐る指差した。

「あ、あのぅ」

「なぁにリッちゃん?」

「しゅ、修理・・終わったんですよね?」

「そうだよっ」

「これで・・終わって・・るん・・ですか?」

アイウィが中庭から出してきた1台の車は、確かに自走していた。

だが、ボディのあちこちに銃弾らしき穴が無数に開いており、サイドに至ってはただの鉄板で補強してある。

これで上に機関砲でもあれば、世紀末なSF映画にでも出てきそうな車である。

リットリオの指摘に車から降りてきたアイウィは肩をすくめた。

「まぁ普通そう思うよねぇ・・私達もちゃんと直せるし、これならもう買い替えなよって毎回言うんだけどねぇ」

鹿島が苦笑しながら手をひらひらと振った。

「どうせ1週間でボロボロになるんだから安いが一番!アイちゃん今回は幾ら?」

「えっと、フロントガラス修理とラジエターホース交換、中古タイヤ1本で合計3万コインだよ」

「はいこれ。領収書ちょーだい」

リットリオが首を傾げる中、アイウィに支払いを済ませた鹿島はドアを開けた。

「さっ、早く帰ろっ。お土産もあるし、貴方の服をお洗濯しないとね!」

「は、はい・・」

リットリオは恐る恐る助手席のドアらしきものを開けた。

 

帰る道すがら、リットリオは鹿島に訊ねた。

「あ、あのう、鹿島さん」

「なぁに?」

「シートが随分穴だらけなんですけど・・」

鹿島はハンドルを切りながら肩をすくめた。

「そうなの。ガラスが割れちゃった後も撃ち込まれるとシートに弾がめり込んじゃうの」

「はぁ」

「弾は取り出すし、最初はシートも縫ったりカバーかけたりしてたんだけど、もう多過ぎて諦めちゃった」

「・・穴が開く事がって事ですか?」

「ええ」

リットリオは改めて自分のシートの穴を見た。どう見ても背もたれを貫通して後ろが見えている。

それはつまり、助手席に座ってた人も・・

「え、ええと、もう1つお聞きしたいんですが」

「うん」

「た、たとえばこの穴が開いてた時、こちらにおかけになっていた方は・・」

リットリオの質問の意味に気づいた鹿島はころころと笑った。

「あはは!大丈夫大丈夫!誰も座ってないよ。お化けとか居ないから!」

「誰も?」

「最初の2週間はお買い物も2人で行くけど、銃撃戦になった時はシートベルトして座ってられないしね」

「えっ?」

「運転手はしょうがないけど、助手席の人は文字通りショットガンだから!」

「えっ?ショット・・ガン?」

きょとんとするリットリオに鹿島は頷いて続けた。

「あー・・えっとね、英語で助手席に乗るって「ride shotgun」っていうんだけど」

「へぇ・・」

「それは馬車の時代に、道中出てくる敵をショットガン撃って追い払ったからなんだって」

「も、文字通り護衛役ですね・・」

「お買い物任務についてもらう時は、最初は運転手やってもらうからね」

「えっ?」

「助手席役が下手すると二人とも死んじゃうから」

「えっ」

「1週間過ぎたら助手席デビュー、2週間過ぎたら後は一人で行くんだよ」

「一人!?」

鹿島は苦笑した。

「お買い物のギャラは安いからねぇ・・本当は一人で行かないと赤字なの」

リットリオは鹿島の左腕にすがった。

「あ、ああああの本当に運転した事無いんです。ど、どこかで練習を・・」

「んー、じゃあこれから練習する?途中に広ーい駐車場あるから」

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

 

「えっと、まずは操作方法は解る?」

リットリオは運転席に浅く腰掛けたまま硬直していたが、ぷるぷると首を振った。

鹿島はポリポリと頬を掻いた。

「とりあえず、まずはちゃんと座ってみよっか」

「・・ちゃんと、座る?」

「でないと運転が下手になっちゃうのです!」

 

「わ、わわわわわわわ・・・あうー」

「後ろに下がりながら曲がる時はもうちょっと早めにハンドルを切ろっか!」

「も、もう1度やってみます!」

「がんばってー」

こうしてとっぷりと日が暮れてもリットリオの運転練習は続いたのである。

 

 

「歓迎会も済んでないのにこんな夜遅くまで引っ張りまわす人がありますか!」

「ごめんなさーい」

「あっ、あのっ、私が鹿島さんに運転を教えて欲しいってお願いしたんです!」

 

その晩。

夜になったのでとりあえず帰ろうと鹿島が言い、二人が戻った所、玄関で香取が仁王立ちしていたのである。

「一体どれだけ心配したと思ってるんですか・・ところでリットリオさん、どうして服が汚れてるのですか?」

「あ、ええと、途中でガラの悪い人の銃が暴発して・・」

香取はリットリオの服の汚れをじっと見つめた後、鹿島に向き直った。

「・・鹿島さん、お土産は買ってきましたか?」

鹿島がニッと笑って頷いた。

「もっちろんです香取姉ぇ!」

「モンブラン?」

「はい!」

鹿島から紙袋を手渡された香取は肩をすくめた。

「仕方ありませんね・・リットリオさん、歓迎会の前にお風呂をどうぞ。鹿島さん、案内してあげて」

「はーい。じゃあお風呂頂いてきます!」

「汚れた服は脱衣かごの一番上に置いといてくださいね?」

「はーい。いこっ、リッちゃん!」

鹿島に手を引かれたリットリオは香取に一礼すると、廊下を小走りに駆けて行った。

 

「おめでとー!」

「ようこそー!」

「そしてお疲れ様ー!」

そう。

今夜はリットリオ着任の歓迎会と同時に、利根のお別れ会でもあった。

列席者は香取と鹿島の他、朧、朝潮、利根、そしてリットリオというメンバーである。

「まぁわしはお姉さんじゃからな、筑摩の奴が居なくてもちゃんとやれるのじゃ!」

利根はそう言って胸を張ったが、

「でも先月、筑摩さんがお戻りになった日は随分寂しそうでしたよね~?」

と、鹿島から指摘されると顔を真っ赤にしていた。

香取は頷きながら続けた。

「明日、鎮守府からは筑摩さんがお迎えに来られるそうですよ」

「なに?それは本当か!」

「ええ。良かったですね」

「うむ!筑摩の奴が寂しがっておろうからな!早く会った方が良かろう!」

一段と上機嫌になった利根を見て、残る面々は優しく微笑んだのである。

 

 

 


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